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第百一話 合流



 大規模な軍と軍との衝突が予想される中、一隻の飛空艦が聖王都に着陸した。

 それを出迎えに来た俺は降りてきた二人の姿を見て、ホッと息を吐いた。


「トウマ!!」


 ミコトが俺の姿を見るなり抱きついてくる。

 それを受け止めながら俺はミコトの頭を撫でた。


「無事でよかった。すまなかったな、傍を離れて」

「本当だよ! 何にも言わずに行くなんて!!」


 ミコトが怒りを表すために俺を殴ってくる。ただし力は一切入っていない。

 そんなミコトに苦笑しつつ、俺はあとから静かに降りてきた明乃に視線を移す。


「悪かった。今回は俺が全面的に悪い。なんでも言ってくれ」

「珍しく反省しているようですね?」

「ああ……反省ばかりだ」


 明乃とミコトを危険にさらし、あげくエリスまで敵の手に落ちた。

 きっかけは俺の行動だ。弁解のしようもない。


「反省しているのなら言うことはありません。次から家族に相談してから決めてください。あなたはミコトの兄であり、私にとっても兄のような存在です。私たちが頼りないのはわかっていますが……たまには頼ってください」

「……ああ、ありがとう」


 俺は明乃に礼を言うと優しく頭を撫でる。

 リーシャは大切だ。だが、今、俺の周りにいるこの子たちだって大切だ。

 過去のために現在を犠牲にしてはいけない。その果てにリーシャを助けられたとしても、リーシャは怒るだろう。

 そんな単純なこともわからないから多くの人に迷惑をかけることになった。

 俺は二人から視線を外し、あとから降りてきたアーヴィンドに移す。

 アーヴィンドの様子はいつも通りのようだが、俺のほうがいつもどおりじゃない。


「アーヴィンド……」

「お疲れ様だ、トウマ。いろいろあったようだね」

「すまない……俺のせいでエリスからお前を引き離してしまった……」

「君のせいじゃない。上位の聖騎士が三人いても防げなかったんだ。私がいても変わらなかっただろうね。それくらいグロスモント侯爵は反乱する理由のない人だった」

「エリスの最有力の結婚相手だっけか?」

「ああ、姫殿下は一度求婚を断っているが、それでも将来的に最も結婚する確率が高かったのは彼だ。西部貴族の気持ちも宥められるし、彼自身非常に優秀だからね。だから彼の反乱なんて誰も予想してなかった。彼は反乱などしなくとも多くのモノを手に入れられたはずなのだから」


 アーヴィンドの言葉を受け、それでも俺は下を向く。

 アーヴィンドは自分がいても変わらなかったというが、そんなはずはない。要人護衛という点でアーヴィンドの右に出る者はない。

 アーヴィンドならエリスだけは逃がしたはずだ。

 そんなアーヴィンドがエリスの傍にいなかったのは、俺が勝手に動いたことの尻拭いをしていたからだ。


「それでもすまない……」

「反省し、後悔しているなら結果で返してほしいね。君はいつだってそうしてきたはずだ」

「……すでに軍同士の戦いだ。俺が出ていけば被害が増える。敵も聖王国の人間なんだぞ?」

「君に軍を相手にしろなんて言わないさ。そういうのは私の仕事だ。君には君にしかできない働きがある。何事も適材適所さ」

「裏からエリスを救出しろと? 失敗したら」

「君は失敗しない。本来なら私がやりたいところだが、敵に上位の聖騎士がいる以上、軍の最前線に私は立たなければいけない。だから君にやってほしい。君なら、いや……君しか姫殿下を任せられる人間はいない」


 アーヴィンドはそういうと爽やかな笑顔を浮かべて、俺の肩を叩いて歩いていってしまった。

 残された俺はため息を吐き、明乃とミコトを連れて与えられている部屋に戻った。




■■■




「つーまーらーなーいー」


 俺が与えられた部屋なのに部屋にはパトリックとジュリアがいた。

 二人は好待遇で城に滞在しているが、城から出ることは許されていない。

 この機に乗じて帝国が攻め込む可能性もある。情報を漏らさないためにはそうするしかないのだ。

 聖王国の立場をよくわかっているパトリックはすぐに了承したが、ジュリアのほうを納得させるのには苦労した。

 元々、ジュリアは縛られることを嫌う。そんなジュリアにジッとしていろなんて報酬を出しても難しい。

 俺とパトリックで頼み込んでどうにか要求をのませたが、それでももう飽きたらしい。


「人の部屋で何してるんだ?」

「あ! トウマ! 聞いて、パトリックったら私とゲームをするのは嫌っていうのよ!?」

「当然だ。君はボードゲームしていて負けそうになったら、これは私よ。私なら三人抜きくらい余裕だわ。とかいって、私の駒を三体破壊とかしたりするじゃないか」

「だって私だったら余裕だもの」

「そうであったとしても、ゲームのルールを守らない人とはゲームはしない」

「なんでよー! 私とゲームをやって、私に勝たせて、私を喜ばせなさいよ!」

「理不尽の権化みたいなやつだな……」


 ジュリアは自分が勝てないと何事も満足しない。さらにいえば負けることも良しとはしない。つまり普通に屁理屈をこねてルールを破るわけだ。

 だからパトリックもゲームの誘いを断っているわけだが、それはそれでつまらないらしい。

 やっぱりこいつはまともじゃないな。


「ジュリアさん。お久しぶりです」

「久しぶりー」

「あら!? アケノにミコトじゃない! どうしたの? 私に会いにきたのかしら?」


 さきほどまでベッドの上で叫んでいた痛い女は、明乃とミコトの姿を認めるとすぐに立ち上がって良いお姉さんの振りをする。

 二人を抱きしめ、そのまま部屋の中に連れ込む。

 窒息の危機にあった二人は部屋の中で解放されると、必死に息を吸っていた。


「二人が来たなら楽しいわ。城に引きこもるのはやめて、王都に買い物いきましょ!」


 二人が来て楽しかったのか、ジュリアは自分が城に閉じ込められていることをすっかり忘れてしまったらしい。

 ニコニコ笑うジュリアには申し訳ないが、俺たちの外出が許可されるわけがない。


「ジュリア。忘れているようだが、我々は行動の自由がないのだよ?」

「買い物くらい平気よ。トウマが聖王に頼めば連れて行ってくれるわ」

「なんで俺が……」

「前にアケノと下着を買いに行く約束をしたのよ。ミコトもいるし、三人で買いにいきましょ!」

「えっ!?」

「そ、それは恥ずかしいよ……」


 二人はなんだか嫌そうだが、ジュリアを宥めるためと言えば許可くらいは引き出せるか?

 これ以上、ジュリアを閉じ込めていると何するかわからないしな。


「じゅ、ジュリアさん。戦争中に買い物というのは……」

「いいのよ。働くときは働くし、休むときは休む。今は休憩中よ。どうせ潜入してたとしても、今は敵も警戒してるから成功しないわ。しばらく私たちの出番はないのよ」

「そんなものですか……」


 明乃が俺を気遣うように見てくるが、そんな明乃に俺は微笑む。

 たしかにエリスは心配だが、心配だからといって今できることはない。

 アーヴィンドが正面で敵を引き付けるまでは俺たちに仕事はない。ならば息抜きも必要だろう。


「仕方ない。頼むだけ頼んでやろう」


 そういって俺はジュリアの頼みを引き受けたのだった。

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