第百四十五話 竜を倒した英雄のその後のお話
終わったーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
激戦の末に八岐大蛇とカリムを撃退した日から早くも一週間。
聖王国は復興を開始していた。
その復興には諸外国も協力的であった。聖王国側に五英雄+復活したリーシャがついたからだ。
この機に何かしたら六人の矛先が自分の国に向く。そう考えた国々は我先にと物資を届けにきた。別に何かしようなんて思っちゃいないが、物資が届くのはいいことなので俺たちから何か発信することもなかった。
最も注意すべきは帝国だったが、そこはさすがに皇帝。まだ聖王国と事を構える時期ではないと思っていたのか、民からの人気を考えたのか。自ら物資と共に聖王国に乗り込んできて、聖王と今後のことを話していた。
物資を届けてくるのは何もケルディアの国ばかりじゃない。
モンスターによる攻撃は災害であるという論法で自衛隊を派遣した日本も、いち早く物資を届けてきた。
政府はかなり叩かれているが、同じ数だけ英断として評価する声もあったそうだ。
長い目でみれば、聖王国と日本との同盟はより強固になった。日本にとって間違った選択ではなかっただろうな。
「しかし……暇だなぁ」
青い空を見上げながら俺はつぶやく。
場所は白銀城のテラス。そこの手すりで横になって寝転んでいる。
俺以外の五英雄は思い思いの道を取った。
ジュリアは弟弟子を取り逃がしたそうで、その行方を追うらしい。ヴォルフはまだまだ鍛え方が足りなかったと言い残して、また修行に出たみたいだ。
パトリックはさっさと帝国に戻り、愛しの人形の修理に当たっている。しばらく工房からは出てこないと思う。
アーヴィンドは聖騎士団長として傷ついた聖王国と王国軍の立て直しに奔走している。
俺はといえばやることもないので、こうして毎日空を眺めたりして暇をつぶしている。
暇なのにどうしてここにいるかといえば、リーシャの容態が思わしくなかったからだ。
氷の結界に閉じ込められていたリーシャは魔力欠乏に陥っており、それを誤魔化すために敵から魔力を吸収して戦った。
体力のほうもかなり落ちており、戦えたのは奇跡と言われたらしい。
結局、容体はどうにか落ち着いたが氷の結界の中で失われた魔力は戻らず、リーシャは元々あった豊富な魔力を取り戻すことはなかった。
平均的な魔導師くらいの魔力はまだあるそうだが、以前と比べればかなり乏しい。
吸収すれば大丈夫と本人は言ってるが、実力はともかく戦える時間は大幅に短くなったことは確かだ。
だから俺はまだこの城にいる。
俺がいるからというわけではないが、明乃とミコトもまだここに滞在中だ。
復興支援を少しでもしたいらしい。
毎日汗水流して働いている。ご苦労なことだ。
「暇だー。なんか面白いことおきねーかなぁ」
「またそういうこと言ってー。駄目だよ。暇だ、暇だって言ってばかりだと本当に何もやることなくなっちゃうよ?」
説教くさい言葉が飛んできた。
見ればテラスにはリーシャの姿があった。
鎧を外したラフな格好だ。
活発なリーシャらしく、動きやすそうなミニスカートだ。
ヒラヒラと揺れるミニスカートに自然と視線がいく。すると、風が少し吹いてミニスカートが浮かびあがる。
するとフリルのついた純白の下着がチラリと視界に入ってきた。
「わっ!?」
「白か」
「エッチ!」
可愛らしく舌を出して俺を非難してくるが、俺は見たんじゃない、見えたんだと屁理屈をこねる。
何を言っても無駄だと悟ったのか、リーシャはため息を吐いて本題に入る。
「そろそろ城を出ようと思うんだ」
「そうか。ここで聖騎士でもやるかと思ってた」
「柄じゃないかなぁ。エリスには残ってほしいって言われたけどね」
「そりゃあまぁ、あいつは言うだろうな。戦いが終わったあとはずっとお前の傍で泣いてたし」
「あれは困ったね~」
苦笑しながらリーシャはつぶやく。
だが、それだけリーシャのことが心配だったということだろうな。
どうにか氷の結界から復活したと思ったら、容体が思わしくないと言われたんだ。最悪のことも想定してしまったんだろう。
「そういえばトウマは泣かなかったよね? 寂しくなかったの?」
唇を尖らせるリーシャに俺はため息を吐く。
エリスに心配されすぎて困ったのに、俺が心配してないのはそれはそれで気に入らないらしい。
「心配してたさ。誰よりも」
「本当かなぁ」
「本当さ」
「まぁ信じてあげましょう。可愛い弟子だしね」
そんなことを言いながらリーシャは笑う。あんまり信じていないみたいだな。
しかし、心配していたのは本当だ。涙が出なかったのは幾度も泣いてきたからだ。ま、本人にそんなことは言わないが。
「……それでね。トウマ」
「うん?」
「私は色んな国を回って、苦しんでる人を助けにいこうと思うんだ」
「人助けの旅か。物好きだなぁ」
「でもさ。誰かがやらないと。王様の視点からだけじゃ救えない人たちもいるよね? 私はそういう人たちを救いたい」
国を運営する王は多数を優先しなきゃいけない。
その過程で少数の犠牲は容認されてしまう。これは王の性格的な問題じゃない。それが王だからだ。
そういう王の手から零れ落ちる人たちを救いたい。それは立派なことだろうし、リーシャらしいといえばリーシャらしい。
「だから……トウマも一緒にどうかな?」
来るだろうと思っていた誘い。
人助けの旅。リーシャと共にそれをするのは充実した旅になるだろう。二年も離れていたわけだし、その埋め合わせにはちょうどいい。
「一緒に旅しない?」
「……そうだな」
俺はそんなリーシャの申し出に対して返答した。
■■■
アルクス聖王国第二の都市エグゼリオ。そこには日本へつながる固定化されたゲートがあり、エグゼリオはそのゲートを利用した日本との交易拠点として急速に発展した都市だ。
そこに俺はいた。
隣には。
「本当によかったんですか? リーシャさんからの誘いを断って……」
明乃がいた。
俺は結局、リーシャの誘いを断った。
リーシャが聖騎士が柄じゃないというように、俺も人助けの旅は柄じゃない。
そう言って断った俺に対して、リーシャはそうだよねと笑っていた。
本人も断れると薄々感じていたらしい。
「いいんだよ。人助けなんて面倒だ」
「あはは! トウマらしいね!」
ミコトが笑いながら買ってきた観光名物を食っている。
それはお土産用に買ったやつなんだが……まぁいうだけ無駄か。
「またそういうことを言って……」
「人助けなんてお人よしのリーシャにやらしておけばいい。俺はもっと楽で稼げる仕事をするさ」
「やっぱり斗真さんはろくでもない人なんですね!」
そういう明乃の顔には笑みが浮かんでいる。
何だかんだ言って、俺が明乃の護衛という仕事を続けることに安心しているらしい。
「さてと、帰るか」
エリスと共に日本へ出向いたとき。
俺は日本に行くという表現を使った。
しかし、今は帰るという表現を使っている。
おかしなものだが、違和感はない。
故郷という生まれた場所という意味ではなく、そこには確かに俺が帰る場所があるからだ。
というわけで、魔王を倒した英雄のその後のお話にお付き合いいただきありがとうございました。
今作はこれにて完結となります。まぁスピンオフ的な話は書くかもしれませんが、本編は終了となります。
元々、友人と話している中で話が膨らみ、それを試しに書いてみた作品ですが予想外に長く続けることになりました。
これも皆さまが読んでくれたからだと思います。
ありがとうございました。
これからも色んな作品を書いていこうと思っています。
応援のほどよろしくお願いいたします。
ではまた違う作品でお会いしましょう。
タンバでしたm(__)m