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第百九話 潜入開始

二日も休んですみませんでした。皆さんも風邪にはお気をつけて。




「本当に私もついていかなくていいのかしら?」


 グロスモント侯爵の城近く。

 ジュリアのゲートでそこまで移動してきた俺たちは、潜入の準備に取り掛かっていた。

 そんな俺たちにジュリアが心配そうな顔で言ってきた。


「何度も言わせるな。お前はこの城じゃ戦力ダウンするし、潜入に向いてない」

「それならアケノも一緒じゃない」

「明乃は体術が使えるし、お前みたいに勝手に動かない」


 加えていえば、明乃とジュリアじゃまだまだジュリアのほうが力は上だ。

 戦力ダウンしたところでジュリアの魔法はまだまだ大規模。しかし、明乃ならそれがちょうどいい感じに収まると俺は予想している。

 ぶっつけ本番で、その場の環境に合わせるのは難しいが明乃ならそれもこなせるだろう。


「本当に? 本当についていかなくていいの?」

「むしろついてくるな。邪魔だ」

「ひどいわ! アケノ! トウマがひどすぎるわ!」


 よよよと泣き真似をしながらジュリアは明乃に縋りつく。

 いきなり話に巻き込まれた明乃は苦笑している。


「ま、まぁジュリアさんは脱出の要ですし、斗真さんもジュリアさんが後ろにいてくれるから安心して前に出れるんですよ……きっと」

「あら!? そうなの!? トウマ!」

「違う。お前は潜入に向いてない。だから置いてく。それだけだ」

「なによー、素直じゃないわねー」

「素直に言ってるつもりなんだが」


 隠さなくてもいいのよ、仕方ないわねー、なんて勝手に勘違いしているジュリアに説明しようとして。

 諦めた。絶対に時間の無駄だし、何をいっても良いように解釈する未来しか想像できない。

 ついてくると言われるよりは、こうして勘違いしてもらっていたほうがいい。

 そう判断して俺はジュリアにかまうのをやめた。

 そんな俺に今度はミコトが話しかけてくる。


「ねぇねぇ。トウマー」

「うん? どうした? ミコト」

「これ、なにに使うの?」


 そう言ってミコトは荷物の中にある黒いスーツを指さす。

 スーツといっても会社員が着るスーツではない。

 今回の作戦で重要な役割を果たす特殊なウェットスーツだ。


「ミコト……作戦聞いてたか?」

「うん。水路から侵入するんだよね?」


 グロスモント侯爵の城は堅牢だ。周囲には水路が張り巡らされており、城に通じる橋は一本。そこには強固な門があり、出入りには厳しいチェックを受ける。

 加えて魔力が乱れているため、魔法や魔道具の効果が安定しない。

 ゲートで近くに向かうことはできないし、幻術で侵入することもほぼ不可能。

 ジュリアならば無理やり一人でゲートで飛んでいくという離れ業くらいできそうだが、まず間違いなく魔力反応で気づかれるだろう。

 気づかれずに魔法で侵入できる者がいるとすれば、よほど隠密行動に優れた魔法師だけだ。

 しかし、この城にも弱点がある。水路から城に通じる地下道がある。ここを通って城に入れば外の警備を無力化できるというわけだ。

 ただし水路から進むとなれば水を引く川から向かうことになる。


「これを着て川から潜入するんだ。着れば水の中でも息ができる」

「え? これ着なきゃ駄目なの?」

「むしろ着ないでどうやって行くんだよ……」

「えっとね、薬草で水の中でも息ができるものがあるんだ。それを使えばよくない?」

「そういうものの効果も安定しない土地なんだよ。ここは。だから地球の科学が生きる」

「へー、そういうもんなの?」

「そういうもんなんだ」


 物珍しいのかミコトが黒いウェットスーツを広げる。

 自衛隊が開発した新型のウェットスーツで、そのまま戦闘服にもなる。

 魔法が生活に浸透しているケルディアではあえて地球の技術を取り得ることは少ない。魔法やさきほどミコトが提案したように薬草なんかで事足りてしまうからだ。

 しかし、このグロスモント侯爵の城ではその魔法がいつもの効果を発揮しない。

 となれば地球の技術が活躍する場面だ。

 水路から侵入するには川から行く必要がある。しかし、魔道具や薬草の効果が安定しないため、その経路からの侵入は警戒されていない。

 魔法が主流ゆえの盲点だ。


「さて、行くか」


 そう言って俺たちは準備に取り掛かった。




■■■




 水路からの侵入は問題もなく成功した。

 地下道に入った俺たちはそれぞれの装備を整え、城へと向かう。

 しかし、さすがにそう甘くはいかない。


「敵は?」

「三人だな」


 城へと登る階段に見張りが三人いた。

 恰好からして傭兵だろうな。

 立ち振る舞いから相当に場数を踏んだ奴らだとわかる。こいつらに何も言わせずに突破するのは中々に苦労しそうだ。


「聞いたか? またグロスモント侯爵が傭兵を三人処刑したらしいぞ」

「おー、怖い怖い。明日は我が身だな」

「馬鹿野郎。処刑された奴の一人が聖王女様に近づこうとしたからだよ。残りの二人は連帯責任だ」

「うへー、厳しいなぁ」

「そんだけ聖王女様に手を出そうって奴が多いんだろうな。俺たちはここの警備のせいでお目にかかる機会がないけど、聞いた話じゃ死ぬと分かっていても手を出したくなるくらい美しいらしいぞ」

「そりゃあ聖王国のお姫様だからなぁ。俺も数年前にちらっと見たことあるけど、あの時点でも大層な美少女だった。今はもっと美しいんだろうなぁ」

「しかし、死ぬとわかっていて手を出そうとするかね? グロスモント侯爵は警備につく傭兵たちに何かしようとすれば殺すって言ってあるんだろ?」

「いやいや、あんだけ美しい女だ。一回でも抱ければ死んでもいいと思えるさ。間近で見れば特にな」


 傭兵たちの会話を聞いていると自然と左手に力が入り、右手が刀に伸びる。

 しかし、横にいた光助がそれを制止した。


「俺がやる。トム、一人任せてもいいか?」

「任せてください。余裕ですよ」


 トムは軽い口調で答えながら矢を準備する。

 その間に光助は低い姿勢のまま傭兵たちに近づいていく。

 手にはサプレッサーのついた拳銃。

 ゆっくりと狙いを定めた光助は静かに引き金を二回引く。


「ぐっ!?」

「がぁ!?」


 二人の足に銃弾が当たり、バランスを崩して二人は階段を転げ落ちた。

 残る一人が異変を察知して声を出そうとするが、その前にトムの矢が最後の一人の手を射抜く。


「ぐぁ!」


 呻き声をあげて男は膝をつく。

 そのまま男はバタリと倒れた。

 階段から落ちた二人も倒れたまま動かない。どうやらトムにせよ、光助にせよ弾や矢に何か仕込んでいたらしい。


「麻痺弾だ。しばらくは動けないだろうさ」

「僕のは毒ですね。まぁ死にはしないと思いますよ」


 さらりとトムが恐ろしいことを言う。

 これからは室内戦だ。そんな毒を塗った矢を使われると万が一、巻き添えを食らったときに困る。


「当てるなよ? 俺たちに」

「当てませんよ。これでも凄腕の弓使いとして名が通ってるんですよ?」

「自分で言うな、自分で」


 トムに突っ込みを入れている間に光助が倒れた三人を脇に退けて、階段の安全を確認する。ここらへんの手際はさすが軍人というべきか。


「スザキって意外にすごい?」

「馬鹿野郎。俺の凄さはこんなもんじゃねぇよ」


 ミコトの言葉にそんなことを言いながら光助は階段の先にある扉を開けて、城への潜入を果たす。

 いつにも増してはりきっている光助に苦笑しつつ、俺たちもその後に続くのだった。

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