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第百三十七話 借り

いやー終わらなかったなぁ笑

新年迎えたと同時に終わらせる予定でしたが、意外に伸びましたね。

ちょっと構成能力に不安を覚えたタンバです。


駄文にお付き合いくださる皆さん。新年あけましておめでとうございます。

皆さまにとって2019年がよい一年でありますように祈っています。

もうちょっと続くので我慢してお付き合いくださいませ。


新年企画でキャラアンケートでも取ろうかなぁと思ってるので、活動報告も年始暇だよーって人はチェックしてみてください!



 聖王都にたどり着いた二機の飛空艦の一つ、ベスティアの飛空艦に乗っていたのは亜獣王国ベスティアの近衛隊だった。

 ベスティアの最精鋭ともいえる彼らが来た理由は一つ。

 彼らが守る者たちが乗船していたからだ。


「なんとか間に合いましたね、兄上」

「ふん! 聖王国の質も下がったものだ。テロリスト相手に情けない」


 ベスティアの第二王子ゼノンの言葉に第四王子のレオンは苦笑する。

 ゼノンもレオンもベスティア本国から急行してきたわけじゃない。それは隣にいる帝国艦も同様だった。

 聖王国が内乱で揺らいだならば即座に付け入れるように国境付近で待機していたのだ。

 そのため、八岐大蛇の攻撃範からは逃れられたというわけだ。

 だが、レオンは知っていた。

 ゼノンに聖王国侵攻の意思がなかったことを。


「軟弱だ。そうだな? レオン」

「そうですね」


 クスクスと笑いながらレオンは答えた。

 ゼノンは帝国が聖王国に侵攻した場合に備えて、いち早く国境にて精鋭を率いて待機していた。

 元から助ける気だったのに、口では嫌そうなことを言うのがレオンにはおかしくて仕方なかった。


「なんだ? これから戦闘だというのに気の抜けた笑みを浮かべるな!」

「はい、すみません。気を付けます」


 叱られたレオンだが、その顔から笑みは消えない。

 それを見てゼノンは罰が悪そうに顔をしかめた。

 ミコトとの一件があって以来、レオンは一回り大人になった。それはゼノンにとって喜ばしいことだが、ときたま非常にやりにくくなるときがあった。

 そんなことをゼノンが考えていると、モニターを見ていた部下が報告を上げる。


「両殿下。敵軍が再度動き始めました」

「よし、我々も動くぞ」

「はっ。それと聖王国の城にて半獣人の犯罪者、キキョウの姿を確認しました」

「あの犯罪者か……モニターに出せるか?」


 ゼノンの言葉を受けて、拡大した映像がメインモニターに映し出された。

 そこに映し出されたのは獣化したキキョウとミコトだった。


「ミコトさん!?」

「……苦戦中だな」


 ミコトはキキョウとオズワルドを一人で相手にしており、押され気味だった。

 このまま放っておけば致命的な一撃を食らうのも時間の問題と思われた。


「兄上! すぐに行きましょう!」


 レオンはそう勇むがゼノンは意外なほど冷静に状況を見極めていた。


「付近に味方の姿は?」

「確認できません」


 ゼノンはしばし考え込む。

 今までのゼノンならば自ら突っ込み、獣人の恥さらしであるキキョウに鉄拳を叩き込んだだろう。

 しかし、レオンがミコトとの一件で成長したようにゼノンも成長していた。


「レオン。俺は部隊の指揮を取る。だから俺は行かん。言ってる意味がわかるな?」

「!? ……はい」

「獅子王家の者として借りはお前自身で返してこい」

「了解しました!」


 ゼノンの言葉にレオンははきはきと答える。

 それを聞き、ゼノンは軽く微笑む。

 そして視線を城壁へと向けた。

 フローゼが連れてきた聖騎士たちは精鋭だが数は少ない。これから敵の増援があればすぐに戦況はひっくり返る。

 だからこそ、有利なときにできるだけ敵を削る必要があった。


「出撃する! 帝国の船には右は任せると伝えておけ。俺たちは左を主戦場とする。目的は城壁の死守。一匹たりともあの獣たちを聖王都に入れるな!」


 ゼノンの号令を受けてベスティアの近衛隊が続々と降下していく。

 そしてレオンもそれに続いて城へ向かったのだった。




■■■




「くっ!」

「中々粘るわね!」


 キキョウはそう言いながら獣化で増した力でミコトを吹き飛ばす。

 反応できないほどの攻撃ではないが、とにかく重くてガードごと吹き飛ばされる。

 そしてそれで体勢が崩れると魔法が飛んできた。


「レイ」

「黒陽!」


 黒陽で魔法を弾くと周囲に魔力が分散する。それを白影で吸収して自らの体を強化する。

 しかし、その一連の流れを行っている間にキキョウはミコトの後ろに回っていた。

 さらに異変もあった。白影が吸収できるはずの魔力が微量だったのだ。それは先ほどから起こっていることで、そのせいでミコトはキキョウに遅れを取っていた。


「貰ったわよ!」

「このっ!」


 完全に背後を取られた状態から、ミコトは体を無理やりひねって対応する。

 だが、不安定極まりない体勢ではキキョウの攻撃を受け止めきれず、そのまま勢いよく壁に叩きつけられた。


「かはっ……」

「しぶといわねぇ。どうやら勇者様も復活してしまったみたいだし、あなただけでも仕留めていかないと私たちの立場もまずいのよねぇ」

「キキョウ。遊んでいるんじゃないだろうな?」

「冗談言わないで。十分本気よ。右腕の力だって使ってるもの」


 そう言ってキキョウは呪印の刻まれた黒い腕を見せる。

 キキョウに同化しているその腕は、獣化に合わせて巨大化しているが腕の形に変化はない。

 ただ大量の魔力を周囲から無尽蔵に吸収しており、それによってキキョウは常に全力で戦うことができていた。


「そうか。それならこいつが強いということだな」

「そうね。聖騎士級の実力者だし、トウマの義妹。その首に価値はあるわ」

「くっ……勝手に首を手に入れたみたいな顔しないでほしいな……」


 ミコトは剣を杖代わりにしてよろよろと立ち上がる。

 キキョウの右腕。それは白影の上位互換のようなもので、魔力を吸収する腕だとミコトは判断していた。あれがあるかぎり、白影の力はフルに発揮することはできない。

 なんとか斬り落とさなければ。

 そうは思ってもミコトの体は思ったように動かない。

 何度も何度も吹き飛ばされたせいで、体にもガタがきはじめていた。


「まだ減らず口を叩くのね。いいわ、それならこっちも全力で」


 キキョウは最後まで言葉を発することはしなかった。

 背後から強烈な殺気を感じたからだ。

 まるで斗真がそこにいるような、そんな殺気だった。

 慌ててミコトから距離を取ってみると、そこにいたのは明乃だった。


「あらあら……お嬢様が物騒な殺気を放つようになったわね」

「私の家族をよくもボロボロにしてくれましたね……許しません!」


 明乃は魔力を解放して戦闘体勢を整える。

 それに加勢しようとミコトも剣を構えようとするが、上手く力が入らずに膝が落ちた。


「あ……」

「無理をするでない」


 倒れそうになったミコトを君子が支える。

 そして君子はミコトに治癒魔術をかけはじめた。


「ごめんなさい……」

「謝るでない。よく時間を稼いでくれたのじゃ。さすがは斗真の妹じゃ」


 言いながら君子はキキョウの様子を観察する。

 そしてその腕の効果にもすぐに気づいた。


「明乃。その獣人の右腕は周囲の魔力を無制限に吸収しておる。気をつけよ」

「あら、一目で見抜くなんて子供なのに立派ね。そうよ。これの元々の持ち主は悪魔。魔王軍の大幹部だったけど、斗真たち五英雄に右腕を斬り落とされたの。それを盟主が保管していて、私にくれたのよ」

「すでに侵食されておるな。そのうち自我を失うぞ?」

「構わないわ。私の一生は戦いなの! 戦いこそが私の人生! 満足に戦えないなら死んだほうがマシなの!」


 陶酔したような表情でキキョウは告げる。

 狂ってる。明乃はそう感じながら身構える。

 狂っているからこその強さもある。これまでだってそういう人は見てきた。

 油断していい相手ではない。

 そう思って明乃が魔力を集中させた瞬間。

 キキョウとオズワルドの警戒はすべて明乃に向いた。

 その瞬間を遠くから待っていた影が飛び出す。

 まるで肉食獣が獲物をしとめるときのように気配を消し、決定的瞬間を逃さなかったその影は。


「ぎ、ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!??」


 見事にキキョウの右腕を千切り取った。

 そしてその腕を地面に落として踏みつぶす。


「お久しぶりです。アケノさん、ミコトさん。また会えて嬉しいですよ」

「れ、レオン王子!?」

「え、あ、ええ!?」

「まぁ詳しい説明は後ほど。とりあえず助けに来ました。獅子王家の一員としては、ミコトさんに借りを作りっぱなしというわけにはいかないので」


 そういいながらレオンは余裕の表情でキキョウとオズワルドを見る。

 突然のレオンの登場にキキョウとオズワルドは驚愕していた。

 レオンの登場はすなわちベスティアの登場だからだ。

 これまで保っていた優勢が崩れる。そう感じたキキョウとオズワルドの表情は一気に険しくなった。

 そして、形勢不利を悟ったオズワルドは即座にキキョウにアイコンタクトで撤退を指示する。


「……しょうがないわね。ここより重要なところで戦いましょうか」


 レオンを睨みながらキキョウはつぶやく。

 そしてオズワルドとキキョウは後ろに下がって撤退を始めたのだった。

 その判断の早さにレオンは舌を巻く。


「見事な不意打ちじゃな」


 そんなレオンに君子はそう告げた。

 受け取り方によっては皮肉も取れる言葉だが、レオンはそれを褒め言葉と取った。


「褒め言葉と受け取っておきます」

「うむ、見事じゃった」


 正々堂々を好む獅子王家だが、戦闘によって国をまとめた家だけあり戦闘に関する考え方はシビアだ。

 誰かに後ろ指をさされる戦い方は好まないものの、それでも負けるよりはマシだと教えられる。

 ましてや相手が凶悪な犯罪者となれば躊躇う必要はない。


「そういえばミコトさん。一つ確認したいことがあるんですが」

「ん? なに?」

「ミコトさんが苦戦した彼らを撤退させた僕は、ミコトさんより強いということでよいですか?」

「なっ!? それは違うよ! ボクだって負けてないもん! そんな言い方は卑怯だー!!」


 レオンの言葉に負けず嫌いを刺激されたミコトは立ち上がろうとするが、君子に無理やり座らされる。

 その様子に苦笑しつつ、ミコトの回復が終わるまでレオンは周囲の警戒をしつつ、城の外の状況を話し始めたのだった。



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