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リンカネ☆最強魔道士ヒロの異世界冒険  作者: レヴァナント
少年期 再会のユイシス
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転生の理由

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 この感覚。羽に包まれるかのような心地よさ。幼い頃。グランスバニアの我が家で、揺り籠にゆられていた時の事を思い出すかのようだ。あの頃は、こんな風に旅をする事も、ましてや離れ離れになる事も、偶然か、必然か、巡り合わせの繋がりをする事も。そして、こんなにも焦がれるような気持ちになる事すらも、想像していなかっただろう。


 眼を空ける。そこには何もない白い空間、そう、繋がりがあるとすれば彼女もだ、思えば、一番最初に会ったのは彼女。遠い所に居て。一番近い所に居たような気がする。この世界に来る前も、転移された時も、道標を教えてくれたのも。そして、シトラスと出会わせてくれたのも。全てはこの白き空間で会える。天使のお陰だった。


「久しぶり。ヒロ」


「シルク……」


 ラカの町以来だ、こうしてリンクするのは。もうずいぶんと久しぶりの事のように思える。これで何度目だろうか、この空間に来るのは……


「忘れてたわけじゃないでしょうね」


「正直に言うと少し忘れていたよ」


「呆れるわね。それほどあの子にお熱なのかしら、色男さん」


「そう言われると、返す言葉もないな」


「まったく、これじゃ助けない方が良かったかも知れないわね」


「助ける? まさか、ガイウスの時に聞こえた声は?」


「えぇ、私よ。あのままだと貴方は確実に殺されていた。だから、私の力を使って。一時的ではあるけれど。ヒロの体を使わせてもらったわ」


「そうか、意識が無かったのはそうだったのか。でも、凄いな、シルクは。そんな事が出来たのか」


「これには私の魔力をかなり消費するの。そして私とリンクしている者にしか使えない魔法。次はないと思ってもらって構わないわ」


「そうなのか、助けてくれたんだね。ありがとうシルク」


 ニコリと微笑みを見せるシルク。


 白く光る肌にほんのり紅く染まる。彼女は、感謝される事に慣れてないのか。ストレートに伝えると。少し動揺する。そこがまた可愛らしいのだが。彼女の力か…… 思えば、彼女の事については知っているつもりで、何も知らないな。現世で会った。不思議な力リンクを使える白銀の少女…… 俺を助けて、時には道を示してくれたのも彼女だ。


「君には感謝しか出ないよ。道を示してくれるだけじゃなく。今度は助けてもくれるなんて」


「まったく、もう少ししっかりしなさい。貴方に死なれると私が困るのよ。貴方には役目があるんだから」


「えっ?」


 そういうとシルクはその羽をファサっとなびかせ。俺の顔を見つめる。人形のような美しい顔、エメラルドグリーンの瞳が俺を見つめている。


「私を連れ出して貰うんだから」


 思いがけない答えが返ってきた。


「それって、どういう意味なの?」


「言葉通りの意味よ、この何もない世界。ヒロには真っ白な空間にしか見えてないけど。草花が色どる、美しい箱庭に居るの。そこでずっと過ごしている。見えない檻で閉じ込められた箱庭。そこから私を連れ出してほしいの」


 一体、彼女は何を言っているんだ。箱庭?彼女が居る場所って…… それに、閉じ込められてるって、……


「シルクは、囚われてるのか?」


「当たらずとも遠からず。軽い軟禁状態ね。だから、誰かが救い出してくれないかなってずっと待ち焦がれてるのよ。この話をするのは、貴方が初めてだけどね」


「どうして、そんな事を俺に」


「あら?気づいてなかった?」


「何を?」


「この世界に貴方を連れてきたのは、誰だと思ってるのよ」

 

「どういう事だ? この世界に連れてきた。それはつまり、シルクが俺を転生させたっていうのか?」


「正確には、消滅しそうだった貴方の魂を無理やりこちら側に持ってきたの。何処に転生するかはわからなかったけどね」


「どうしてそんな事を? っというか、そんな凄い事が出来る君は、一体……」


「そうね、良い機会だから。私の事について話すわね。私はね、今。貴方達の居る世界の中心。世の中では、聖龍山脈の向こう側。天界と呼ばれる所に居るの」


 聖生山脈…… 5大大陸の中心、世界のへそとも言われている。人が踏み入る事を拒む未開の大地。周囲を囲むは、断崖絶壁の山々。気候が荒れ狂い。年中嵐に覆われている。運よくそこを抜け出せたとしても。そこに巣食うは、最強の種族と言われるフレアドラゴンが何かを守るように、周囲を徘徊していると聞く。


 聖龍山脈は、天に一番近い場所と言われている。そこから連なる。誰も聞いたことがない未知なる場所。それがシルクの世界……


「私はねそこに居るの。天使の役目を持つ私は、この世界をずっと見ていた」


 この世界の知識で言うなら。聞いたこともない未知の存在。シルク曰く。彼女の存在は、どの文献にも載っていないという。ふっ…… レックス辺りに話したら。ついに頭がおかしくなったか。貴様の妄想に付き合っている時間等ないなんて一蹴されているだろう。


「ずっと、ずぅっと永遠とも思える時間を生きてきた。もはや何年生きたのか忘れたわ。その間に、地上の人達は、発展していった。魔物が巣くう世界に、必死に生き延びようと発展を繰り返していった。文明を築き。国を作り、政治を行い。今の世界が出来ている。魔王と呼ばれる存在が現れた時もあった。人と魔族が争っていた時代も昔の事。本当に、様々な事があったわ。その歴史を、私は外側から見ていただけ。天界はね。地上からは干渉できない。不可侵の結界で守られているの。その結界が厄介でね。私は、天界から外に出る事は出来ないの」


「でも、君はオラクルの時は外の世界に来れていた。あれはどういう事なんだい?」


「あれは、リンクの力よ。貴方を介する事で。一時的に存在出来る。でも、ごくわずかしか居れないけどね。前回貴方達に会いに行った時。あの時はかなり力を使ったのよ」


 あの時は無理していたのだろうか。俺には、そんな風には見えなかったけど……


「私だって、地上の人達と一緒に。遊んでみたい。外の世界を巡ってみたいの、ヒロがしてきた事のように。小さな子供が庭を駆け回るように。この足で、広大な大地を踏みしめて行きたい。旅をしたいと思ったこともあったわ。それが危険な事だとは理解しているけどね」


「日に日に思いは強くなっていったわ。変わらない世界で、ずっと、ずっと、永遠のような時間、籠の中から、ただ見つめるだけ」


「退屈しないような事は、なかったのか? たとえば、友達とか……」


「いないわ。天界には、お母様と、私と。仮面を被った、人形のような鳥たちだけ。私の退屈を解消してくれる事なんて、なかったわ」


「お母さんが居るのか」


「そう、この世界の女神とも言える偉大な方よ。ま、今は管理を私に預けて、他の世界に干渉しているらしいけどね。結界を張ったのもお母様によるもの。何時も私の心配をしてくれて、おかげで。外の世界に出入りできなくなった。お母様は、それが愛の形と言っていたけれど。正直過保護だと思うわ。鬱憤が溜まっていくだけだった」


「そんな思いが溜まっていったとき。天界の一部に裂け目が出来たわ。小さな、小さな、本当に小さな裂け目。なんで出来たのか分からない。本当に突然だったわ。裂け目の奥は闇が広がっていたわ。この中に飛び込んだら、無事で居られないかもしれないと思ったわ。でも、私はチャンスだと思った。意を決して飛び込んだわ。そして、外の世界。貴方が居る世界に飛び出す事が出来たわ」


「あの公園で会った時がそうだったのか」


「えぇ、私は歓喜に震えていたわ。雪の美しさ、明かりが照らされている町の光景。天界にはない景色全部が最高だった。もちろん、外は凍えるような寒さで、足も震えていたわ。ただそこに居るだけで気力を使ってしまう程に。でも、その窮屈さも新鮮で楽しかった。その時ね。貴方に出会ったのは」


「あの時の貴方は滑稽だったわ。天使様なんて言うんですもの 気付かれたと思ってドキっとしたわ。でも、初めて話す外の世界の人間が、貴方だったの」


「天使というのは、本当だったんだね」


「えぇ、でも、私が貴方の世界に来たのが原因なのかしら。貴方の運命が変わってしまったの。見えてしまったのよ。貴方はこの後すぐに死んでしまうって、繊細なイメージで見えてしまった。そして、実際に貴方は命を落とした。私はその光景を見ている事しか出来なかった」


「私のせいだわ。運命を捻じ曲げてしまったんですから。罪もない貴方を死なせてしまった。私は、せめてもの償いをと思って。貴方をこの世界で転生させる事にしたの。私の力を使って、なんとか生きて貰おうと思ったの」


「そうだったのか」


 転生は、意図的に行われた事だった。偶然ではなかった。全てが必然だったのだ。シルクによって。俺はこの世界で生まれ変わる事が出来た。天使という存在である。神話の中に出てくるような彼女によって。


「本当に、申し訳ない事をしたわ。貴方の人生を奪ってしまった。でも、貴方はその後。悔いる事なく。この世界に順応していった。私を見つけた時も。貴方は最初の頃に出会った時のまま、私は正直。怖かった。恨まれているのかも知れないと思ったから」


「恨んでいるという感情が思いつかなかったな」


「貴方の人生を歪めてしまったのよ。私は…… 取り返しのつかない事をしたと思っているわ。もしあの時、貴方の前に現れなければ、貴方はあちらの世界で生きて入れたのに……」


 シルクは負い目を感じている…… 彼女の声が震え、瞳には涙が溜まっている。本当に、悪い事をしてしまったと思っている。そんな風に思う事はない、彼女が外の世界に来たのは、純粋な動機。彼女の必死の抵抗だったんだ。その結果で、俺は命を落としたけど。俺は、その結果については何とも思っていない。でも、彼女はそうは思っていない。不安が心の中で増大しているのだろう。それを取り除くには、彼女に、俺が。その言葉で気づかせてやる事だ。


「シルク、俺は、そんな事を思ってはいないよ」


「えっ?」


「正直。現世に未練がないと言ったら嘘になる。置いていった家族や。友人達。もう二度と会えないと思うと寂しい所はあるけどね。でもね、俺はあっちの世界ではどうしようもない存在だったんだ。ただただ決められた事を繰り返して、自由にもなれず。ただ生きてるのか死んでるのか分からない不変な生活を送っていた」


「確かに、こっちの世界は、危険がいっぱいだ。命が何個あっても足りなかったかも知れない。でも、こうして過ごしてみると。こちらの世界の方が、生きてる実感を感じる事が出来るんだ。最高にスリリングな世界だよ。だから、君が思い悩む必要はないんだよ」


 彼女が、あっけに取られたような表情をしている。


「あは、あはははははは。あはははは」


 彼女は、大きく笑い出した。瞳から涙がこぼれる。彼女は今までに見たことない程の笑顔を作っていた。しばらく笑った後。大きく息を吸って、涙を拭いながらにこやかな笑みを見せた。それは、今までよりもずっといい表情をしている。


「そういう風に言われると、なんだか悩んでいた自分が馬鹿みたいに思えるわ。前世の貴方って、余程のおとぼけさんなのね」


「そうだね、あっちの世界は、こっちに比べると凄く平和なんだ。魔物に襲われる危険なんてない、何もしなくても生きるだけならだれにでも出来た」


「でも、ただ何もしないで過ごしていたら。自分は何のために生きてるのかなって思ってきたんだ。空虚に塗り固められた人生に、何か意味をもちたかったのかも知れない。だから、俺は良かったと思う。今このとき。精一杯生きている実感があるんだ。」


「それに、守らなければいけない人、愛する人も居る」


「ユイシスに、シトラスね。ふふっ、その二人が羨ましいわ。その愛情を、少しでも私に分けてほしいくらいね」


「シルク……」


 俺をこの世界に連れてきた。白銀のお姫様。彼女の事を知った。箱庭の中で、自由のない生活を送ってきた彼女。そんな彼女が、多分初めて勇気を出して行動した。その結果、俺のような何でもない人が転生したわけだ。出会いは偶然で始まったのかも知れない。でも、今となっては、俺達の出会いは運命だったんだろう。思えば、俺が大事な誰かと出会う時は、何時も突然だった。ふっ、思わず笑みがこぼれる。奇妙な運命に巻き込まれてしまったが。それも、俺には必要な事だったんだろう。


 シルクの体が、薄くなっていく。どうやら時間が来たようだ。


「あぁ、もうお終いなのね。ねぇヒロ、今は貴方のするべきことをしなさい。私の事は、全てが終わってからで構わない」


「でも……」


 確かに、俺には、離れ離れになった家族と再会するという目的はある。それも大事だ。しかし、今の話を聞いて、彼女の事を放っておくなんて、出来るわけがない。気持ちが揺らいでいた。自分の事ながら、かなりちょろいと感じる。でも、見て見ぬふりをする事は、もう出来ないだろう。


「どちらにせよ、今は、そちらからはこちらに踏み入る事は出来ない。こうしてリンクしたりするのが限界、それに、布石は既に巻いているわ」


「それってどういう事?」


「それはまたの機会にしましょう。そろそろリンクの時間も切れるわ。また、時が来たら会いましょう。ヒロ。貴方の家族が無事再会できるように祈っているわ。後。私の事、忘れちゃ駄目だからね」


 そうして、シルクの姿は粒子となり消えていく。分からなかった彼女の事。この異世界に呼ばれた理由。

全てが終わったら。シルク、白銀のお姫様を救い出してやらないとな。


 

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