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第百十六話 恋慕の結末

ひと段落するけど、そろそろ最終局面!




「……なにを……している……? ラッセル……」

「ぐ、グロスモント……」


 ベルブは幽鬼のように立ち上がったグロスモント侯爵に一瞬怯むが、その足がおぼつかないのを見て笑い声をあげた。


「は、はは……はっはっはっ!! ボロボロではないか! グロスモント! 情けない奴め!」

「質問に……答えろ……なにをしている……?」

「ふん! ワシの未来の妻が反抗的なので、教育をしようとしたまでだ。文句があるか?」


 グロスモントはゆっくりとエリスの方を見る。

 エリスは驚いたようにグロスモントを見ていた。グロスモントが落ちてきたのはもちろんだが、グロスモントがボロボロになっていることにも驚いていた。

 グロスモントがそこまでして戦うとは思わなかったからだ。

 そんな風に驚くエリスにグロスモントは苦笑する。


「文句しかないな……姫殿下が貴様の妻など悪い冗談だ……」

「ボロボロの状態でほざくな。どうせ侵入者もボロボロなのだろ? ちょうどいい、ワシが貴様とその侵入者を成敗してくれよう!」


 そう言ってベルブは笑う。

 グロスモントはそんなベルブをただ見ていた。いつも通りならさっさと斬ってしまうところだが、今のグロスモントにはほとんど力が残っていなかった。

 ティルフィングに体中の力を持っていかれたからだ。

 もはや立っているだけで精一杯。

 そんな体でありながら、グロスモントの心は満たされていた。

 斗真の一撃によってグロスモントはボロボロになったが、怪我だけでは命に別状はない。問題なのはティルフィングの三つの願いを使ったことだった。

 三つ目の願いのあと、自らの生気がティルフィングに吸われていることをグロスモントは実感していた。

 すでにその吸収が致命的なところまで来ており、自分の命が長くないことをグロスモントは察していた。

 だからグロスモントは満足だった。

 最後の最後で愛おしい姫を一目見れたうえに、その姫に近づく害虫を排除できるのだから。


「貴様が成敗か……戦場すら知らぬ愚か者がほざくな……」

「当たり前だ! ワシは貴族の当主! 戦場に出るのが仕事ではない。人に指図するのがワシの仕事だ!」

「違う……貴族や王族の仕事は人を導くことだ……貴様は裏でコソコソと隠れ、陰気な作戦を立てているだけではないか……! その貴様が貴族の当主を語るな! それは我が聖王国にいる貴族への侮辱と知れ……!」


 ゆっくりと。

 もはやノロノロといったほうがいいペースでグロスモントはベルブに近寄る。

 言葉とは裏腹に体には力が入っていない。

 そんなグロスモントの姿にベルブはニタリと笑う。


「力強いのは言葉だけとは嘆かわしいな。西部にその人ありと言われたレスター・グロスモントともあろうものが、反乱の果てに口だけの男に成り下がったか」


 グロスモントは何も言わない。

 ただ少しずつベルブとの間合いを詰めるのみ。

 しかし、ベルブのとある言葉がグロスモントの動きを止めた。


「貴様は生かしておくのも面白いな。ワシとエリスの結婚式を見つめる貴様を見るのは一興だ」

「……黙れ……」

「貴様の反乱は終わったのだ。この後、ワシが王になる。そうエリスの夫となるのだ! 誰にも文句は言わせん。今は反抗的だが、いずれエリスもワシに従順となるだろうな! ワシは女を躾けるのが上手いのでな!」

「黙らんかぁぁ!!!!」


 グロスモントは一瞬だけ加速する。ティルフィングをベルブに投げつけたのだ。

 もはや立っているのもやっとだった男の動きとは思えない。

 完全に虚を突かれたベルブは、グロスモントが投げたティルフィングによって腹部を貫かれた。


「がはっ……」

「貴様がいくら俺を愚弄しようと勝手だが……その下賤な口で姫殿下の愛称を口にするのは許さん……! 貴様ごときが気安く愛称で呼ぶ女に焦がれた覚えはないし、貴様ごときがどうこうできる女のために反乱を起こしたわけでもない……!!」

「き、さま……」

「この方は光だ……貴様ごときが手を触れるなど言語道断だが、冥途の土産というなら話は別だろう……冥途で死者たちに自慢するがいい。自分はエリスフィーナ・アルクスの肌に触れたのだと……」


 言いながらグロスモントはゆっくりと地面に向かって倒れこむ。

 最後の力を使い果たしてしまったからだ。

 しかし、そんなグロスモントをエリスが抱き留めた。


「レスター様……!」

「姫殿下……服が……血で汚れましょう……お放しください」

「戦士の血なら気にしません。誇りをもって戦ったのでしょう?」

「……ええ。このレスター……初めて敵わぬと思った相手に挑みました……」

「どうして退かなかったのですか……?」

「……退けなかったのです……あなたの心を独占する男を倒さねば……あなたは私には振り向いてはくれないでしょう……?」

「わたくしは……」


 何か言おうとしたエリスにグロスモント侯爵は首を横に振る。

 嘘は聞きたくなかったのだ。


「……わかるのです。惚れた女が誰を見ているのかくらい……あなたの視線の先には常にトウマ・サトウがいた……いつかは私を選んでくれると思っていましたが……待てなかった……妥協で選ばれるくらいなら力で振り向かせたかった……たとえ手段が間違っていたとしても……あなたを手に入れたいと思ったのです」

「レスター様……わたくしがあなたを追い詰めたのですわね……」

「顔を曇らせる必要はありますまい……反乱を起こしてから私は充実していました……。すべてはあなたに振り向いてもらうため。何をするにも高揚があった……だから最後に一つアドバイスを送りましょう……ご自分に正直になられるがいい。愛おしい人間を振り向かせようとするのは気分がよいものです……」


 そう伝えるとグロスモント侯爵はエリスの腕を逃れ、弱弱しい力で部屋の外へ押し出す。

 ベルブに突き刺さったティルフィングがいまだに輝きを保ったままだったからだ。

 さきほどまで持ち主だったグロスモントには、まだティルフィングが贄を求めていることがわかったのだ。


「お離れください……贄は私だけで十分でしょう……」

「弱気なことを言ってはいけません! 生きてこの反乱のケジメをつけなさい!」

「そうしたいのは山々ですが……もはや私の命はティルフィングに吸い取られてしまいました……あなた様ならば上手く収めてくださるでしょう……」

「レスター様! 気を強くもって!」

「……初めてお会いしたときよりお慕い申し上げておりました、エリス様。どうかあなたの恋が実ることを祈っております……」


 そういうとグロスモントはエリスの手を跳ねのけ、その体を押す。

 そんなエリスを駆けよってきた明乃が受け止めた。


「姫殿下! ご無事ですか!?」

「アケノさん!? レスター様を!」

「早く防御をしろ……時間がないぞ」

「っ!?」


 どんどんティルフィングの魔力が肥大化していく。

 このままでは爆発する。

 咄嗟にそう悟った明乃はエリスを自分の背に隠すと幾重にも防壁を作った。

 そしてそれとほぼ同時にティルフィングは最後の贄を求めて爆ぜたのだった。

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