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第百十一話 対峙




「ここは僕たちに任せて、先に行ってください!!」

「死亡フラグに俺を巻き込むんじゃねぇよ!!」


 エリスがいると思われる城の貴賓室。

 そこに近づけば近づくほど敵の数は多くなり、隠密行動は難しくなる。

 貴賓室のある階に続く階段で、俺たちは大量の兵士たちと遭遇した。

 おそらく下での異変を感じ取ったのだろう。

 そいつらを食い止めるために光助とトムが残ることを選択したのだが、トムが死にそうなキャラみたいなことを言って、光助に怒られる。

 そんな二人に苦笑しつつ、俺と明乃はさっさと階段を登る。

 すでに貴賓室は目と鼻の先だ。エリスを救出次第、ミコトを含めた三人と合流して逃げえばいい。

 そう考えて階段を登りきり、俺たちは目的地である貴賓室に向かう。


「何者だ!?」

「侵入者か!?」


 部屋の前にいた護衛は二人。

 俺と明乃はその二人を一撃で排除し、ゆっくりと貴賓室の扉を開けた。

 すると。


「見事と言っておこう。さすがは無刃の英雄だ」


 貴賓室の中央。

 椅子に座る男と、その男の傍に控える老執事がいた。

 黒い髪に青い目。立ち振る舞いに品があり、美麗な容姿と相まってその姿は彫刻のようだ。

 間違いない。こいつがグロスモント侯爵だろうな。


「お前がグロスモントか?」

「いかにも、トウマ・サトウ。姫殿下は別のところに移させてもらった。安心しろ。護衛には気を配っている」

「人質にしておいて安心しろなんてよく言えたな?」

「彼女を人質にしておくだけで一苦労なのだが、まぁお前にそれを話すだけ無駄か」


 グロスモント侯爵は後ろに控える老執事に目配せする。

 恭しく一礼した老執事は瞬時に俺たちに後ろに回り込んだ。俺は即座に反応し、明乃も少し遅れたが反応する。

 そんな俺たちを気にした様子もなく、老執事は一礼する。

 まるで自らの非礼を謝るように。


「サトウ様のお相手は御当主自らいたしますので、お嬢様のお相手は私が務めさせていただきます。ついてきていただけますでしょうか?」

「敵地で敵の誘いに乗ると思いますか?」

「確かに。しかしあなたは乗らざるをえない。私は姫殿下がいる部屋を知っています。敗北した場合は素直にお教えしましょう」

「嘘ではないという保証は?」

「我がグロスモント侯爵家の名に誓おう」

「国を裏切った貴族の名にどれほどの価値があると?」


 明乃はグロスモント侯爵の言葉に間髪入れず返した。

 グロスモント侯爵は少し驚いたような顔をしたあと、いきなり笑い始めた。


「はっはっはっ! なるほど、聡い少女だ。こちらのペースに乗る気はないか。さすがに足手まといを連れてきたわけではないらしいな」

「当然だ。最も頼りになると思ってるから連れてきた」

「そうか。だがお前と一対一の勝負をするのに、その娘は邪魔だ。素直にこちらの提案を受け入れろ」


 そう言ってグロスモント侯爵は一本の長い剣を俺に見せた。

 鞘に入っているが、見ただけでとんでもない代物だと察しがついた。

 どうして察しがついたかといえば、俺が召喚する刃に似た感覚を受けたからだ。鞘に入った状態で、だ。


「周りが気になって戦えなかったと後から言い訳されても困る。それにお前たちとしてもさっさと姫殿下のところに行きたいだろう? そこのセバスを倒せば姫殿下がいる部屋を教える。この俺をあまり安く見ないでほしいものだ」


 そう言ってグロスモント侯爵は椅子から立ち上がる。

 そこに立っていたのはもはや貴族の当主ではなかった。

 纏う雰囲気は完全な武人。持っている剣と相まって、その存在感は聖騎士たちに匹敵する。

 俺はしばし考えたあと、明乃に指示を出す。


「行け、明乃」

「斗真さん!? わざわざ相手の誘いに乗ることはありません!」

「誘いだとしても好都合だ。お前ならそこの執事には負けない。さっさと倒してエリスを頼む。俺にはおそらくそんな余裕がないからな」


 鞘を持つ左手が汗ばむ。

 緊張なんてめったにしないのに、体が上手く動かない。

 本能が言っている。あの剣はまずいと。

 多くの刃を召喚してきた俺だからこそわかる。

 あれも幻想の剣の一種だ。

 使い手としての技量、武人としての格という点では俺のほうが上だ。あくまでグロスモント侯爵は貴族の当主。いくら武芸に長けていても、戦闘のプロである俺には及ばない。

 だが、そんな差を埋めてしまうのが幻想の剣だ。

 今まで俺はそれを使って格上に勝利してきた。それをやり返されようとしている。

 俺が異様なほどグロスモント侯爵を警戒し始めたのを察したのか、明乃はそれ以上は食い下がらなかった。


「……わかりました。では私が姫殿下を救出します」

「任せた」

「……ちゃんとみんなで脱出しましょうね」

「ああ、もちろんだ」


 俺の答えに満足したのか、明乃は扉の前で待機していた老執事のほうへ向き直る。

 明乃の目を見て、同行を了承したと受け取った老執事は恭しく一礼すると背筋を伸ばして歩き始めた。

 その姿に迷いはない。主人への絶対的な信頼を感じる。

 最初の動きだけでわかる。あの老執事も相当な達人だ。明乃が負けるとは思わないが、苦戦くらいはする相手だろう。そんな老執事が迷いなく俺とグロスモント侯爵との一対一を受け入れた。

 それだけグロスモント侯爵への信頼が厚いというのと、あの剣に勝算があるってことだろう。


「これで邪魔者はいなくなったな。サトウ」

「……一つ聞かせろ」

「なんだ?」

「どうして反乱を起こした? 黙っていれば玉座はそのうちお前のモノだったんじゃないか?」


 グロスモント侯爵はエリスの最有力の婚約者候補だった。

 エリス自身に結婚する気はなかったようだが、あと数年すれば国のためといって周りにせかされることは目に見えている。

 そしてエリスと結婚すればグロスモント侯爵は共同統治者となる。単独の王ではないが、それでも手に入ることは手に入るのだ。こいつが反乱してまで手に入れるモノとは俺には思えない。

 俺の質問にグロスモント侯爵は忌々しそうに顔を歪めた。


「玉座など興味はない。たしかに黙っていれば俺は王にはなれただろう。しかし、黙ったままでは手に入れられないモノもある。そして俺はそれを欲したのだ。すべてを捨てても欲しくて仕方がないのだ」

「それはなんだ?」

「答えが知りたければ俺を倒してみろ。それができれば教えてやろう!」


 そう言ってグロスモント侯爵は鞘から剣を抜き放ったのだった。

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