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リンカネ☆最強魔道士ヒロの異世界冒険  作者: レヴァナント
少年期 再会のユイシス
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ドレインキス


「ハァ…… ハァ……」


 先程まで快晴だった空模様が荒れ狂っている。俺はその中を全速力で駆けている。腕にはぐったりとしながら血をふきだしている彼女


 どうやって逃げ出したかは覚えていない。彼女が斬られて無力感にさいなまれて。でも気が付いたら、俺は彼女を抱えてガイウスから逃げている。


 視界も悪く。押し流されそうな程の悪天候だ。それに抗いながら。俺は一目散に駆けていた。


「死ぬな!死ぬなシトラス!」


 走りながらもアイズキュアをかけ続ける。しかし、血は止まること無く溢れ。呼吸は小さい。このままでは時間の問題だというのが分かる。


 それでも走り続ける。向かう先はコーシュの所だった。彼女なら。シトラスを助けて貰える。俺が直せない程の傷を、彼女の魔法で直してもらう。前に彼女は言っていたからな。


「ごめんよ。俺の力不足で。絶対助けてやるからな」


 アクセルウィンドを全開にし、俺は駆けていく。両腕に抱えた彼女の体はずしりと重さを増していき。呼吸の音が小さくなっていく。


 魔力の続く限り回復魔法と風を纏わせながら移動する。呼吸がままならない。足が悲鳴を上げている。だがかまうな。少しでも遅れれば。取り返しのつかない事になる。


「グッ……」


 足に激痛が走る。もう、何時間も限界を超えた速度で走っているのだ。その反動に耐え切れなくなっていたのだ。


「アイズキュア……」


 すぐに回復する。痛みは治まり、これでまた動ける。


「彼女が死んだら、俺は…… 俺は……」


 その時。眼の前に魔物が現れる。そいつは、ケタケタといやらしく笑みを浮かべている。その醜悪な豚顔は、俺の焦りをあざ笑うかのようだった。


「俺の前をどけ」


 眼の前の魔物は聞かない。目の前に手負いの人間が居て。誰が素直にその場を逃してくれるだろうか?


「邪魔だあああああああああああああああ!!!」


 特大の火球がオークに当たる。燃え盛る火炎に包まれたオークは消し炭となる。


「誰にも邪魔はさせない。近づく敵は全員殺してやる!」


 俺は走った。走って走って。全力で駆けた。彼女を助ける為に。


 そして、日が完全に落ち。闇が世界を包みこむ頃。俺はコーシュのいる建物にたどり着く。


「コーシュ!いるか!? 居てくれ。頼む!!」


 ドンドンドンと何度も戸を叩く。何回かするうちにドアが開き。中から黒髪の小さな狐の子が出てきた。


「なんじゃいこんな夜中に。うわっ なんじゃい貴様!」


 コーシュが驚愕の表情を見せる。


「俺だよ、ヒロだ!」


「そ、その声は、まさかヒロか? そんな血にまみれて、復讐者みたいな面をしよって。鬼か悪魔かと思ったぞ」


「コーシュ、話は後だ。先に彼女を助けてくれないか!」


「どういう事じゃ? おぉ、これは…… また随分と大層にやられたもんじゃのう、中に入れ。早速治してやろう」


 中に入り、ゆっくりとシトラスを降ろす 呼吸がかすかにしか聞こえず 胸の傷から血がとめどなく溢れている。俺の魔法ではここまでしか直せない、それが何より悔しくふがいなかった。


「俺をかばってシトラスは…… 俺が弱かったからッ!」


「今は自分を責めている時ではないぞ。どれ、少しどいてろすぐ終わらせてやる」


 コーシュがシトラスの前に立つ。そして、小さな手をシトラスの胸にかざし。詠唱を唱えた。


「癒しの風よ。大いなる波動の力で 傷つき倒れる者を救済せよ。今一度 生命の躍動を刻め。エストキュア!!」


「シトラスの全身が薄い緑の光に包まれる。それと同時に、潜血に染まっていたからだが。みるみるうちに治っていく。 


 これが、コーシュの魔法、俺にもそれが使えたら…… 


 自分の未熟さに、怒りを覚えそうだった。


 やがて光は収まり、彼女の体は、傷一つない程に回復していた。


「どうじゃ、これで終わったぞよ。もうこの小娘は大丈夫じゃ」


「本当か!? 本当に治ったのか?」


 胸の傷は完全に塞がっていた。呼吸も安定し、顔色も元に戻っている。スゥスゥと小さな寝息を立てながら。彼女の苦悶の表情が消えていた。


「シトラス……」


「良かったのう。しかし、派手にやられるとはの、一体何があったのじゃ?」


 俺は事の端末を話した。


「ほぅ、ガイウスとな、あの剣帝と戦ったのか………」


「コーシュは、ガイウスの事を知っているのか?」


「直接会った事はないが、あやつの噂は耳にしたことがあるだけじゃ。それに、あやつの持っている魔剣。あれは元々ルーヘヴン大陸に会ったものじゃ。どんな手段で手に入れたかは分からないが。剣帝が持ってるとなると厄介じゃのう」


 コーシュ曰く。そういういわくつきの品はルーヘヴン大陸には多くあるらしい。確かオルバ達が居る大陸だったよな…… 少し心配になってきた。


「それにしてもお主。良く逃げ延びたな」


「分からない…… 俺も死を覚悟した。シトラスが斬られ。錯乱し。俺は死を受け入れた。事実。最後に見た光景は、ガイウスが眼の前に居た瞬間だったからね。しかし、気が付いてみれば。俺は無我夢中で走っていた。本当に、不思議だったよ」


「ほぅ、不思議な事もあるもんじゃのう。まぁなんにせよ、無事で何よりじゃのう」


「なにはともかく、本当にありがとうコーシュ。君が居なければ。彼女の命は助かっていなかった」


「感謝するほどの事ではない、それより。約束を覚えているか?」


「約束?」


「前に言ったじゃろう。傷ついた奴を連れて来れば直してやると。ただし、それなりの対価を支払ってもらうと」


 あぁ、確かにそんな事を言っていた気がする…… 


「なるほど、俺に出来る事があれば、なんでもやるよ。彼女を助けてくれたしね」


「ふっふっふ、言ったな」


 コーシュがニヤリと薄ら笑いをする。一体どんな事をされるというのだろうか。


「んっ…… あれ? 私、いったい……」


 その時、寝床で安静にしていたシトラスが目を覚ました。傷が治っている事に実感がわいていないようだった。


「シトラス!」


 俺はシトラスに抱き着き涙を流した。


「ちょっと、ヒロ…… 何泣いてるのよ」


「だって、シトラスが助からないんじゃないかと思って。本当に、怖かった……」


「そういえば、私切られたのよね なんで助かったのかしら?あの時死んだかと思ったんだけど」


「あぁ、それならコーシュに直してもらったよ。後少しで君は本当に死ぬ所だったんだから」


「感謝するんじゃな」


「そうなの…… ありがとうコーシュ、ちょっとヒロ。くすぐったいわよ。あぁ、涙でベトベトじゃないのよ」


「シトラス……」


「はいはい、私はちゃんと生きているから。安心しなさい、まったく、これじゃどっちが助けられたか分からないわね」


 しばらく彼女の胸の中で泣きつくす。本当に、本当に良かった。 


「シトラス、具合はどうだい?」


「えぇ、なんともないわ。むしろ好調に近いわ、あれだけメタメタにされたのにね、少し笑っちゃうわ」


 彼女の具合も良好の様だ。普段と変わらない表情をしていた。


「さて、小娘も無事になったことだし、さっそく約束を果たしてもらうぞよ」


「それは良いんだけど。具体的には何をすればいいんだ?」


「ふっふっふ…… これを見てもらおう」


 コーシュが取り出したのは、拳ほどの大きさのある。青く光る水晶体のような宝石だった


「これは?」


「これは、対象の魔力を抽出し、閉じ込めておく物じゃ。お前さんにしてもらいたいのは、この水晶に魔力を注いでほしいという事じゃ」


「それだけ? もっと手足となって危険な湿地輪の奥深くに眠る宝石を取ってほしいとか。魔法の研究の為の実験体となってほしいとかじゃなくて?」


「あぁ、それだけじゃ。」


 なんだ、変な事でもされるのかと思ったけど それなら全然問題ないな


「分かったけど。けど、どうすればいい?ただ魔力をこの水晶に流し込めばいいのか?」


「あぁ、だからちょっと顔をこちらに貸せ。やり方を教えよう」


 俺は言われるがままに顔を近づける。コーシュの小さな瞳が覗き込んでくる。


 すると、コーシュが俺の顔を掴んだ。そして、自身の口に向けて引き寄せた。


「ムグッ!!」


「えっ!?」


 口元に柔らかい感触が広がっていく。えっ、これって…… まさか


「では、吸うぞ。」


 俺の中で、魔力が吸い取られていくのが分かった。彼女は、今、直接魔力を摂取しようとしている。


「んちゅ、ちゅ… んちゅ、んっ、ちゅぱっ」


 凄い甘い香りがする。意識がぼんやりとしてくる。いかん、離れないと……


「じゅるっ……」


「ッ!?」


 コーシュはさらに奥深くまで侵入してきた。


「れぉ、くちゅ、ちゅぷ、くちゅくちゅ、ぺちゃ…… んくち、じゅる、」


「コ…… コーシュ、それ以上は」


 理性が持たなくなる。包まれるような温かさが口の中で広がる。


「んあっ。辛抱しておれ、もう少しで終わる。はっむ、あっ、ぴちゅ」


 舐るように絡みつき。卑猥な音を立てて行く。同時に、俺の魔力がどんどん吸い取られていくのが分かった。甘美な香りと、心地よさ。そして魔力を失い感じる気怠さに、俺はなすすべもなく。コーシュに吸われていった。


「んはぁ…… ぺちゅ…… ちゅぴじゅる……」


「あっ…… あぁ……」


 シトラスが顔をサクランボの如く赤くして、こちらをまじまじと見てくる。


「んはっ…… はむっ… ちゅるるる」


 これ以上は、意識を失ってしまう。本当に限界まで魔力を吸いあげられている。


「あぁ、やはりこやつの魔力、極上じゃな。もう少しで終わりじゃ。辛抱せぇ ハムッ」


 そのまま。底が尽きるまで魔力を吸われた。俺は立っていることすら困難な程に疲労し、対するコーシュは生き生きとしていた。


「ふぅ、ご馳走様じゃ」


「な、なななな……」


「何をしてるのよ!!」


「何とはなんじゃ、言っておったろう。助ける代わりに頼みごとをしてもらうと」


「そ、それが、そ、その行為ってわけなの!?」


「あぁ、そうじゃ、ヒロの魔力を妾に貰い受ける。


「魔力を貰うのに、キスする事ないじゃないのよ!」


「なんじゃ?知らんのか?魔法を使い、魔力が尽きた時。凄く効率の良い回復方法じゃよ」


「そ、そんな…… じゃあ、私の魔力が無くなった時は……」


「その時は、先程の事と同じ事をヒロとすればよい。あっ、舌を入れると良いぞ。それに唾液からの摂取はさらに効率が良い」


「ばばばっ馬鹿じゃないの! そんな事、戦闘中になんて。恥ずかしすぎるわ! 他の方法はないの!?」


「もっと効率の良く。それでいて深く供給できる事がないわけではないがな」


「そう! それよ! その方法を教えなさい。キスなんて、恥ずかしすぎるわ


「その方法はのぅ」


 コーシュがシトラスに近寄り。耳元で何かを呟いた。


 その瞬間。シトラスの顔が真っ赤に染まり。言葉にもならない言葉を吐いた後に。プシューという音を出して倒れてしまった。


「何を話したんだよ……」


「フフフ、小娘にはまだちと早かったかのう」


 夢見心地のシトラスをよそに、コーシュは取り出した水晶に手をかざし。俺から抽出した魔力を注ぎ込んでいく。


「本当に、こんな事で良かったのか?それに俺の魔力を溜めといて。何かに使うのかい?」


「ん~そうじゃなぁ」


 コーシュはこちらを見て小馬鹿にするかのように笑いながら言う。


「天から見下ろしてくるムカツク奴を。こけ落とすためかのう?」


「ん? どういう事だ?」


「気にするな。これは妾の個人的な事じゃからのう」


 ニヤリと、笑みを浮かべるコーシュ、彼女の意図は分からないが、魔力の吸われ、凄く体がだるい、立ち上がる事すら困難な程に疲弊していた。


「お前さんも、もう一歩も動けんじゃろう。今日はここでゆっくり休んでいくと良い、妾は一向にかまわないぞよ」


 それはコーシュが吸い上げたからなんだけど…… まぁ、確かに、魔力も枯渇し、今日は激戦だった。体も心も悲鳴を上げていた。ここは素直に従っておこう。


「じゃあ、お言葉に甘えるとするよ。ありがとうコーシュ、そしてお休みなさい」


 まだのぼせてる様に寝ているシトラスを横目にしながら、俺は深く眼を閉じた。


 俺はもっと強くならないといけない、もう二度と、あんな事を起こさせてはいけない。そう決意した日だった。






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