第百三十話 四対四
メリークリスマス! 皆さんはサンタがいるといつまで信じていましたか? タンバは今でも信じています!
ただずっと待ってるのに最近は来てくれないんですよね。忙しいみたいです。
高望みはしないからフェラーリとかくれないかなぁ。サンタさん
日本からの援軍が到着し、少しだけ流れがこちらに傾いた。
「向こうの私は私が相手をします」
「平行世界のお前だぞ? 実力は互角だ」
向こうの戦力を無力化できるが、こちらも貴重な戦力を無力化させられる。
ここは別の人間を当てるべきだろう。
しかし、明乃はムッとした様子で反論してくる。
「平行世界の私と今の私は違います。私はついこの前まであなたと一緒に戦ってきた。一緒にしないでください。身体能力や魔力は変わらないかもしれません。けど、経験だけは負けません。だから私の相手は私がします」
そういう明乃の顔には自信が浮かんでいた。
今までにはない表情だ。その顔は今はとても頼もしく感じた。
「それに斗真さんは私のこと斬れないみたいですしね」
「……ああ。認めるよ。俺にはお前を斬る覚悟がない」
「素直はいいことです。では私が相手をするということでいいですか?」
静かに頷くと明乃は微笑んだ。
こんな状況なのに嬉しそうに笑う奴だ。
だがそういう顔を見ると心が楽になる。
「任せた。俺はあの野郎の相手で忙しいからな」
「あら? じゃあ私の相手はしてくれないのかしら?」
そう言って現れたのは女装の剣士。かつて対峙したときと同じように女物の着物を着て、化粧をしている。
その手には二本の短剣が握られている。そう、かつて切り落とした腕が奴の手にはあった。
「久しぶりだな。キキョウ。腕は生えてきたのか?」
「嫌なことを思い出させてくれるわねぇ。斗真。生えてくるわけないでしょう? 新調したのよ」
そう言ってキキョウは切り落とされた腕を見せる。
その腕は一見すると普通の腕だが、真っ黒な呪印が刻まれている。その影響かキキョウから感じるおぞましさも前の比ではない。
「キキョウか。他の場所はいいのか?」
「いいのよ。どうせ中央を突破すれば勝ちだもの。ジュードからすれば不満でしょうけど、相手が相手だもの。複数で掛かりましょう」
「そうか……お前も同じ意見か? オズワルド」
俊也の近くにキキョウと同様に見覚えのある魔法師が現れた。
黒装束の魔法師の名はオズワルド。ゲートを使う魔法師だ。
「ああ、あの男は厄介だ。今の内に片付けよう」
そういってオズワルドは俺を見てくる。
好かれたもんだな。俺も。
しかし、二対二になったと思ったら速攻で四対二か。まいったな。
なんて思っていると。
「あの剣士の相手は私がするわ」
「柚葉……」
降下してきた魔術師たちをまとめていたはずの柚葉が俺の隣に立った。
その目はキキョウを鋭く見据えている。
「あらあら? 誰かと思えば南雲のお嬢様じゃない。あの坊やに堕とされて以来ね?」
「……あなたたちが伊吹を……!」
「とんだ誤解ね。私たちは力が欲しいというから簡単に力が入る方法を教えただけよ。やったのは彼。私たちじゃないわ」
「唆しておいて……!」
「唆されるほうが悪いわ。仮にも国を守る名家の人間ならね。それはあなたも同じ。罠に嵌って坊やに堕とされたくせに調子に乗らないでちょうだい。少し会わない間にずいぶんと威勢を取り戻したようだけど、もう一度堕とされたいのかしら?」
うふふと不気味な笑みを浮かべながらキキョウは柚葉を舐めるように見つめる。
そんなキキョウを毅然とした態度で睨んだあと、柚葉は俺に視線を移す。
「私にやらせて。いい?」
「……大丈夫なのか?」
「平気よ。借りがあるの。返さないと気が済まないわ」
そう言って柚葉は太刀を構える。
キキョウも柚葉の様子に闘争心が刺激されたのか、もう臨戦態勢に入っている。これはもう何を言っても無駄だな。好きにやらせるしかない。
これで四対三。数の上では向こうが有利だが、だいぶ楽になった。
あとはあの魔導師をどう抑えるかだが。
それを考える前に能天気な声が耳に届いた。
「じゃあボクはあの黒い人だねー」
「ミコト? 須崎さんと一緒だったんじゃないんですか?」
「うん。最初は一緒に右にいったけど、レイが中央いっていいっていうからこっちに来たよー」
「レイ?」
「仲良くなった聖騎士の友達」
「友達ねぇ」
あいつは否定するだろうな。断固として。
しかし、レイがこっちにミコトをよこしてくれたのか。
正直助かるな。
「レイはね、トウマが本調子じゃないから助けてやれって言ってたよ」
「けっ、調子に乗りやがって」
「ねぇ、トウマ。ボクが来て嬉しい?」
純粋な問いかけだ。
必要なのかどうか。ミコトはそれを気にしている。
だから俺は大きくうなずいた。わかりやすい表現だ。
「もちろんだ。助かるよ。来てくれて」
「ホント!? やったー!!」
素直に喜びを露にしたミコトはご機嫌な様子でオズワルドと向かい合う。
オズワルドも勝負は避けられないと悟ったのか、ミコトを相手と定めたようだ。
「結局、一対一か」
「すぐに片付けて援護する」
「いや、そうもいかないだろうな。向こうも中々手強い。油断するな」
オズワルドの言葉に俊也はそう忠告する。
侮って向かってきてくれれば楽だったんだが、さすがにそこまで甘くないか。
口火を切ったのは二人の明乃だった。
同時に両手を前に出した二人は同じ詠唱をする。
「「その雷は暗く、闇より深い。その雷鳴は千里を超え、粉砕の衝撃をもたらす。黒き雷よ、我が手に宿れ! ――黒雷閃――!」」
黒い雷が中間地点で激突する。
その光と衝撃が開始の合図となった。
ミコトと柚葉が突っ込み、俺はその場に留まって俊也の出方を伺う。
せっかく日本の援軍で傾きかけている流れも、ここで誰かがやられれば失われる。
召喚獣たちの勢いはいまだに強く、アーヴィンドを中心に必死に食い止めているがギリギリだ。なんとかこいつらを片付けて間接的な援護をしてやりたい。
そんなことを思っていると、俊也が俺の影がヌルリと現れる。それに反応して、俺と俊也は刃を合わせた。
「どうした? 芸がない攻撃だな?」
「笑わせるな。たかが一対一に持ち込んだくらいで調子に乗るな。お前など俺の相手ではない。俺はお前の弱点を知っている」
「なら倒してみろ!」
横やりを気にせず俊也に集中できるため、さきほどよりも俺はずっと鋭い攻撃を仕掛けることができた。
俊也もそれを感じ取ったのか、俺から距離を取って中距離での戦いにシフトする。
しかし、俺と俊也の戦いは結局のところある一点に絞られる。
俊也は俺に刃を抜かせたいと思っており、俺は抜かずに倒したいと思っている。結局はこの一点だ。
個人の勝敗ではなく、そこがこの戦場での大局に大きな影響を与える。
だから戦いは硬直状態に入る。俺は決め手に欠けるため。俊也はその状態から決め手を出させたいため。
どちらが先に動くか。
我慢比べがはじまった。