第百三十九話 突撃
アンケート実施中。詳細は活動報告を見てねー
「よし! メンバー決まり! じゃあ作戦だね!」
リーシャは言いながらパトリックの方を見る。
パトリックは呆れたようにため息を吐いた。
「私が決めるんですか?」
「うん! よろしく!」
「……作戦といってもこちらの位置はバレていて、障害物もありません。真正面からの突撃しかないでしょうね」
「それはわかってる。どう突撃するか考えて」
「はぁ……」
パトリックはため息を吐いて俺の方を見る。
俺は肩を竦めてそれに応える。苦労をかけるが、今に始まったことじゃない。
「正面突破ということは、あの召喚獣の大群を抜けなきゃいけない。そのためにはアケノ嬢とジュリア。この二人に合わせて動く必要があります」
「そうだな。ただ、八人で動くのはちょっときつい」
「私もそう思いますね。なので、四人に分かれましょう。チーム分けはそうですね。アケノ嬢とミコト嬢。そしてリーシャと私。あとはトウマに任せます」
「ちょっと待て。面倒なのを俺に押し付けるな!」
しれっと楽そうなチームを選んだパトリックに俺は抗議する。
しかしパトリックはパトリックで目を細める。
「君はジュリアの扱いに慣れているだろ?」
「慣れてるわけないだろ?」
「あはは、ジュリアの押し付け合いが始まったねー」
「失礼にもほどがあるわ。私と一緒に戦えるなんて、世の魔法師なら涙ものよ?」
「違う意味で泣きそうだがな」
「奇遇だな。ヴォルフ。私もそう思った」
ヴォルフとアーヴィンドの言葉を聞き、ジュリアがキッと二人を睨む。
ヴォルフはそっぽを向き、アーヴィンドもおっと口が滑ったとか言っている。
やはりダメだな。こいつら他人事と思ってる。ジュリアと同じチームになったら、間違いなく俺が面倒なことになる。
仕方ないので俺は最終手段を使うことにした。
「ミコト。誰とチームを組みたい?」
「トウマ!」
「それは仕方ないな。じゃあ、、明乃とミコトと俺。そしてリーシャで組むとしよう」
「義妹を使うなんて卑怯だぞ!?」
「じゃあ決定ねー」
パトリックが抗議しようとするが、さっさとリーシャが話を終わらせてしまう。
パトリックは目を見開いて驚くが、後ろからジュリアに肩を叩かれて顔を青くする。
「よろしくね。パトリック」
「……よろしくお願いします」
「間違って巻き込んじゃうかもしれないけど、許してね」
「間違えないようにお願いします……」
項垂れるパトリックを全員で笑いながら、俺たちはチーム分けを終えた。
あとは突撃するだけだ。
「さーて、とりあえず召喚獣を突破だよ! 遅れないでね! ミコト、アケノ!」
「うん!」
「あ、は、はい! よろしくお願いします!」
そう言ってリーシャは細剣をもって先陣を切って召喚獣の大群に向かっていった。
■■■
「はっ!」
気合と共にリーシャが突きを放つ。
その突きによって大型の召喚獣の腹にデカい風穴が空いた。
リーシャはその召喚獣に止めを刺さず、そのまま横をすり抜ける。
いちいち止めを刺してはいられない。敵の大群をすり抜けるには足を止めるわけにはいかないからだ。
「す、すごい……」
「強いんだね……トウマのお師匠様って」
召喚獣をほぼ一撃で戦闘不能にしていくリーシャを見ながら、明乃とミコトが驚いたように声をあげる。
こんな状況で暢気なもんだが、それぐらいリーシャが圧倒的で余裕があるのだ。
一応、リーシャの少し後ろに明乃が続き、俺とミコトがそれをフォローする形を取っているがやることはほとんどない。
「そりゃあそうだろうな。魔王に挑んだ百人の中で、リーシャは頭一つ抜けた存在だった。魔王と一人でやりあえたのリーシャだけだったしな」
「トウマより強いの?」
「どうだろうな」
「まだまだ弟子には負けないよー」
ミコトの質問をはぐらかすと前にいるリーシャが反応を示した。
まだまだ自分のほうが強いと言いたいらしい。
「五分五分ってところじゃないか?」
「いやいや、私が勝つよ」
「二年も眠っていたから俺の成長がわかってないらしいな」
「へぇ~、じゃあ弟子の成長を見させてもらおうかな」
そういうとリーシャはスピードを落として明乃たちと同じ場所に下がってきた。
そして視線で俺に前へ行けと促す。
こいつ、まじか。
「私はミコトとアケノと女子会してるからよろしくねー」
「はぁ……」
相変わらずマイペースな奴だ。
笑顔で告げたリーシャはそのまま本当に二人とお喋りを始めた。
そんなことをしているうちに、召喚獣が俺たちのほうに突っ込んでくる。
俺は天羽々斬を上段から振り下ろして数体をまとめて吹き飛ばす。
「一体一体斬ってくのは面倒なんでな」
「相変わらず大雑把だなー。大技頼りだと私には勝てないよ?」
「しょうがねぇな」
俺は前に立ちはだかった二足歩行型の召喚獣の両腕を落とすと、胴を両断する。
大技ではない。九天一刀流の小技だ。
リーシャが大技ばかりでは自分に勝てないといったのは、結局魔力の吸収合戦になってこういう技の精度が勝負を決めるという意味だ。
「おー、お見事! 花丸をあげるね!」
「いらねーよ」
答えながら俺はどんどん召喚獣を斬る。
ふと右を見ると同じようにパトリックのチームも走っていた。
ただ。
「邪魔だ!! 退け!!」
「くっ! 邪魔をするな!」
「来た!? 二人とも躱すんだ!」
「吹き飛びなさい!!」
ジュリアの魔法で向こうのチームの前にいる召喚獣が多数吹き飛ぶ。だが、その衝撃に三人も巻き込まれている。
三人はジュリアを守るために走ってるというよりは、ジュリアの攻撃に巻き込まれないように走ってるように見えたが。
まぁうん。気のせいだろう。見なかったことにしよう。
「向こうは楽しそうだねー」
「あれを見て楽しそうって思えるのはお前がジュリアの標的になったことがないからだよ……」
そう答えつつ、俺は周囲を見渡す。
絶対に邪魔してくると思ったカリムがどこにもいない。
その代わり、召喚獣が湯水のように湧いてくる。これじゃキリがない。
そんなことを考えていると空からヘリの音がしてきた。
同時に巨大な炎の竜が俺たちの先にいた召喚獣を焼き尽くす。
「早く行け。こんな奴らにかまってる時間はないだろうが?」
「え!? レイ!? 嘘! 大きくなったねー」
「うるさい女だな! 相変わらず!」
自分に構おうとするリーシャから逃れながら、レイは俺たちの進路を確保する。
城壁の防衛でも一杯一杯だろうに、こっちに戦力を回してくれたのか。
「助かった」
「いいから早く行け。それとリーシャ」
「うん?」
「戻ったら手合わせしろ」
「あはは! レイらしいね! うん、いいよ!」
明るく笑うリーシャに対して、レイは仏頂面を浮かべている。
それは二年前から変わらない構図だった。
懐かしい思いを感じながら、俺は前に進む。
だが、俺たちの前に召喚獣以外の敵が立ちはだかる。
「行かせないわよ」
キキョウを筆頭した黄昏の邪団の面々だった。
パトリックたちの前にも立ちふさがっている。
完全に足止めする気だな。
さっさと片付けようと身構えるがそれは制止された。
「先に急いで。こいつらは私たちが相手をするわ」
俺の前にすっと柚葉が出てくる。
周囲には柚葉が率いてきた四名家の魔術師たちが控えている。
「……大丈夫なのか?」
「平気よ。それより早く行ったら? 向こうのチームは先に行ったわよ?」
見ればパトリックたちもヘリから降りてきた援軍にこの場を任せて先を急いでいる。
それはたしかに正しい判断だろうけど。
少しの心配が心をよぎる。
だが、柚葉はそんな心配を言葉で断ち切る。
「行きなさい! 足手まといになると思ったら前になんて出てこないわ! あなたはあなたの役割を果たしなさい!」
強い言葉と強い目。
それを見て、俺は小さくうなずくとキキョウたちの相手を任せて先を急いだ。
そして俺たちはほぼ同時タイミングで八岐大蛇の前にたどり着いたのだった。