ザイーラの日々
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「ガーナの消失… まさか倒されるとはね。」
空を見渡せる広い空間の一室、周りは草花で覆われ、綺麗な池が存在し、その中で綺麗な魚たちが泳いでいる。不純物など一切なく、幻想的とも言える空間は、地上には決してない美しさであろう。
その周りを見張るように、外を浮かんでいる物体が見える、飛んでいるのは鳥ではない、翼の生えた人の形をした者達、
彼らは皆それぞれ仮面をつけている、歪な紋章が施された白い仮面、その中にある表情は誰にも分からない。
そして、その空間の一室の中、一人の女性が佇んでいた。
銀の髪が美しく光る。幻想的な空間には、それに似合う幻想的とも言える人がいるのが適切なのだろう、彼女の姿は完璧とも言える美しさを現していた。
「ガーナの居た場所は… ブランド大陸だったかしら…」
「そうですわお母様、」
そこに一人の少女が躍り出る。女性に似た姿に、きらめく白銀の髪、彼女の姿も、この幻想的な空間に非常に似合うような、人形とも言える容姿をしていた。
そう、その少女は、現世に現れヒロの運命を変えた少女。
「おはようシルク、元気にしていたかしら?」
「このように、お元気ですわ。お母様こそ、お変わりない。こちらに来るのは随分と久しぶりですわね?」
「えぇ…そうね、私がこの世界にいる意味はないのだけれど、シルクの事が心配でね、ここの結界が一つ綻びを生み出してるわよ。
「その事については安心してください、確かにガーナは倒された、結界もそれに伴い綻びが生じた、でもこの地に降り立つ事が出来るのは、私達天人だけでしょうお母様?」
「えぇ…その通りよ、だけど油断しないでね、輝きが全て揃えば…ここも安全ではいられなくなる。私は貴女が心配なのよ。」
「安心して、全て揃う事はないわ… 私が管理してるのと、一つはあの男が所持しているのだから。」
「あの男、そうね、あの男の手にある限り、揃う事はない、彼の力は理を超えているから…」
「ふふっ そういう事、だから心配することないのよお母様。」
安心させるように笑顔を見せるシルク、その微笑みは、抗う事の出来ない不思議な魅力を放っている。
「それを聞いて安心したわ、良いシルク。貴女はずっとここにいなさい、ここが世界の楽園で、ここより素晴らしい所なんてないんだから、それでは、私は向こうの世界を行きます。丁度異世界から勇者が現れたらしいのよ。凄く可愛らしい子だったの、私が導いてやらないとね、ウフフ」
そういうと女性の姿が消えた。残ったのはシルクと、頭上に浮かぶ天人達だけだ。
「いつもそうね、お母様は私を見てはいないわ… どうせ今回もそう、いたずらに弄んで、興味がなくなったら終わらせるつもりよ。あの人の気紛れももう少し何とかならないかしら…」
ハァ…と溜息をもらすシルク、彼女の顔には確かな呆れが出ていた。
「お母様は安全だと言っていたけど、退屈ね… 私にここは窮屈すぎるわ… 何にもないわ、生き地獄よ。私はもっと楽しい事がしたいわ。」
シルクは指を何もない空間へ向けてスッと降ろした。指差した所の空間が割れ、別の場所の風景が映る。
「ガーナを倒すのはもう少し先だと思っていたけど。あのミステル族がやったのね、想定外だったわ。でも良い感じね。」
ファサッと髪を揺らすシルク、そうして彼女はニヤリと口元を緩める。
見つめてるのは一人の少年、それは、別の世界より転生してきたものの姿。
「私も、お母様の事は言えないわね、さて、後何年かかるかしらね… 生きなさいヒロ、そして私を連れ出しなさい。貴方の運命を変えたのは私なんだから。」
フフフッと笑いを零すシルク、その表情は先程までの自身の母親と瓜二つの表情をしていた。
エメラルドグリーンの瞳が輝く、その眼が何を映してるかは彼女にしか分からない。
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「エルさん、ただいま戻りました」
「お帰りヒロ、それで結局どうだったんだい?」
俺は事の顛末を話した。
妙な声は洞窟の奥地に住まう、ゴーレムの仕業だった事、それを倒したこと、そして。
「所で、フェルは何処にいったんだい? もしかして先に宿の方へ向かったのかい?」
「いえ、実は、」
ひょいっと俺の足元にいた小さい獣を抱える。その紅い瞳がエルをじーっと見つめていた。
「ワンッ!」
「なんだいこの獣は?」
「ええと…フェルです…」
「ワンッ」
二度吠えるフェル。
「ヒロ、お姉さんをからかってる?」
「いえいえいえ! そんなからかってなんていません!!」
「はぁ…まぁ仮にその獣がフェルだとして、なんでそうなったんだい?」
「それがですね。俺も良く分かってはいないんですけど、フェルが不思議な魔獣に変化しました。」
洞窟内での事を話す。不思議な空間に飛ばされて。ゴーレムにやられそうになり、フェルがその姿に変化しゴーレムを倒したと。
その後、再び戻ってきたときに、フェルがその姿になっていたという事。
「はぁ… それにしてもこんな…ねぇ…」
フェルを見つめるエルさん、ふいっと手を伸ばして抱きかかえる。
「可愛い姿になっちゃってもうー」
ウリウリと顔を擦らせるエル、フェルはされるがままにされている。 フェル、少しは抵抗しても良いんだぞ…
「それで、もうあの洞窟での奇妙な音も出ないと思いますよ。」
「あぁ、それについては感謝する、今回は、此方も助かったよ。これから何か会ったら優先して君たちをサポートしよう、それと、アルー!」
アルが小袋を抱えて持ってくる、中には石金貨50枚が入っていた。
「今回の報酬だ、貰っておくれ」
「ありがとうございます」
「これからはどうするんだい?グランスバニアまで行くんだろう、だとしたら、最北端のモールガからの出向船に乗らないといけないよ。」
「そうしたい所ですけど、しばらくこの町にいようと思います。俺とシトラスだけでは危険ですので、フェルが戻るまでは滞在しようと思います。」
フェルの頭を撫でる、モフッとした毛が気持ちいい
「その方が良い、モールガまではかなり長いからね」
「私は大丈夫だけどね」
「囲まれたら危ないよ、それにシトラスは顧みないで猪突猛進するから、カバーできるフェルが居ないと俺とシトラスが離れ離れになったら怖いかなぁ…」
「情けないわね、敵に囲まれる前に倒せばいいのよ。」
「俺は危険な目にはあいたくないかな… それにフェルを守りながらだと戦い辛いでしょ。今のフェルは戦闘力ないんだから。」
「ガルルルルル」
俺は戦えると言わんばかりに威嚇するフェル、しかしその外見も相まって、可愛いという感情しか浮かばない。 悲しい事だ。
「一番頼もしい存在が今は一番頼りない存在ね…」
「早く戻って欲しい限りだよ。」
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ザイーラに来てから一月が過ぎた。
その間、ペットの捜索や商人の手伝い等、簡単な依頼をしながら過ごしていた。
シトラスの方は毎日セッセとトレーニングをしている。
朝起きては走り、昼はずっと剣を振っていて、日が落ちる頃に魔法の鍛錬。夜になると電池が切れたかのように眠る。 なんとも凄い生活だ。
魔法の方も最近感覚が掴めて来たらしいと喜んでいた。
フェルはというと獣姿を満喫していた。
シトラスの稽古をジーと見ていたり、依頼の時も見守ってるように着いてきていた。
今朝も朝食として出された、ワーナーバードを焼いた物をガツガツと食していた。
ギルド内でもフェルの事は知れ渡っていて、今ではザイーラのマスコットと化している。
ただ子供以外に触られるのは嫌なのか、この前人相の悪い男が撫でようとした所
「ウ˝ーーー」
と吠えていた。
何時ものようにギルドで依頼を受けようとしていた所、とある人物に話しかけられた。
「よう飼い主さん、今日もチマチマ低ランクの仕事をやってるのかい?」
話しかけてくるのはAランクチームにしてクラウダスパイダーズのリーダースラードだ。
彼らとも、最初は難癖をつけられたものだが、何度もギルドで会うために話出来る関係になっている。
ちなみに飼い主というのは、マスコットとなってるフェルを何時も連れまわしていたらいつの間にか飼い主という名で呼ばれるようになっていた。
「そうですよ、シトラスがそろそろ限界だーとか言ってるから、その内討伐依頼でも受けようとは思いますけど。フェルもこの調子ですしね。」
「本当にそいつがあの男には見えねえけどなぁ。ほれほれ、餌をくれてやるよ」
スラードは袋から干し肉を取り出し、フェルにやる、フェルはそれをハグハグと食った。
「じゃあよ飼い主、まぁ、お仲間さんが何時までその姿なのかは分からねえが精々頑張れや。」
バシッっと背中を叩かれる。ワハハとギルドを出ようとすると、シトラスとすれ違った。
「うおっ、なんだ、シトラスか、ビックリしたぜ」
「何よスラードじゃない?今日もせいが出るわね。」
「ハンッ、お前の所の仲間と違って俺達は勇猛なんだよ、ビビリすぎるぜ。」
「まぁねぇ、ヒロもそこら辺の奴なら余裕だと思うんだけど、良いのよ、私は私でしっかり特訓出来てるから、その内さらに強くなるわよそうしたら貴方もう太刀打ちできなくなるわよ。」
小さく詠唱をし掌から火をボウッと一瞬燃やすシトラス。そろそろ次の段階へ進んでも良いかもしれないな。
「ヘッ精々粋がってろよ、俺達だってこのままじゃ終わんねえからよ。覚悟しとけ。」
「精々頑張りなさいね~」
余裕を見せるように手を振り返すシトラス。
どうやら前にシトラスがこの町に来た時に俺と同じように新人狩りにあったらしい、その時に返り討ちにしたらしい。
「あいつも懲りないわねぇ、さて、おはようヒロ。フェル。」
挨拶を交わし、フェルを抱きかかえるシトラス。
ギューットきつく抱きしめるのはシトラスの癖であろう、おかげでフェルが凄く苦しそうにしている。
「あれ?なんかフェルの首元に変なのがあるわ、何かしら?」
「ん?どれどれ、あれ、これって?」
見るとフェルの首元には首輪が繋がれていた。不思議なのはその首輪につけられている宝石の事である。
「これって、ゴーレムの胸に有った奴じゃないの? フェルってば持ち帰って来てたのね。」
本当だ、フェルの首元にあのゴーレムと同じ宝石がぶら下がっている。
今まで着けていた事はなかったはずだけど…
すると突然、フェルの体を眩い光が包み込んだ。
「フェルの体が、光っている。」
光が輝きをマシ、獣のフェルの姿が次第に人の姿へと戻っていく。
輝きが薄れ、姿が顕になる。
やがて完全に人の姿に戻った。
「フェル!!」
「待たせたな、ようやく戻る事が出来た。」
そこには深紅の髪が良く似合い、安心する笑みを浮かべるフェルの姿があった。
しかし、
「この馬鹿! なんで裸なのよ!」
「す… すまない…」
そういえば獣の時は服着てなかったな… 哀れフェルよ…
フェルも元に戻って、モールガへと旅立つ準備を進めていた俺達だった。
ユニークが1000人超えました。皆様ありがとうございます。




