第百四十一話 終焉の前触れ
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八人による同時攻撃。
それはたしかに八岐大蛇へ届いた。
八岐大蛇の意識は近場にいたミコトたちに向いており、防御は間に合わなかった。
中央の二本をミコトとヴォルフが近接攻撃で落とし、その両隣にある二本をアーヴィンドとパトリックの指示を受けたシグレが穿つ。
さらに俺とリーシャの攻撃はさらに外側にある二本を斬り落とし、最も外側にある二本をジュリアの魔法と明乃の魔術が消滅させる。
八本を同時に落とした。これで死ねばよし、死なずとも再生には時間がかかる。
頭が一本でも残っていれば速攻で頭が再生するが、すべて失うと途端に再生能力が落ちる。多頭型のモンスターはそういうものだ。
「まだ生きてる?」
「みたいだな」
俺とリーシャはたしかに八岐大蛇の生命を感じていた。
だが、その命の火は今にも消えそうだ。
馬鹿みたいな再生能力があろうと八本を再生するのは時間がかかる。その間にさっさと片付けてしまおう。
「次で片をつけるぞ!」
そう周りに告げる。
承知とばかりに全員が攻撃体勢に入った。
狙いは山のような胴体。攻撃を集中し、ダメージをもっと与えなければいけない。
だから誰もが攻撃に移るまで溜めがあった。
それが悪かった。
油断というほどでもない。
ただ予想外の事態に備えることを怠った。
頭の中でこれまで培った危機察知センサーが警鐘を鳴らしていた。
そんな馬鹿なと思いつつ、咄嗟に俺は明乃とジュリアのほうへ走った。
体が勝手に動いたといってもいい。
そして危機察知センサーが正常だったことが証明された。
「ちっ!!」
八岐大蛇の頭部が再生されたのだ。三つのみだが。
三つの頭に再生能力を集中させたんだろう。だが、頭を潰したのにどうしてそんな器用なことができる?
疑問が脳内を占拠する。だが体はまったく別のことをしていた。
明乃とジュリアの前に出ると、俺は敵の攻撃に備える。
ほかの面々も距離を取っている。
だが完全に一歩で遅れている。
三つの首の口に光が集中する。
そして光弾が放たれた。
■■■
俺は目を地面に横たわった状態で目を覚ました。
一瞬、自分がなにをしていたのか思い出せなかったが、すぐに八岐大蛇の光弾で吹き飛ばされたことを思い出した。
光弾は狙いが甘く、俺たちに直撃することはなかった。しかし、膨大な魔力と爆風で全員が吹き飛ばされたようだ。
「くそっ……」
右手にある柄を見て俺は悪態をつく。
さきほどまであった神々しい刃がない。
攻撃を相殺するのに全力を出したため、消失してしまったのだ。
しかも左手にもっていた鞘もどこかに飛んで行ってしまったらしい。
「ちくしょう……やってくれたな……カリム」
確証はない。
しかし自信があった。
八本の首はすべて落とした。八岐大蛇だけでは三本だけを復活させるという器用なことはできない。
間違いなくカリムが絡んでいる。
そしてそれは正しかった。
「さすがはトウマだ。良く気づいたものだね」
そう言ってカリムは現れた。
しかし現れ方は度肝を抜いていた。
なんと八岐大蛇の胴体から出てきたのだ。上半身だけが。
異様な光景だった。
一体、こいつはなにをした……?
「不思議そうだね。まぁ簡単に説明すると私が八岐大蛇の体を乗っ取ったのさ」
「八岐大蛇の体を……乗っ取った……?」
「本来なら二年前にこうなるはずだった。君たちが魔王を追い詰め、私が魔王の肉体を奪うつもりだったんだ。しかし、君が魔王を一気に消滅させてしまった。おかげで別の計画にシフトする羽目になった」
「つくづくお前は他人を利用するのが好きみたいだな……」
「人間とは他者を利用して生きる生物さ。醜くも美しい。歴史の中では刹那ともいえる時間を生きるため、足掻く獣。それが人間だ。だからこそ終焉のときを見てみたい……どんな風に足掻くのか見てみたい。それが私の欲求だ。そのために……強力な体が必要だった。おかげで手に入ったよ、ありがとう。トウマ」
礼を言われておぞましさを感じたのは初めてだ。
なんとか立ち上がる。
近くに仲間の姿はない。
遠くに吹き飛ばされたのか、距離を取って回復に努めているのか。
どうであれ、もう少し時間を稼ぐ必要がある。
「終焉を見届けたあと……お前はどうするつもりだ?」
「それは考えていない。見てから考えるさ」
「そうか……だがいいのか? 八岐大蛇の超回復は寿命を縮める。その体はあまり長持ちしないんじゃないか?」
「ああ、そうだろうね。だが短い時間で十分さ。この体があれば終焉を見届けるのは容易い」
言いながらカリムは確認するように三つの頭を動かす。
やはりまだ体の操作になれていないんだろう。そうじゃなきゃ、あの至近距離で光弾を外すはずがない。
今がチャンスといえばチャンスだが、あいにく武器がない。
せめて鞘を探す暇があればどうにかなりそうなんだが。
そんなことを思っていると。
意外な助っ人が空から現れた。
「人の体を捨て、化け物になり果てたか。カリム」
ゆっくりと空から降下してきたのは細長い胴体を持つ蛇竜。
ベスティアの守護神と崇められる最古の神獣。
リントヴルムだった。
「これは珍しい。いつぶりだい? リントヴルム」
「幾百年ぶりだ。我はかつての過ちを清算しにきたぞ」
「過ちは消えないし、清算などできはしない。君ら神獣は私を守護者に仕立てようとして、結局は破壊者を生み出した。これから死にゆく者たちは君たちが殺したのも同義さ」
「させんわ!!」
そう言ってリントヴルムは八岐大蛇と化したカリムに襲い掛かる。
首にかみつき、胴体で残る首をへし折らんとする。
「なかなか勇壮じゃないか!」
「我の命をもって貴様を終わらせよう!」
「できないことは口にしないほうがいい」
怪獣大戦争が始まった。
それを好機と見て俺は周囲を見渡す。
だがどこにも鞘は見当たらない。
記憶を思い起こす。
あの瞬間、俺は魔力を鞘で吸収したあと爆風を天羽々斬で相殺した。
そのとき、鞘をどうしたのか。
「ああ……明乃を守るために投げたか……」
まるで散弾のような石の破片から明乃を守るため、鞘を投げた。
つまり鞘は明乃が持っているか、明乃の傍に転がっているはずだ。
「ジュリアなら俺が稼いだ時間でゲートを使ったはずだし、探すのは無駄か……」
おそらく付近にいないということはそういうことだ。
誰も見当たらないし、俺以外はジュリアが回収して安全な場所まで連れていったのかもしれない。
そうなると俺にできることは待つことだけか。
「まさか俺が助け待ちの立場になるとはな……」
強くなってからは大体助けに行く側だった。
孤立しても自分の力でどうにかなった。
「ままならないな……」
唯一、どうにもならなかったのは二年前の魔王戦だけだ。
最後の場面で俺はリーシャに庇われた。
それでも魔王を斬ることはできた。
だが、今の俺はそれすらできない。
刃を失った剣士に存在価値はないってことだ。
そんなことを考えている間に、怪獣大戦争の決着がつこうとしていた。
「ぐっ!」
「感謝するよ! リントヴルム! おかげで体の使い方に慣れてきた!」
カリムはそう言ってリントヴルムを振り払い、六つまでに戻った首から同時に光弾を発射してリントヴルムを吹き飛ばした。
「ぐぉぉぉぉぉお!!??」
大きく吹き飛ばされたリントヴルムは死んではいなかったが、もう動けそうにない。
そして八岐大蛇の首が完全に八つに復活した。
さきほどよりも回復速度が早い。カリムがなにかしているんだろう。
「お待たせだ。トウマ。どうだい? 絶望しているかい?」
言いながら八つの首が光弾を口に溜める。
すべて俺のほうへ向いている。
このまま全力で放って俺ごと聖王都まで吹き飛ばすつもりか。
だが、俺に防ぐ術はない。
「……絶望はしてないな」
「ほう? 君はこれから死ぬ。そして君が守りたいと願った者たちも死ぬ。絶望するには十分だと思うが?」
「そうかもな。だが……俺は一度絶望している。前を向くことを諦めた。それでもまた前を向いて歩いてきた。だからもう二度と絶望しない。もしも俺を殺せたとしても……お前は終焉を見れやしない。人間は次に繋げていく生き物だからだ。いずれお前は倒される」
「ご立派な意見だ。参考にしておこう。だが、私には負け惜しみにしか聞こえないな」
そうカリムが言うと八つの口がより一層、光を放った。
そして。
「終焉のときだ。トウマ」
八つの光が俺に迫る。
さすがに終わった。
そう思ったとき。
俺の前に黒い髪の少女が割り込んできた。