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第百二十九話 天真爛漫




「ボクもトウマのところ行ーきーたーいー!!」

「うるせぇ! お前と明乃が一緒に行ったら戦力が偏るだろうが!」

「アケノだけずるい!」

「こんなときにお前は……そんなに行きたきゃ右を助けてから行け!」


 大和から発艦したヘリの中でミコトと光助がそんな会話をする。

 城壁の中央にいる斗真のところではなく、押され気味な右への援軍に回るために光助が指揮する部隊が送られ、ミコトもそこに加えられたのだ。


「そんなことしてる間にアケノがトウマを助けちゃうよー……」

「さっさと片付ければ平気だ。それにあとから決定的な場面に登場したほうがかっこいいぞ?」

「ホント!?」

「当然だろ。そっちのほうが評価は上がる」

「そっか! じゃあさっさと終わらせるね!」


 そういうとミコトは左右の剣を抜くとヘリから飛び降りる。

 そんなミコトを見ながら光助をニヤリと笑う。


「ふっ……ちょろい奴だ」

「隊長、性格悪いですね」

「そうですよ。ミコトちゃんかわいそーですよ」

「うるせー。嘘はついてねぇよ。敵さんは的確に斗真の弱点を突いているみたいだしな。ここから劣勢ってこともありえる。そのとき斗真にはミコトの援護を必要になる」


 逆にいえば今は必要ない。

 ならば他のところで働いてもらったほうがいいということだった。


「隊長も意外に考えてるんですね」

「意外には余計だ。大体、お前らの準備はいいのか?」


 光助は装備の確認をしながら訊ねる。

 それに対してヘリに乗っていたすべての隊員が敬礼した。


「どこまでもお供する覚悟です」

「よろしい! 降下開始! ミコトのためにさっさと右の戦況を安定させるぞ! 行け行け行け!」


 光助の号令で隊員たちがどんどんヘリから降下していく。

 その姿に頼もしさを覚えながら、光助も降下したのだった。




■■■




「焔竜牙!!」


 右の城壁を登ってきた召喚獣が燃やされて悲鳴をあげる。しかし、悲鳴をあげながらも召喚獣は城壁の上で暴れる。

 その召喚獣に止めを刺したあと、レイモンドは深く息を吐いて周りを見る。

 どこもかしこも劣勢だった。

 当然だ。聖騎士ジュードの裏切りにより、最激戦区である中央には聖騎士がアーヴィンドしかいなくなった。それを補うために右にいた聖騎士が中央に移った。その分、右はレイモンドが一人でなんとかしなければいけない状況が続いていた。


「集中力を切らすな! 今が耐え時だ! 倒そうとする必要はない! 食い止めることに専念しろ!」


 指示を出しながら戦うのは難しい。

 ましてや自分が戦うだけで精一杯なら尚更だ。

 戦場の駒として最大の力を持つレイモンドは右で決定的な働きをしつつ、しかも右にいる無数の騎士たちを指揮しなければいけない。

 そのことがレイモンドの集中力を切らしつつあった。

 頭と体を連続でフル回転させているため、休む暇がないのだ。

 そんなレイモンドの隙をつくように一体の召喚獣がレイモンドから離れたところで、城壁を突破した。


「ちっ!」


 舌打ちをしながらレイモンドはそちらに急ぐ。

 だが、一瞬の遅れによって召喚獣は城壁内の騎士を吹き飛ばす。

 このままだと被害がデカくなる。

 そんな焦りを抱いたレイモンドの横を風が通り過ぎた。


「ボクがやるよ」

「!?」


 その声に反応してレイモンドは足を止めた。

 聞き覚えのあるその声になら任せてよいと頭ではなく、体が反応したのだ。

 実際、そのとおりになった。

 侵入した召喚獣は速度で圧倒されて、即座に斬り捨てられる。


「……ミコトか」

「やっほー。レイ。手伝うよー」

「お前に愛称で呼ばれる筋合いはない。馴れ馴れしいぞ」

「えー、トウマもレイって言ってるじゃん」

「サトウが勝手に呼んでるだけだ!」

「じゃあボクも勝手に呼ぶよー」


 こんな状況で笑うミコトにレイモンドは青筋を立てるが、右側にいた騎士たちは待望の援軍に活気づく。

 そんな右側に光助たちも合流する。


「あんたが指揮官か?」

「お前は?」

「自衛隊の須崎一尉だ」

「じゃあスザキ。そこの女に首輪をしっかりつけとけ。勝手をさせるなよ」

「そりゃあ無理なご要望で……」


 指揮官二人が話しあっている間、ミコトは一切話を聞かずに手短な召喚獣に突撃していく。

 しかし不思議な魅力を発するそんなミコトの姿に、劣勢に落ち込んでいた右の城壁が盛り返し始めた。


「……本当に義妹か?」

「斗真のですかね? ええ、義妹ですよ」

「血のつながりがないのが不思議だ」

「へー、そんなに似てますか?」

「オレを苛立たせるところとかそっくりだ」


 そんなことを言いながら、レイモンドは右手の魔剣を握り直す。

 自然と流れを変えてしまうタイプの人間がいる。

 真面目なレイモンドはそういうタイプではない。だから斗真やミコトのような流れを変えるタイプの人間に憧れる。

 だが、いつまでも憧れているままでいる気はなかった。


「スザキ。ここは任せる。オレも前に出る」

「ミコトに合わせる必要はないと思いますがね?」

「あいつに合わせるわけじゃない。今が攻め時ってだけだ」


 そういうとレイモンドは大きく跳躍する。

 そして天高く焔竜牙を掲げる。

 城壁という限られた空間では発揮できなかったが、焔竜牙を持つレイモンドの最も得意とすることは対集団戦。

 全力で焔竜牙の力を引き出したレイモンドは、巨大な炎の竜で右の城壁近くにいた召喚獣たちをまとめて蹴散らす。

 その後ろからまだまだ召喚獣は出てくるが、レイモンドはそちらを見ずに左を見る。つまり中央だ。

 敵の戦力が徐々に中央に流れている気配をレイモンドは感じ取ったのだ。


「ボクの獲物を取るなよー!!」

「ミコト」


 自分の前にいた召喚獣を燃やされたミコトが文句を言うが、レイモンドはそれを受けつけずにミコトに指示を出した。


「ここはいい。中央へ行け」

「え? いいの?」

「サトウは決して本調子じゃない。ここ最近は戦い続きだし、西部の反乱で夢幻召喚も使っている。万が一があると困る。助けてやれ」

「……レイは小さいのに器が大きいんだねー」

「小さいは余計だ!!」

「あはは、わかったよ。ボクがトウマを助けにいくね。そのかわり」


 チラリとミコトは光助たち自衛隊の面々を見る。

 そして。


「あの人たちをお願い。ボクを助けてくれた大切な人たちなんだ。あの人たちも」

「……心得た」


 レイモンドの返事に満足したミコトは満面の笑みを浮かべると、そのまま中央へと向かって走り出したのだった。

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