マジックレンズ
「う~ん… もう朝か」
シルクとのリンクをすると、熟睡したという感じはまったくしないのだが。体はしっかりと休めてるようである。昨日の疲労もすっかりなくなっており、魔力も元通りになっている。
「やはり意図的に出来たか…」
昨日のおかげで意図的に繋がる事が出来た。片方の思いが強くてもリンクするみたいだ。
「ん?そしたら前にリンクした時は、シルクの方から俺に呼びかけてたのかな?」
今回と違い、前回は俺は何も思っていなかった。最初のリンクは運命の変わり目だからと言っていたが。
前回のリンクはシルクの方が強く願ってくれてたから出来たのだろう。
「そういや俺って、シルクが普段何処にいて何をしてるのか知らないな。」
時折見せる寂しそうな顔に、自由になりたいとも言っていた。もしかしてシルクは…
「う~ん、分からないな、次会ったとき教えてくれれば良いな。さてと…」
眠たい眼を擦り体を起こす。
バシャバシャと水魔法で顔を洗い、支度を整えて一階に降りると既にフェルが起きていた。
「おはようございます。」
「あぁ、おはよう。昨日は十分眠れたか?」
「えぇ、この通りピンピンしています。魔力も元通りです。」
元気とばかりにポージングを決めて見せる。
筋力がまだ無いこの体では美しいシックスパックもムキムキの上腕二頭筋も無く滑稽に映ってしまう。
「元気そうだな、準備が出来たら出発しよう。」
「えぇ…そうですね。」
俺達は荷物を整え。ギルドの方へと向かった。
ギルドへ到着すると、一足先にシトラスが到着していた。
「おはようシトラス。昨日は良く眠れた?」
「ふっふっふ。私を誰だと思ってるの?寝るスピードも私は世界一よ。昨日は5秒で寝ることが出来たわ!」
自信満々に答えるシトラス。だが悲しいかな、君は世界の広さを知らない。
「残念だがシトラス。君はまだ世界一ではない!!」
「な…何ん…だと!?」
「俺の知っている人は昼寝をするのに1秒もかからないと聞いた事がある。だから君は世界一ではない!」
俺の前世の漫画の知識ではあるが…
「そ…そんな、世の中にはそんなに早い人がいたのね… くぅ見てなさい。私も頑張るわ!」
熱く燃え上がるシトラス。その時、ギルドからエルさんが出てきた。
「おや、貴方たち?今日は随分早いのね。」
「エルさん。おはようございます。」
「おはよう。丁度良かったわ。貴方達、少し頼まれ事を聞いてもらえないかしら?」
「どうしたんです?」
「実は先日。ギルドにある情報が入ってね。魔人ゴーレムの洞窟から妙な唸り声が聞こえるとの情報が入ってね。誰かに調査に行ってもらいたかったんだよ。」
「魔人ゴーレム?」
「そういや、ヒロこの大陸の出身じゃないから知らなかったか。フェルは知ってるよね。300年前にこの地方で暴れた奴さ」
「あぁ…良く覚えている。あいつは強敵だった。」
魔人ゴーレム。フェルによると、昔ザイーラから遠く離れた所にある、魔族も寄り付かない洞窟に住んでいたとされる魔物らしい。石作りで出来ていた魔物で巨大で鋼の体でどんな攻撃をもはじくという。弱点である魔石を見つけ出してなんとか動作を停止させたらしいのだが。最近になって復活したのではないかという情報が入り込んできたらしい。
「奴が復活したら恐ろしいぞ。あいつは見境なく何でも破壊するバーサーカーだからな。」
「へぇ…そんな魔物がいるなら面白そうじゃない。ヒロ!フェル!早速そのゴーレムとやらを退治しに行きましょう!」
「って言われても、本当に復活したかどうかは分からないんだろう。もしかしたら他の魔物かも。」
「その時はその時よ。どんな敵でも私が切り刻んであげるから。」
「って言ってますけど。フェルはどうしますか?」
「ふむ、もし話が本当なら野放しにしては危険だ。ここは話に乗るとしよう
だが、奴と戦うなら必須の物がある、エル、マジックレンズはあるか?」
「あぁ…確か倉庫の方へあったはずだよ。ちょっと待ってな。」
「フェル?そのマジックレンズとは?」
「ゴーレム退治に必要な物だ。奴は体内に魔晶石を埋め込んであり、それを破壊すると動作が止まる。だが奴の体にはアダマンタイト鉱石で出来た強靭な肉体がある。あらゆる魔法を無効化し、龍の一撃をも寄せ付けない。神秘の鉱石だ。」
「そんな魔物、良く倒せましたね。」
「幸いにも、魔晶石の付近だけは他の所より少し脆くてな、そこをついてやっと倒した。そして、奴は魔晶石の位置を入れ替えることが出来る。その魔晶石を見抜く為にマジックレンズが必要だ。あれは魔晶石が放つ魔力を感知し視覚化できるものだからな。それがあればぐんと戦いやすくなる。」
「ただし。弱点の位置が分かっても奴には気を付けるんだ。何しろ力がある上に動きも早い。見た目は鈍足そうな体をしてるがシトラス。お前よりも素早く動いてくるぞ。」
「私よりも早く!? それは凄いね~、早く会ってみたいよそのゴーレムってやらに」
バシッと拳を合わせるシトラス。その表情は強者と会いまみえることに喜びを感じてる表情だった。
「シトラスより早くかぁ…俺は足手まといになりそうですね、魔法も効かないし、俺はシトラスの動きを捉える事すらできませんし…」
「あれ?そうだったの?じゃあ訓練しようよ、見切れるようになるまで付き合ってあげるから。」
「それはありがたいけど。困ってる人達もいますし、移動しながらお願いします。」
「分かったよ。捉えるようになるまでビシバシやってあげるね。」
「なるべく急いでくれると助かるよ。ホイ、これがマジックレンズさ。」
エルさんが戻ってくる。俺達に渡されたものはなんとメガネであった。
「これが…マジックレンズですか?」
「そうさ、これが魔力の流れを直接見る事が出来るマジックレンズさ、これがあれば、魔人ゴーレムの弱点である魔晶石の位置を特定する事が出来るよ。」
外見は何の変哲もないただのメガネなのだが。
「かけてみますね。」
「あっ、こんな人の多い場所でかけたら…」
スチャッと装着する。すると視界が多種多様の色で埋め尽くされた。
赤に緑に白に青色。色がグルグルしている。その光景に思わず
「ウェップ。気持ち悪い。」
バタンと倒れてしまった。
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「ここは…」
「ギルドの休憩室よ。ヒロったらいきなり倒れたからびっくりしたわ。」
俺は倒れたみたいだ。隣にはシトラスが心配そうに覗いている。
ふとおでこにひんやりとした物が乗せられている。どうやら看病していくれたらしい。
「ありがとうシトラス… ウップ」
「ちょっと待っててね。水を貰ってくるわ。」
パタパタと外に出るシトラス、数秒後、コップ1杯の水を持ってきてくれた。
「ゴクゴク プハッ うん、少しは楽になったよ。ありがとう。」
「どういたしまして。それにしても何で倒れたの?」
「いやぁ、人が多い中駆けちゃってね。たくさんの人の魔力が全部見えてしまって、耐えられなくなっちゃって。」
「ふーん、変なの。どういう風に見えるのかしら、ここにはヒロしかいないから大丈夫よねっと。」
メガネをかけるシトラス。キリッとした感じになりかっこ良さが増した気がする。
「うわっ、これ凄いわね、ヒロの周りからバチバチしたものが見えるわ。」
「ん?どういう事?俺が見たときはゆらゆら~って煙見たいな感じだったけど。」
「違うわよ。ヒロの周りがバチバチ!!って凄い事になってるわよ!」
俺もレンズをかけてみる。そこには赤くゆらゆらと煙のようにただようのがシトラスの周りに広がっていた。
俺は部屋の隅にあった鏡の前に立つ。そこには緑色と青色がオーラみたいに現れ互いに色をかえつつも激しい戦いをくりひろげていた。
「なんだこれ、俺の周りだけ変じゃないか?」
「でしょ。私はこんなゆらゆら~としか出てないのにどういうこと?」
「それはヒロの魔力の質が相当な物だからだろう。」
フェルが休憩室のドアを開けて部屋に入ってくる。
フェルにもマジックレンズがかけられており、長い赤髪と相まって賢人のような風格を感じさせる。
「フェル!」
「どうだ?気分は落ち着いたか?」
「ハイ、おかげさまでなんとか。」
「それより、これってどういう事なの?」
「マジックレンズを通してみる魔力はオーラとなって視覚化される、そのオーラの色により得意な属性や資質を見ることが出来る。シトラスのは赤いゆらゆらとしたオーラということは、お前は火属性が一番適正が有るという事、ヒロは、その様子だと水と風魔法が得意という事だな。だがそこまでのオーラはそうそう見れたもんじゃない。ヒロの魔力資質は、普通の魔道士とは比べ物にならない程高いという事だ。」
魔法に関しては小さい頃から鍛えてきたが、俺は普通の魔道士よりも凄いらしい。あの頃の努力は無駄じゃなかったようだ。もしかしたらサリーや、ユイも凄いオーラを出せそうである。
「ねぇフェル、フェルの体からは何も見えていないけど。どういうこと?」
ハッっとして俺はフェルを見る。フェルの体からは何の色も出ていない。
「俺は、魔法が使えないんだ。」
「魔法が使えない?それって?」
「簡単だ、単純に俺は魔力を持っていない。普通この世界に居るものは大なり小なり魔力を有している。だが俺は魔力というものを持っていないこのおかげで忌み子だとも言われたことはある。」
驚いた。フェルが魔力を持たないとは…
「そうだったんですか…」
「そう心配するな、魔法は使えないが魔法の知識はある、魔道士の対策も怠った事はない、魔法が使えなくとも、俺は遅れを取りはしない。」
「そうよね!魔法が使えなくたって。魔道士なんて懐に入ってしまえば余裕なんだから!はっはっは」
シトラスが笑う。確かにフェルは魔法がつかえなくても強い、特に問題はないだろう。
「効果は良く分かっただろう。それで魔人ゴーレムの弱点を探る。回復したならさっそく出発だ。」
「分かりました。」
俺達はギルドの裏にある馬小屋へと赴く、目的はもちろん。
「ブリストー 今日もよろしくな~」
ブルルヒヒヒーーンと鳴くブリスト。
デルビニクパンダの依頼が終わったその日、再びブリストを馬小屋に預けていた。
約束通り、ブリストは俺の所へ戻ってきた、しかし常時見てはいられないのでこうして一緒に見てもらっている。
「おぅ、坊主、今日もこいつは元気だぜ、やはり素材が良いと世話のし甲斐もあるってもんよ。」
「ありがとうございます。これから洞窟の方へ向かうのでまた連れに来ました。」
「おっ、あそこかぁ、そりゃお前も走りがいがあるってもんよな。しっかりご主人様に従えよ。」
つないでいた縄が外され解放されるブリスト、
「よし、さっそく行くよブリスト」
ブルヒヒーーン
俺達はザイーラから離れた洞窟へと出発した。
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