師匠と適正
眼を覚ますと、ベッドの上に寝かされていた。
「気絶したのか… 一気に中級を使おうとしたけど無茶だったかな」
火属性中級魔法… ファイアストーム 視覚で捉えた場所に陣を展開し、火柱を発生させる魔法。
初級が出来たからつい調子に乗ってしまったようだ。まだ魔法を使うのに体がついていっていない。
「まぁ、いきなり出来たら苦労しないよな。しばらくは初級を練習していくとしよう」
そのとき、ふいに部屋の扉が開く音がした。目線をそちらに向けると、狐耳の美しい女性が姿を部屋に入ってきた。
「お目覚めですか?ヒロ様」
顔を覗き、心配そうに見つめる狐族の女性、サリー。
「はい、たった今眼が覚めました。えぇと…その」
「私が倉庫からヒロ様を連れ出しました。あそこで何をしていたのやら、まぁ大体検討はついてますが。大丈夫ですよ、奥様と旦那様にはバレてはいないはずです」
なんと、サリーが運んでくれたのか。この分だと俺が倉庫で何をしていたのか、既に知られている事だろう…… 本もおきっぱで魔法陣もあったしな。
「さて、ヒロ様。魔法の練習をするならば。あんな狭い所で行わず。もっと広いスペースを使ってやるべきですよ。あんな狭い所で、もし倉庫内の物が壊れたら旦那様が大層お怒りになるので。」
あの倉庫内には。オルバが冒険をして集めた物が保管されている。壊されでもしたら悲しむだろう。
「すいませんでした。考えが足りませんでした」
サリーの顔を覗く、意外そうにも、彼女は何時も通り、凛とした佇まいでいる。
俺は疑問に思ったことを、恐る恐る聞いてみる事にする。
「あの、サリー。こういうのもなんですけど。驚かないんですか? 魔法の練習をしていた事に関して」
「そうですね。確かにヒロ様の年で魔法を使うなど。人族にしては相当早すぎる事ですが。驚きはしません。それに、私もヒロ様の年ぐらいの時には。既に魔法を扱っていました。だから特に何とも思っていませんよ」
どうやらサリーも同じようにしていたらしい。俺は少し安心した。
「所で、ヒロ様はどこまで魔法がお使いになられるのですか? 見たところ。中級魔法、ファイアストームの痕跡がありました。まさか既に中級まで扱えるように?」
「いえ、それはまだ…… 出来たのは初級のシャボンウォーターだけです。出来た事で調子にのってしまったようで。中級魔法を試そうとしたところ。意識を失いました」
「それでは水の初級は出来たわけですね。初めてで出来たというと…… この子は素質が…… 人族でこれ程…… 軽率な、しかし、確実に私よりは上か」
ブツブツと小声で考えているサリー。その後、何か思いついたように顔を上げる。
「ヒロ様。もっと魔法を使えるようになりたいですか?」
「え、まぁもちろん使えるようになりたいです」
あわよくば、それでこの世界を有意義に過ごしたいです。
「その為には、どんな事にも耐えうる覚悟がおありですか?」
なんだか不吉な事を言うな…… いや、でも覚えたいし
「はい、魔法覚えたいです!」
「二言はありませんね?」
「い、イエス。いやはい! 男に二言はありません!」
「では、私がみっちりと鍛えて差し上げます」
「き…鍛えるって サリーがですか!?」
「えぇ、もう少し大きくなってから教えるつもりでしたが、ヒロ様が予想より早く興味を示されていたようでしたので」
「俺はてっきり魔法を使えるのは母様だけかと思ってました」
「ヒロ様には見せたことはありませんでしたね。奥様も多少は魔法の心得がありますが治療魔法以外は私には及びません。私は全属性の魔法を上級まで行えます。そこら辺の冒険者よりも強いですよ。」
驚きの事実である。っというかそんな人が何故家のメイドさんなんかをしてるんだろうか。
「凄いんですね」
「だてに狐族ではないですからね…… さて、今日はもう遅いので明日からにしましょう。私も準備するものが色々とありますのでこの辺で失礼します」
「明日からですか!?」
「そうですよ、どうせヒロ様もこっそり抜け出してまた倉庫に行くつもりだったのでしょう。それなら善は急げ、鉄は熱い内に打てと言います。行動は何よりスピーディーにですよ」
そういうと彼女は笑みを浮かべる。なんだか楽しげな笑みだった。
「ふふっ 明日が待ち遠しいですね、どんな事をさせようかしら。適正は? 属性は? 私って一回弟子を取ってみたかったんですよね。 ふふふふふ、あ、ヒロ様それでは私は失礼します。お休みなさいませ」
軽快に部屋を出るサリー、明日からどんな事になるのか。期待と不安を抱きながら、もう一度眠りについた。
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「ヒロ様おはようございます。さぁ早速訓練を開始しますよ」
そういってベッドから引っぺがされる俺。 まだ外は日が昇ってもいない時間帯だった。
「サリー。流石に早いのでは? まだ日も昇っていません……」
「いいえ。このくらいで良いのです。私も幼き頃は朝早く起こされ。ずっと魔法の練習をしてました」
「それに朝の空気は魔力が満ちやすいのです。魔法を使う流れを教えるのであれば最適の時間です」
そういって俺は連れ出された。外に出ると。庭の中央にぽつんと一面が真っ赤なじゅうたんが外に敷かれていた、家の中ではなく外に、なんだか違和感を覚える。
「サリーさんこれは?」
「これは魔道具ルーラーです。このじゅうたんに魔力を注ぐ事によって。低空ではありますが空を飛べます。これから向かう先に行くのに必要なものです」
空を飛べる魔道具。まさか本当にあるとは、凄いなこれは。
「さぁ 時間も惜しいですし行きますよ。乗ってください」
じゅうたんに乗り。サリーが魔力を流し詠唱を唱えた。
「風よ来たれ。フライ!」
ルーラーがふわりと浮き。空の旅が始まった。
「うわあああああ」
「しっかり捕まってくださいね。離したら落ちますよ!」
高速で動くルーラーに揺られる。どんどん家が遠ざかっていく。そして早い、怖い!
「結構速いんですね。かなりのスピードです」
「ルーラーは馬車よりも早いですよ。術者の魔力量によって速度も飛ぶ時間も決まります。まぁルこれを持っている人というのもかなり珍しいです。オルバ様が持っているのを見かけた時には、びっくりしましたよ」
「そんなに珍しい物なんですか? 父様は確か元冒険者でしたよね」
「オルバ様はそれはもう名の知れた冒険者でしたよ。今はあの通り一人の父親をしていますけどね、その腕は確かな物でした。やめたのが勿体ないぐらいでしたけど。あの人もちゃんと人何だというのがわかりましたよ」
元冒険者のオルバ、その話も今度聞けたらいいな。
「着きました。そろそろ降りますよ」
目的地に着いたようだ。サリーは魔力をもう一度込めるとルーラーは速度を落としその場に着地した。
「ここであれば気にせず魔法が使えます。遠くの方には森が見えますが。一人だと危険ですので行ってはなりませんよ」
そういうと。サリーは持ってきた鞄から 水晶を取り出し。魔法陣の書かれた紙を広げた。
「まずはヒロ様の適正属性を調べましょう。自分の得意不得意な属性を見極めるのは基本中の基本ですので。ヒロ様、これを」
渡されたのは4つのそれぞれ違う色をした水晶であった。
「これは……」
「それに魔力を込めてみてください。魔力を込める詠唱は。魔力よ来たれ、世界の理。チャージです」
これに魔力を込めるのか。うん、試してみよう
「わかりました。まずは蒼の水晶から。魔力よ来たれ。世界の理。チャージ!」
体全体を血液が流れる感覚が起こり。指先に集まっていく。
詠唱を終えると。水晶から大量の水が滝のように流れた。
「冷たっ! あの、サリー。これは一体?」
そう言ってサリーの方を見ると、彼女は目を見開き凄く驚いていた。
「驚きました。ここまでとは。ヒロ様は水属性においてはかなりの適正をお持ちです。将来的には超級も夢ではありませんね」
超級って言ったら英雄クラスだぞ… 俺ってかなりすごいのでは…
と思ってると水晶の輝きが消え。滝のように流れてた水が止まりだした。
「次は紅蓮の水晶を試してみてください。
「紅蓮の水晶、これか。よし!」
同じように詠唱を行う。
バチッ
しかし、水晶から火花が少し出ただけだった。もっと燃え上がるような炎が出ると期待していたのだが……
「えっ…」
うんともすんとも言わない。
これだけ? 嘘だろ? 水の時は凄かったのに。
そういえばファイアーストームも失敗して気絶した、もしかして適正がないのだろうか……
とガックリしてるとサリーが話しかけてくれた
「これが普通ですよ。火花が出るということは適正があるということです。失望することはありませんよ、適正がなければ輝く事すらしません」
とフォローを入れてくれた。サリー曰く。適正があれば上級までは習得できるらしい。それより先は努力をしなければいけないが。覚えるのが不可能な訳ではないらしい。その言葉を聞いて安心した。
「ではほかの属性も試してみましょうか」
俺は残りの翠の水晶と土の水晶に魔力を込めてみた。
すると翠の水晶からは暴風が起こり、土の水晶からは砂があふれんばかりに舞い散った。
「すごいですねヒロ様は。風の属性も土の属性もかなりの物です。特に風の属性は郡を抜いています。ヒロ様はかなりの天才ですよ。私が保障します」
そうなのか。火属性だけが普通で後はかなりの物らしい。グッとガッツポーズをした。
「ですが。適正があると言っても訓練しなければ普通の魔術師と変わりありません。ヒロ様にはそうですね。3年間で上級魔法まで覚えてもらいましょうか」
「3年間でですか。あの、ちなみにふつうの魔術師が上級を取得するまでにはどれぐらいかかるんですか?」
「ただの適正がある程度の魔術師だと。1つの属性を上級にするのに10年はかかります。本来であれば3年で上級までなんて無謀なものですが。ヒロ様は才能もありますし、とてもお若いです。水と風であればすぐに上級まで覚えましょう。何心配いりません。私が教えるのですから。そこは安心してください。狐族に伝わる適切で易しい教え方をすれば、すぐにでも上達するはずですよ」
そういうとにこやかな笑顔を見せ舌舐めずりをした。
この人はもしかしたらSの気があるのではないだろうか…… 俺は少し不安を覚えた。
「俺は無事魔法を覚えれるのだろうか…」
そんな事を思いつつ、魔法の習得の修行が始まった。
サリーは可愛い狐族です。 そろそろ幼馴染ポジションの子が出したいのですが。書きたいのが多くて
次の次辺りで登場予定です。
オルバ アイリーン サリー視点の話も入れていきたいです。 過去話も変えるかもしれません。