レインブレイブの乱
レインブレイブの乱。数十年前。ラインハルト大陸にて起きた。戦争の話。
かつて大国を渡り歩き、剣王の道まで上り詰めた一人の男が居た。
名をユウラシア・フリルド。彼はある国で一人の女性と知り合い、愛を育み。一人の少女を授かった。
彼はその女の子を、シトラスと名付けた。シトラスと名付けられた少女は元気に育っていった。彼は少女に小さい頃から剣を教えた。母親は反対したがユウラシアはシトラスの中に眠る才能に気付いていた。この子なら、自分を超える剣士になれると信じていた。
ある風が冷たい朝の事だった。ユウラシアの元に一人の男が現れ、彼の元に一枚の手紙を置いていった。それは、王国ラインハルトが隣国であるレインブレイブへと戦争を仕掛けるという内容だった。剣王であるユウラシアが加勢すれば。戦争の情勢は一気に傾く。ラインハルトは期待をしていた。
だが、彼が戦争へ赴くという事は、長期にわたり家を不在にすること、愛する家族と共に過ごせなくなるという事だ。ユウラシアは最初は断った、この家にはまだ幼い少女が居る。その子を置いて一人戦地に赴く事など。彼は出来なかった。
何度も加勢してほしいとの使いが家に押し寄せた。だが、ユウラシアは一度も首を縦に振らなかった。
事態が変わったのは戦争を仕掛けて半年の事だった。剣帝ガイウスが戦地へと赴いたとの知らせが入った。ラインハルト国は兵を増強するも、たった一人の剣帝に軍がなすすべもなかった。
ガイウスは最強だった。そして彼は、非常に好戦的で。かつ残虐な性格をしていた。彼が戦場に加わることにより。形成が逆転するレインブレイブ軍。彼に対抗できるのは、彼と同等の剣の使い手のみだった。次第にラインハルト国は、疲弊し、逆に攻め込まれる形となった。
ラインハルト国が負ければ。領地に隣接しているこの町も危ない。彼はそう思った。
ユウラシアはその話を聞いて、家族にその話を告げた。もしかしたら
ガイウスとユウラシアは、互いに同じ高みを目指した同士でもあった。だから自分は行かねばならないと。決着をつけねばならないと。
翌日、ユウラシアはラインハルト国へ向かった。愛しい家族を置いて。
剣王が加わったラインハルト国は再び士気を上げ、侵略を始める。おびただしい数の死者を出しながら、それでも両軍はぶつかり合っていた。
ユウラシアとガイウスは、戦場の中何度も戦いを繰り広げた、両者の剣筋が大気を揺らし。振り下ろされた剣圧で大地が形を変えた。美しかった緑の草原は、姿を変え、荒地となった。
いく度の戦闘を重ね、決着が着いたのはある嵐の出来事だった。
ぶつかり合うユウラシアとガイウス。一振りすれば嵐が起き、近くに居た者はその殺気で戦意を失っていた。この戦争は、もはや軍と軍との戦いではなくなっていた。剣王と剣帝。二人の剣士の決着によるものだと両軍は理解していた。そして、最期となる戦い。運命の瞬間が訪れようとしていた。
ユウラシアが構えるのは二刀の紅い剣、腰にはもう一振りの剣が収められているが彼はそれを収めたままだ。
ガイウスが構えるのは禍々しい、悍ましさと邪気が込められた漆黒の剣。
互いに息を飲む。勝負は一瞬…… 互いに咆哮をもたらし、駆け出した。
ガイウスが渾身の一撃を振るう、それをユウラシアが受け流し。返す手で胸元へと突き刺す。体をひねり回避するガイウス、その隙を逃さずけりをかまして吹き飛ばすユウラシア。体制を立て直したガイウスに双剣の乱舞が襲い掛かる。
見えざる速度で襲い掛かるユウラシアの乱舞は、ガイウスの黒剣に受け流されてしまう。斬りつける度に速度を上げるユウラシア、だがガイウスはその全てを防ぎきる。やがてユウラシアが一呼吸入れる為に攻撃の手を緩めてしまう。
その隙をガイウスは見逃さなかった。
横なぎに払う一撃。双剣で抑えるも彼の剛力により。双剣は空高く弾き飛ばされてしまう。勝敗は決したかのように見えた。ガイウスは上段から振り下ろす。ユウラシアはその一撃を避けれないと踏んでいた。後退しても横に逃げてもその黒剣の餌食になるだろう。そこでユウラシアが取った行動は。黒剣に立ち向かうように前へと一歩踏み込んだ。そして腰に掲げていた最後の一振りを抜き、対峙する。
互いの剣筋が交差するように混ざり合う。「瞬光」。そう呼ばれる彼の技は、まさに光のごとくガイウスの胸元を斬りつけた。ガイウスの胸元から血が噴き出る。誰もが彼の勝利だと歓喜した。だが……
ユウラシアの両腕も、宙を舞っていた。
互いに倒れ込む剣王と剣帝。その決着の行方は、勝者の出ない形で終了した。
ユウラシアはすぐに治療をほどこされた。そこで国が抱える最高の治療魔術師により一命を取り留めるのだが、失った腕を取り戻すことは出来なかった。腕があれば治すことは出来たのだが。彼の腕は、既に何処かへと失われてしまった。命は助かったが彼は二度と剣を振るう事は出来なくなった。
一方ガイウスの方は同じく治療で一命を取り留めたものの、翌日にその姿を消していたとされている。胸に大きな傷を背負った。剣帝の行方は、現在になっても誰も知る由とない物となっている。
この日を境にラインハルトと隣国レインブレイブは同盟という形で戦争を終了させる。剣王と剣帝。両者の戦いの軌跡は、今もなおそのままの形で残されている。
彼が最後に使った一振りの剣は、大岩に深々と刺さり。その地と共に、引き抜かれること無く存在している。
ユウラシアは家族の元へと戻った。両腕がない彼は二度と剣を握ることは出来なくなった。剣王としての彼はここで死んだのである。しかし彼には娘がいた。彼よりも才能を持ち、彼よりも純粋に剣を扱える。次世代の剣王を予見させていた。彼は娘に双剣を託した。それが紅蓮である。
彼は少女に自身が持ちえた技を教えた。才に溢れ。純粋な少女は瞬く間に吸収していった。
そして幾年かの時が過ぎた時。少女は旅に出た。父から授かりし双剣を身に着け。強い意思を瞳に宿らせながら。自らを高める為。そして、父の剣を取り戻す為に。
旅に出てさらに成長した少女は、今一人の少年を連れて。剣王が生涯最後の戦場と化した場所に降り立っていた。 荒れ狂う大地に刺さる一振りの黒剣が。因縁と運命が混じり合う瞬間を見守っていた。




