ザイーラとシルクの夢
「ここがザイーラか」
俺達はブランド大陸の南端にある町に辿りついた。
石造りで出来た塀が町を囲むように覆われており、町の入口には巨大な門と門番が立っていた。
「止まれ!お前ら、何しにこの町に来た、ってなんだフェルじゃねえか。
お前今まで何してたんだ。」
門番にいる男が声をかけてくる。その男は眼玉が4ツついていて4つの眼がギョロギョロと別々に動いている。魔族のようだ、
話してる言葉は魔族語だろう、覚えたのと発音が少し違うが何とか聞き取れる。
「いや何。いつも通りブラリとしてただけさ。今はこいつをグランスバニアのオラクルまで送り届ける旅をしてる途中だ。その為に少しばかり用があったんだよ」
「グランスバニアって… あのオラクルが消滅したっていう転移事件があった所じゃねえか。
お前さんその生き残りか?珍しい事もあるもんだな。」
ん?オラクルが消滅した?どういう事だ
「すいません、オラクルが消滅したってどういう事ですか?
「なんだお前さん知らないのか? まぁ当事者は事情がつかめないか。
これはちょっと前の事なんだがよ、オラクルが謎の光に包まれて町の半分が消し飛んだって話らしい。
その時に居た連中は皆何処かに転移されたんだとよ、強靭な冒険者ならまだしも、普通の奴らまでもが魔物の巣食う所に飛ばされたりと。被害が凄いらしくてな。」
なんだと… あの光は俺達の村だけじゃなく、オラクルまで及んでたと言うのか。
まさか村の人達全員か!?余り話したことはないが顔は知っている。
皆が転移させられたのか…あの村にはオルバが守っていたが余り戦闘出来る人はいなかったはずだ、
それがいきなり魔物の群れに飛ばされて生きて帰ってこれるはずがない。
一気に恐怖心が体全体を襲った。
「おおぅ、すまねえな坊主。お前知らなかったのか。余計な事言ってしまったな。」
「いえ、ただ少しばかりショックがデカかっただけです。まさかそこまでの規模とは思ってもいなかったんで。」
視界がかすむ。思ったよりショックがデカイ。
なんだかんだ10年は住んでたからな…
「とりあえず今日はもう宿を取りたい。茨の揺り籠まで案内してくれ」
「了解。案内料石銀貨3枚な」
フェルが懐から石の形をした貨幣を3枚取り出して門番の男に渡す。
「ありがとうよ、じゃあついてきな。」
街並みの中を案内される。オラクルと比べると随分と小さな町だ。
確かあそこは世界一の城下町だったかな?あれと比べるのは失礼か。
くねくねとした道を進み。
中心広間に躍り出る。
そこより西に壁沿いに歩いていくと。小さな茨の棘が描かれた看板が見えた。
「いらっしゃい。あら!フェルじゃないの。随分久しぶりだねぇ」
宿屋に入ると景気のいい声が聞こえてくる。
出迎えてくれたのは大柄な人族の女性だった。
「久しぶりだなクレア」
「あら?その子は一体何処の子だい?この変では見ない顔だねぇ。」
「あぁ紹介する。こいつはヒロ・トリスターナ、オラクル異変に巻き込まれて家族を探しながらグランスバニアに送り届ける途中なんだ。」
「あぁ…あの異変の、良く生き残ってたねぇ」
「フェルが居なければ危ない所でした。感謝しきれませんよ」
「そうだねぇ、フェルは子供の事は絶対守ってくれるからねぇ。あたしも数10年前に魔物に襲われそうになったのを助けて貰ってねぇ。いやぁ~懐かしいねぇ。」
そういって遠い眼をするクレア。
フェルは前にも何人か助けていたらしい。クレアさん曰く子供の事を助けずにはいられないらしい。
「それで何泊するんだい?」
「あぁ、とりあえず1月はいようと思う。情報収集と、これからの旅の資金調達だな…
ヒロ、それで良いか?」
「ハイ、大丈夫です。それよりも、資金調達って一体何をするんです?」
「決まっている。俺には商売の才能はないが魔物相手なら得意だ。ここには冒険者ギルドもある。
そこで登録をして魔物退治の依頼を受けるのだ。余り気乗りはしないがな。」
冒険者ギルド! 秘かに憧れていた、オラクルの時は見物しか出来なかったけど。
フェル曰く。オラクルの転移事件についても色々と情報を共有してるらしい。
安否確認や行方不明者の捜索の手伝い等も出来るとか。
「早朝には登録を済ませるつもりだ。今日は疲れたろう。ゆっくり休め」
「分かりました。ではおやすみなさい。」
部屋に戻り水浴びを行いベッドに潜り込む。眠気が体中を襲いすぐさま眠りに落ちた。
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気付けば白い空間に居た。
そう、ここはシルクとリンクした時に来れる。周りには何も無くただ無限に続く白い空間が続いていく。
そこに一つの光が現れる。その光はまばゆく発光し、やがて一人の少女の形を作り出す。
白く輝いた長い髪がふわりと舞う。体つきは幼くしかし不健康という訳でもない。
髪に似合う白の衣装に身を包み、背中には人の者とは思えない立派な羽がついていた。
「あら、ヒロ、久しぶりね。」
「久しぶり、といっても、3日しかたってないけどな。」
「3日と言っても貴方と会えるのはうれしいわ。こっちは退屈でしかないしね。」
くすくすと笑うシルク。思わず照れてしまう。
「こっちは大変だよ。故郷は無くなってるって聞くし、ブランド大陸に飛ばされたからな。
そっちは魔力暴走の影響受けなかったんだな? グランスバニアの出身じゃないのか?」
「そうね。私は別所にいるの。そこはなぁんもない所よ。天気の影響がないぐらいかしら。
本当に何もない。退屈で退屈でね、他の所にも気軽に行けないし。前のオラクルに行た時は結構無茶したのよ。今はこうして貴方と話すのが精一杯だわ…」
「結構複雑なんだな…まぁ話相手ぐらいなら何時でもなってやるよ。」
「ありがと。じゃあそうね。貴方の前世ってどんなだったのかしら?私はあの時のヒロしか知らないもん
もっと詳しく知りたいわ。」
「俺の前世か…」
生まれも育ちも平凡だ。生き方も平凡。ちょっとばかしヒーロー気分が強いだけ。
面白い話あったかな…
シルクは俺の話を真剣に聞いてくれた。俺にとっては他愛ない話でも、彼女は面白そうに聞いてくれた。
シルクが興味を示す時。可愛い笑顔を見せてくれる。俺もシルクと話すのが楽しくなる。
このままずっと彼女と話したいくらいだった。でもそんな時間もそうは続かなくて。
「シルク。君、体が…」
彼女の体が薄くなる。そろそろ時間切れのようだ。
「残念ね、もっとお話ししたかったわ。この続きはまた次にしましょう。
そうだヒロ、明日ギルドへ行くのよね。」
「そうだけど、どうしたんだい?」
「最後に私からの助言を与えてあげるわ。貴方にとって良い事が起こるかもね。そういう色が見えたわ。
ヒロ、明日ギルドへ行ったとき。デルビニクパンダの緊急討伐依頼、それを受けなさい。
そうすれば何かが起こるわ。じゃ、また会おうねヒロ。」
シルクが光の粒子となって消える。その瞬間俺の意識もまた暗闇に戻っていった。
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更新頻度が減ってるのまずい傾向です
定期的に更新していきたいです




