黒き魔獣vsガーナ
ゴゴゴゴゴ……
巨体がその体を起こしゆっくりと近づいてくる。
「…ソノ、カガヤキ、アインフェルクヘトツヅクカガヤキ。ワガナハガーナ、エメのカガヤキヲモツモノ…アトラーフェサマヲオビヤカスモノ ハイジョスル…」
キュイーン
「起動しましたね」
全身の苔が落ち、その身が深紅に染まる。その輝きは、この世の物とは思えない程幻想的に見えた
「何だこいつは…」
「フェル?どうしました?」
「魔人ゴーレムの形はしている。しかしこのような色合いではなかった。俺の知っている奴はこのような神秘的な色をしてはいなかった、気を付けろ何かが違うぞ。」
フェルが前戦ったのとは違う種類のゴーレム… 俺は唾をのみ込み、震えを抑える。
「心していくぞ!」
フェルが駆け出す。シトラスが距離を取り俺は遠くへ離れる。
ガキィン フェルがその槍を突き刺す。
鋭利な槍から放たれる一撃は、その体に傷をつける事は出来ない。
「これならどうよ!瞬光!」
閃光となるシトラスが一撃を叩き込む。
デルビニクパンダを見事に切り裂いたシトラスの奥義。
しかし、ゴーレムの体には小さな切り傷がつくだけで、無傷なままだった
「グッ… やっぱり効かないのね…」
キィン… キィン… 何度攻撃しても傷がつかない。
「俺が試します!、二人とも離れてください!ハッ!」
巨大な氷龍を作る。俺はさらに魔力を込め、氷龍を囲むように風を纏わせる。
風に包まれた氷龍は天地を轟かせんとばかりに荒ぶる
「轟け!穿て!空を切り裂き身を包む死の恐怖を与えろ!フレイマリーブラスター!!」
竜巻を纏う氷龍がゴーレムに直撃する。
洞窟内に激しい振動が起こる。下手すれば崩壊するほどの威力だ。
天井の一部が欠け落石が起こる
ゴーレムの周りにズドンと落ちて姿を隠す。
「あっぶなちょっとヒロ、室内でそんな魔法使うんじゃないわよ!」
シトラスにコンっと殴られる。確かに室内でこれは派手すぎたかも知れない
「どうだ…?」
「手ごたえはありました。しかし…この感じだと。」
「あぁ…そのようだな。」
キュイイイイイイン
そこには何事も無かったかのように佇む姿があった。
「キカヌ…コノカラダハソノヨウナボンヨウナマジュツナドキカヌ!!」
ゴーレムが腕を大きく振り上げ地面へと叩き付ける。
ドゴォォンンという轟音と共に、地面が割れ、衝撃が襲い掛かる。
「グワァァァ」
衝撃に耐え切れず壁へと叩き付けられる。思いっきり背中をうちつけ血が口から飛び散る。
すぐさまキュアアイズで回復し、同じく血を吐いているシトラスの回復に向かう。
フェルはどうやら回避できたようだ。
ゆっくりと近づいてくるゴーレムを一人で捌いている。
シトラスの所に駆けよる。血を吐いていて、呼吸も荒い、すぐに回復しないと。
「シトラス。大丈夫か? キュアアイズ。」
傷が収まり、呼吸も安定する。どうやら収まったようだ。
「ケホッ…ケホッ えぇ、私は無事よ。それにしても凄い力ね、あんなの喰らったらひとたまりもないわ。」
回復を終えたところで、ゴーレムの重い一撃をフェルが喰らう。
しかし、後ろに吹っ飛ばされただけで、しっかりとガードをしていたようだ。
「グッ…」
「フェル?大丈夫ですか!?」
「あぁ… しかしとてつもない破壊力だ… どうやら早々に片づけた方が良いな。」
「遊びはここまでよ。貴方の対策はバッチリなんだから」
懐からマジックレンズを取り出し装着する。
視界がクリアになり奴の魔力が視覚化される。
魔力が一点にたまってる場所… 見つけた! 左胸の辺り、丁度心臓の部分
「見つけました。」
「えぇ、分かりやすい位置にあったわね。フェル、ヒロ、手出し無用よ。
此処は私がやるわ!遠慮なくたたかせてもらうわよ!」
シュンッ… シトラスが一瞬で間合いに入り、突きのような形で剣を心臓部に突き立てる。
カキィン… 手ごたえ有りか?
「どうよ。」
ゴーレムの動きが鈍くなる、どうやら効いてるみたいだ。
「よし!そのまま叩け!」
「ハァァァァァ!!! 五月雨の舞!」
ガキィン キンッ カァン ガキン キコン バキィ コン カン ガキャン!!
乱舞のような怒涛の剣撃を畳み掛けるシトラス。ゴーレムがたまらず押され始めていく、
「良いぞ!そのままいっけー!」
「終わりよ! 瞬撃!」
シトラスが双剣を一つに束ね、両手持ちの構えとする。
シュンッ、音が置き去りになり、シトラスが全身全霊を込めて剣を上段から振り下ろす
しかし、剣が刺さると思われた矢先、シトラスの双剣は、ゴーレムの面前で見えない何かに阻まれていた。
「何よ、どうなってるのこれ!?」
押し込むシトラス、だがその剣は空で止まったまま動く事はない、
まるでそこだけに見えない障壁があるかのようだ
「グググウグ、大人しく斬られなさいこの鉄クズ!」
すると、ゴーレムの眼に光がともった。まずい何かが来る!
「離れてシトラス!様子がおかしい!」
「えっ?」
オォォォォォォン 唸り声と共に丸くかがむゴーレム、次の瞬間深紅のボディが光輝き。シトラスを吹き飛ばした。
「シトラス!」
フェルが咄嗟にシトラスをかばう。 そのままの勢いで壁まで激突するフェル。
ゴーレムの方は深紅のボディがさらに紅く染まり、それは綺麗な色ではなくもはや血の装飾と言った感じであった。
「オマエタチヲ、ハイジョスル、ハイジョ、ハイジョ、ハイジョ、」
深紅の体が光、キィイィンとした音が洞窟内に響き渡る。振動に耐え切れなくなったのか、壁が崩れ、地面が割れはじめる。
「ゴホッ… 大丈夫か?シトラス…」
「フェル! 助けてくれてありがとう。しかし仕留めそこなったわ。ゴメンナサイ」
「フッ、謝るなんてお前らしくないな、後は任せておけ、俺がやる!」
「大丈夫なの!? 私の渾身の一撃でも駄目だったのよ。」
「そうだな、あの敵は生半可な攻撃じゃ通用しないようだ。今の俺でもまともに通りはしないだろう。」
全身全霊の一撃を防がれて、自身を無くしてるみたいだ。無理もないだろう。
「そしたらどうやって!?」
「安心しろ、少し無茶はするが。必ず倒してくる。」
フェルが前に出る。
俺はフェルに回復魔法をかけて話しかける。
「手はあるんですか?」
「あぁ、とっておきがある、少しリスクもあるがな。」
「ヒロ。この戦闘が終わったら、俺の事を頼んだぞ。」
そういってフェルはゴーレムの面前に立つ。ゴーレムはフェルを一点に捉え、怒りにも近い咆哮で答える。
「まさか人前で見せることになるとは思わなかったがな… 俺もどうかしたものだ」
バッと服を脱ぎだす、男でも惚れてしまいそうなその美しいカラダに刻まれた紋章が激しく鼓動している。
「ウォアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
咆哮が空間全体に響わたる。体の芯にビリビリと突き刺さる咆哮
フェルの周りから凄まじい気の嵐が巻き起こる。立つことすら困難な暴風だ!
「フェルは何をするの!?」」
「分からない。」
フェルの体が真っ黒に染まり、その姿を消す。暴風がさらに強さを増す。
数秒経過した後、激しい暴風が収まりだす。
黒いオーラに包まれたフェルの姿が次第にあらわになる。
その姿は、一言で表すなら、凶悪な獣の姿であった。
全身が赤黒い毛に覆われ、紋様が血管のように全身に浮かんでいる。
顔の形が変形し、まるで狼だ
カラダは以前の2倍ほど大きい、ゴーレムにもひけを取らない巨大さだ。
「フェル!?」
「えっ?あれがフェルなの!?」
驚愕している。あの邪悪な禍々しい存在がフェルだと言うのか!?
とてつもない殺気が放たれる、こちらに向けられてない筈なのに、恐怖を抑える事が出来ない。
少しでも油断しようものならこちらから殺されるかもしれない…
しかし、フェルはこちらを向き、先程までとは変わり果てた姿になりながらも、こちらをじっとみつめる。その瞳は、何時もの優しい子供好きのフェルと同じ眼をしていた。
「フェル…」
「スガタガカワッタトコロデオナジコト、オレニハキカナイ、オトナシクサレ!」
そこにゴーレムが襲い掛かってくる。先程までとは違い、とてつもない速さで巨大な拳を振るうゴーレム。
フェルはというと完全に死角を突かれている。
「フェル!!」
しかし、フェルは振り向きもしないで片手でゴーレムの拳を捕まえる。拳の衝撃がこちらまで来るが、フェルは微動だにしない、その毛で覆われた獣のような手はゴーレムを捕まえたまま離さないでいる。
「ウォォアアアアア」
ブンッ ゴーレムをぶん投げる。追い打ちとばかりに空中で捻り、蹴りを加えてたたきつける。
「ガアアアアアアアアアア!!!!」
叩きつけたゴーレムに上からのしかかる。
ズゴォン
心臓の部分に一撃、地面が割れる。
バゴォン
ゴーレムの体にひびが入る。
「ア…オォオォ」
ゴーレムが嘆きにも似た声を漏らす、いや、もはや声ですらない。
「ゼァアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
絶叫をしながら拳を振り下ろす。その拳は心臓を貫き、ゴーレムの眼から光が消える。
「オノレ…マサカヤブレルトハ、アトラーフェサマオユルシヲ。」
そう言い残すとゴーレムの体が砂となり、残ったのは紅い宝石だけだった。
俺達はフェルの元へと近づく、その時、フェルの体がシュウシュウと音を立て、黒い煙がフェルの体から噴出されていた。
「フェル!?大丈夫ですか?って ウワッ!」
それと同時に、邂逅の指輪が激しく輝き、辺りの空間を埋め尽くす。
気付けば俺達は元の居た場所に戻ってきていた。
「戻ってきた… そうだフェルは!?」
辺りを見回す。瓦礫の山々があり、それ以外は何もない。
シトラスの姿が見える。彼女も戻ってこれたようだ。
しかしフェルの姿が何処にもいない。あの巨大な黒い獣の姿も、紅い髪が美しく舞う超美青年の姿も見当たらない。
「フェル! フェル! 何処ですか!?」
何処にも姿が見えない、もしかしたらあの空間に置き去りにされた?
もしくは瓦礫に埋もれているのかも知れない!
俺は無我夢中で辺りを探す。
「あのっ… ヒロ…」
シトラスの声がする。 俺は瓦礫をどかしながらフェルの姿を探している。
「シトラス! フェルを見てませんか!?」
「あのね、ヒロ。これを見て…」
瓦礫をどかす手を止める、シトラスを見る。
シトラスが胸に何かを抱えていた。それはフサフサとした紅い毛に覆われていた。
鼻が長く顔つきもキリっとしている。紅い瞳が吸い込まれそうな程綺麗である。
ぴょこんと耳が生えてるのが分かる。尻尾もあるようだ。
四つ足をバタバタさせているのが分かる。俺はその手を取る、プニプニとした感触が心地いい。
「フェル…ですか?」
「ワンッ!」
元気よく吠えられた。
…
…
「ええええええええええええええええええええ!!!!?????」
洞窟内に絶叫が響きわたった
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帰り道、ブリストに揺られながら俺達はザイーラの道の帰路についていた。
馬車内ではシトラスがフェルを抱きしめながら眠っていた。
強く抱えられてるのか若干苦しそうにしている。
「しかし、なんでこんな姿に…」
考えられるとすれば、あの変化、フェルが恐ろしい魔物みたいな姿に変わった事と繋がるが、理由は分からない。
「それにしても、これ、フェルは戻るんだろうか…」
そんな心配をしつつザイーラへと帰っていった。
犬大好きなんですよね、モフモフって可愛いなぁ




