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第百二十三話 混迷する状況


 俺が全速力で聖王都に向かっていると、俺の近くに小型飛空艦が降りてきた。

 要人用の高速艦だ。


「誰だ!?」

「儂じゃ。はよう乗れ。斗真」

「あんたがどうして……」


 乗っていたのは君子だった。

 俺はすぐに飛空艦に飛び乗ると、飛空艦はどんどん高度をあげる。


「久しいな。ところで東凪の娘はどこじゃ?」

「明乃か? ゲートに向かう途中で飛空艦を落とされてな。明乃はほかの奴とゲートに向かった」

「この状況下で二手に分かれるとはのぉ。お主の策か?」

「いや明乃だな」

「自分からお主と別れるか。気の強い子じゃな。しかし、そうなると厄介じゃな」

「一体、何が起きてる?」


 俺の問いに君子はため息を吐くと窓の外を見る。

 そこには聖王国の領土が広がっていた。

 今のところ異常は見られないが。


「もう察しておるじゃろうが、八岐大蛇が復活した。そしてこちらに移動してきたらしい

「ケルディアに!? どうやって?」

「それは儂にもわからん。儂が地球を立つとき、八岐大蛇の結界が破られようとしておった。それから大した時間もたっておらぬのに、先ほど八岐大蛇の魔力をこの世界で感じた。状況は混迷しておる。儂ら以上にこの国は混乱に包まれておるじゃろうな」

「……大体把握したが、どうしてあんたがケルディアに来たんだ? 結界が破られようとしてるなら、それを守るのがあんたの仕事だろ?」

「すでに出来うる手は打ってあった。それが破られた以上、もはや復活した八岐大蛇を討伐するしか手はない」


 君子の言いたいことはわかる。

 わかるが、今の聖王国には竜王と戦うだけの戦力はない。

 特に聖王都近辺は西部での反乱のせいで手薄だ。討伐どころか食い止めることすら難しい。


「完全に奇襲を食らった。いくら聖王国でも難しいぞ……」

「一国の力に頼ろうとは思わぬ。いつだって戦うのは国ではない。人じゃ」

「人……?」

「斗真。儂がこの世界に来たのは強者を呼びさますためじゃ。もはや八岐大蛇は復活した。それならば危険を避ける必要もあるまい?」

「まさか……」

「お主の師匠を捕えている結界を破壊しにきた。かつて魔王と呼ばれる存在をこの世界の人間は討伐しておる。あのときの英雄が揃えば可能性はあるじゃろう」


 そういって君子は俺を指して、まずは一人じゃとつぶやいた。

 たしかにリーシャが復活して、ほかの面々が揃えばいけるかもしれない。

 魔王と違って八岐大蛇は巨大だ。攻撃範囲も広いだろうが、こっちも的がデカい。魔王のように攻撃を避けるなんてことはないだろうし、勝てる可能性はある。

 ただ。


「復活にはどれくらいかかる?」

「時間はあまりかからん。じゃが、もっとも重要な鍵がおらん」

「鍵?」

「東凪の神炎。それが結界破壊の鍵じゃ。つまり儂が前回、お主に秘した人物とは明乃ということじゃ」


 明乃がリーシャを復活させる鍵?

 たしかにあの神炎なら結界を壊せるかもしれない。だが、そうすると辻褄が合わなくなる。


「明乃は俺と一緒にいた……。どうやって八岐大蛇は復活した……?」

「それを考えるだけ無駄じゃろう。雅人に訊ねてみたが、あやつにはほかに子供がおらぬ。つまり東凪の神炎を使えるのは明乃だけということじゃ。儂らには想像つかぬ下法を使ったとしか思えぬ」

「……俺たちには想像をつかない下法か……」


 カリム・ヴォーティガンは世界最高の召喚術師だ。

 その肩書が俺の脳裏によぎったと同時に嫌な想像が浮かんできた。

 しかし、そんなことできるわけがない。


「今は明乃のことはよい。すでに復活した以上、問題は八岐大蛇じゃ」

「そうだな……弱点は?」

「唯一の弱点は狡猾ではあるが、頭がよくないということじゃった。そうであるから、儂らは奴を封印できた。しかし、解放された八岐大蛇が操られていればその弱点はなくなった」

「操れるのか? 竜王を」

「千年以上閉じ込められておったからのぉ。もはや思考しているかすら怪しい。そういう獣ならば操るのは難しくはないじゃろう。あの結界を破れる者ならばな」


 つまりカリムの手足のごとく八岐大蛇は動くということか。

 最悪もここまで来ると笑えてくるな。


「じゃが、奴は竜じゃ。そこは弱点といえるかもしれんのぉ」

「竜は最強種だぞ? それが弱点?」

「そうじゃ。あれは竜であるがゆえに、その宿命からは逃れられん。ゆえにお主の刃なら届くかもしれぬ」


 なるほど。

 言いたいことはわかった。

 竜は巨大な敵ではあるが、これまでの長い歴史の中で必ず討伐されてきた。

 そういう伝承がある以上、竜はドラゴンスレイヤーと呼ばれる武器で討伐されるという認識が広がっている。

 だからドラゴンスレイヤーさえ召喚できれば可能性はあるということか。


「だが、それでも戦力は足りない。あいつらが早めに駆けつけてくれなきゃ聖王国は終わるな……」

「そう悲観するでない。雅人が日本の軍を動かす。そのうち援軍はやってくることは間違いない」

「日本の軍が来てもなぁ……」

「日本が動くということはこの世界の国にもすぐ伝わる。他所の世界の軍が助けにきたのに、この世界の国は動かなかったとなれば国は威信と名誉を失う。安心するがよい。必ず多くの国が動く。お主の役目はそれまで持ちこたえることじゃ」

「やるだけやるが……今回ばかりは自信がないな」


 言ったあとに俺はそれが嘘だと自覚した。

 かつて本当に自信がなかったときが一度だけあった。

 魔王に立ち向かったとき、俺には自信がなかった。

 あのとき以来だ。勝てないかもしれないと思ったのは。

 それだけの相手ということだろう。

 これまで磨き続けてきた俺の危機センサーが聖王都に近づくほどに鋭くなっていく。今すぐにも逃げ出したい。

 だが、そのセンサーを無視して俺はそのまま聖王都へ乗り込むのだった。

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