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最近の困った転生者たち

作者: そら猫豆

「はぁ、またですか」


 見目麗しい豊満な体つきの女性が深い溜息と共に目を伏せていた。

「どうされたのですか、アシュタ」

 所謂子供体系の少女がアシュタに近づくとアシュタはぷるんと胸を揺らして振り返る。

「どうもこうも、地球ですよ。私がこの星の魂を管理するように大神様から仰せつかってから死ぬわ死ぬわの大量死です。大神様も地球はお前が管理するようになってから死者の数が多すぎると指摘されてから私は自分なりに原因を探って来ました」

 

「難しい話は分からないよ」

「そうでしょうね、神としてはまだ幼いあなたに相談するなんて私は少し疲れているのかも」


 死んでからとりわけ冷静なのは日本人だった。地球ではそうだとアシュタは思う。

 しかしそれはあまり良い方向での冷静さではないとも。


「あ、また死んだ」

 この星を騒がせているとある地域での虐殺から死んだ者達の魂がこちらにやってくるのが見える。

「はあ、それではまた行ってきます……」

「行ってらっしゃいアシュタ」


 今度はどんな魂だろう? そんなわくわくした気持ちはとうの昔に忘れてきた。

 とにかく一度に百から数千の魂が入り乱れるのがこの地球という星だった。

 何にもないからこそ、死と生を頻繁に行う場所にはうってつけらしく若い魂はこぞってこの星に転生する。


『○○○○教になんか生まれるんじゃなかった。ファックな死に方したぜ』

『ああ、こんなことなら平和な世界に生まれたかった』


 自分であえて過酷な運命を選んで転生したくせに割と死ぬとこんな感想を漏らすのが連中だった。

 アシュタはそれでも彼らの願いを聞き入れ、平和な国、特に日本を限定して転生するがここ最近日本は飽きたという魂がいることも事実だった。


『日本ですか? この間やったしなあ、あそこは平和だけどつまらないよ。そう、つまらない! どいつもこいつも考えてること同じでさあ。独創性がないっていうか、驚きがないんだよね』

『わかるわかる、海外文化に触発されてでしか良いものが生まれないんだよね。感受性が平坦っていうかさ、良くも悪くも面白みがないの』

『自分もこの間日本人やりましたよ。良い国でしたけど、すぐ隣にふざけた民族いるでしょ? あの配置が憎らしいよね』

『誰ですかね、あんな配置にしたの』


 一斉にアシュタが視線を集める。

「わ、私ではありません。前任の神がサプライズにそういう配置を運命付けたのです。あの星に最初に誕生させたのはシュメール人ですが、それだけじゃ面白くないという意見が多かったので野蛮な人種も入れたのです」


『はあ、それがマンネリだっていうんだよね。もう最近じゃ虐殺が流行になってるし、ここ数千年は特にそうだよ』

『1万年前にも同じ事あったよね。星が落下してさ』

『ああ~、兵器でしょあれ。夜空に星が一杯見えたからよく覚えてる』

『虐殺に気づけなかったからあれはカウントされないよね?』

『どっちにしても殺すことしか頭にないよね、この世界』


 魂が世界と指すときは宇宙そのものを意味する。


 よくある小説批判のようなノリで魂たちが雑談しているのだが、アシュタは常にこんな愚痴を辛抱強く聞いていた。


「そろそろ、生物フェーズが第5次元に移行しますので幼少期から天才的な才能を持って転生することも可能ですけれど、やりますか?」


『ふぅん、それでもいいかな』

『大人を顎で使う子供として生まれるってことだよね。何だかな、面白いのかなそれ』

『やってみればいいんじゃない? 面白いかもよ?』


 死んだときの恐怖を覚えていながらも好奇心には勝てなくなるまだまだ若い魂たちだった。


 結局、やってきた数千の魂は再び転生することを望み、その準備段階に入った。

 時間と場所、どのような親の元に生まれるか、どんな人生を歩むか。これらは全て本人の魂と今生きている人間の魂のバイパスを繋いで行う。

 そのため、直接的な交渉はないにしろ必然的に似通った魂が集うことになり彼らは最適化された場所に生を受ける。


 死んだり生きたりするその結果さえもこの魂の相互連絡による結果がもたらすものであるからこそ、彼らは自分たちの生き死にを自在に選んで転生することが可能となるシステムだ。


「最近は生前に能力を求める魂が増えていますね……」


 アシュタの隣から声を上げる人物は額を拭って白い地面を補修していた。

「ご苦労様です」

「これが仕事ですからね。希にこの世界に干渉してくる魂もいますから驚きですよ」

「全てがうまくいくわけではありませんしね」


 生前に自分が魂の存在であることを忘れてしまった者は帰り道を見失って消滅することがある。

 そうなる前に釣り糸を垂らして救済することがあるのだが、それが今アシュタの隣にいた人物が行っていたことだった。


「ごめんなさい。また死者の魂です」

「はい、頑張って」

「ありがとう」


 日本で自殺した男の魂がゆっくりと登ってくるのが見えた。

 日本人は自殺傾向がある。

 自他を愛する力が強いが故にその愛情が消化されないと日本人は割とあっけなく自害する。


 アシュタの認識ではそうだった。


 それ故に異国文化を取り入れた今の日本に危機感を覚えてもいた。

 核家族の強化、学年別学習。

 こういった区切りのある生活は生来の彼らの気質とは趣を異とするものである。


『こんにちは、女神様』

「こんにちは」


 アシュタは直感する。この男の魂はヤバいと。

 だいたい、魂の存在になっても性別を保ったままだということは色欲に溺れていたことを指す。

 多くは欲求不満すぎて次回の人生では強姦魔か隣の国の人間として生まれることになる。

 つまり愛情が逆転して全てを憎む生き方しか出来なくなってしまうのである。


『僕はエッチしたい』

「ストレートですね。私の体を見ても何も感じませんか?」

『感じない、見えない』


 ロリコンである。

 こうなるといよいよ始末が悪い。

 もし彼が正常な人生を送っていてロリコンでなければ、アシュタが自らの身を以て彼の魂を浄化することも出来た。

 愛情の方向を正しい向きに変えてやれば来世はゲイかレズで済むのだ。


「ユーナリア。こちらに来て下さい」


 先ほどの少女が何もない空間から形を形成していく。

「どうしたの、アシュタ」

「この男はロリコン」

「またあ?」


 ユーナリアはそう言いながらも魂の存在だけとなった男に近づいていく。

『はあ……はあ……』

「うーん、結構重症かも。これだと転生しても殺人事件になると思う」

 男にはユーナリアの身体が自身の愛の象徴のように見えている。

 とどのつまり、魂は見たいものしか見えないのである。

「仕方ないですね、殺されることを許してくれる魂にお願いしておきます」

『幼女……幼女……』


 強制的に地球に送還する。

 アシュタは淀みの部分があるのは仕方がないと割り切っていた。

 魂の本質は捻れであるからどのようにでも変化する。

 これらが再び一つの輝きを持ったとき、アシュタたちの仕事も終わるのだがそういった時間に左右される仕事ではないので気長にやっていた。


「また日本人ですね」

『お、マジかよ。神様だ』


 はっきりとこちらを視認できるということは概ねまともな死に方をした部類である。

 アシュタはほっと溜息を着いて若い魂を迎えた。


「名前は言えますか」

『荒木翔太。高校一年生です』

「……」

 重傷者だった。

 通常魂の存在は記憶を保持しない。

 せいぜい死に際の恐怖を鮮明に覚えているくらいで、俗に言う前世の記憶持ちというのは夢などで補完されることが多い。

 

「あの星がどこだかわかりますか?」

 そう言って何もない空間を指さすと荒木は震えた。

『俺が死んだ場所だ』

 こういった恐怖は転生時にマイナスファクターとして働く。

 つまり、生まれたくないという意識や怖いという意識は直接的に荒木の魂を歪めてしまう。


 魂は常に楽しい、面白い、というようなガチャガチャを回すときのような気持ちでなければうまく機能しないのである。


「……荒木さんは私の体がどのように見えますか?」

『もちもちしてて綺麗だよ』

「男性ですね?」

『はい』


 こうして記憶も持ち尚且つ実世界と同じように天界を視認している魂となると、再び地球に人間として転生させるのが難しくなる。

 虫や動物としてワンクッション置く手が一般的だった。

『俺さあ、異世界とかでファンタジーやりたいんだけど』

「ああ、あのお話ですか」


 アシュタは荒木の記憶を覗けるのですぐにそれは理解できた。

 それにこういった要望は別に珍しくも何とも無い。

「魔法の世界は実在しますよ。高度文明の時代では地球でもかつて行われていましたから」

『マジ!?』

「科学の延長です」

 荒木にその映像を見せると荒木は興奮していた。


『てか、巨人って本当にいたんだな。人間がワープできるとか……映画の中じゃん』

「多種多様の人間がいましたよ。荒木さんもご存知でしょうがβテストのゲームは楽しいでしょう? それと同じです。地球という星もかつてはβ段階がありました。その時代は時空さえも越えて様々なことが行われていたのです」


 でもなあと荒木が唸る。

『もうそういうのって全部ファンタジーで出尽くしてるから今更やっても楽しくないよ』

 攻略本で出来ることを全て見てからゲームをスタートする面白みの無さのようなものを荒木は説明した。


「記憶を消してから開始することも可能ですよ」

『そういう問題じゃないよ。俺はもっと楽しいことがしたいんだよ』

「はあ」


 アシュタが頭を抱えたくなるのはこういう時だった。

 自己中心的な快楽に染まった者は決して他者を顧みない。

 かつての日本人では割合珍しかったタイプで、自分の面白いものをひたすら追及しないと気が済まないのだ。

「なら、もう一つの世界に行くしかありません」


『え、あるの!?』

「お勧めはしませんよ。本当に何でもありなんですから。地球の文明なんてゴミ屑に思えるような文明度です。それだけにこの世界に入った魂は二度と魂としてここへ戻ってくることはありません」

『なっ、なにそれ? 本当の死ってこと?』

「魂の牢獄と言った方が正しいでしょう。星の大きさは地球の10万倍ありますが、質量や体積の規準は世界の概念そのものが違うので問題ありません。主に行われていることは殺戮と支配です。あらゆる自由が搾取と創造によって保証されていますが、生者たちは皆自分たちが楽しむことに必死です」


 荒木翔太は決めた。

 地球という退屈な星とはバイバイすると。


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