表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
133/145

第百三十三話 裏切り者の末路





「その刃は幻想である――」


 はぁ……はぁ……と、うまさん……怪我は……?

 倒れたアケノの姿が思い浮かぶ。


「人は願い、願いは希望に、希望は力へ――」


 ちっ! 瞳術から抜け出したと思ったら、邪魔をしやがって! この人形が!

 次に思い浮かぶのは俊也の苛立った声。


「果てなき希望の終着点。人の希望は天を超え、大地を割る――」


 はっ! 心が折れたか! そんな人形でも役に立ったな!

 次に聞こえてきたのは俊也の嘲笑。


「今ここに我は人の大いなる希望を顕現せん――」


 時間は稼ぎます……。私を頼みますね。ごめんなさい……私のせいです。

 後悔のにじみ出た明乃の声も聞こえてきた。


「その刃は夢幻の海より現れた――夢幻解放」


 いいえ……あなたでよかったです……私は……斗真さんのこと……

 事切れたアケノの姿。

 もはや一生消えまい。

 どうしてそんなことになったのか。

 元凶は誰なのか。

 決まっている。


「俺は……お前を殺すぞ!! 俊也ぁぁぁぁぁ!!」


 引き抜いた刃の名は天羽々あめのはばきり

 俺が召喚できる物の中では最高級の神刀。八岐大蛇を斬ったという伝承を残す日本最強のドラゴンスレイヤー。本来ならば対八岐大蛇の切り札となる刀だ。

 それをもって、俺は俊也に肉薄する。


「はっ! 本当に抜きやがった! この国、いやこの世界と天秤にかけて、あの人形の復讐にくるとはな! お前は本当に大馬鹿野郎だよ! さすがは底辺だ! 頭のほうが弱いみたいだな!!」

「いいたいことはそれだけか?」


 俺は俊也の腕を掴むと思いっきり城壁の外へ投げ飛ばす。


「なにぃぃぃぃ!!??」


 そして吹き飛ばされた俊也の先へ回り込み、今度は俊也を思いっきり蹴り飛ばした。

 城壁に俊也はめりこみ、城壁各所にひびが入った。


「がはっ……」

「抜いたさ……復讐のためだ。否定はしない。笑いたきゃ笑え。代償はお前の命だがな」

「くっ……!」


 城壁にめり込んでいた俊也はよろよろとした動きで、影の中に逃げ込んだ。

 賢明な判断だ。今の俺相手にまともに戦うのは無謀といえる。

 だが、その程度で逃げ切れると思っているのは浅はかだ。


「どこに逃げようが逃がしはしない!」


 俺は天羽々斬で俊也が逃げ込んだ影の空間を切り裂く。

 空間が裂け、暗闇の空間で座っていた俊也と目があった。


「ひっ!? なぜ!?」

「俺が持っているのは神刀だぞ? 影くらい斬れるに決まってるだろうが?」


 ゆっくりと俊也に近づく。

 俊也はなんとか立ち上がると、影を使って巨大な召喚獣を二体、俺の傍に出現させる。

 だが、俺はその召喚獣たちが出てきた瞬間に斬り裂く。


「で、でたらめだ……」

「当たり前だろ? 八岐大蛇を見てでたらめと感じなかったか? 俺はそれを倒せるかもしれない力を持っているんだ。そりゃあでたらめだろうさ……覚悟しろよ。お前がキレさせたのはそういう男だ」


 立ち上がった俊也の真横に移動すると、そのまま思いっきり横薙ぎの一撃をお見舞いする。

 なんとか防いだ俊也だが、勢いまでは殺せずにまた城壁に叩きつけられる。


「がはっ!」

「痛いか? 苦しいか?」


 俊也は何とか反撃を試みようと俺に向かって影を差し向けるが、そもそも影を断ち切れる今の俺に影による攻撃なんて無意味だ。

 一撃ですべての影を断ち切り、俊也の反撃を許さない。


「くっ!」

「アケノも苦しかっただろうさ……。わざわざ召喚されて操られ、八岐大蛇なんて復活させられて、そのうえ俺たちの邪魔をさせられて……そして終いには殺された……どうだ俊也……少しは良心が痛むか?」

「ふざけるな……! あいつはただの人形だ! 怒っているお前のほうがどうかしている! あれは人形であって人じゃない! 可能性の存在! 今、お前が持っている刀と同じだ!」

「良心は痛まないか。じゃあ仕方ないな」


 俊也に近づくと俺は俊也の左手を掴む。

 俊也は俺の狙いを察したのか、嫌な笑みを浮かべる。


「はっ! 拷問して俺に謝らせたいのか!? 無駄だ! 絶対に謝ったりするものか! その間に貴様は貴重な時間を!?」


 最後まで言わせずに俺はじわりじわりと俊也の腕を引っ張る。

 まずあちこちの関節が外れた。気にせずに引っ張る。

 だんだんミシミシと音がし始めた。気にせずに引っ張る。

 醜い悲鳴が聞こえてきた。気にせずに引っ張る。


「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!!???」


 俊也の左腕を引きちぎった俺はそのまま俊也の髪を掴んで顔をあげさせる。

 その顔には明確な恐怖が浮かんでいた。


「どうだ? 良心は痛んだか?」

「ま、待て……お前は俺なんかにかまっている暇は……」

「次は足か」

「ま、待てぇぇぇぇ!!」


 制止を無視して俺は右足を引っ張る。また関節が外れ、皮膚が軋みをあげ、汚い悲鳴が響く。

 それでも俺はやめることはしなかった。




■■■




 足を引きちぎり終わった俺は俊也の顔をあげさせる。

 さすがに片腕と片足を引きちぎられた俊也の顔は疲弊しきっていた。


「どうだ? 良心は痛んだか?」

「……助けてくれ……」


 それは俺への言葉でないことはわかった。

 後ろを振り向く。

 そこにはカリムが立っていた。


「お前はあとだ。どっか行ってろ」

「そういうわけにはいかない」


 カリムの言葉に俊也の顔に笑みが戻る。

 だが、俺はそんな俊也の顔を思いっきりぶん殴った。


「呆れた奴だ。こいつがお前を助けるわけがないだろうが」

「ま、負け惜しみだな……」

「はっはっは!! 実に素晴らしい。どうして気づいたのかな? トウマ」

「なっ……!?」

「お前は人を助ける目をしてない。それにこんなになっても助けないんだ。元から助ける気なんてないんだろ?」

「御名答。君とは気が合いそうだ」


 そう言ってカリムはニコリと笑う。

 人の好さそうな笑みだ。だが、その目には他者への思いやりはない。


「ば、馬鹿な……カリム……こいつに刀を抜かせたら……救援に入る手はずだろ……?」

「君が勝手に言ってきたことだ。私は了解したとはいったが、一度も救援に入るとは言っていない」

「そんな屁理屈が通じるかっ! 早く助けろ!」

「それとトシヤ。君に言っておくことがある。君をこの世界に呼んだのは私だ」


 それは衝撃的な言葉だった。

 少なくとも俊也にとっては。

 俺にとってはまったく不思議ではない。

 こいつならそれくらいやりそうだからだ。


「な、な、なにを、言ってる……?」

「五年間、君を奴隷にしたのも私だ。聖王国を欺き続けたのも私だ。君の憎しみを聖王国に向けるためには必要な演出だった。許してほしい。だが喜んでいい。君はずっと自分はエリートだと思っていたようだが、それは間違ってはいない。君はこの私に選ばれたエリートだ。強力すぎず弱すぎず。扱いやすい駒だったよ。君風に言えば、君は良い人形だった」

「う、う、嘘だぁぁぁぁぁぁ!!?? 嘘だと言ってくれ!! 俺はずっとお前のために!」

「ああ、ご苦労。トウマ・サトウに刀を抜かせたことで君の役目は終わったんだ。すべてを捨てて全力で八岐大蛇討伐のみを考えられるのが一番怖かった。だが、もうその怖さもない。君は立派に仕事をしたんだよ。トシヤ。だが、用済みだ。いらない人形を捨てられる運命なんだよ」

「あ、ああ……そんな……だって、俺は……そんな……」

「哀れだが、お似合いだ。裏切り者の最後が裏切られて終わるのはな」


 俺は天羽々斬の切っ先を俊也に向ける。

 それを見て俊也は泣きながら命乞いを始めた。


「た、助けてくれ……俺だって被害者なんだ……俺は悪くない! 悪いのは全部こいつじゃないか! 俺がこうなったのも全部こいつのせいなんだ! チャンスをくれ! 俺はまだやり直せるんだ! 役に立ってみせる! だから!」

「今更おせぇよ。人を殺すってことは後戻りができないってことだ」

「あれは人形じゃないか! 何を怒っているんだ!? 東凪明乃は死んでいない!!」


 それを聞いて俺は俊也の口に手を突っ込む。

 そしてそのまま下あごを千切り取った。


「んんんんん!!!???」

「もういい。喋るな……頭がどうにかなりそうだ」


 俺は天羽々斬で俊也の首を飛ばす。

 その首はコロコロとカリムの足元に転がっていく。


「あーあ、醜い最後だねぇ。私はね。最後が見るのが好きなんだ。しかし、良い最後と悪い最後がある。トシヤのは駄目な最後だ」

「そうかい。じゃあ……次はお前の最後を見せてやるよ」

「あまり強気に出ないほうがいい。君にあれは倒せない」


 そうカリムが言った瞬間、八岐大蛇が聖結界を破って大きく吠えたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ