出会ってしまった脅威
進む、進む、エスモ山を進み続ける。邪魔する魔物を蹴散らして、険しい山々を超えて行き。時に涼しげな川辺で休みを取りながらひた走る。気づけばザオウまでもう少しの所まで来ていた。
だが、後少しという所で俺達の道は閉ざされていた。
「この渓流を超えれば、ザオウへの道にたどり着く筈なんだけど」
見ればそこは大きな川に阻まれた、陸と陸が遮断されている。回り道をしても向こう岸に渡る術はなく、地図を見れば頂上までには断崖絶壁に囲まれていて、さてどうしたものやらと頭を捻らせていた所である。
「思いっきり走って飛べば飛び越えられないかな?」
「頭可笑しくなったの?どう見ても飛べる距離じゃないわよ」
シトラスに叱咤され少し気分が落ち込む。
「向こうまで橋か何かが繋がっていれば良かったんだけど……」
「このありさまじゃあね……」
数時間前、周辺をウロウロと探索していた俺達は、
無残に壊れている橋を見て落胆する俺達。
途中、この山を一人道歩く老婆を見かける。藁にもすがる思いで話しかけてみるも。
「なんだ、あんたら、あっちの陸に渡りたいのかい? それは残念だけど無理な話だねこの山唯一の橋もご覧のあり様じゃ、数週間前に魔物同士が縄張り争いをして暴れて壊してしまったらしいよ。修理の目途もたってないみたいだし、諦めた方が良いさね。どうしても渡りたいなら、山を降りて迂回した方がいいさね。それか鳥のように空でも飛べれば渡れるよ、それは無理な話だけどね」
「そうですか……」
「そういう事じゃ、じゃあ、私はそろそろ行くよ」
「ありがとうございます」
老婆に別れを告げ、その場に座りだして考える。
「どうするのよ? 一旦山を降りる?」
「ここまで来た道をもう一度か、流石にそれは堪えるな……」
「でもそうしないと渡れないなら仕方ないじゃない、それかあの人も言っていたように本当に鳥になって飛ぶしか、いやどうやってなるのよ。馬鹿な考えだわ」
鳥か…… 翼があれば、空を渡って行けるのにな……
ん? 空…… あ、この方法ならもしかしていけるんじゃないか? なんだ簡単な事じゃないか。
「シトラス、大丈夫だ。俺は今ここを渡る方法を思いついたよ!」
「本当に?でも、どうやって?」
「簡単な事さ、いでよゴーレム!!」
ウゴオオオオオと雄たけびを上げる土で作られた人形。俺の持つ聖級魔法の一つ、魔力で形作られた不格好な泥人形、人の何倍もの巨体を持つそのゴーレムにブリストを乗せる。
「何これ……」
見上げるシトラスは目を点にしながら驚愕の表情のまま固まっていた。
俺は、シトラスの華奢な体を持ち上げて、ゴーレムの手の上に乗せる。そして俺はゴーレムに魔力を注ぎ、その巨大な手を大きく後方へと寄せる。
「じゃ後はしっかり俺に捕まって」
「ねぇ、ヒロ。貴方はこの泥人形を作り出し、その上に私達を乗せたわ。こいつの向いてる先って川の方だよね。私分かったわ、貴方が何をしたいか。でもね、流石にこれは無謀じゃないかしら? 貴方はもっと聡明な人間の筈よ、さぁ、今すぐ考え直してみない? もう少しスマートに解決できるかも知れないわ」
シトラスの言葉を無視しつつ、俺は魔力を込める、そしてその泥人形は、ゆっくりと、腕を後方にと構える。まるでピッチャーがこれから投球を開始するみたいにだ。
「ヒロ、馬鹿な事はやめなさい!」
「シトラス。俺は思うんだ、人生は挑戦の連続だと言う事をね。そして、今がまさにその時だ!」
思いきり、俺達を投げ飛ばした。
「エエエエエエエエエエエ」
高く、高く飛んでいく。木々を超えて、大空へと飛び立つ。
「スカイハーーーイ!!!!」
下には美しく流れる渓流の景色。空を見上げれば群れをなし飛ぶ鳥の姿。その一員になりながら、ゴーレムにより射出された俺達はグングンと空を歩いている。
「無茶苦茶じゃないのよ!こんな事の為にわざわざ聖級魔法使うなんて無駄遣いしてるんじゃないわよ!」
「いや、でもこうしないと渡れないと思ったからさ」
「もうちょい安全にわたる方法思いつきなさいよ!貴方なら簡易的な橋を作る事ぐらいなんとでもないでしょうが!」
その考えは盲点だった。俺なら造作もない事。俺は納得したかのようにウンウンと頷く。
「馬鹿なのね!? 貴方実は馬鹿なのね!!」
そのまま勢いに任せて空を旅する。ただやはり人は鳥にはなれない、この遊泳も時間の限界だった。みるみる内に高度が下がり、速度を増しながら地上へと落ちていってる。
「ちょっと、これどうやって降りるのよ!?」
うーむ、確かに飛ぶことに成功はしたが少し飛びすぎた。空に浮いてる感覚は楽しいがそろそろ着地の事はまるで考えていなかった。
「このままだと激突してしまうな…… ならば。風よ舞え! レビテーション!」
風を操り、落下地点まで誘導する。速度を落としつつ、下に広がる岩場に飛び移る。
ズサササと、砂利道を滑りながら静止をかける。ほぅ、何とか無事に着地が出来たようだ。
バキャッッッ
「えっ?」
何かが壊れる音と共に、足を取られゴロゴロと転がっていく、
「うわっとと、ちょっと何やってるのよ」
「イテテテテ、面目ない、何かにぶつかったようだよ」
転がった後を見渡すと、大きな形をした殻の様な物があちこちに広がっている。
「これ、一体何だろう?」
不思議に思ったその瞬間、地面が激しく揺れだした。
「な、何!?」
地震か? いや、これは、何かが動いている!?
ビュワッ!!
「キャッ!!」
「うわっ!」
突然風が巻き起こった、必死に耐えようとするも、暴風のような勢いで吹く風に飛ばされた。
「ぐっ……」
吹き飛ばされた先は森の中、木々がクッションとなりなんとかケガは避けられたが……
グオオオオオオオオオオ!!!!
轟音が耳を貫く。鳥たちが慌てて空へ逃げ出し、森の動物達もその場を離れていく。近くに居たであろう魔物達も、その音を聞いた途端、一目散に逃げ出した。そして、音が静まりかえる。
影が出来る。大きな大きな影、俺達は顔をあげて、その影の正体を確認する。
「な、何よこいつ!?」
ドシン ドシン
俺は驚愕していた。俺は岩場だと思っていたその場所は、1匹の魔物の背中だった。言うなれば、その魔物は一つの島、一つの城、いや、これは大陸というのが良いか。とても、とても巨大な魔物だった。
岩のような硬い甲殻に包まれた。トカゲのような魔物。その魔物は、俺達をじっと見つめる。
ただそこに居るだけなのに。圧倒的な威圧感、少しでも触れれば無事ではすまない死の恐怖を感じる。
俺達は、もしかしたら最悪の存在と巡り合ったのかもしれない。
「でかいわね、ねぇヒロ…… コーシュの話でこの辺りにこれ程の魔物が居るって話、私達聞いてないわよね」
シトラスが剣を構える。冷や汗が顔を流れその表情は呆れか。又は諦めか。だが、死の恐怖を目の当たりにしても引こうとしないその姿勢は流石だと思った。
「あぁ、だけどシトラス。聴いてないというのは間違いだ。俺達はコーシュから聴いた。絶対に在ってはいけない魔物が居るって事をね」
「まさか、ジオルグラモール!?」
「そのまさかだと思うよ。まいったな…… ここまで規格外だとは思わなかった」
そういうと、奴は口を大きくあけて空気を吸い込みだした。そして吸い込んだ息を思いっきり吐き出した
「クッ……」
奴にとっては呼吸行動そのものだろう。しかし、俺達にとっては暴風の様な勢いで襲ってくる。
そして、卵を壊された怒りを表すかの様に、眼光を鋭くさせて俺達を睨みつける。
「ヒロ、こいつ。明らかに私達に敵意を向けているわ」
「あぁ、どうやらその通りらしい」
原因はさっき飛び降りた時に割った卵か、そうだとしたら、悪い事をしたな…… 怒るのも無理はない、ただその怒りを受け止められる程の覚悟は出来てはいない。
「すまないな、俺も悪気があった訳じゃないんだ。お前の子を殺すつもりはなかった」
だが、奴に言葉は通用しない、ただ、その怒りをぶつけようと近づいてくるのみ。
「やっぱ無理か……」
「どうするヒロ? 撃退する?」
「こんなバカでかい奴を……」
ジオルグラモールはじっとこちらを睨みつけている、荒い息を立てて、こちらを睨みつけている。一歩歩く度に、地面が大きく揺れ動く。こんな奴と戦う? 冗談だろう。それは無謀というものだ、こういった相手には軍をぶつけるか。もしくは……
「逃げるしかないだろ!!!」
魔物に背を向け、俺達は一目散に逃げだした。
できうる限りの全てを尽くして逃げに転ずるが、小さな人間と大陸程の巨大な魔物、逃げ切れる訳がなかった。
走れど走れど奴はその巨体を一歩進むだけで詰めてくる。
「ハァ、ハァ、」
息を切らしながらも後ろに下がる。ふと、地面が薄暗くなる、後ろを振り向くと。巨大な鉄球のようなものが俺達に振り下ろされようとしていた。
「ヒロ! 避けて!!」
「ウィンドブラスト!!!」
風を打ち付け大きく横に跳ぶ、地面が抉れ、土埃が舞う。大きく飛び退き宙に浮かんだまま俺は次の魔法を詠唱する。
「プライマリーブラスター!!」
渾身の暴風氷龍を奴にめがけ放つ。氷龍は大きく口を空け、奴を喰らいつくさんと奴の体にぶち当たる。
だが……
「ギャアオオオオオオオオオンンン」
奴の体には、傷一つついてなかった。
「おいおいおい、どうすんんだこんなの」
「やあああああああああああ!!!」
シトラスが駆け出し、斬りつける。 突き立てた剣の先から、赤い血が噴き出る。
どうやら斬撃は効くみたいだ。シトラスの腕の成せる技だろう。なら、俺がやる事は一つ
「シトラス。どうやら君の剣なら、奴にダメージを負わせる事が出来るみたいだ」
「そうね、でも私の腕では、奴を完全に仕留めるには力不足だわ」
「あぁ、あの巨体だ。生命力は並大抵ではいかないだろう。だが、深手を負わせれば、撃退は出来るはずだ。シトラス。紅蓮を少し貸してくれ」
「どうするの?」
紅蓮を手に取る。そして、俺は魔力を込め、紅蓮の宝石の部分、そこに魔力を注ぐ、
「それは、魔法剣……」
「あぁ、俺の魔力を全部紅蓮に注ぎ込んだ。これで、紅蓮の攻撃力は今までの比じゃないくらいに高くなった筈だ」
「凄いわ。途方もない力を感じる。でも、私が制御できるレベルじゃない」
「そこも大丈夫だ、シトラス。少し背中を借りるよ」
「えっ、ちょっと…… 何をするき?」
背中に手を当て。俺は思いきりの力を込めて、シトラスにありったけの魔力を注ぎ込む。
「これは……」
「ハァ…… ハァ…… 俺の魔力を君にも分け与えたのさ。俺の魔力が、暴走しかねない紅蓮の魔力を自動で制御してくれる。」
「凄いわね、これなら確かにやれそうだわ」
「ただしこの技は時間制限付きだ。長時間、自分の許容量以上の魔力を扱うと、暴走して君の体を破壊していく。持って10分 それ以上は、強制的に君の体から魔力を取り除く。
「10分もあれば十分だわ。私を嘗めるんじゃないわよ」
「あぁ、君なら出来ると信じているよ」
丁度、ジオルグラモールが俺達を見つけて、こちらに接近しようとしていた。シトラスは自身に満ちた表情で、奴に向かっていった。
「伝説の怪物か何か知らないけど。ヒロがくれた新しい力があれば負けるきがしないわ。かかってきなさいデカブツ! お前の相手はこのシトラス・フリルド様が相手してやるわ!」
エスモ山で、伝説との戦いが火蓋を切った。
エタってしまい申し訳ありませんでした。




