爆炎紅蓮閃光突き
「はあああああああああああああ」
ジオルグラモールめがけて、私は一直線に切り込む。
瞬光、私の持つ最速の技が、奴の硬い体をまるで紙細工のように切り刻む。その光景に私自身が驚いた。 しかし攻撃の手は緩めない、緩めてる余裕などないからだ。
自身の限界を超えた力には必ずリスクが伴う。今の私は、本来持てる力を大きく超えた力を引き出している。それはヒロの魔法のおかげ、魔法剣、極めればここまで強くなれるのね、流石ヒロ…… あぁ、惜しいわ。彼に少しでも剣の才能があれば、この技で英雄として世に名を遺す事だって可能なのに。
迫りくる奴の攻撃を大きく躱しながら、隙をついて側面を斬りつける。 血しぶきが飛び出し、大きなダメージを与えるが、奴の動きが鈍る事はない……
「ッ!」
脇腹に激痛が走る。なるほどね、ヒロが制限時間付きだと言っていたのが分かる。私の魔力資質じゃヒロの魔力を抱えきれない。荒れ狂う魔力が私から出たがっているのね。確かに、ここまでの限界を大きく超えた動きが出来るわけだもの… 反則技も良い所ね。
私が動きを鈍らせると、ヒロが私の方へとやってくる。
「大丈夫かシトラス!?」
やれやれ、本当にこの子ってのは、心配性というか過保護というか…… いっつもそう、自分の事より私の事を案じてくれる。 ありがたいけど、信用されてないみたいでムカツクわね。まぁそういう所に弱いんだけどね……
「大丈夫よ、少し痛みが走っただけだわ。それより、そっちは大丈夫なの?」
「傷は与えている。だけど、奴の動きはさらに活発になっている。俺も援護をしているけどこのまま行くと君の体がもたない」
確かに、私の身体がどんどん熱さを増している。鼓動は早くなり、身体が軋みはじめている。ふぅ、どうあがいても、この戦闘が終わったら全身ズタボロになって動けなくなるわね。まぁその時は、ヒロに負ぶってもらおうかしら…… いいわね、それ。
「ふふっ」
「どうしたんだい?」
「いえ、なんでもないわ。さてと、私は後どれくらい動けるかしら?」
「俺の見込みだと、もって後3分も持たないと思う。想像以上に君への体の負担が大きすぎる」
、じゃあ後3分以内にどうにかしないとね。だけど、いくらダメージを与えても追い返せる気がしないわ。致命的な一撃を加えないと……
私がここで力尽きたら。奴から逃げる手段が失われる。ヒロの魔法が効かない以上。ここでなんとしても倒すか追い返すしかない…… だけど、それを成すにはどうすればいいの?
「1箇所狙う所があるよ あそこ見えるかい?」
ヒロが指さした所。奴の首の下の部分、そこに、私がつけた傷とは違う、古い傷のようなものがついてるのが見えた。
「あそこの部分はどうやら防御が薄いらしい。そこを狙えば、もしかしたら倒せるかもしれない!」
「だけど、あんな所一番警戒される場所じゃない。一撃でも当たれば終わりなの。分かってるでしょ!?」
「あぁ、だから隙を作って無防備な瞬間を狙うしかない。まず、俺が奴の注意を引く。その間に、君は技の準備をしといてくれ。幾ら魔法が効かないと言っても、意識してない訳じゃないらしい。奴だって生き物だ。動きを妨害すれば、きっとこっちに意識が集中する。そこをシトラスが渾身の力で切りかかる。簡単な事だね」
「私に出来るかしら?」
弱音を吐いたわけじゃない。ヒロが余りにも簡単に出来ると言ったもんだから。驚愕してしまったのだ。
「君なら出来るさ、俺は信じている。それは、ずっと一緒だった俺だから言えるセリフさ」
簡単に言ってくれるわね、まったく。そう言われたら期待に応えるしかなくなったじゃない
「はぁ… いいわ、私の全てをぶつけてやろうじゃないの」
「その調子だよ、シトラス」
「任せなさい。ガイウスにやられた後、私が何もしていなかったわけじゃないわ。貴方なら分かるでしょ?」
「あぁ、君の努力は俺がずっと見てきた。さぁ、時間も少ない。俺はいくよ」
「ヘマするんじゃないわよ」
ヒロが駆け出していく。
「うおおおおおおお 何処を見ているこのデカブツ野郎!! こっちを見やがれ鈍足野郎が!!」
罵倒を吐きながら。彼は持ちうる魔法を使い必死に注意を向けようとしている。
氷龍 水龍 暴風龍 爆風 岩石 氷槍 それこそ無数に魔法を繰り出している。
幾ら効かないと言っても、連発して当てて行けば目障りだと思うだろう。実際にその効果はあったみたい。奴の注意が私からそれてゆく。
ここだ、この時が絶好のチャンス!!
私は荒ぶる魔力を集中させるために、眼を閉じて、心を落ち着かせる。水の様に静かに、炎のように熱く燃やす。 紅蓮に全てを集約! 輝きは深紅に、そしてほとばしる火の嵐!
奴の首元に渾身の一撃を叩き込むだけ。
「グワッ!」
苛立つジオルグラモールが衝撃破のようなブレスを吐いた。それを喰らったヒロは体制を保てず吹き飛ばされそうになる。
「まだ!」
最後の足掻き、その瞬間、奴の意識から私が除外された。
ヒロが作ってくれたこの瞬間を無駄にはしない!!
「今だ!!」
ただ一心に突撃をする。その気配を感じ取り数秒遅れて反応するが全てが遅い。
これはただの突きの技。だが、その突きは、あらゆる障害を穿つ破壊の一撃。
爆炎紅蓮閃光突き!!!!
……
私の破壊の一撃は深々と、そして確実に、奴の傷口を抉り、貫いていた。
私は剣を引き抜き、その場を飛び退く。 面前に見える奴は、その場を微動だにしない。
効いたのか? 倒したのか? 確信はある。ただ、それでも不安をぬぐえずにいた。
緊張を解かずに奴の姿を凝視する。永遠にも似た時間が過ぎた時、ついに奴の体は力を失い。地響きの様な音が鳴り響かせながら、その場に倒れた。
「ウワッ!」
バシャッ、山道を流れる川辺の方にまで飛ばされる。そのままプカプカと遊覧船のように浮かびながら、見上げるのは真っ青な空の景色。 あぁ、私。奴を倒したのね! 起き上がろうとしたが、まったく体に力が入らない… 私はただゆらゆらと流されていく。
水の感触が心地良い…… このまま眠ったら最高の夢を見れそうだわ。
「シトラス!!」
ヒロが急いでかけつける。私の身体を支えながら。足場の浅い所へと運び、そこで彼は魔法を使う。
「アイズキュア!!!」
薄い光が私を包む。 あぁ、とても安心する。体から熱さが消えて、意識がしっかりとしてくる。手足の感覚も戻ってきた。やっぱり、ヒロは凄いわね……
「これで、なんとかなるか? シトラス…… 大丈夫?」
「えぇ、なんとかね。それより教えて。奴は、ジオルグラモールはどうしたの?」
「あぁ、倒れてる。君のおかげだよ、伝説に打ち勝ったんだよ。やっぱり君は最高だ!」
その言葉を聴いて。私はとても気味が悪いくらいに顔をにやつかせていたと思う。それくらい、最高の気分に浸っていた。
ふふふ、体の底から、焼け焦げるような熱さが湧き上がる。 私は、どうかしてしまったの?
「アハハハハハハハ」
この火照りを、鎮めなきゃいけない……
「ヒロ、こっちを向いて」
「どうしたの? シトラッ!?」
彼の体を引き寄せて、強引に彼の唇を奪う、甘い味がする…… 彼は呆然と何をされたか分からないかのような惚けた顔を私に向ける。驚いた? 駄目よ、不意打ちには対応しなきゃ、今の貴方は無防備すぎるわ……
「悪いわね、この火照り、貴方で鎮めさせてもらうわ」
服を脱ぎ、岸へと放り投げる。 水が全身に浸かり気持ちいい…
「シトラス…」
一糸まとわぬ裸の私を熱心に見つめる彼の姿。
「はぁ… はぁ…」
瞳をギラギラとさせながら今にも獲物に喰らいつこうとするその姿は、まるで飢えた獣のように見えた。
あぁ、私… どうかしてるわ。こんなにも抑えきれないなんて、ゆっくり、またゆっくりと獣へと近づいていく。彼の体が触れるくらいに密着し、私は耳元で囁いた。
「良いわよ、貴方の好きなようにして」
「ッ…!」
勢いよく押し倒される。彼は欲望のままに私の全てを喰らいつくそうとする。その行為を私は受け入れる。次第に満たされていく感覚。隅々まで弄られ、貪られながらも、私は彼の全てを受け入れる。
「ふっ、ハァ、ハァ」
一心不乱に突き立てる彼の姿はなんて勇ましく。なんて可愛らしいものか。醜い顔を晒しながら、己の欲望に身を任せる。私に事を気遣ってる癖に、こういう時は容赦ないのね……
……………………………………
やがて彼は私に全てを吐き出した後、私の胸で穏やかな表情で眠りについている。彼の頭を優しくなでる。緩んだその表情を見ていると、私も心安らかな気持ちになった。
「ありがとう、今回もヒロのおかげで私は勝つことが出来たわ」
私は、一人では強くいられない。これまでの旅で、何時も傍にはヒロが居た。何時も私を助けてくれて一緒に戦ってくれた。私が強くなるには、彼が居ないとだめ……
ずっと一人で強くなっていた頃と比べると、弱くなったなと感じる。しかし、不思議とそれでも良いかという思考をしている私もいる。変わったものね私も……
「出来るなら、ヒロとずっと一緒に旅をしたい。ヒロと一緒に強くなって。誰よりも負けない剣士になりたい。私が強くなるのを、ずっと傍で見ていて欲しい」
彼の目的は知っている。家族と再会する。その中に、私はいない…… 分かっている。だけど、一度ついた想いの火は、そう簡単に消す事は出来ないようだ。
いっそ、このまま無理矢理にでも逃げ出してずっと二人で居ようか…… ヒロを私以外考えられないようにするというのも、それは無理ね、彼の意思はそんな簡単には折れない。
これは私の我儘だ。彼の気持ちは決まっている。だけど、少しでも。ほんの少しでも彼が私を求めるなら。私はどんな事でもする。それが叶わない事だとしても……
私の人生を捧げる程に私の心に大きく住まう貴方へ向けて。
「愛しているわ。ヒロ」
何も知らないで眠る彼にそっと口づけをしながら。彼と一緒に眠りについた。




