黒き龍と白い空間
それは10歳の誕生日の夜の事であった。
シンドラとエイフリードを貰い。
庭で色々試していた。
シンドラの風の加護は優秀だ。
俺の風魔法の威力が跳ね上がっている。
同じ魔力量で約2倍もの威力が出せた。
魔力消費も前より半分以下に抑えられている。
これなら前に思いついた魔法を常時発動出来るかもしれない。
流石師匠だな… 俺に必要な物をちゃんとわかってくれる。
エイフリードも流石オルバが選んだものだな。
もう手になじんでいる。 まるでエイフリードに意思があり流されるかのようなフィット感だ、
数時間くらいだろう、色々試し家に戻ろうとしたときだった。
いきなり景色が変わったのだ。
「空が… 赤い」
異様な光景だった。
空が赤く染まっている。さっきまで暗かった。何時もの夜だったのに…
不気味すぎる
「ヒロちゃんこれって…」
「ヒロ様…これは」
家からユイと師匠が飛び出してくる。 そうだ…これがシルクの言っていた事か…
すると山の方から咆哮が聞こえた。
何事かと空を見ると。
そこには巨大な竜の姿が村の方に迫ってきていた。
「なんだあれは…」
「ヒロ様!あれはクラウドドラゴンです!
どうしてこんな所に… 魔素の乱れでも生じたのか…」
クラウドドラゴン。
地竜・グランドドラゴンの幼体の姿。
幼体と言えどもその力はすさまじく。討伐ランクはAという名のある冒険者でないと退治できない大型竜である。
「なんでそんなのがここに…どうします師匠!?」
「とりあえず迎え撃ちます。村にあんなのが到着したら大参事です。
ヒロ様はオルバ様を連れてきてください。
私はルーラーの準備をしてきます。ユイも着いて来てください!」
家には障壁が張られていた。これは結界か?
家に入りオルバを呼びに行く。 そこには既に準備を終え。いつもとは違う真剣な戦士の顔があった。
「ヒロ!どうなってるこれは?」
「父様。今クラウドドラゴンが村に接近しています。 このままだと数時間もしないで村に到着してしまう。師匠がルーラーを準備しています。こちらへ来てください。」
裏庭の倉庫へ向かう。ルーラーの起動を終え、俺達は乗り込み。山の方へ飛んで行った。
「父様。母様達は?」
「アイリーン達なら家でエレナとフランを見ている。あいつも元冒険者だ。心配はいらない!それよりも。まずあのクラウドドラゴンをなんとかしないとな…あいにく飛んでるやつには俺の剣は届かねえ。まずお前たちがなんとかしてクラウドドラゴンを地上に落としてくれ。そうしたらなんとかしてやる…」
「わかりました…まずは翼を削いでしまいましょう。ヒロ様のアクアブラスターや風のトルネードであれば 削ぎ落とせる筈です。二人とも良いですね。」
コクンとうなずく俺達。
「さぁてそろそろ降りるか、ってなんだあれは!?」
驚愕するオルバ。見ると山の方から来るのはクラウドドラゴンだけじゃない。
山に住む魔物達が無数の群れをなして向かってきていた。
「どうなってやがる… この変な空で魔物達が狂ったのか?」
山の魔物は普段は村に降りてはこない… 人の味を覚えた奴か。はぐれもののどちらか以外は…
見るとオークにフレイムコボルト…そして忌々しいオーガの姿もある。
「まずは奴らを何とかしないとですね。上級で一気に殲滅します。」
「へっ、クラウドの前に良い肩慣らしって所だな…
たかがDランク程度の群れなんざ怖くねえ。行くぞ!」
オルバが先行する。それを見て襲い掛かる魔物達。
だがオルバの前に1匹また1匹と切り裂かれる。
オルバの強さは折り紙つきだ。しかも元Sランククラスの冒険者。
Dランクの魔物等赤子同然のようになぎ倒していく。
「こちらも行くか。水よ穿て、アクアブラスター!」
水龍を形成し魔物の群れに放つ。うち放たれた水龍は次々と貫通していく。
「ユイ、こちらも行きますよ。トルネード」
「うん! トルネード!」
風の暴風が敵を切り裂く。師匠とユイの二人で放つトルネードは巨大な竜巻となり魔物達を無残な形へと切り裂いていく。
「ひゅ~ やっぱ上級魔術師が3人もいるとらくだねぇ。さぁて俺も頑張るか…」
次々と数を減らす魔物達。どれだけ徒党を組もうが、力が違いすぎる。
クラウドドラゴンが到着する前にほとんどの魔物達を殲滅する事が出来た。
「さぁて本命のお出ましだな。」
ギャアアアアアアと激しい咆哮を放つクラウドドラゴン。
「なんてうるさい…うおっこっちきやがった!」
俺に向かって直線で飛んでくる。鋭利な爪がキラリと光った。
「ヒロちゃん!」
ユイが叫ぶ。クラウドドラゴンはすぐ目の前に接近している。
「アクセルウィンド!」
全身に風の結界を纏わせる。纏わせた風の結界により急速にその場を逃れる。
余りの急加速に体制を保てずそのまま転がり続けていく。
「いてててて… やっぱまだ慣れないなこの魔法は。」
エステアを編み出した時に出来るのではないかと思った魔法。
レビテーションの効果を全身に付与させ。思いのままに風を使い動きを急激に早める魔法。
思う方向に風を操るこの魔法は。魔力の消費が激しすぎて使いきれなかった。
だがシンドラの効果により、この魔法の発動にも大した魔力を使わず維持することが出来る。
「今の俺を捕まえるのは簡単じゃないぜクラウドドラゴン!」
獲物を見失い再び空へ飛ぶクラウドドラゴン。
「遅い。フローズンブラスター!」
氷龍を放つ。高速で放つその一撃はすんでの所で回避される。
「ちっ、ならば連続で!」
氷龍の連射… だがそのどれもがクラウドドラゴンに当たる事はない。
体を捻り、空を駆け。全ての氷龍をかわしていく。
「当たらないか…」
魔力の無駄打ちとなってしまった、もっと確実に当てれるタイミングを掴まないと。
「師匠、ユイ、まずは機動力を落としますのでお願いします。」
「分かりました。ユイ、トルネードの準備を」
師匠が魔力を溜める、それを見て俺とユイも魔力を溜める。
狙うはクラウドドラゴンじゃない。周りの空間だ!
「「「トルネード!!!」」」
風の竜巻の3人同時発動。それをクラウドドラゴンが飛んでる制空権の外側に展開させる。
3つの竜巻が逃げ場をなくし範囲を狭める。
やがて密集し一つとなったトルネードによりクラウドドラゴンがズタズタに切り刻まれる。
「ヒロ様今です!」
「氷よ穿て!フローズンブラスター!」
氷龍を2体同時に発射する。
狙うは翼の付け根の部分。 身動きが取れなくなったクラウドドラゴンに見事命中し体から翼を分離させる。
ギャオオオオオオオオオオオオオンン
絶叫と共に地に落ちるクラウドドラゴン。
そこに待ってたのは愛刀構えるオルバの姿だった。
「これで終わりだ。」
一閃。オルバによって、クラウドドラゴンの首が宙へと舞った。
ドサッ、崩れ落ちるクラウドドラゴン。
「後は残った魔物だけだ。油断するなよ」
残りの魔物達を殲滅する。
「これで終わりですかね…」
「と言いたいけどな、まだあの赤い空は消えてくれないようだな」
空を見る。
赤く光る景色はこちらをあざ笑うかのように不気味に漂っている。
次第に威圧とも言うべき感覚が襲う。
見ると雲の上に巨大な影が出来ている。
その影はさらに大きさを増し。
やがて姿を現した。
それは巨大な龍であった、クラウドドラゴン等比較にならない大きさの龍
黒き巨大な体、4本の翼に巨大な尻尾。胸には大きな傷跡がある。
グゴアオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンン!!!!
その龍は咆哮する。
全身をかけめぐる恐怖、荒れ狂う風に耐え切れず体制を崩してしまう。
空気は叫び地面が揺れ動く。この世界全体が揺れ動くかのようだ。
龍が何かをした音が聞こえた。
辺りを光が包む。その光はやがて体全体を包み込み、意識は深い闇の底へと沈んでいった。
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そこはグランスバニア大陸のはるか南
世界の中心にポツリと存在する天大陸。
周りを断崖絶壁の山に囲まれ、波が荒れ狂う場所。
周囲には龍が多数徘徊している。
その中にある聖龍山脈と呼ばれる場所にはSランクの冒険者が束になって撃退するのも困難な巨大龍が多数生息している。
そこに一人の男が聖生山脈の道を歩いている。
その男は黒い鎧に銀色の仮面をつけている。うっすらと見える黒い髪に仮面からのぞかせるのは見るものを恐怖に陥れる程の殺気に包まれた金色の眼だ。
「この咆哮…デルタか、という事は天人達め…制御しきれなかったか。」
ボソリと呟く男。その周りを龍達が徘徊する。
自分たちの縄張りに無断で入っている男を何故襲撃しないのか。
龍達は分かっているのだ。
あの男に近づいてはいけないと。
その男に1匹の若きフレアドラゴンが襲い掛かる。この龍は思う、あんな人族如き、われらの敵ではないと。
火のブレスを吐く。周りの地面や草木が溶けてなくなる。
だが男は意に反さないように何事もなかったかのようにそのまま歩いていく。
フレアドラゴンは怒り、男を食い破ろうと接近する。
男は腰にかけた剣を抜きスッと一振りする。男が腰に再び剣を収めるとフレアドラゴンの体がズタズタに切り裂かれる。
「躾のなってないフレアドラゴンだな。そのプライドがお前を死に追いやったのだ…」
死んだフレアドラゴンを火魔法で焼き払う。その亡骸を背にしながら、男は再び聖龍山脈を一人歩いていく。
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気付けば白い空間に居た。
「何処だここは?」
見知らぬ場所だ。生前死んだ時もこんな所に来た覚えはない。
「あの黒い龍が姿を現して、光に包まれて…」
そうだ、俺たちはクラウドドラゴンを倒した後。黒い龍の光に包まれたんだった。
ユイは無事か?師匠は?オルバ達は?そんな心配をしつつ白い空間をひたすら走った。
すると。奥の方から小さな光がこちらへ向かってきた。
やがて光は変化をはじめ、人の姿に変形した。
「君は、シルク!?」
そう、それはシルクであった。
オラクルで出会ったときとは違う、今の姿は生前見た姿に近い。
だけど一つだけ違うところがある。それは背中に生えた翼だ。
鳥のような…だけど何処か神秘的なそれは…シルクの体を通して生えていた。
おかげか、シルクから神々しい雰囲気を感じ取れる気がする。
「ヒロ、また会ったわね。嬉しいわ」
フッと笑みを浮かべるシルク、
「シルク…教えてくれ、ここは何処だ?なぜ俺はここにいる?あの龍はなんだ?ユイ達は無事なのか?なんで君がいる?あの赤い空の原因は?君の正体は?これからどうなるんだ?」
「ハイハイ落ち着きなさいよ。もう、貴方ってばすぐ興奮するんだから。ちゃんと説明してあげるから落ち着いて。」
うっ、またやってしまった。どうにもシルクと会うと冷静さを欠いてしまうな…
「まず、私の正体はまだ秘密。もうちょっとしてからの方が良いかしらね。そしてここはヒロと私の無意識が融合した世界。この世界にいる時は私と貴方は意識がない状態の時ね。今あなたは多分寝てる状態よ。私もだけど。何故そんな世界があるのかというと。ヒロと私の運命の色が同じになったのね。運命を変化させていく内に、ヒロと私の存在が近くなっていって、本来交わるべき存在ではない私達が出会い、双方の運命を変化せる度に近づいて行った。そして最終的に一つの線になったという訳。最初はヒロの元いた世界で。次は町で出会った時。っで最後があの黒い龍が出てきた時ね、その時に私達の線は一つになったわ。そして一つになった線がつながり。こうして無意識可でならお互い干渉できるようになった。これってそうそう無い事なんだけどね。どう?分かったかしら?」
ぜ…全然わからない…
無意識の世界?今俺は意識がない?運命がくっつく?何を言ってるんだ…
「すいません全然わかりません。」
「そう。まぁ全て理解してもらう必要はないわ。要は私とヒロの運命の糸が今くっついてると思ってくれればね。好きでしょ?そういうの?」
「ん…まぁ」
好きか嫌いかならまぁ、好きだな
「それと貴方が一番知りたい事、あの長耳族のユイちゃんだっけ?彼女は無事だわ。ラインハルト大陸にいるみたいね。詳しい場所までは分からないけど、狐族の子と一緒にいるみたいね。そして貴方の父親と母親、それにその子供達かな?その子達も一緒よ、彼らは東のルーヘヴン大陸にいるみたいね。とりあえず皆無事みたいよ、良かったじゃない。」
そうか、全員無事か。良かったぁ、って待てよ?
「なんでそれぞれ別々の大陸にいるんだ?おかしいじゃないか」
「おかしくないわよ。あの黒い龍がいたでしょ。あの龍はデルタドラゴンって言ってその光に触れた物は無差別に別大陸へ転移させられちゃうのよ。理由はあそこの地域の魔素の暴走。前からあの地域の所だけ異様な魔素の塊があったんだけど…それが暴発したみたい。魔素が暴発すると魔力暴走が起きて地形を変えるんだけど。あのデルタドラゴンはその暴走した魔力を糧に生きてる存在なのよ、まさかこれほどの規模とは思わなかったけどね。」
ペラペラと説明しだすシルク…魔力暴走か、あの山に魔物が最近なりを潜めてたのはそういう訳なのか?
いやそれよりも。
「まさか離れ離れになってしまうなんてな、」
そう、問題はそこだ。ユイには師匠がいるから問題はないだろう。それにユイも強い、あの二人なら大丈夫だろう。
問題はオルバ達の方だ。特にエレナとフランだ、いくらオルバとはいえ二人を見つつ守りながら戦うのは至難の技だろう…
「あれ?所で俺は何処に飛ばされたんだ?」
光に包まれたなら俺も転移させられてるはず。だけど家族たちと一緒にいないってなると、一体何処へ?
「それは起きてからのお楽しみで良いんじゃないかしら。大丈夫、とっても良い所よ。最近退屈してた貴方にはぴったりな場所だわ…」
そうなのか、ちょっと不安だけどな…
「そろそろ意識が目覚めるわね。つまんない事…」
シルクの姿が再び光へと変わろうとする。それと同時に周りの景色も暗闇に染まっていく。
「待てシルク。最後に一つ良いかな?」
「何かしら?」
「君は俺の味方で良いんだよね?」
「どちらでもないわ。それは貴方次第と言った方が良いかしらね。
ま、運命の糸は繋がってるから悪いようにはしないと思うわ。
じゃあ…またね、ヒロ。」
最後に見た顔は、少しだけ悲しそうな顔をしていた。
中央に聖龍山脈があり
北にグランスバニア
東にルーヘヴン
西にラインハルト
南にブランド
それぞれの大陸があります。 それぞれの大陸は大体均等、
グランスバニアが一番大きくブランドが一番小さいです




