魔法も理想もあるんだよ!
父親が剣を扱ってるのを見てから、俺は想像していた。
現実とは違う世界、ファンタジーと呼べるのが本当にあるのなら、魔法という存在もあると思った、それはまだ大人になり切れず、幻想を未だ抱いてた俺にとっては当然の事だった。
そして魔法は本当にあるものだと知った。
ある日の事。部屋を抜け出し、庭の方へと躍り出た。そして俺はその足で倉庫の方へと向かった。
足と言っても、まだ満足に動けない為、両膝を必死に使っての移動だったが。
いつもは倉庫は閉じられているのだが。今日は空いてる事を知っていた。
俺の父親が庭から大きな鎧を運び出しているのを知った。父親は倉庫から物を運ぶ際に、よく鍵を閉め忘れる。母親によく怒られていた気がする。
俺はタイミングを計り、誰も来ない事を計算して、そそくさと潜り込んでいった。
どんなものが置かれてるのか。魔道具か?名剣か?見たことのないものに対する好奇心は心が躍った。
倉庫に入ったはいいものの、何も見えない。そりゃそうか、灯が差し込まない所だ。とんだ所でドジを踏んだものである。辺り一面は真っ暗で何も見えなかった。
暗い中、壁沿いに進んでいく。周りは暗闇、正直怖くなってきた。
しかも埃くさい。こんな所に長くいたら将来は喘息になってしまう。
何も見つからないか…… 仕方ない、折り返すか。 帰ろうと思った所。暗闇の中適当に進んだために、見えない物に引っかかった。
「痛った!!腕が凄く痛い、何かに引っ掛けたか?くそぉ見えないからわかんねえよ」
そんな事を思っていたその時であった。
ガシャン!ガタン!カァン!!
そんな音と同時に何かが頭にぶつかってきた。衝撃に何が起きたか理解できない内に意識が途切れた。
意識を取り戻した時、俺は母親の腕の中にいた。毎日感じている、暖かく安心する抱きこごちだ、しかし何時もは優しい顔をしているこの人が、涙を流している。一体何が起きたのか状況の整理がついてない。
「ッッグス… …ヒロは…ヒロは大丈夫だよね…」
「大丈夫さ、治療魔法もかけた。魔術師の医者も命に別状はないと言っていた。アイリーンもそろそろ泣
き止めよ。」
「貴方が倉庫の鍵を閉めないから!!もう少し遅かったら危なかったのよ!いつも何か抜けてるんだか
ら…」
「悪かったって。でもそんなくしゃくしゃな姿をヒロに見せたらヒロもびっくりするから、な。泣き止ん
でくれって」
そういって父親は母親を胸に抱き寄せてなだめていた。ちくしょうイチャイチャしやがって…
「アイリーン様。オルバ様。ヒロ様が目を覚まされましたよ。」
狐耳の女性、サリーだったよな、うん、家族の名前も大体覚えている。そのサリーが俺が気づいたのを確認して二人に呼びかける。
「ヒロ!大丈夫か。心配したぞ 最初に見つけた時には危ない状態だった。でも無事で良かったよ…」
そういって俺を抱きしめ頬をくっつける。
少し剃り残しのあるひげがジョリジョリして痛いが、心の底から心配してるのが分かったので。そのままにしてやることにした。
父親の方はオルバと言ったか、普段は凛々しい顔つきなのだが、家族の事になるとだらしなくなる。
その顔は安堵とした表情を浮かべていた。
余りにも心配していたので、ここらで一つ嬉しいニュースを運んでやろう、俺はそう思った。
口を大きく開け、まだ録に喋れない体だが、なんとか気力を振り絞り、声にならない声を発する。
「オ…ル…バ」と、オルバの方はびっくりした顔をした。
「おいアイリーン…今ヒロの奴、俺の名前を言わなかったか?」
「えぇ…ちゃんと聞こえたわ!ヒロ!…私の事は?アイリーンって呼んで!ねぇ呼んでよぅ」
甘えた声で語りかけてくる、アイリーン、俺の母親の人だ、優しくて、何時も元気で、この人の笑顔は、見るものすべてを癒してくれる魔法の笑顔だと常々思っていた。
彼女の期待にも応えてやるのが、息子としての最大の務めだろう。
「アイ.ア… アイ…リーン」
期待通りに応えると。アイリーンはとても大喜びをしてオルバに抱き着いた。さっきまでの喧嘩が嘘のようである。
「きゃ~ 名前を呼んでもらえたわ! もう可愛いわぁヒロちゃん、こんな早く理解できるなんてきっと天才よ。」
天才か… 確かにこの時期の赤ちゃんにしては早いのだろう。
俺は転生者であるから早くても当然なんだけどな…
「奥様少々落ち着いてください、ヒロ様は元気のようですがあれほどの怪我をした後なので」
「そ そうね、私ったらはしたないわ// ヒロ、体は大丈夫?痛くない?」
アイリーンは心配してくれているが、俺の体に痛みは何処にもない、
大怪我と聞かされているが何処をケガしたのかまるで分からない。っというかどうやって治ったのだろうか。
って思ってると少し痛みがしてきた。気が付いていなかっただけか…
「あら?ヒロったらその腕ちょっと切れてるじゃない?治療士さん気付かなかったのかしら?」
そういってアイリーンは俺の腕に手を伸ばし何やらブツブツとつぶやいた。
「癒しの風よ、祈りを持って傷を癒せ キュア!」
すると腕の周りに小さな風が舞った、その風に包まれた俺の腕の切り傷が跡形もなく消えて行った。
「ふぅー、これで大丈夫ね。やっぱり治療魔法って便利よね」
と何気なく言ってるが俺は驚愕を抑えきれなかった。
今呟いたのは何か? キュアと言った、そうして普通では考えられない事が起きたのを確認した。腕の傷が一瞬にして消えるなんて…もしかしてこれって、魔法なのか?
何てことだ。魔法が存在するのか!
魔法と言えば異世界の定番。魔法は中二病の憧れ、人類の夢!
生前魔法が使えないかと色々と試した。
指先に力を籠め。体内に眠る力を呼び起こすように血液が流れるイメージを持って。指がピリピリとした感触が出た瞬間に。大声で叫ぶ。ファイアーストーム!!!!
だけど無情にも何も起こらず聞いていたクラスメイトに爆笑され半年はいじられたという苦い記憶もある。
だけどこの世界では、現実なんだ!!
魔法があるんだ!
俺は喜びを抑えきれずに、これからの生活に花が咲いたような気分だった。
詠唱 祈り ささやき 念じろ
魔法は良いですね心が躍ります。 現実世界でも魔法が使えたら…
空を自由に飛び。好きなところへワープする 憧れますねぇ