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リンカネ☆最強魔道士ヒロの異世界冒険  作者: レヴァナント
少年期 ブランド大陸編
32/43

聖級魔道士 レックス・ウィンベルク

 フェルがルーヘヴン行きの船に乗りこんでから三日がたった。 俺達はまだモールガの町で 膠着していた。


 理由は単純だ。ラインハイルト行きの船が出港出来ないとの事だ。出航時期は未定だという。そんな話が合って良いのかと思い、港に行って見ると。驚くべき事態になっていた。


 海に無数に広がる魔物の数。形状はナメクジに似た奴。ウミウシっぽい奴。ヒトデっぽいのもいる。とにかく途方もない数だ。海を埋め尽くさんとばかりに溢れる魔物は船内にも入り込んでおり。若い男性の船員がなんとかひっぺがすものも…… 次々と数が増えて行くばかりだ。


「なんなんだよこの変な魔物は!!」


 船員達も嫌気がさしているようだ。確かにこれでは出航どころか船に入ることすら出来ない。悍ましい光景だ。


「シトラス。あの魔物全員斬れる?」


「嫌よ、紅蓮が錆びついちゃうわ。ヒロこそお得意の魔法で一掃してきてよ」


「魔法を使ったら船を壊すかもしれないから…… 無理だね」


「だったら離れるまで待つしかないんじゃない? でもなんでこんなことになってるのかしらね」


 どうしようかと思っていると。同じく船に乗ろうとしていた人物が嘆きの声を上げていた。


「何!? ラインハルトに行けないと言うのか!? なんてことだ。このままでは私の崇高なる計画が狂ってしまうではないか!」


 その人物は、黒のマントを羽織り。藍色のハネた髪をしている。顔付きは若く。年も俺より上に見える。背もかなり高い。


「ラインハルトに行けないとは。この高貴なる血ウィンベルク家の血を持った天才魔道王。レックス・ウィンベルクが世界に名を轟かせようとする門出の時に、なんたる足止めを喰らうのか。私の歩みを止めるなどおこがましいぞ!」


 男の名はレックスと言った。天才魔道王と自称している。魔法を覚えたての俺みたいな自尊心の高さだ あの青年も魔道士なのか…… 確かに剣士よりは魔法を使う魔道士に見える。手にもった派手な外装の杖がなによりの証拠だろう。体つきも決して鍛え上げているわけではない。しかし、まったくの華奢という訳でもない程だ。


「シトラス、ウィンベルク家ってのは一体なんなん?」


「さぁね。何処かの魔道の家系でしょうけど。私魔法になんて感心がないからね。家の名を重んじるのは貴族か魔道の名家か剣士の者だと思うわ。私だって、フリルドという家の名前を大事にしているわ。でも知らないわね」


「なんだと!?」


 俺達の会話が聞こえていたみたいだ。レックスという青年がこちらへ近づいてくる。


「そこの君たち、ウィンベルクという名を知らないと言うのかね!?」


「え、えぇ」


 顔つきが強張っていく。ありえないと言った顔をしている。


「君も見たところ魔道士のようだね。本当に! 本当に! ウィンベルク家を知らないのかね?」


「分からないですね」


 サリーから教養は叩き込まれたけど。ウィンベルクの名前なんて知らないぞ俺は。


「何という事だ。我がウィンベルク家もここまで地に落ちるとは、昔は魔導士の名家といえば、皆がウィンベルクの名を口にしたというのに…… あぁおじい様。ウィンベルクの名のもとに。必ず私が再興させて見せましょう!」


 な…… なんだろうこの人は。テンションについていけないぞ。


「おっと、失礼したね。ウィンベルクというのは由緒ある魔道の家系の事さ。

 私は長男のレックス・ウィンベルク。私は世界に私の天才性と、ウィンベルクの名前をもう一度世界中に広める役目があってね。君も見たところ。魔導士のようだね。失礼だが実力はどのくらいかな? 私はね、この天才性故か。既に聖級をも極めつつあるのさ」


 聖級だと!? それは確かに凄い。俺も、まだ上級の魔法しか使えない。それをやりくりしつつ、自分だけのオリジナル技として昇華してきたし、自信もある。だが、俺よりも高位の魔法を使える者に会うのは初めての事だった。動揺を隠しきれない。


「それは凄い。俺の名前は、ヒロ・トリスターナ。俺はまだ上級しか使えないんだ」


「なんと、君のような子供が上級を覚えているとは!君も天才のようだね。だけど残念だ! 時が違えば 君が天才だともてはやされただろう。だが、私の方が遥かに天才だったという事だ。私はウィンベルクの血を引いているからね。まさに天命、仕方のない事さ。私はウィンベルク家に伝わる魔導書を全て読破し。この身に覚えさせた!だから恥じる事はないぞヒロ・トリスターナ!」


 自分の魔法に相当の自信を持っているのだろう。彼の魔法理論は止まること無く言われていった。


「そんな話は置いといて。結局ラインハルトには何時出発出来るのよ」


「そこだよね。あの無数の魔物を排除しないと……」


「それなら私が最大級の火炎呪文で焼き払ってやろう!何。私の魔法ならあんな魔物など造作もない事さ」


「そんな事をしたら船まで燃えるでしょうが貴方馬鹿なの!?」


「馬鹿とはなんだ。私の知能は君たち等をはるかに凌駕するのだぞ」


「それなら真面目に考えなさいよ!! 」


 ムキになって口論を始めるシトラスとレックス。それにしても、どうするか。剥がしても剥がしても湧いてくるんじゃ、困ったぞこれは。


 しかし何故こんなにも湧いて出てくるのか。ワラワラとうっとおしいな……


「なぁシトラス。こいつら、もしかして操られてたりするのかな?」


「操ってる奴? 確かに魔物の中にはそういう集団で動く知能のある種族もいるけど。こいつらに知性があるようには見えないわよ」


 だよなぁ、見るとこいつらに単独意思があるわけではない。ただ、そこに存在するのが当たり前かのように。その場に漂っているだけだ。


「魔物を操っている? でも誰が……」


「そういや、最近、海深洞窟で、恐ろしい悲鳴を聞いたって噂があるんだよ」


 話に割って入ってきたのは若い船員だった。話を聞くとどうやら海深洞窟というモールガから近くに行ける海辺に存在する洞窟で。普段は魔物のいないその場所に、どうやら魔物のような金切声が聞こえるとの事らしい。それと今回の事に関係性があるのか…… 怪しい所ではあった。


「ならば私が行って調べてみよう。何気にするな。私の魔法ならどんな魔物でもお素るるに足らん」


「本当かい? それは助かるよ。俺達は、この魔物をなんとかしてみるよ。このままじゃ生活も出来なくなってしまう」


 レックスは、黒いマントを翻し。さっそうと駆けていった。


「俺達はどうする?」


「そうね、とりあえず待っていても仕方ないし。そこに行って調べてみるしかないわね」


 洞窟は、満ち潮の激しい海の真ん中にあった。砂の道を進んでいくと。大きな洞穴があり。その中を降りて行く。中には錆びついた扉があり。そこを空けると。海の中へと入りこんだ。息が出来ない! そう思い込んだが。その心配は杞憂だった。足も着くし息も出来る。地上となんら変わりない。変わってるのは。そこが水に囲まれた海の中という事だけだ。


「凄いなこれ。一体どうなってんだ?」


「これぞ旧時代の遺跡。古くはここに人が住み着いてたとも言われている。 その時の技術が残っているのだろう」


「ところで。何故君たちもついてくる。私一人で十分だろう!」


「そんな事言わないでくださいよ。目的は同じなんですから、一緒に行動した方が楽でしょうよ」


「ふんっ。この程度の事、私一人でも十分なのだがな。おい魔導士と女よ。私の邪魔はするんじゃないぞ。私の魔法は威力が強すぎるからな。間違って当たってケガをしてしまっても知らないぞ」


「そんなヘマする訳ないでしょ」


「どうかな…… それに、魔道士はともかく、貴様は剣士だ。魔道士と剣士の力関係を知っているか? 剣士は魔道士相手に数人を要するが。魔道士は一人で数人の剣士を相手出来る。それは魔物相手でも同じだ。剣士が一体を斬り伏せる間に。魔道士は数匹の魔物を狩ることが出来る。女よ。足手まといにならぬよう気を付けるのだな」


「何なのよ一体! 私にはちゃんとシトラス・フリルドって立派な名前があるんだから女なんて呼ばないでよね。失礼だわ」


「フリルド…… 何処かで聞いた名だ。魔道の者ではないな…… おい、フリルドの者よ、貴様の父君の名前は、ユウラシアという名前か?あのレインブレイブの乱の……」


 すると、シトラスは苦渋の表情を見せる。その表情はこれ以上は言いたくないという顔だと思った……


「いいえ…… 違うわ。私の父は…… 普通の剣士よ」


「そうか、フリルドという名前、確かに覚えがあったもんでな。私は剣士と魔道士なら魔道士の方が優れていると思ってはいるが。ユウラシアとガイウス。それに剣神オルランドゥ。彼らだけは別だ」


 オルランドゥ…… その名なら俺も知っている。魔王ですら傷つけれない最強の剣士だったかな。家の本に載っていた気がする。

 

「まぁ、だが私の才があれば、彼らを超えるなど容易いだろう。所詮はただの剣。私の魔法には遠く及ばない」


「さっきから、剣士が魔道士より劣っているだって? 舐めた口聞いているんじゃないわよ……」


 シトラスが啖呵を切る。彼女のプライドに刺激してしまったらしい。


「事実だ。剣士は軍には勝てん。だが魔道士は、軍をも制圧する。破壊の規模が違う。そうだな。フリルドの者よ、どちらが上か、一度試してみるか?」


「上等よ。アンタのご自慢に息巻いてる魔法なんて、所詮はヒロ以下よ。私の速度で詠唱する暇なんて与えないで倒して見せるわ……」


 まずいぞ、この空気はまずい。


「シトラス。レックス。今は争ってる場合じゃないですよ。今はあの魔物達をどうにかしないといけないんですから。ケンカはNOです!」


 二人の間に割って入る。レックスは呆れたような顔で。シトラスは苦虫を噛み砕いたかのような顔で。怒気籠った殺意を収めてくれたらしい。こんな所でケンカ等はやめてほしい。


 この場は収まり、奥へと進む俺達。シトラスの方はまだ怒りが収まっていないようだ。プンプンしている。


「何なのよあいつは。事につけて剣士を見下して」


「シトラス。落ち着きなって」


「何よヒロ。あいつの肩を持つの? 貴方も魔道士だから、剣士より優れてるって思ってるの?」


「俺はそんな事をは思ってないよ。魔道士だ剣士だなんて言われても。どちらが優秀かなんてわからないし。それに、俺も何回もシトラスやフェルに負けているからね」


「ふんっ…… 軟弱な奴だ。貴様の魔法もたかが知れているのではないか?」


 俺も少しピキっとした。俺の魔法が軟弱だと?


「少なくとも、貴方が思っている程。軟弱な魔法は使ってないつもりですよ」


「ほぅ、それは見ものだな…… ならば、私の邪魔だけはするなよ」


「邪魔なんてしませんよ。貴方こそ。俺の魔法にビビらないでくださいね」


 すると、岩場の影から魔物が飛び出してくる。 海にある洞窟だからか。出て来る魔物はクラゲみたいな魔物や。でかいのだと鮫に似た奴も出て来る。


「キシャアアアア」


「ふっ、丁度良い。君たちは見てるが良い。我が魔道の真髄を見せてやろう」


 杖を掲げ詠唱に入る。


「我が魔法の練習台になるがいい。深紅なる赤き煌めきよ。我は魔道王レックスウィンベルク。我が進軍を妨げる愚かしき存在よ。その身の未熟さを呪い地獄の釜にて断罪をしろ。灼熱の業火。グランドブレイズ!!」


 土の魔法で作った密室空間。そこに閉じ込めるように灼熱の業火が燃え盛る。海の中であろうと。炎が消える事はないようだ。魔物達は、密室で逃げる事も出来ずに息絶えるまで炙られ、消し炭となり消えて行く。


「どうだ見たかヒロとやらよ。我が魔法の威力を!」


 凄まじい威力だ。


「どうなのヒロ? 貴方の使う魔法の方が凄そうだけど」


「いや、あの人はまだ全力じゃない。あの威力。確かに天才と自負するだけはあるよ。想像以上だ」


 手が震える。焦りなのか悔しさなのかは判別できない。心が大きく跳ね上がる。


 別方向から新手の魔物が押し寄せる。合わせるようにシトラスが前に出る。


「瞬撃! でやあああああああ」


 一人無双するシトラス。彼女の後ろに一体の魔物が襲い掛かろうとしていた。


「穿て!アクアブラスター!」


 水龍を放ちシトラスの死角に居た魔物を貫く。


「なんと! 君は、まさか無詠唱で魔法が打てるのか!?」


「えぇ、俺は基本無詠唱でやってますよ」


「なんだと!? ぐぬぬっ…… この天才の私ですら難しさ故に挫折したというのに。私よりも年若いこの子供が使えるとは…… 貴様!魔法は誰に習ったのだ!?」


「俺の魔法は狐族のサリーという人に習いましたよ。魔法を覚えたのは3歳の頃からですかね。彼女の他にももう一人、妹弟子で無詠唱で魔法が使える子がいますよ」


「狐族。それは禁忌とされた魔法を使う種族か…… そうか、そうなのか。ならば君がその年で上級を使えて、無詠唱で出来ることにも納得がいこう。狐族の魔法の凄さは私も小さい頃より耳にタコが出来る程聞かされてきた。一度お目にかかりたいものだ」


 なんだ?サリーの種族は魔法に特化しているのか。俺も彼女は次元が違うと思っていたが。


「それに、もう一人使える妹弟子か…… それは興味深い。だが、それでも上級止まりだという事は、私の方が遥かに才があったという証拠! やはり私は天才なのだ。無詠唱魔法など出来なくとも問題はない! 見てますか父上!私の才がまた理解されたということを!」


 またも自慢をするレックス。こいつは本当に、魔法に関しては譲れないのだな……


 最深部に到着すると。これまでの暗い所に比べ、灯りがともっていた。 これは外の光だ。天井に小さい穴が開いている。そこから煙突みたいに縦長に、ぽっかりと穴が空いていて、空の景色が見えていた。 


「不思議な場所だな。そして。あれが親玉ってわけか」


 空間を埋め尽くさんとばかりの巨大な生物。ギョロギョロと無数の目玉が俺達を捉える。ウゴウゴとうごめく口からは、大量の船にはりついていた魔物を量産していた。その魔物は地面から噴き出る間欠泉で。空へと打ちあがっていく。なるほどこういう仕組みで出てきたのか…… 


「何よあれ。気持ち悪いわね」


 まったくだ、出来ることなら俺も見たくない程気味が悪い。だけどこいつがあの魔物達を外へと出しているのは確かだ。意図は理解できない。そもそも意思が通じる相手ではないだろう。悪いが道を切り開く為。退治させてもらう。


「ギガフレイムショット」


 大火球を放り投げる。そのまま直撃するかと思ったが。奴は大きく口を開けて。特大の粘液を発射してきた。


 ブシャアアアアアアア


 大火球が消される。なんて威力をしてやがるんだ。


 「アクアブラスター! ストーンバレット! プライマリーブラスター!」


 ビシュッ!! ビシュッ!! ビシュッ!!


 俺の持てる魔法をつぎ込むも全て粘液によりかき消される。 なんという手強い相手だ。


「ここは私が!」


 シトラスが紅蓮を構え走り出す。怪物が触手を彼女に突き刺す。紙一重で避けつつ切り刻んでいくシトラス。彼女が本体へと斬りかかろうとしたとき。怪物の口から無数の魔物を吐き出す。


「ウワッ!」


 ペタっと顔に張り付くヒトデのような魔物。シトラスの顔は完全に覆われてしまった。


「離れなさいよ ちょっと キャア、何処に入ってんのよ! ヒャンッ!」


 次々と魔物を呼び出され。体中魔物だらけになる。まともに剣も振るう事が出来ないシトラスは、張り付いた魔物を払いながらこちらへと戻ってくる。全身に濃い粘液まみれとなっている。柔らかい髪も粘り気のある粘液によりテカっている。


「うぇぇ…… 口の中にまで あいつら許さないわ」


 べーと口にたまっていた粘液を吐き出すシトラス。口元からたらーっと零れ落ちていく。全身粘液まみれのシトラス。


「何見てるのよヒロ」


「何でもないさ…… 気にするな」 


 これ以上は怒られそうだ。すると前線に躍り出た一人の男が居た。


「フハハハハ ここは私の出番のようだな!」


「レックス!?」

 

 杖を高らかに掲げるレックス。その表情は自身満々だ。自身が負けるなど微塵も思ってない顔突きをしている。


「あいつの粘液は上級魔法すらも掻き消すよ」


「ふっ…… 私は聖級魔法を極めた男だ。君と一緒にするな。見ているが良い。私の力を!」


 杖を掲げ周りを無数の魔力の粒子が舞い上がる。バチバチと音をならし。彼が詠唱を唱える。


「地に眠りし星の力よ。紅に染まる世界に終焉をもたらせ。真なる炎姿見せし時。我にはむかう事を後悔しろ。蒼き炎にて包み込め! バニシング!」


 それは、蒼い炎だった。俺の使う赤い炎じゃない。触れる物全てを浄化するかのような、綺麗な青い炎だった。


 怪物は炎に包まれ、その姿を炭とかし。跡形もなく消えていった。 


「凄い、これが聖級魔法なのか…… 今まで見た。どんな魔法よりも、凄い」


「見てくれたか魔導士よ。そうさ。これが私の聖級魔法の一つ。どんな生物も私の炎では姿を保つことすら適わないだろう」


 ゴクリッ…… まじかで見ると確かに凄い。こんな魔法、俺のどの魔法よりも強い。ランクが上がるとはこれほどの物なのか…


「正直侮っていたよ。君の力は本物のようだ」


「そうだろう。これがウィンベルクの血の力だ。私は天才魔道王。レックスウィンベルク!ッカーハッハッハ!」


 高笑いが空間に響きわたる。俺は蒼い炎に目を奪われていた。同時に、俺の中に湧き上がるものを感じた。俺も、聖級魔法を覚えたいという思いだ。やはり俺は魔導士。超えたい覚えたい。俺の物にしたいという単純な強さの欲求がとめどなく溢れてくる。まだまだ強くなれる。俺はそう確信した。


 モールガへ戻ると船にたくさんの男達が乗り継いでいた。見るところあの魔物の姿は見当たらなくなっていて。そこには綺麗な澄きった青の景色が広がっていた。


「おぉ、君たち。無事にやってくれたようだね。見てくれよ。変な魔物はいなくなった。代わりに粘液まみれになって綺麗にしなきゃいけない。ラインハルトへの出航は明日になりそうだよ」


 明日か。きっと船員達は一晩中かけて清掃するのだろう。大変そうだな……


「そうか、明日になれば出発出来るのだな。良いだろう。それまで私は一時の休息としよう。あぁ、待ち遠しいな。私が。ウィンベルクの名が世界に知れ渡る門出となろう」


 レックスが俺の肩にもたれながら、それでも口は達者に動いていた。何故俺が背負ってるかというと。聖級魔法を使った反動で。魔力切れに陥った彼は。その場で倒れてしまった。俺達は、そんな彼をここまで抱えてきたという訳だ。


 「ここまで送って貰った事。感謝する。ウィンベルクの名にかけて、この恩はいずれ返そうぞ、ではな無詠唱の魔道士ヒロ。そしてフリルドの者よ。ラインハルトまでの長い間。よろしく頼む」


 彼を介抱した後。レックスは俺達と別れた。残された俺達も、自身の休みどころへと戻っている最中だった。


「ふふっ」


「どうしたのよヒロ。急にニヤニヤして」


「嫌なに。俺はやっぱり根っからの魔導士だなって事さ」


「どういう事?」


「今日、俺は、自分よりも凄い魔法を使う魔導士を見る事が出来た。俺はね、こういっちゃなんだけど。うぬ惚れていたんだ。俺より魔法を上手く。そして強く扱えるものなんて居ないだろうって。それが今日。見事に打ち砕かれたのさ」


「そもそも魔法を使える者の方が圧倒的に少ないわ。魔導士っていうのは貴重な存在なのよ」


「普通なら、肥大化した自尊心が打ち砕かれたら、自分の存在意義について悩み、立ち止まる所なんだけどね。今俺の中にあるのはあの人の魔法を俺の物にしたい。聖級の魔法を極めたいという思いの方が強いんだよ」


「良い事じゃない。悩んでいる時間なんていうのは、後から考えれば時間の無駄でしかないのよ。まぁ、そこでウジウジとされるよりはよっぽど良い事ね。そう思えるってことは、やはり貴方は魔道の才能があるのよ。それで、どうやって覚えるの?」


「そうだな、幸い、ラインハルトに着くまでは結構の日数がかかる。その間に、土下座でもなんでもしてみて頼み込んでみる事にするよ。それか、ウィンベルク家の事を褒めたたえてみるかな? 彼は多分、その手の事で凄く喜ぶ人だろうし」


「ふ~ん。まぁ精々頑張りなさい。ヒロがさらに強くなるんなら。その分私も強くなるから」


「あぁ、楽しみだな。フフッ、フフフフ」


 俺も、まだまだ強くなるぞ。そう決意した日だった。

一話事の見やすい掲載文字数ってどのくらいなんでしょうか?

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