3ー3
沈黙を破ったのは彩綾。
「本当にごめんね。それで一つ提案があるんだけどいいかな?」
「提案?」
「提案というかお願いになるかもしれないね。これも私のワガママになるんだけど、叶えてくれると嬉しいかな」
「内容によると思うけど……」
「えっとね……いつでもいいから、私とデートしてくれませんか?」
「……へ?」
瞬間、俺の全部がフリーズした。
身体も。
心も。
時間さえも。
何を言っているのか理解出来なかった。
いや、違う。
単語としては理解出来ている。
意味としてもちゃんと理解出来ている。
けれど、理解の範疇を超えた何かのせいで理解してくれなかった。
そんな俺を彩綾は期待した目で見つめてくる。
拒否しないでほしい。
そんな気持ちが痛いほど伝わるぐらいに。
顔を真っ赤にして。
視線をまともに見れないぐらい、チラチラと泳がせながら。
だけど、理解が追いつけない。
なんで、その言葉をチョイスしたのか。
他に言葉はなかったのか。
理解出来ないレベルで俺の空気は固まってしまっていた。
再び訪れた時間の沈黙は先ほどの沈黙より長い気がした。
この沈黙破ったのはまた彩綾。
「えっとね! デートって言ったけど、深い意味はないからね! 遊ぼうって意味だからね! 本当に、本当に深い意味はないからッ!」
かけてきた言葉はフォローの言葉だった。
間違いなく気を使われていた。
そのことが俺の中でずしっととのしかかってくる。
だから、何か言わないといけない。
そう思いつつも口は動かす。
しかし、口は重く、声すらも上手く発せないぐらい震えている。
けれど、言わないといけない気がした。
「で、デートしようか……深い意味がないのは知ってるけど……」
ちゃんと言えたか分からなかった。
だけど、彩綾の顔は紅潮しながらも明るくなっている。
伝わっていると分かるには十分な反応だった。
「うん! しよしよ! いつする⁉︎ いつしようか⁉︎」
「ちょ、食いつきすぎ! 落ち着いて!」
「落ち着けないよ! だって私のワガママ聞いてくれたんだよッ⁉︎」
「ワガママっていうワガママじゃないけどさ」
「そうだけど。っていうか、デートっていうから大変なわけで。普通に遊ぼうか」
「うん! 遊ぼうよ!」
「はいはい。じゃあ、俺は本当に今度こそ帰るよ。また明日」
そう言って、俺は今度こそ帰ることにした。
正直、このタイミングで解放されないと心が色々と持たないような気がしたのだ。
彩綾も大胆発言したばかりだったから、今度は止めることはなく、素直に見送ってくれた。
ただ一つ、あとからここで俺にダメージが来たことと言えば、デートの約束したということだった。