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リンカネ☆最強魔道士ヒロの異世界冒険  作者: レヴァナント
少年期 ブランド大陸編
31/43

男との別れ

 ラカを出た俺達、モールガまでの長い道のりを旅していた。


 相変わらず不満が出る事はあったが、前の時に比べれば、疲弊する事も少なくなった。人間どんな環境でも慣れることが出来るという事か……


「フェル…… 少し、稽古をつけてもらって良いですか?」


 俺はフェルに稽古をつけてもらっていた。最近魔法に関して、頭打ちになってきていると思っていて、何処か焦っていた。


「お前にか?良いぞ、魔法戦闘だな」


「えぇ、そして、本気でやっていいですか?」


「お前の本気か。フッ、良いだろう。全力で来い」


 今の俺の力がどれだけあるのか、フェルを利用するようで悪いが知っておくべきだった。


「行きます! プライマリーブラスター!」


 出し惜しみなし。最初から俺の持てる最強の魔法で迎え撃つ。風を纏う氷龍がフェルへと襲う


「フンッ!!!」


 フェルが槍を横に払う。それだけで俺の氷龍はかき消される。ちょっとショックだ…… こんな簡単に消されるとは。


 俺は地面に手を置き、魔力を込める。


 フェルは止まらずそのまま俺の方へ距離を詰めてくる。彼の槍の範囲に入ったら俺に勝機はない。


「アクセルウィンド!!」


 風を纏い超速の速さで横に逃げて距離を取る


「マルチプルファイアボール! ギガフレイムショット!」


 片手で連続の小さな火球を放つ。一つ一つは小さく威力も弱い、こんな魔法じゃ彼を抑える事は出来ない。だが無数の火球は無視するには少しばかり数が多い、距離が縮まらず、めんどくさいという顔をしている。火球の処理をしている間に、もう片方の手で魔力を込める。ラカの時シャンが使っていた特大の火球。あれと同等の火球を作り出し。フェルの方へ放り投げる。


 「チッ…」 


 特大の火球がフェルを襲う。だがフェルは、そんな大火球もものともせず、その火球の中を耐えながら跳んできた。


 防がれるのは分かっていた。だから……


「うぉおおおおお ギガントアームズナックル!!」


 特大の岩の腕を形成する。自身の4倍はありそうな巨大な腕を空中で身動きが取れないフェルに、思い切り殴りつける。


「グッ……」


 ガード体制を取るも直撃し、吹き飛ばされるフェル。空中で体制を整え、華麗に1回転して着地する。だが着地した場所は、さっき俺が仕掛けていたもう一つの本命が隠している。


 ドゴォン!


「なっ!」


 驚愕するフェル。自身が建っている地面が崩壊し、そこに巨大な大穴が広がり、雪崩と共に落ちて行く。


 オーガ戦でやった火薬魔法をセットしといた。 


 だがそれで終わりではない。


「ディバインフォース!」


 落下した地面から無数の蔦を呼び出し、脱出を図ろうとするフェルを押さえつける。振りほどいても振りほどいても何本もの蔦が無数に絡みつく。


「チッ……」


 苦い顔をするフェル。大穴の上から見下ろす。両手両足を縛られ身動きが取れなくなっている。これなら消されないだろう。特大の一撃を、これで決める!


「プライマリーブラスター!!」


 風を纏う氷龍。天をも覆うほどの巨大な氷龍を作り出す。


「うおおおおおおおお!!!」


 大穴を埋め尽くす程の氷龍が直撃する。大穴に巨大な氷の柱が出来上がっている。


「はぁ…はぁ… ハッ! しまった、やりすぎたか」


 いくらフェルと言っても流石にプライマリーブラスターの直撃を喰らってはただではすまないだろう。熱が入りすぎてしまった。


「フェル!大丈夫ですかフェル!」


 叫ぶが返事はない。俺は一瞬肝を冷やした。その時だった。


「残念だなヒロ。俺の勝ちだ」


 首筋に冷たくチクリとする感触、フェルが後ろに回り込み、俺の首筋に槍をつきたてていた。


 あの状況から抜け出し。俺の背後に回っていた。俺の完全な負けだ。


「アハハ、まいりました。完敗です」


 槍をおろし、ふぅと一息つくフェル。見ると衣服はボロボロになっているがそこまで傷を負っているようには見えない。本当に規格外だなこの人は……


「やはりヒロは強いな。出会ったときから思っていたが今はそれ以上だ。魔法の使い方が上手いな。


「いや、でも少し自信も無くしてますよ。俺の渾身の魔法が聞かないんですもの」


「俺は昔、お前が使う魔法よりもさらに強い魔法を喰らったことがある。その時はさすがに死にかけたがな。俺はそれからどんな魔法にも耐えるように必死に鍛えた。年季が違う。だがお前の強さは本物だ。少なくともその年でそこまでの魔道士は見たことがない。才能は保障してやる」


 フェルが擁護してくれる。


「俺は耐えることが出来るが。お前の魔法は一般のそれとは規格外の強さだ。もし他の者の今の様な全力を出したら、跡形も無く消し飛ぶだろう。そのことはお前も良く分かっているだろう」


 スイッツを殺した事…… あの時はシトラスが殺されると思って、加減もせずに撃った。そのことを思い出した。


「ふぅ、かなり疲れたな」


 馬車に戻り、中で休息を取る。


「あら、フェルに負けたのね」


 荷台の上からシトラスがのぞいてくる。そのまま中に入って、俺の隣に座った。

 

「あぁ、やっぱり強いね、俺の全力でも敵わなかったよ」


「ヒロの全力を耐えるって、一体どんな鍛え方してるのかしら…… 私も勝つのはまだ難しいかな。でも何時かは追い抜いて見せるわ」


「そうだね、頑張ってフェルに並べるようにしたいね」


 ふあぁとあくびをする。少し疲れたかな。


 「~~♪」


 上機嫌に鼻歌を口ずさむシトラス。彼女が鼻歌を歌うときは機嫌が良いときだけ。俺に体を預けながら、紅蓮の手入れをしている。


 今までの彼女はまさに縦横無尽だ。基本的に動き回っている。フェルと稽古していたり。ブリストの背に乗ってはしゃいでいたりする。馬車の中に居る時は寝る時か魔法を教わる時だけだった。 しかし、最近は俺が馬車の中に居ればすっと隣に来ている。剣を研いでいたり、時には肩に身を任せて寝ていたり。


 距離感が大分近くなったと思う。最近のシトラスは何かとかまけてくる。そんなに距離を詰められると凄くドキドキしてしまう。


 意識を別の方に向けよう、俺は邂逅の指輪を見ながら思いにふける。


 小指にはまっている指輪は、今日も綺麗に輝いている。魔力を込めると淡く光り出す。この光を見るとオラクルでの事や、ユイの事を思い出す。彼女は無事なのだろうか……


「何してるの?指輪なんか光らせて」


 シトラスが覗き込んでくる。剣の手入れは終わったらしい。


「いや、ちょっとね、ユイの事を思い出してたんだ」


「ユイ?それって、ヒロが転移される前に一緒に居たっていうエルフの子だっけ?」


「そう、俺の大事な子なんだ…… 無事だと良いんだけどね、まぁ彼女も強いし、サリーってさらに強い人もいるから大丈夫だとは思うけど」


「そういえば、私ヒロの家族について余り詳しく知らないわね。ねぇ、教えてくれないかしら……」


 おっ、珍しいな、シトラスがこういう事に聞きたがるのは、何時もなら俺から振っても興味なさそうにしてると思ったけど。


 グランスバニアで暮らしていた事を思い出しながらシトラスに説明する。魔法を学んだ事、オーガに襲われたユイを助けて家族になったこと。ユイとデートしたオラクルでの事、ユイとの生活の事。転移された事全部を話した。


「そんな所かな」


「ユイって子の話ばっかりな気がするけど。聞くと私とそこまで年が離れてる訳じゃないのね…… ヒロはユイの事大切にしているのね」


「そうだね、あぁ、早く会いたいよ」


「大切な子なのね」


「あぁ」


「……ワタシヨリモ?」


「えっ?」


「なんでもないわ…… 気にしないで」


 

「それよりも、ねぇヒロ。アレ、お願いしても良いかしら。……」


「あぁ、良いよ、手出して」


「うん……」


 彼女の手をギュッと握る。魔力を込め、癒しの風で包み込む。


 シトラスの黄土色の綺麗な肌がどんどん熱を帯びて行くのを感じる。彼女に回復してやる時にしていた行為だけど…… 気が付けばケガがしていなくても、日に1回はするようになってきて、習慣化していた。

 

 恥ずかしそうに、ちらっとこちらを覗いてくる。その上目使いは反則だ……


「……」


 しばらくの間、俺達の間に会話は発生しなかった。ただ、シトラスの手が暖かく、幸せだなと思っていた。


 日も暮れだし、辺りは暗闇へと染まっていく。


 これ以上は進めないか。


「今日はこの辺にしとくか…… 明日辺りにはモールガへと着けるだろう」

 

 フェルが言うには明日の昼ごろにはモールガへ着くとの事だ。


「やっと着くのね、今回も長かったわ……」


「そうだね、」


「前に比べて、弱音を吐かなくなったじゃない、成長してるのねヒロも」


「慣れたのかな。なんか今回はそこまで辛くなかったんだよね」


 要因は別にあるけど、シトラスが四六時中居るおかげで癒されたのかな?


「じゃ、私は眠いから先に寝るわね。ヒロ、行くわよ」


「あぁ、うん。じゃあフェル、お休みなさい」


「あぁ ゆっくり休め。」


 フェルは焚き火に薪を追加し、今日もまた見張り作業を行ってくれる。


「お休み、ヒロ」


「う、うん……」


 ラカ以降、彼女との距離が急激に縮まったと感じてはいるが。最近では就寝する時に俺の事を抱き枕として扱うのだ。当然、彼女の温もりやら、寝息が耳元に当たってゾワゾワするやらでとても眠れる気にならない!!これで寝れる世の男性諸君が居たらそいつは大物だと思う。


 対するシトラスはぐっすりと寝息をたてている。人の気も知らないで!!


 逃れようとするも彼女の力は俺よりも強い、日頃鍛えている彼女と魔法で楽をしている俺では彼女に勝てるわけがない…… 


「これは明日も寝不足かなぁ……」


 もんもんとした感情を押し殺そうと耐えてる中。熱くなったのか寝返りを打ち、俺はなんとか脱出する事が出来た。


 当然、このままでは寝れるわけもないので。夜風にでも当たろうと、馬車を降りる。


 空は、無数の星がキラキラと輝いていた。肌を伝う涼しい夜風が俺の気を落ち着かせる。


 遠くで、火が燃える音と、灯りが見えた。その場所へ行くと。フェルが座って薪をくべていた。

 

「お、どうしたヒロ。眠れないのか」


「あはは、まぁそんな所ですね」


 フェルに向かいあうように座る。


「っでどうした。何か不安でもあるのか?」


「不安ではないです。 旅も慣れてきましたし。3人で居るのは凄く楽しいです。ただちょっと最近悩みがありましてね」


「シトラスの事か?」


 一瞬で見抜かれてしまう。


「分かりますか?流石です、最近シトラスの様子がおかしいとまではいかないんですけど。少し俺との距離感が近いなと思っていたんです。フェルから見てどう思いますか?」


「あぁ、変わったと思う、彼女がお前を見ているときの表情には熱がある、あれは女の顔だ」


 や、やっぱりそうか……


「そうですか… いやそんな気はしていましたけれど……」


「まぁ随分長い事一緒に居るからな。何、そう珍しい事じゃないさ、長い間、苦楽を共にし。それにお前達は年も近い。俺としては、むしろそうなるのが遅いなと思ってた所だ」


 そうなのか?と聞くと、そうなのだと返ってきた。


「しかし、それが悩みなのか?嬉しい事じゃないのか。お前だってあいつを好いているだろう」


「そ、それは」


好きじゃないと言われたら嘘になる。最近の彼女はとても眩しく輝いて見えているし、シトラスの事を思うと鼓動が早くなっていく。この気持ちはまぎれもなく恋なのだろう。


「距離感を測りかねてるのかも知れない。困惑しているのかも知れません。」


「ふっ、そうか まぁ良いさ。俺はお前を無事に送り届けるだけだ」


「ありがとうございます。フェルに助けて貰わなかったら。俺はここまで来ることは出来ませんでした。フェルには一族を探し出す目的があるはずなのに、俺は何時も自分の事ばかりで。」


「俺の目的は気にするな、俺がしたいようにしているだけで、お前が気に病む事はない。それに、一度決めたことだ。今は目的よりも、お前達と旅してる方が楽しいしな」


「ありがとうございます」


「さぁ、お前はもう休んだ方が良い。明日も早いからな。寝不足で力が出せない方が問題だ。


「分かりました。では、お休みなさい」


 遠目にフェルの背中が目に焼き付く。彼の優しさに報いてやりたい。なんとか手がかりでも見つけ出してやりたい……


 馬車に戻ると寝息を立てているシトラスの姿がある。あぁ、鼓動が早くなる。やばいな。これは重症だ。


 その日の夜は、なりまくる心音を子守唄にしながらなんとか眠りについた。


「やっと着いたわね!」


 翌日の日が昇り切った時だった、俺達はモールガへと辿りついた。


 巨大な港町だった。街中には様々な種族が出入りし、活気が溢れている。船着き場では磯の香が鼻孔をくすぐり。涼しい波風が心地よかった。眼を奪われたのは。たくさんの巨大な船だ。豪華客船とまではいかないが。物語に出る。海賊船のイメージそのままだ。屈強な船乗りが忙しそうに積み荷を降ろしている。


 「グランスバニアに行くには、ラインハルト大陸、ルーヘヴン大陸、どちらかを経由しなければならない。片方に行けば片方には遠回りになる。ヒロ、お前はどっちへ行くんだ?


「私は、ラインハルトに行きたいわ」


「ラインハルトには剣の聖地があって。シトラスは元々そっちに行きたかったもんね。さてと」


 ラインハルトにはサリーとユイがルーヘヴンにはオルバ達が居るとシルクは言っていた。その話を信じるのであれば、どっちに行ってもどっちかには合流出来ない。


 ここで考えても結論は出そうにない。ならば情報を仕入れてみるか。


「ここでは決めれそうにないので。一旦ギルドに行きましょう。もしかしたら前に出した生存報告の返事が来てるかもしれません」


 波の音が激しく聞こえる海岸の中央、巨大な錨をぶら下げたシルエットマーク、ここがモールガの冒険者ギルドだ。中に入ると、昼だというのに活気にあふれている。エールの臭いが全体を覆い、まだ発達しきれてないこの体には色々と毒かも知れない。 あぁ、シトラスが空気だけで酔っている。


「大丈夫?」


「だいじょうぶにょー」


駄目だ、完全に参ってしまったようだ。シトラスの眼がトロンとしている、可愛らしい顔は耳まで赤く染まり。フラフラとして、話す事も出来なくなっている。俺は治療魔法は使えても解毒魔法は使えない為、彼女の酔いを醒ます手段を得ていない。 


「はっはっは…… ガキにはちと早い所かも知れねえなぁ」


 大きなひげを携えた大男が張りのある声を出す。確かに、ここの中はザイーラに比べて酒の臭いが濃すぎる。俺も若干めまいを覚えてきた。

 

「おいおい大丈夫か?」


「水と、彼女を寝かせれる場所に……」


 シトラスは完全にダウンだ。フェルが付き添いしてくれている。俺はギルド嬢にオルバからの返事がないかを尋ねる。


「ヒロ・トリスターナ様ですね…… 私はラファ、ヒロ様にオルバ様より伝言があります」


「父様からですか?」


「えぇ、ヒロ様にぜひとも伝えたいと、ルーヘヴンよりお達しがありました」


 すると、ラファと言う少女は喉に手を抑え、詠唱を唱える。すると表情がスッとした目つきに変わる。


「ヒロ、どうやら無事みたいだな。


 オルバの声が聞こえる。声帯を変える魔法か、はたまた録音なのか…… 一体どんな魔法なのだろう


「ザイーラでの話は聞いている。ブランド大陸で生き延びていられるなんて、流石俺の息子だよ。本当、どこまで強くなるんだかな、俺が、お前ぐらいの年の頃は無邪気に剣を振るっていた悪ガキだったのに…… おっと話が剃れたな。本題に入ろう。今俺とアイリーン、そしてエレナとフランは、ルーヘヴンのアイリーンの実家にお世話になっている。皆無事だよ。エレナとフランは…… お前達に会えなくてたまに寂しがって泣いたりするけど、無事に成長している。サリーとユイに関しては、何の情報も入っていない。ルーヘヴンの情報で見つからないという事は、ブランド大陸かラインハルト大陸に居るかも知れない。もし見つかったならこっちに来るのも良いだろう。もし見つかってないなら、お前はラインハルトに行け。そこでユイとサリーを探して連れて来い。ラインハルト大陸には、サリーの故郷がある、サリーはそっちに行ったのかもしれない。こっちの事は心配するな。グランスバニアも復興の準備は進めている。順調とはいかないが、また昔みたいに家族で過ごせるように俺も頑張る。ヒロ。まだまだ長い旅路になるかも知れないが。絶対に負けるな。俺の息子だ、期待している。じゃあなヒロ」


 「父様……」


 あぁ、眼頭が熱くなってくる。気が付けばボロボロと俺は涙を流していた。


「良かったな……」


「えぇ、本当に良かった」


 なれば行く先は決まった。


「俺は、ラインハルトに行きます。二人とも良いですか?」


「良いも何も、私は最初からそのつもりだったしね、一緒に行けるのは嬉しいわ」


「俺も、お前の行く先についてくと決めた。今更何を言う」


 二人は快く了承してくれた。うん、どんな所に行っても、この3人なら大丈夫だ、俺はそう思っていた。


 その時だった。


「速報、速報だよー。ルーヘヴン大陸に、顔に文様の入った不思議な種族を発見との報告が。ディドル軍が調査隊を募っているとの事~」


 小柄な魔族が大きな声で何かを伝えている。その話を聞いたフェルが驚愕の表情をしていた。


 「なん…だと… おい、その話は本当か!?」


 身を乗り出し、魔族の子に詰め寄るフェル。


 話を聞くと。魔物がすくう開拓されてない森の奥地で、不思議な種族を見つけたという報告が入ったらしい。詳しく調べると、その種族は体に紋様を埋め込んでるとの事。これはミステル族の特徴だとフェルが言っていた。 フェルの一族の手がかりが見つかったのだ!!


「良かったですねフェル!」


 だが、フェルは快くない顔をしていた。何故だろうか?


「フェル?ミステル族が見つかったんですよ」


「あぁ そうだな」


「どうしたのよ。ずっと探していたんじゃないの? もっと嬉しそうにしなさいよ」


 

「フェル、無理をしないで良いんですよ。俺達の事なら大丈夫です。やっとの思いで情報が手に入ったんですから、行ってください」


「しかしだな、俺はお前をグランスバニアまで送り届けるという約束をした。それに、お前達だけで大丈夫なのか?」


「心配だっていうの? 馬鹿にしないでよ」


「しかしだな……」


「良いわ、そこまで言うなら証明してあげる。フェル、外に出ましょう 決闘しましょう」


「な、何を言うんだシトラス!」


「ヒロは黙っていて。今の貴方になら勝てると思うわ」


「言ったな、まだお前に追い抜かれた自覚はないぞ」


「ならば受けなさい」


「良いだろう。外に出ろ。町から離れるぞ」


 俺はシトラスの所に向かう。


「シトラス、一体どうしてこんな事を」


「ヒロ、貴方はどうしたい? フェルを連れて3人で仲良く旅するのと、フェルの目的を優先させるの」


「それは……」


 目的を優先させたい、彼には本当に助けられた。恩もある。彼が困っているなら、この身を捧げて助けてやりたいとも思っている。 だから、俺は……


「俺は、フェルに一族と再会させたい」


 離れ離れになる悲しさは、俺も理解している。この期を逃したら、きっと二度と再会できなくなるかも知れない。そう思うと、俺は連れて行く選択なんて出来るわけなかった。


「でしょ、でもフェルは私達だけじゃ頼りないと思っている。それもそうね、まだ子供だし、心配なのも当然だとは思うわ」


「だから、この決闘で勝利して、フェルに安心させてやるのよ。何時までも子供扱いしていたら、痛い目を見るって事を教えてあげないとね」


 紅蓮を持ち、気合も十分と言った表情だ。俺はその場を離れる。


 俺はフェルの所へ行く、シトラスの真意を伝えに、この決闘の意味を教える為に。


「あぁ、分かっている。彼女が何を言いたいかは理解しているつもりだ。ふっ、あれでも思いを伝えるのは不器用な奴だ。お前は最後まで見届けてくれ」


「分かりました」


 言わずとも分かっていたみたいだ、もう言葉を交わさなくても、思いは通じ合える。それほど一緒に居た時間は濃密だった


「さぁ、行くわよ! 覚悟は良いわね」


「何時でもこい」


 紅蓮を構えるシトラス。対するフェルも愛用の槍を構える、空気が変わる、本気の死闘だ。


「でやああああああああ」


 地鳴りのように叫び、そのまま閃光のように駆けるシトラス。旅をしてフェルに鍛えられた彼女の剣は、出会ったころよりも確実に強くなっていた。


「むっ…… 重い一撃だ」


顔をしかめるフェル。彼もまた、彼女が強くなった事を誰よりも理解している。


そのまま連撃を叩き込むシトラス。彼女の得意技だ、彼女は相手に攻撃を与える隙など与えない。


「どうしたの?その程度かしら」


「舐めるなよ」


 キィン


 ガッ…


「うわッ」


二刀を柄で抑え、強烈なけりを放つフェル。吹き飛ばされたシトラスが地面を転がる。苦しそうにお腹を押さえながら立ち上がる。


「くっ やはり強いわね」


 連撃を再度叩き込む、だが。何度やっても防御され、弾き飛ばされる。


「無駄だ、まだお前の実力では、俺には敵わない、大人しく負けを認めろ」


「言ってくれるじゃない…… あきらめるわけないでしょ…… 良い、私はシトラス、。シトラス・フリルドよ。私は最強なんだから! それに、このまま負けたら、フェルが安心してもらえない……」


「だから私は、ここで勝って。フェルに心配かけないように送り出したい。やっと見つけた手がかりを無下になんてさせたくないから!」


 紅蓮の周りに炎が纏う。シトラスの渾身の奥義、ラカで覚えた。新たなる力。


「今この瞬間、貴方を超える! 炎双瞬撃… 連!!」


「それがお前の全力。良いだろう、来い!」


 無数の炎の斬撃が音を置き去りにする。前に見た時よりもさらに早く。そして鋭い一撃を見舞う。


「でやああああああああああああああああ!!!」


「グッ……」


「うああああああああああ」


 悲鳴にも似たシトラスの咆哮が響き渡る。炎が共鳴し、大爆発を起こす。


「なんて威力だ……」 爆風がこっちにまで届いてくる。その風圧に吹き飛ばされそうになる。


 やがて煙の中、影が一人立っていた。 どっちが勝った?


 煙の中から出てきたのは、フェルだった。小脇に気絶したシトラスを抱えている。


「フェル…… シトラス……」


「流石の俺も、危ないと思った、回復してやれ。気絶している」


「分かりました。アイズキュア」


「うっ… うぅ……」


「シトラス?大丈夫か……」


「えぇ、頭がズキズキする以外はね。私、負けたのね」


 涙を流すシトラス。勝てなかった事。勝って心配をかけないで送り出したいと思っていたからな……


「フェル……」


 フェルは、少し空を見上げた。やがて、その表情に少しの笑みを浮かべて、俺達の方に顔を向けた。


「シトラス!ヒロ!お前達の気持ちは伝わったよ、俺は、ルーヘヴンに行って。一族を探してくる。」


「フェル!」


「お前達は、もう一人前だ。何処に行っても恥ずかしくない。立派な実力を持っている」


「そして、俺の信念は、子供を守る事だ。お前達はもう子供ではない、俺の信念からは外れる」


「立派になったな……」


 頭にポンっと手を置かれる。これが最後の子供扱い。


「泣くな、良い顔が台無しだぞ」


「だってぇ……」


「ヒロ。シトラスを守ってやれ、こいつは勢いはあるが冷静さに駆ける所がある。上手くカバーしてやれ」


「ハイ……」


「そしてシトラス。ヒロを頼んだぞ。こいつは思いつめやすい。一人で苦しそうにしていたら、傍で支えてやれ、それがお前がなすべき事だ。そして二人とも、俺は応援しているぞ」


「ちょ…… 何いってるのよ、もう」


 耳まで真っ赤になるシトラス。


 モールガの町に戻った俺達、丁度ルーヘヴン行きの船が出航する所だった。ラインハルト行きのは別の日との事らしい。


 ルーヘヴン行きの船に乗り込むフェル…… ここで彼との旅は終わる。


「ヒロ…… お前には世話になったな」


「いえ、俺の方が世話になりました。本当に、ありがとうございました」


「ついでだ…… 一族を探す時に、一緒にお前達の家族の所へ行って。お前の事を話しておこう。俺の友としてな……」


 「ありがとうございます。ではお気をつけて……」


「あぁ」


 そして船は出発した。別れ際に見た彼の姿は、とてもカッコ良かった。


 誇り高い戦士、フェルとの別れ。最後の最後に彼は友と言ってくれた。それは、認められたという事だ。彼が認めた一人の男として、恥じぬように生きよう。さぁ、俺達が目指すのはラインハルト大陸。サリーと、そしてユイを見つける為に。長い長い旅はまだまだ続く!

自分の中では優しい真面目な男というイメージの人でした ありがとう

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