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俺の爪楊枝は折れにくい!?   作者: 午後前後
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プロローグ



突然視界が真っ暗になった。

何が起こったのかが理解できないが、ただ分かっていることは、目の前に美女がいるということ。

服装は黒いドレスのようなもので、大きく開いた胸元から豊かな胸が見える。

彼女は黒くて長い美しい髪を靡かせながら椅子の上から腰を浮かすと、白く透き通るような身体をコチラに突き出した。


「異世界召喚おめでとう!細木ユウ君、ソナタは妾に選ばれた素晴らしき逸材だ!」


「は、はぁ!?」





・・・・・・・・・・・・


―――――――遡ること数時間前。


一人暮らしの俺は、昨日切らした爪楊枝を補充するべくバイト終わりにコンビニへ向かっていた。

バイト帰りのため時間帯は遅い。ここらは住宅街であるにもかかわらず暗くなると人通りがほとんど無くなる。

街灯の光が自分の影を作り出し、より孤独を感じた。


「はぁ…学校に行ってバイトに行っての繰り返しの人生か…マジで疲れる…卒業が早まればいいのにな…」


高校最後の夏休みが終わり、それぞれが決定した進路に向けて取り組んでいる時期、俺は進路すら決まらずフラフラと就職の募集要項を探す毎日であった。

時間があればバイトして金を稼ぎソシャゲに貢ぐ、それが日課だ。


それなりにソシャゲのランクは高いが、人間性のランクを言えば、下から数えた方が早いだろう。


周りの友達は皆彼女とイチャイチャしているが、俺は高校三年になって未だ彼女の一人もできていないのがその証拠だといえる。

中学生頃から老け始め、今では立派なオジサンになってしまった顔はヤル気が欠如していた。


最近ではバイトの後輩にまでオジサン扱いをされ、「一つしか変わらないやん!」と思い切ってツッコンでみたのだが、苦笑いをされ「キモい…」の一言でその日の会話が終了する始末。

モテないのはおそらく顔の問題も少なくないだろう。


しかも俺は損得感情を優先しがちな所もあった。思わず苦笑いを浮かべてしまう。

たまに思うのだ…異世界小説などでいうところのダークヒーロー的立ち位置に向いているのではないかと…まぁ世の中そんなに甘くない…俺はヒーローにすらなれないモブだろう…

正義感溢れるイケメン主人公とは程遠い自分の姿を想像し、少々寂しさすら覚える。


「あ~あっ…疲れるな…生まれ変わったらイケメンになりたい…」


来世がないと分かっていても期待してしまうものだろう…

そんなこんなと考えている内にコンビニに着いた。

重い足を動かしコンビニに入ると「ピンポンピンポン」とリズミカルな音が鳴り、目の前が真っ暗になる。


「な、て、停電か!?」


未払いで家の電気が消えることがたまにあったが、まさかコンビニの電気まで消えるとは…。

―――あの時は携帯の充電切れてしまってソシャゲのイベントできないって焦ったっけか……。

そんな事くだらないを考えながら見えない視界で辺りを捜索すると、まず壁に手がつかないことに気づいた。

今入って来た自動ドアの方へ振り返り探したが、どれだけ手を伸ばしてもドアにも手が届かない。


「ドアが…無い!?てか壁がない!?え、え!?あ、スマホあるやん……」


一人で焦っていた事に少し恥ずかしくなった。冷静に考えればスマホの照明で辺りを照らせばいい事だったのだ。ユウはポケットからスマホを取り出すと、照明をオンにして辺りを照らした。


「あれ、なんか暗くね?」


どれだけ光で照らしても先には暗闇しか見えない。


「あ〜、倒れたんかな俺…ゲーム徹夜でやってたしな…」


最近睡眠時間を削り過ぎたのが原因だろう。真っ暗な空間には自分以外のものを確認することが出来ない。

一人でいたくなかったためか、おもわず人を探してしまう。

まぁ自分以外に誰もいないことは分かっていたのだが…


「すいませ〜ん、誰かいませんか〜」


今頃コンビニではちょっとした騒ぎになっているだろうな…

申し訳ない気持ちもありつつ、冷静に状況を確認する。


「返事無しか…まぁ当然か…にしても、倒れたにしては意識がハッキリしてるっていうか…まるで夢みたいだな…スマホもあるし…。そうだった!まだ今回のソシャゲのノルマ達成してなかったな!ちょうどいいじゃん!」


立ってやるのも疲れるため取り敢えず座ると、狙ったようなタイミングで正面にスポットライトのように光が射す。いきなりのことで眩しくて目が開かない。

少しずつ視界が馴染んでくると先程の暗闇だった場所から現れたのは浮いている玉座の様な大きな椅子、そしてその椅子の上に座りコチラを見下ろす美女だった。


「うわっ!突然美人が現れた!?あれ…でも…ん〜、どこかで会ったような気が…思い出せぬ…!」


彼女はコチラを見て目を細めた。


美しく大きなツリ目と黒髪のせいか、彼女が着ている派手な服のせいか、ドSというイメージを受けた。


「ソナタが細木ユウか…?先程の負の感情は美味であったぞ。うむ、しかし実際に見ると年の割と顔が老けとるのぉ」


「いやいや、余計なお世話だから!会って最初にそれとか失礼すぎだろ!?てかやっぱりどこかであった!?」


彼女は興味深そうに上から下へとコチラを観察する。

ユウはジッと見られていて何だかむず痒くなった。


(なんか見つめられてるだけでマゾになりそうだな…)


「ね、ねぇ、あんまりジロジロ見ないでくれる?あ!あとさ!いくつか聞きたいことあるんだけど…」


何故か満足そうに頷いた彼女はコチラを指差し宣言した。


「今からソナタを異世界に召喚する、何か聞きたいことはあるか?」


……この女、今なんて?


「は、ちょっと意味が分からないんだけど…」


彼女は強引に話を進める。


「これからソナタには妾の代わりとして、とある世界へ行き負の感情を集めてもらう。まずはソナタの能力を決めておこうか」


「ちょっ!ストップ!わけわからん!」


彼女は呆れたように首を振る。


「理解の遅い愚物め…仕方ない…。では今欲しいものはなんじゃ?」


ユウは先程買いに行こうとしていたモノが頭に浮かんだ。


(話はイマイチ頭に入らなかったが、この人が中二病っぽいこと言う変わった子だってのは分かったな…まぁこういうおかしな事が起こる日もだろう…)


「爪楊枝。爪楊枝が欲しいかな…ちょうど今買いに行く途中だったし」


彼女は目を見開くと、面白いことでも考えたように笑みを浮かべた。


「ほぅ?爪楊枝か?イイだろう!それでは妾の為に異世界にて負の感情を集めてくるのだ!」


「いや、誰も行くとは……くっ!?」


視界が白くなる。意識がボンヤリとし始める。

このタイミングである事をふと思い出し、手元にあったスマホに目が移った。

そこには目の前にいる子と全く同じ人物がスマホに写っていた。


「ぺ、ペルセポネ…!?えっ!?」


「期待しているぞ!細木ユウよ!」


意識が遠のく中で彼女が最後に何かを言った…

おそらく…





――――――――頑張って、と。







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