炎双瞬撃 連
建物の中へと侵入する事に成功した。
そこは狭く暗い場所だった。中から漏れている微かな灯り。それだけを頼りに前へと進んでいく。中はダクトのような場所で、生ゴミのような匂いがプンプンとしており、俺は嫌悪感と吐き気を催していた。
「汚い。臭い。狭い。暗い」
「何弱音はいているのよ。さっさと進みなさい。私だってこんな臭い所1秒も居たくないわ。それとも、諦める?私はそれでもかまわないわ。別にあの指輪に思い入れがあるわけでもないし、まぁそうしたら二度と取り戻せないだろうけどね。」
「そんな事はしないよ。絶対に、何が何でも取り返してやる」
暗闇の中を進んでいくと、一筋の明かりが見えた。この臭い所から抜け出せると思い急いでその明かりに向かっていく。出口に辿りついたようだ。辺りを警戒して見渡すが、人の気配は感じない。無人で助かった。いきなりバレていたら元も子もない。
「ラッキーだ。誰もいないみたいだしね」
中に降り立つ俺達、そこは腐った肉や魚。生活で使ったであろう不要な物が置かれている。要するにゴミ捨て場だ。生ゴミのような匂いを通り抜けた先は当然ゴミのある場所という事か…… だけどおかげで見つからずに潜入する事が出来たのだ。誰だって臭い所に頻繁に出入りはしたくない物である。問題はこの臭いでバレなければいいんだけど。
「とりあえず中に潜入は出来たね。さて、指輪を盗んだ主を探しましょうか。どうする?手当たり次第に探してみる?」
「敷地内に居る人をとっつ構えて居場所を吐かせるのも早いかも知れないね。俺ならディバインフォースがあるから拘束は簡単だしね」
そういうと目を丸くするシトラスが居た。なんだそんな変な事言ったつもりはないぞ。
「何時もと考えが違うから少し驚いただけよ」
そうかも知れない。何時もだったら慎重に行こうとか言い出すだろうが、今の俺にそんな余裕はないからな。
急ぎ足で部屋を回る。ゴミ部屋を抜けた先にはまたしても薄暗い部屋だ。埃もたんまりある。ここは使われていない地下の部屋らしいな。まったく掃除くらいはしておけよと思っていると、ふと気になるものがあって足を止めた。不可思議な物があったからだ。閉鎖的な一室の中に全体がおおわれている。巨大な魔法陣が描かれていた。
「なんだこれは?こんな巨大な…」
「何に使うか分からないの?」
「ここまで巨大なのはさっぱりだ… 俺が使う魔法もここまででかくはしないし…せいぜい人間一人分くらいだよ。」
「ヒロが分からないなら私もさっぱりだわ、ここには居ないようだし。さっさと別の所に行きましょう」
そうして俺達はその魔法陣を後にした。気にはなるが今はそれに気を取られてる場合ではない。
足早と探索を進める。地下から離れるとやはり数名の魔族の連中がうろちょろしている。気付かれないように慎重に進んでいくが、指輪の在り処はいまだに掴めてない。
その時だった。
足音が聞こえてきた。目の前には階段がある。このままだとすれ違う可能性があった。ひとまず隣の部屋に隠れてやりすごす事にした。
「おい…なんか臭くねえか?」
「貴方は元々臭いでしょう。何を今更」
「今なんか言ったか?」
「いいえ、何も言ってはおりません」
その臭いの正体は俺達なんだけどね。ゴミ部屋を抜けて来たからな、とっとと体を清めたい所だよ。しかし鼻の良い奴は気付くらしいな。バレないか心配な所だ。
「まぁいいや。後ボスに頼まれてる品は全部だったか?シャン?」
「大事なの忘れてますよスイッツ。今朝届いた緑色の指輪がまだ残ってますよ。あれを取るために戻っていたのでしょう…」
緑色の指輪!? 俺はすぐさま反応をした、邂逅の指輪だ!
「あいつらっ!!」
「待って!」
シトラスが上から押さえつけてくる。見かけによらずかなりの力を持ってるシトラスに捕まれば俺では抜け出せない。
「なにするのさ?奴らを問いただして指輪の在り処を聞かないと!」
「何って。貴方姿を晒そうとしたのよ。今出て行っても奴らが口を割るとは思わないわ。少し冷静になりなさい!」
「わ……分かったよ」
物陰に隠れ、会話を盗み聞きする。片方は茶色の髪を腰まで下ろした、俺達と変わりない姿。あれは人族のようだ。もう一人の方はスイッツといったか。あれは魔族か?俺の腰くらいまでしかない背丈に顔が異様に伸びていて。眼もギョロギョロと安定していないように動きまわってる。手足もしわくちゃでいて全身がネズミ色をしている。彼らはそのまま緑色の指輪について話し出していた。
「あぁ、忘れていたぜシャン。お前は何時も気付いてくれるから助かる。流石俺のパートナーだ」
「貴方が何時も忘れすぎなのですよ。まったく…… 私と一緒にいないとすぐやらかすんですから」
「だからお前がついていてくれて助かってるんだぜシャン……あの指輪は慎重に運び出せと言っていたな。だが心底口うるさく言われたな。ボスが盗んだ物にあそこまで熱心なのは初めてじゃないか?確かに眼を奪われるほどの輝きを発していたのは分かるけどよ。俺も初めて見たぜ。あそこまで綺麗な物がこの世にあるなんてよ」
「そうですね。あれは不思議な力を感じたのと同時に、心の底から恐怖も覚えましたね。油断すれば吸い込まれそうな感覚が、私の全身を襲いました。この世ならざる物から見張られてるような。とにかくすごい物であることは確かなようですね、ともあれ今日中に持ち出さなければなりません。急いで取りに行きましょう」
「そうだな、早く行こうぜ」
その場から移動するシャンとスイッツ。俺達はばれないように後を追っていく。
やがて一室に入る。そこは何かの実験室だろうか… 大量の詠唱用の紙束がそこら中に散布されている部屋だった。ちょうどいい事に視界も悪い。小柄な俺達にはピッタリの隠れ場所だ。さらに近づいて様子を伺う。
そいつらは、何の変哲もない壁の前で立ち止まった。そして、壁の一部を押し出すと。そこがベコッと凹みはじめ。スライドするように別の部屋の入口へと繋がっていた。その中に入っていくと。そこには再び何もなかったかのように元に戻っていた。
少しの時間を置いて。同じ場所の壁を殴る。同じようにスライドし。二人が入っていった場所へと潜り込んだ。しかし…
「何もないじゃないの……」
そう、そこは何もない。ただの空室だった。指輪どころか装飾や明かりすらない。真っ暗な部屋だった。
じゃああの二人は何処に消えた?そう思った時には既に遅かったのだ……
突然、後ろからドンっと突き飛ばされた。すると床が開き暗闇が眼の前にやってくる。そこで俺はしまったと思ったが時既に遅かった。やったのはあの二人だろう。俺達は騙された。奴らは気付いていたのだ。俺達が後をつけていた事を。気付くが既に体は宙に浮いていた。そのまま俺達は暗闇の中に消えて行った。
「ここは…… グッ」
意識が戻る。体の節々が痛い。着地に失敗したみたいで。全身をひどく打ち付けていた。体中からズキズキと痛みを発していた。
「クッ、癒しの風よ 祈りを持って傷を癒せ キュア」
癒しの風が体をめぐっていき、痛みを取り除いていく。よしっ なんとか動けそうだ。
「ウッ… 痛いわね… フッ!」
今度はシトラスが苦しそうな声をあげていた。彼女も叩き付けられたのだろう。右腕がうっ血して青くなっている。
「動かないで、今治療するから」
同じくキュアをかける。青くなっていた腕も元に戻り。彼女の表情も和らいでいた。
「ここは……」
辺り一面、暗闇に覆われている。まるで明かりのついてない地下室のような…
「これは!?」
足元を確認する。それはまばらに散りばめられた細い線の集合。規則性のある形に、おびただしい魔力の臭い。これは巨大な魔法陣の上。潜入した時に見た物の上に俺達は落とされたのだ。
その魔法陣が紫色に光り輝く。何かしらの効果が作動したのか?とりあえず、ここから移動しなければ。そう思い走り始めるも。見えない何かがぶつかってきた。
「うわっ!」
顔を思いっきり打ち付けた。結構痛い。鼻血が出ている。すぐ治療をして先程ぶつかった所に手を伸ばす。一見何もないように見えるその空間に、冷たい感触がある。グイっと押してもビクともしない。
「結界が張られている?」
安易な結論だが、魔法陣を回りに閉じ込めるように見えない結界が張られている。サリーが言っていたな。動きを継続的に封じうる魔法もあると。引っかかる側になるとは思わなかったが……
「ビクともしないわね」
どうやら閉じ込められたようだ。どんなに進もうとしたところで、巨大な壁のような結界が行く手を阻んでいる。どうにか出れないか考えていたところ。暗闇の中、静寂を切り裂くように異なる足音がカツン……カツン……と近づいてくる。
「お前ら…」
「驚いたな。まさかこんな小さな子供だとは… お前ら。なんで俺達をつけていたんだ?」
先ほどの二人組だ。どうやら様子を見に来たらしい。相手が子供だという事に少し驚愕していたがすぐさまいやらしい笑みを浮かべていた。
「決まっている。貴様たちが盗んだ物を取り返しに来たんだ。」
声が荒くなる。その笑みを今すぐにやめろ!
「そうかそうか。お前今朝の報告に会ったガキだな。通りで臭いがおかしいと思ったんだ。まぁそうじゃなくても今のお前はかなり臭いけどな… これを取り戻しに来たんだな……」
そういって胸元から取り出したのは邂逅の指輪だった。深緑の光が暗い地下を照らすように輝いていた。
「お前。今すぐ返せ!」
拳を振るうも結界に憚れる。眼の前にあるのに手が届かないなんて……
「無駄さ、強靭に張ったその結界から逃れる術はない。元々お前が持つにはふさわしくない物だったんだ。諦めな」
「ふざけるなよ!穿て!フローズンブラスター!」
氷龍弾で打ち破ろうとするも障壁を崩すことは出来なかった。魔力をさらに込めてもビクともしない。
「糞っ」
「ガキの癖に凄い魔法を使いやがる。だが残念だったな。その魔法陣はあらゆる魔力をはじきだす。かなりの使い手だろうが突破は出来ないと思え。それは絶対に抜け出せない強固な結界だ。捉えた物を半永久に捉え。弱らせたところを仕留める類の物。囚われたら中から脱出は出来ないぜ。じゃあなガキ、俺達はとっととずらかる事にするぜ」
そういって姿をくらますスイッツ達。このままでは二度と取り戻せなくなる事を体が直感で感じていた。
「ウオオオオオッ!ファイアストーム! ストーンキャノン! プライマリーブラスター!」
渾身の魔法も全て弾かれる。
「ならば、フンッ!」
俺の腕の周りに巨大な岩の腕を形成する。自身の3倍程もある巨人のような腕を。強く握りこぶしを作る
「うおおおおおお!」
スローモーションで振り下ろされた巨大な腕が結界と衝突する。バチバチという音と共に。多少の手ごたえを感じるが。
パリィン
無残にも粉々に砕かれてしまった。
「これも駄目なのか…」
焦りが生まれる。俺の魔法では、今の実力ではこれを破壊するのはかなわないかも知れない不安を。
その後も様々な魔法を撃とうにも全てかき消されてしまう。
「ヒロ、どいて、私がやる!」
シトラスが前に立ち猛攻を仕掛ける。彼女の腕ならあるいはという希望を持つ。しかし。どれだけ斬りつけても全て弾かれていく。
「これならどう? 瞬撃!!」
シトラスが瞬撃で叩き込む、障壁が激しく揺れ。斬りつけた箇所に小さな亀裂が走る。
「やったか!?」
喜びも束の間。数秒ともしない内に。亀裂はもとに戻ってしまう。
「糞っ惜しい!」
その後も何度か突破しようと試みるものの、幾度となく阻まれてしまう。抜け出せないかも知れない。一瞬でもそう思ってしまったら、心が弱っていくのを感じ取れた。
「なんて硬い結界なの…… こんな頑丈な結界であいつらどうするつもりだったのよ……」
確かに硬すぎる。あいつらの言うには半永久的に出れないとか言っていたが…… 弱らせたところを仕留めるか……確かに心が弱りそうだよ。待てよ? それなら解除する方法もあると言う事だ…… 何処かに、解除する為の仕掛けが!
「シトラス。もしかしたら出れるかも知れないよ…」
「えっ?」
俺は掌に小さな炎を灯す。メラメラと燃える炎が暗い地下に微かな明かりとなって照らしていく。
「何するの?」
「解除するための装置か何かがあるはずなんだ。それを見つければもしかしたら……」
かすかな希望を頼りに辺りを見渡す。あった!微かに紫色に光り輝く結晶体の物が!
「見つけた…… あれが制御しているんだ!」
見つけてしまえばあっさりしたもの。地面を這うように一筋の光が線のように魔法陣に伸びているのが分かる。あれを破壊するか止めればこの結界も解けると確信した……
しかし、結晶を破壊するには、この結界を突破しなければいけない。突破出来ないから結晶を破壊しなければいけないのに…… これでは意味がない
「どうすれば……」
地面を伝っている線に合わせて。魔力を送り込めば届くかも知れない。しかし出来なかったら……
迷っている間にも、見つからなくなる可能性が高くなっていく。とにかくやってみるしかない。
線の終着となる場所を見つける。魔力を注入してみると。弾かれる事なく地を伝いながら行く事が出来た。ここに綻びがあるのを確認した。やはり穴となる箇所は有ったみたいだな。後はこれで結晶に届けば脱出できる!
「どう?行けそうなの?」
「やってみるしかないよ。多分、行けると思う」
片膝立ちになり地面に両手を打ち付ける。魔力を流し込むのは。エアトスを展開するのと同じ要領のはずだ。集中し、魔力を通すイメージをする。細い線に直線に迷いなく!
「ハッ!!」
ピシィっと電撃が走るような感覚が襲う。順調に到達するかと思ったが……やはり抵抗してくるよな。魔力を押し出すのを妨害してきていた。
「ググググググ…」
制御し、さらに魔力を込める。魔力を伝う時に出来る青の軌跡が数cmだけど前に進んでいく。しかし
バチンッ!!
途中で弾かれてしまう。もう一度魔力を送り込む。
バチンッ バチンッ! バチンッ!
しかし何度やっても途中で途切れてしまう。送り込む魔力をぐにゃぐにゃと妨害されてしまうのだ……
「まだまだぁ!!」
何度も挑戦する。数ミリ、数センチは進んではいるが。結晶には遠く届かない。
やがて体力の方が持たなかった。疲れとダルさが一気に襲ってきたのだ。
ここにきて、かなり時間も立っている… もう指輪は持ち出されているかもしれない… 俺は落胆し、ついに諦めの言葉を吐いてしまう。
「くそぉ…… 俺が盗まれさえしなければ」
悔しさか、自分への不甲斐なさか…… 俺は涙を流していた。
「何言ってんのよ。持ち出されるわよ」
「もういいんだ……盗まれた俺が悪かったんだ… 今の俺には突破できない…」
あぁ、ここまで来て悪い癖が出た。諦めずにやろうと誓ったのに、俺は何も変わってなんていなかったんだ。 落胆していると不意にシトラスが顔を覗かせてきた。そして。
「ふざけないで!!」
ガッとシトラスに胸倉をつかまれた。毎日鍛えている彼女の力は、俺の体を軽々と持ち上げる。呼吸が出来ず苦しそうになる中、彼女の顔は憤慨と怒りの顔を、その柔らかい瞳は今にも俺を殺すかと思う程ギラギラとしていた。
「アンタあれが大事なんでしょ? 普段は見せない程取り乱して、考えもなしに突っ込んで、なのに少し挫折したら諦めるの?ヒロって実は弱い子なのね。見損なったわ、私はね、あの指輪なんかどうでもいいの、思い出もないし特別な感情もない、本音を言えば何でこんな事に巻き込まれたのか不満だらだらだわ、ただヒロが苦しそうな顔をしているから協力してるの、出会ったときに助けて貰った。その恩を返そうと必死なのよこっちは。魔法の練習にも嫌な顔をせず付き合ってくれた。アレが大事な物なら、何をしても取り返しなさい。どんなことになってもね」
バッと離すシトラス。俺はうずくまりながら呼吸を整える。
「ガハッ……ゴホッ… くっ…」
「良い?もう一度聞くわ。ヒロにとってあの指輪はどういう物?」
あの指輪は……そうだ、簡単に諦めるなんて出来ない。
「あれは…… 俺の大事な…… 繋がりだ」
俺がそう答えると、シトラスは先程までの表情とはうって変わり、真面目でキリッとした表情に変わっていた。
あぁ、彼女の表情はなんとも頼もしい事だろう。そう感じさせる程凛々しい顔つきをしていた。
「ならヒロも頑張りなさい。もし私達が出れなくても、フェルも居るんだし大丈夫よ、ほら、泣いてないでやるわよ」
魔力を込める。魔晶石の本体を砕くには、繊細かつ極限まで集中しなければいけない。
魔力もそろそろ持たないだろう、何度目かの挑戦。さっきまではまた失敗するのではないかと後ろめたい気持ちがいっぱいだったが。今回は違うようだ。
成功するイメージしか湧かないな……
「はぁッ……」
視界がブレる、チリチリとした痛みが頭の中を駆け巡って行く。熱さと寒さが同時に来て、凄く気持ちが悪くなる。
意識がグラつき、集中力がなくなっていく。魔力の波がグニャグニャと形を変化していく。
「ヒロ!しっかりしなさい!もう少しよ」
魔晶石まであと数cmもない。しかしその数㎝が永遠のように感じる。しかしそこで諦めるわけにはいかない。
渾身の力を込める。もう少し、もう少し。
バチッと体に電撃…思わず体制を崩しそうになるが……
ガシッ
後ろを向くとシトラスが支えてくれていた。そうだな。彼女が居てくれるなら出来ない事はないのだろう。シトラスの自信を少し分けてもらう事にするか……
「はぁぁ!!」
力を入れ直し、残り僅かの距離を縮める。そして、結晶体を俺の魔力が包み込んだ。
捉えた!
「はぁっ! 砕けろ。アクアコンプレス!」
グッと手を握り締める。圧縮される事で、ビキビキと魔晶石が音をたててバラバラになる。
それと同時に、俺達の周りに貼っていた怪しい結界もなくなっていた。
「やっぱり、やれば出来るのよ貴方は。流石ヒロだわ!」
しかし、それが引き金となったのだろう。結晶から怪しい煙が噴き出て。部屋を覆い尽くさんとばかりに
噴き出た煙は。まるで巨大なスライムのように。ぶよぶよとした魔物が形となって現れた。
「くっ……破壊しても魔物を呼び出す二重の罠か……」
俺は魔力の消耗で思ったように動けない。そこにシトラスが割って入る。
「後は私がやるわ。休んでなさい」
シトラスが鞘から双剣を抜きだす。紅の宝石が輝くその剣に、シトラスはまるで祈りを込めるかのように掲げる。
「行くわよ紅蓮。何時もは失敗ばかりしていたけど。今回ばかりは失敗する気がしないわ! 炎よ熱く私に答えて」
ボウっと刀身を囲むように炎が舞う。紅の色にオレンジ色をした熱い炎が重なり会う。彼女を囲うように紅蓮の炎が燃え盛っている。まるで火山が噴火するような圧力を感じられる。
「これは……」
そう、シトラスと出会って俺がずっと教えていた事。昨日まで成功した事なんて一度も無かった。しかし今。この土壇場の中、見事に成功させたのだ!あぁ、俺の眼の前に居る少女はなんて輝いているんだろうか!シトラスはゆっくりとその刀身を掲げて叫ぶ。
「行くわよ。炎双瞬撃 連!!」
音を置き去りにした、炎の軌跡無数の網となりて、目の前の魔物を切り裂いていった。
「---------ッ!!!」
魔物は断末魔を響かせることなく。自分が倒されたと言う実感もないままに消滅していった。
炎が舞う中、佇むシトラスはまさに太陽のようだ……
「凄い…凄いよシトラス。あぁ、なんて君は最高なんだ」
「そうよ、私はシトラス・フリルド。私に不可能はないんだから!さぁ、行くわよヒロ。貴方の心の在り方を、その思いを取り戻すわよ」
そういってダッと走り出すシトラス。彼女の背中はとても大きく見えて、そしてとても神秘的に見えた。そんな彼女を追いかけ、上へと続く道を登って行く。途中で俺はシトラスに声をかけた。
「シトラス」
彼女は振り返る。
「何?」
心から思いを込めて言う。少し照れるけどな……
「ありがとう」
シトラスが笑みを浮かべる。彼女の笑顔は見る人も笑顔になるんだな。自然と俺も笑みを浮かべる。
「そういうのは指輪を取り戻してからにしなさい」
俺達は部屋を後にした。さぁ失われた物を取り戻しに行くぞ。




