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第百三十五話 復活のリーシャ

やっとここまで来たー!!!!

まじ長かったです!



 斗真が天羽々斬を召喚し、俊也と戦いはじめたとき。

 明乃は斗真の様子に不安を覚えていた。

 アケノの死に怒るのはわかる。そういう性格だということは明乃も良く知っている。しかし、怒りに我を忘れて当初の予定にない夢幻解放を行い、俊也しか目に入っていないのは斗真らしくないと明乃には思えた。


「斗真さん……」


 チラリと見えた斗真の目は優しさの欠片も感じさせない冷酷なものだった。

 危険なモノを感じた明乃は斗真の近くに寄ろうとするが、それを遮る声があった。


「待つのじゃ」


 若々しい声には似つかわしくない古めかしい口調。

 明乃が振り向くとそこには君子がいた。

 君子の顔を知らない明乃だったが、君子の服装と強大な魔力にただならぬものを感じていた。


「あなたは?」

「中御門君子じゃ」

「中御門!? あなた様が!? どうしてここに!?」


 斗真や雅人から聞いていた結界を守る五つ目の名家。

 その当主がまさかこんなところにいるとは思っておらず、明乃は驚いたように声をあげた。

 しかし、驚く明乃をよそに君子は説明を省いた。


「申し訳ないが説明をしておる時間はないのじゃ。ついてくるがよい」

「どういうことですか……?」

「……斗真を助けたいならばついてくるのじゃ。お主だけが斗真を助けられる」

「斗真さんを……助ける?」

「そうじゃ。早くせよ。一刻を争うのじゃ」


 君子に急かされた明乃は心配そうに斗真を見たあと、決意を固めて頷いた。

 しかし、頷いた直後に明乃は今度は別の方向を見た。

 そこには横に寝かされたアケノの遺体があった。このまま戦場に置き去りにしてはいけない。そんな思いが明乃の中に芽生えたのだ。

 明乃の視線を追い、瞬時に事情を察した君子はアケノの遺体を強力な結界で囲った。


「お主の魔力を二つ感じたのはこういうことか。あの結界の中ならば八岐大蛇の攻撃が直撃でもせぬかぎり、無事じゃろうて」

「……ありがとうございます」


 明乃は律儀に頭を下げる。それを見て、君子は踵を返した。

 明乃はそれを黙って追うのだった。




■■■




 君子の案内で城へと入った明乃だったが、どこか落ち着かない様子だった。


「ほかの者のことを気にしてもしょうがないじゃろ?」

「それは……そうなんですが……」

「戦況は把握しておる。お主が一時的に抜けても互角じゃろう」


 そう言った君子だが、いきなり足を止めた。

 何事かと明乃は驚いたが、すぐに理由は察した。


「大事な戦力を連れてどこへ行くのかしら~?」


 現れたのはキキョウとオズワルドだった。

 本来なら柚葉とミコトが相手をしていたはずだが。

 まさかという思いが明乃の中に芽生える。しかし、あの二人が早々やられるはずはないと冷静に判断も下す。


「鼠が紛れ込んでおったか。邪魔をするでない。儂らは急いでおるのじゃ」

「そういうわけにはいかないわ。この大事なときに余計なことをされたら困るのよ」


 そう言ってキキョウは小太刀を握る。

 君子は戦うべきか少し悩むが、後ろから迫る魔力を感じて警戒を解いた。


「躾をしてやろうかと思ったのじゃが……お主らの相手は儂ではなさそうじゃ」

「あら? じゃあ東凪のお嬢様が相手をしてくれるのかしら?」

「相手はボクだよ!」


 そう言って現れたミコトは間髪入れずにキキョウに一太刀を浴びせる。

 なんとか防いだキキョウだが、ミコトの登場に目を見開く。


「嘘でしょ!? 召喚獣でたしかに足止めをしたわよね!?」

「柚葉さんが全部相手してくれてるよ。その代わり、ボクはあなたたちの相手ってわけ」

「本当に小癪ね。あの子……絶対に生け捕りにしてやるわ」

「一人で我々を相手にするつもりか?」


 オズワルドの言葉にミコトは当然とばかりに二本の剣を構えた。

 その姿を見て、君子は二人の相手をミコトに一任して進み始めた。


「あとは任せた」

「君子様!? ミコト一人では……!」

「大丈夫だよ。アケノ。ボクなら平気。先を急いでよ。やることあるんでしょ?」


 ミコトは明乃を安心させるように笑う。

 だが、屈託のない笑みを見て、明乃は余計に心配になった。

 そんな明乃の背を押すようにミコトは告げる。


「ボクを信じてよ。これでもトウマの妹なんだよ? ボク」

「……無理はしないでくださいね」

「うん!」


 そう言って明乃は君子の後を追っていく。

 残されたミコトは息を吐きながらキキョウとオズワルドを見る。

 明乃にはああ言ったが、キキョウとオズワルドの二人を相手取るのはミコトにとってかなり難易度の高いミッションだった。

 オズワルドとは一対一で戦っていたときですら、有効な一打をいれることができなかった。それに加えてキキョウもいる。


「今更後悔しても遅いわよ?」

「後悔? ボクは後悔なんてしないよ。あなたたちは必ずボクが止める」

「大言壮語だな。一対一ならまだしも、二対一で遅れを取るほど我々は弱くない」

「だろうね。けど……ボクだってさっきと同じと思わないでほしいなぁ」


 自分が突破されれば明乃が危険になる。

 そう思うだけで不思議と力が湧いてくる。


「アケノを守るときのボクは強いよ?」

「あら、じゃあお手並み拝見よ!」


 そう言って突っ込んできたキキョウの小太刀とミコトの剣が激突した。




■■■




 城の地下深く。

 平時なら一部の者しか入れない場所に君子と明乃はいた。

 花に包まれた部屋の中央。そこには氷が置いてあった。

 その中には綺麗な少女が入っていた。


「この人は……?」

「リーシャ・ブレイク。斗真の師匠で、かつて魔王との戦いで斗真を庇って氷漬けにされたそうじゃ」

「この人が……!?」


 思っていたよりも若い。

 斗真の師匠ならばもっと大人な女性かと思っていたのだ。

 年齢は十代後半くらいだろうか。


「お主をここに連れてきたのはこの氷が結界であり、それを破壊するためには天羽々矢が必要じゃからじゃ」

「天羽々矢が?」

「強力な結界破壊効果が天羽々矢にはあるのじゃ。八岐大蛇もそれで封印を解かれた。もう一人のお主によってな」


 平行世界から自分が呼び出された理由を察した明乃は表情を曇らせた。

 そのためだけにアケノは召喚されたのだ。

 そして道具のように使い捨てられた。


「ひどい……」

「そうじゃな。しかし、今は感傷に浸っている場合ではない。もう一人のお主の死を見て斗真は我を忘れた。いたしかたないことじゃろう。冷静さを保てというほうが無理じゃ。しかし、敵は目の前にいる。斗真の力が及ばぬ場合は次の一手を儂らは打たねばならぬ」

「……はい」


 返事をした明乃は氷に向かって両手を向ける。


「遠慮はするな。本気で撃つのじゃ」

「心得ました……!」


 体内にある膨大な魔力を練り上げ、両手の前へ集めていく。

 十分な量が集まったところで明乃はゆっくりと詠唱を開始した。


「極陽の矢は東天より昇り、全天を照らす」


 氷の中で眠るリーシャを見て、明乃は悲痛な思いを抱いた。

 これは斗真にとって自分の無力さの象徴。

 幾度ここで斗真は自らの過去に苛まれたのだろうか。


「滅魔の炎、清浄なる光」


 斗真は二年の間、ずっと適当に生きてきた。

 それでもリーシャの忘れた日はなかっただろう。

 逃れられない鎖が斗真を縛っていた。

 優しいがゆえに斗真は忘れられないのだ。


「天涯まで届くその陽はすべてに恩恵を与え、すべてに天罰を与える」


 今だってそうだ。

 アケノのために斗真は怒りを露わにした。

 これから先も悲しさや怒りを抱えて生きていくのだろう。

 それは悲しいことだと明乃は思った。

 斗真は多くの人を救ってきた。明乃はもちろん、それこそ数えきれない人をだ。

 ならばこそ、斗真には幸せであってほしい。

 自分にその力があるならば。


「不遜を承知で我はその矢を放たん!」


 斗真の重荷を少しだけでも軽くしたい。

 斗真を助けてあげたい。

 その思いを乗せて明乃は叫ぶ。


「―天羽々あまのはばや―!!」


 見る者を虜にする黄金の神炎。それが矢を形どって氷に向かっていく。

 すでに結界は君子によって解かれており、前ほどの強度はない。

 魔法を打ち消すような力もなく、徐々に氷にひびが入っていく。

 だが、最後の抵抗とばかりにひびが入ったところからどんどん修復が始まる。

 それを見て、明乃は自分の中の魔力をかき集めた。


「お願いします……斗真さんを助けてください!!」


 想いを乗せる。

 自分にはできない願いを一度も喋ったことのないリーシャに託す。

 そしてその声は。


「……うん、あなたの声。聞こえたよ。任せて」


 たしかにリーシャに届いたのだった。

 爆ぜた氷の中から復活したリーシャは明乃にそう言って笑いかけると、瞬時に部屋を出て高速で地下から地上へと上がる。

 目指す場所は懐かしき魔力がある場所。

 ちょうどリーシャが城の外へ出たとき、斗真はコールブランドの船首にいた。

 その先には巨大な竜。

 状況はさっぱりわからなかったが、リーシャは苦笑する。


「また無茶してるなぁ」


 呆れたように呟き、リーシャは最後の光弾を吸収しようとしている斗真の傍に移動する。

 膝をつき、崩れた斗真の手をリーシャは優しくつかむ。

 焦がれた手だ。触れることが叶わなかった最愛の弟子の手。

 その手の温もりを感じながらリーシャはつぶやく。

 

 「よく頑張ったね。トウマ。もう大丈夫だよ」


 いつも一人で頑張るのが斗真の悪い癖だった。

 それを窘めるのはリーシャの役目だった。

 だが、リーシャは今だけは褒めた。

 誇らしかった。

 世界中のすべての人に自慢したかった。

 力尽きようとしているときですら、多くの人を守ろうとしたこの佐藤斗真は自分の弟子なのだと。

 リーシャは八岐大蛇が放った光弾を斗真の代わりに吸収する。

 そもそも斗真とは魔力量で大きく差があるリーシャは簡単に光弾を吸収すると、それを瞬時に肉体の強化と剣の強化へと回す。

 そしてその状態でリーシャはゆっくりと自らの腰にさした細剣に手を掛ける。


「私の自慢の弟子なの。あんまりイジメないでもらえるかな?」


 言葉と同時に細剣を引き抜く。


「鬼刃斬光――!!」


 罰とばかりに放たれた斬撃は復活した八岐大蛇の四つの首を断ち切ったのだった。

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