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3ー1

 その日は七月にしては一番暑かった日だった。

 教室の中は授業の効率良くするためにクーラーを入れてあり、涼しい思いを出来たが、体育の外でやる授業の場合は地獄だっただろう。

 席替えのおかげでようやく窓際の一番後ろをゲット出来た俺は、その席を十分に満喫していた。

 ただ、ここで一つだけ問題が起こっていた。

 それは隣の席にいるのは彩綾だったってことだ。

 始業式当時のようなときめきはすでに薄れていることは間違いない事実。しかし、そのときめきがあったというのも事実。その事実を受け入れつつも、どうやって話したらいいのか全く分からず、そのまま保留の状態になってしまっていた。

 だからこそ、休憩時間は逃げられるにしても、授業中は真面目に授業を受けたり、外を見つめたりして、隣を見ることを基本控えていた。

 ただ、そうやって上手く回避出来ていたのも彩綾が授業中も真面目であり、成績も良かったおかげでもある。

 なんでこんな頑なに話そうとしないんだろ……?

 もちろん、そう考えない日があったわけでもない。

 いくら会話の内容が思いつかないと言っても、話してみれば意外と話が続いてみたりするのに。

 そんなことを考えながらも、俺はその日もまた彩綾に話しかけずに家に帰宅するという日常を過ごすはずだった。

 しかし、問題が起きてしまう。

 問題内容は対したものではない。

 中多に頼まれて、その日日直だったが俺が授業の最後に使った資料を資料室に片付けるという仕事。

 日直なので最低でも二人だけれど、一緒に組んでいる相手が部活のミーティングでどうしても出ないといけないとのことだったため、それを一人でやることにした。帰宅部な俺にはそれだけの暇があったから、相手の嘘とかどうでもよかったし、なによりも一人の方が楽だったから。

 そう思った俺がバカだったのだ。


「ふぅ……。これで最後か。二人なら一回で終わったんだろうけど……これなら拒否……相手が女子なら面倒だから言わない方が正解か……」


 一往復しただけで済んだことにホッとしつつも、その資料を元置いてあった場所に片付け、肩をぐるぐると回す。

 そして、なんとなく資料室に置いてあるものを軽く興味本位で見回していると、開けっ放しにしていあった教室のドアが閉められる。


「え?」


 中に人がいると思ってなくて、誰かがドアを閉められた。

 そう思って、急いでドアの方を振り向くとそこには一人の女子ドアを塞ぐようにして立っている。

 その人物はーー足立彩綾。

 なんで彩綾がここにいる⁉︎

 頭の中で「?マーク」が浮かび上がり、色々と混乱する状況のせいで声をかけられずにいるとーー。


「ようやく話せる機会作れたね」


 少しだけ意地悪そうな、嬉しそうな、その中に少しだけ哀しみに似たような感情を含めた一言をぶつけてきた。


「え? 話せる機会?」

「そうだよ。今まで私と話そうとしてなかったでしょ? 休憩時間もすぐに逃げちゃうし、授業中だって『話しかけないでくれ』みたいな雰囲気出してるし……」

「そんなことはないと思うけど」

「ふーん、本当かなー?」

「ほ、本当だって」

「はい、ドモった。つまり、私が言った今の言葉は本当だってことだね!」

「ちょ、ちょっと! いきなりなんなのさ⁉︎ ここまで押しかけてまで、俺と話さないといけないの?」


 これ以上は自分の立場が不利だと感じたため、その質問をぶつけて、自分の立場を有利にしようと考える。


「そりゃそうでしょ。同じクラスで一言も喋ってないの、橘くんだけだよ? しかも、話しかけようにも話す気がないみたいだし……私のこと嫌いだったりする?」

「え? そういうわけじゃないけど。タイミングがなかっただけだよ」

「ふーん……」

「まるで信じてないような感じだね」

「信じられると思う?」

「さ、さあ?」


  彩綾はムスッとした表情で俺に近付いてくる。

 そして、俺の目の前まで来るとキッと睨みつけきて、俺の胸板に右手の人差し指をグリグリと押し付けてきた。

 なんでこんなことをされてしまっているのか分からず、混乱することが出来ずにいた。


「まったく話しかけやすいようにタイミング作ってたのに……」

「そうなの?」

「そうだよ! だから、私がこんなことしなくちゃいけなくなったんでしょ?」

「た、頼んでないんだけど」

「頼まれなかったら、したらいけないの?」

「そういうわけじゃないけどさ……」

「『ごめんなさい』はまだですか?」

「……え?」

「謝罪の一言はまだですか?」

「えー……」


 まさかここで謝罪を求められると思っていなかったため、少しばかり戸惑ってしまう。

 本当に自分が悪いのか分からない。

 そもそも彩綾が花しけてきても良かったのではないか?

 いろんな思いが頭の中を駆け巡る。

 しかし、時間が空くに連れて、胸板をグリグリとしてくる強さがどんどん強くなっていく。

 早く謝れという無言の圧力。

 初めて話すという意味では色々とご褒美なのかもしれないが、さすがにこのままなのはキツいため、俺は負けを認めることにした。


「なんかごめん。話しかけるタイミングを何度か作ってくれてたのに、そのタイミングを潰しちゃって……」

「うん、いいよ。許してあげる」

「それならよかった」


 ここでようやく胸板をグリグリされることから解放される。

 そしてちょっとだけ恥ずかしくなったのか、俺に背中を向けた。


「え、えっと……なんか色々と私もごめんね? ここまでのことするつもりはなかったんだけど、なんかタイミング見つけたから……ちょっと我を……」

「我を忘れないでもらいたかったけど……」

「大丈夫だよ! そんな変なことはしてないから!」

「……そうだっけ?」

「そうだよ!」


 クラスメートの胸板をグリグリとしてる時点で変なことと言わないのであればそうなのだろう。

 しかし、彩綾はきっぱりと言い切ってしまったため、これ以上のことは言わない方がいいと思ったため、口を閉じることしか出来なかった。

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