ユイシスとサリー
そこは、ラインハルトにある、ナハトの森、人の立ち入る事は滅多になく、魔物達が徘徊する曰くつきの場所そこに一人の少女が倒れていた。
うーん? ここは?
ここは一体何処なんだろう…
光に包まれたと思ったら。あの後どうなったんだっけ?
最初にヒロちゃんが消えたと思ったら、皆も光に包まれて…
「そういえば、あのドラゴンはどうなったんだろう?」
凄くでかいドラゴンだった。もし、あのままユイ達の村まで来ていたら…
ゾゾッとした、家にいるアイリーンや、エレナとフランの事が気がかりだった。
無事でいることを願うだけだ。
「それにしても、本当にここどこ~?」
辺りを見回しても木と草が覆っていて良く分からない、
これはあれだね、完全に森の中だね、困ったね。
「もしかして、ユイ一人なのかな~ やばいっしょ。この状況、マジピンチかも!」
「こんな時に魔物なんかに出くわしたら、ちょっとやばいかな~」
少数ならなんとかなると思うけど、集団だったら対処しきれないよ~
そう思ってたら、森の奥からいや~な咆哮が聞こえたんだよね。嫌な予感って当たりやすいよね、と思ったの。
ゥゴオオオオオオオオ
「ひっ」
咄嗟にしゃがみこんでしまうユイ、
草木をかき分け、魔物が現れる。
「あれは?」
少数のウルフが現れる。奴らは食料が探せず飢え死にする寸前のウルフ達であった、彼らの眼が怪しく光る
それは、待ちに望んだ肉が眼の前に現れたからである。奴らはすぐさま獲物を仕留めるために飛び掛かった、岩をも切り裂く歯を剥き出しにしてただ対象を食らう為だけに飛び掛かる。
ユイが咄嗟に反応をする、目の前に爆風を唱えウルフ達を遠ざける。
すぐさま次の魔法を準備する、相手に話は通じない、奴らはただ生きる為にユイを殺す。
「ごめんね魔物さん! 氷槍よ貫け、フェイズスピアぁぁ」
氷槍が、ウルフに刺さる、胴体を貫かれ、ウルフ達は落命する。
「危なかったぁ 速く安全な場所に出ないと…」
森をひたすらに進む、ユイは自分がどの方向に進み、どこが安全なのか分からない。しかし、ユイは自分の勘だけを頼りに歩いている。
「ユイ一人だけなのかな… ヒロちゃんは? エレナにフランは? オルバは…大丈夫そうだけど、アイリーンも戦えないし、サリーもいないしなぁ。」
不安感が全身を襲う、だめだめ、ここで止まってたら、魔物に襲われちゃう、それにヒロちゃんならこういう時は真っ先に動きだす、そんな気がするもん。
風の音に耳を立てて森を進んでいく。
「もう少しすれば何かありそうなんだけど… あっ、あれは!?」
ユイが見つけたのは、魔物に囲まれている、一人の女性、その女性はユイの師匠とも言える存在で大事な家族の一員。
「サリー!」
「ッ!? ユイ、無事でしたか。」
サリーだ、サリーが見つかった。ユイだけ飛ばされたわけではなかった、安堵しそうになる傍ら魔物に囲まれ危機的状況になってるのに気づくのが遅れる。
「サリー!今助けるよ!」
「心配いりません。この程度、トルネード!」
風の嵐が魔物達を切り裂く、強大な暴風に魔物はなすすべもない、
辺りには倒れた木々と切り刻まれた魔物だけが残った。
「ふぅ... 終わりました。ユイは大丈夫ですか?」
「うん、ユイは平気だよ。 この場にいたのはサリーだけ? 他の皆は?」
サリーは首を振る、どうやらいないらしい。
「残念ながら、ユイが初めてです。本当に、見つかってよかった」
サリーに抱きしめられる。体が震えてる、サリーも怖かったんだね。
暖かい、サリーは狐族だから、体温が高いのかも… 安心するなぁ。
ふっくらとしたものが当たる、ふかふかなサリーのお胸、ユイもいつかはこれくらい大きくなれるのかな。
安心したユイの頬に涙がつたう、緊張が途切れたらしい。
「あれ…おかしいね、悲しくないのに涙が出ちゃうよ。」
「ユイ、涙というのは、何も悲しい時にだけ出るものではないのです。安心したり、感動した時に出る涙もあるんですよ。」
そうなんだね…
しばらくユイはサリーの胸の中で温もりに浸っていた。
「とりあえず、人のいる場所に出ましょう、何時までもここにいてはまた魔物に襲われます」
「うん!」
歩み始めるユイとサリー。
「ユイ、こっちに行きましょう。少しは近いはずです。」
「うん、っというかサリーってこの森の事知ってるの?」
「えぇ… 昔、小さい頃ですが、ここに来た事があります。」
「えっ、そうなんだ。ここって一体何処なの?」
「ここは、ナハトの森、どうやら私たちは、ラインハルト大陸に飛ばされたようですね」
「えぇ!? ここってグランスバニアじゃないの!?」
「はい、どうやらあの光によって、転移させられたようですね。」
転移って、そんなの本当にあるんだぁ…
「じゃあ、ヒロちゃん達も飛ばされたのかな。」
「そうですね、あの光は、私たちだけじゃなく、おそらく私たちの家にまで向かっていったと思います。ヒロ様は勿論、アイリーン様やエレナ様やフラン様も恐らくは…」
苦い顔をするサリー
「大丈夫だよ。ユイとサリーだってこうして会えたし。アイリーン達も安全な所にいると思うよ… ヒロちゃんもオルバも、あの人達は強いから、きっと大丈夫!」
「そうですね、悩んでたって仕方ありませんね。」
アハハと笑うユイ
「そういや、昔来た事があるって?サリーはこの大陸出身なの?」
「えぇ… 私はこの大陸の、ザオウと言う村で育ちました。そこは狐族が治めてる小さな村で、私の姉が今は長をしている筈です。
「お姉さん?サリーって姉妹がいるの?」
「えぇ… 私に、二人の姉、前の長である母により生み出されました、姉様はどちらも優秀で、何時も母様に褒められていました。私には、そんな母様の愛情は届きませんでした」
「私は色々な事を頑張りました、しかし、何時も姉達は、私より上手く出来てしまう。私が一番頑張っていた魔法も、姉達はすぐさま追い抜いてしまい、悔しさの余り、村から逃げるように飛び出しました」
「そうして、宛も無くフラフラと旅をし、食料も尽きて死にかけていた所を、アイリーン様とオルバ様に助けられました。当時荒んでいた私は、他の種族からも疎まれ、最初は口も聞かず、近づく人は、皆敵だと思っていました。ですがあの人達は、そんな私にも優しく接してくれて。次第に私も、この人達なら安心だと思うようになりました、温もりを感じるようになりました。あの時助けられてもらっていなければ、私はあのまま孤独に死んでいたでしょう」
そうなんだ、サリーにそんな過去があったんだね。
ユイも分かる気がする。ユイも、ヒロちゃんには何時も敵わないから…
「ユイもね、何時も思ってたんだ、ヒロちゃんって優秀じゃん。ユイより年下なのに、魔法の腕はあるし剣だってドンドン上達していく。ユイの知らない知識もあってね。大体は良く分からないんだけど。あの子はずっと、ずっと先にいるんだなって感じていたの。」
「ユイを何時でも守ってくれて、自分がケガしてる時は何も言わないで、どうしてそんな事するのか分からなくて、怒ったことがあるんだ、そうしたらヒロちゃんは、ユイを守りたいと言っていた。ユイだって守りたいのにって怒ったら、ヒロちゃんの方が折れたんだけど、結局そのあとも、守られてばかりで、ユイも頑張ってたのになぁ」
ユイが塞ぎ込む。
ユイは修行中に少しふてくされてる所が見られたけど、そういう訳でしたか。
確かにヒロ様は異常だ、普通あの年であそこまでの才覚を現す人等私は見たことがない。
それに幼い頃から賢く、精神的にも大人だった、悪く言えば年相応な所が見られない所だ。
まるで人生をやり直したみたいに…
でもですねユイ、私は、貴方の潜在能力はヒロ様以上だと確信しています。確かにヒロ様にはまだ遠く及ばないでしょう、それでも貴方の秘めている力はとてつもないものです。その力を引き出すには、私では力不足でしょう。
……………
ふいに空を見上げ考え事をするサリー、その眼には葛藤と決意が見て取れる。
一度、ユイをあの場所へ連れて行きますか。私にとっては嫌な思い出しか無い所ですけど、あの二人なら、ユイの潜在力を引き出すことが出来るかもしれません。それに、オルバ様達の居場所も知りたいですしね。
まさか、お姉さまに頼る日が来るとは思いもしませんでしたね。人生何が起こるのか分かりませんね。
やがて決意を固めたのか、サリーは真っ直ぐな瞳をユイに向ける。
「ユイ、ユイは守られるのは嫌ですか?」
「えっ?」
「ヒロ様を守る覚悟が有りますか?」
「守りたいよ、ユイはヒロちゃんを守りたい、ううん、ヒロちゃんだけじゃない、エレナやフランやアイリーン、サリー、オルバ、ユイは皆を守りたい。」
でも、ユイにそんな力は、そういう不安の眼をしていますね。
「貴方には、才能が有ります。その力を解放させれば、私を超える力もたやすいでしょう。」
「これから、貴方を最強の魔道士に育てます。そして、もう一度トリスターナ家が離れ離れにならないように、私達が守るのです。」
「ユイが最強に?、でも…皆が何処にいるのかも分からないよ? そんな事してる間にも、皆どうなるか分からないよ?」
「ザオウには、私の姉は、思うだけで人の居る場所がわかる特別な力を持っています。姉に協力してもらい、オルバ様達がいる場所を探してもらいます。」
「サリーの故郷に…?」
「えぇ…そして、そこで私のお姉さま達に修行を付けてもらいます。私では、貴方の能力を最大まで高める事は出来ませんが、お姉さま達ならば、必ず成功できるでしょう。そして、私達が皆を救い、もう一度元の生活に戻るのです。」
後は…ユイが耐えられるかどうか… お姉さま達の修行は過酷だ、もしかしたら心が壊れるかも知れない。
だけど、私では力不足だ… それが何より悔しい。
「うん… ユイが強くなって、ヒロちゃん達を守れるなら、頑張る、だから、行こう、サリーの故郷へ」
その瞳に迷いはない、良い顔をしてますよユイ、可愛らしさと強さを持った顔です。
「分かりました。では行きましょう。ザオウへ。」
気付けば夜になっていた。夜空に浮かぶ月は全てを見ていた。一人の狐族と、一人のハイエルフの覚悟を、彼女達は今このときに新たな道を歩み続ける、その先に何があるのかを、知る物はいない、月明かりは静かに彼女達を照らしていた。
ラインハルトに飛ばされた二人の物語です。




