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8.爪切りだって大事なお仕事です


こんにちは。全身魔力補助具で筋力を補助したアスランです!

今日はある意味筋トレです。補助具があろうが筋トレですよ、うん。


さて。パールサ国の王都、ヤズドにある国営竜車を扱っている商家に来ております。私は初めてこの国に来ましたよ。越境許可証ですよね、あーハイハイ………あ。家に、忘れてきてますね……。今から取りに帰るのは流石に厳しいので困っていたら、商家の代表の方が王家に臨時で発行できるよう手続きを取ってくれました。

日帰り予定なんで手続きは簡単だったらしいんですが、それでも持つべきものは権力者の依頼人ですよね。ありがたい。


さてさて、本日のお仕事とは……


「はーい、足あげてくださいねー。よいしょっ!」


ガル…という肯定だか否定だか分からない唸り声を出して、ロックドラゴンが私の持っている足をのっそり上げてくれました。


ロックドラゴンはその名の通り岩のような肌の地竜種のドラゴンです。

穏和な性質で力が強く、荷車等の使役で活躍します。あまり素早くはないです。

スティンガーより少し大きめの体ですが、骨格は…うーん、何かの鎧竜の仲間っぽい感じかな。

とりあえず、首が短くて体が大きくて丸くてゴツいです。


後ろに上げてもらった足裏は、硬い爪と鱗でなりたってます。その丸太のような足を私が両足で挟み込んで固定して、少しばかり長くなりすぎな爪をでっかいペンチのような形の爪切りで両手を使ってぱちぱち切っていきます。

それから大きなヤスリでガリガリ削り、形を整えます。足を一度下して、今度は前に足を出させて専用の台に乗せて前からもヤスリをかけて一本目が終了です。これを四肢分で1頭……腰が痛いが先も長いです。


なんでも今年に入って街道の舗装を直したりで竜車の走行経路が変更になってしまい、旨く爪が削れなくて削蹄が必要になってしまったんだそうです。

何か良い方法が無いか思案中だそうで、広く意見を募集しているそうですよ。


まぁそんな訳で削蹄のお仕事ですが、色々ガッツリ魔石で筋力補助をしようとも長時間こんな前屈みな姿勢を取れば身体も痛くなりますよね。

なんで一人で働いている私にこんな削蹄まがいのお仕事が入ったのかというと、ここの竜を扱う厩舎長が師匠の飲み友達だったからなんです。友達の弟子はパシリに使っても良い、という考え方の持ち主なためお友達価格で依頼が来た次第であります………んが!やっぱどう考えてもか弱い女の子捕まえてこの肉体労働は酷くない!?


「いや、金額に釣られてのこのこやって来たのはお前だろうに。それに今のお前は素手でロックドラゴンとタイマン図れるくらい力強いから」

「…え?私なんか喋ってました?」

「すげー悪口言ってたぞ。次が待ってんし、がんばれ」

「はいー……」

「あー、終わったらこの国の有名な温泉に連れてっちゃるからがんばれや」

「うー。温泉行ってから残りやっていいですかー」

「飴の意味ねーだろ、ばーろー」


ごしょごしょ無駄口を叩きながらもまた1頭仕上げる。

さっきの子で10頭目なんで、後20頭ほど残っています。

ちなみに、同じく無駄口を叩く厩舎長は何をやってるのかというと、蹄洗場に削蹄する竜の出し入れと手入れをやってくれてます。

私達、お喋りしてサボってるわけじゃないんですよ?ある程度ですけど。


「うがー。腰が痛いですー」


またちょっと辛くなってきたので身体を伸ばす。両手を上に、後ろに反り返りました。おふっ痛い。


「お前さー、自分には治癒術かけんの?」


厩舎長は不思議そうに言ってきました。


「かけたらバレるじゃないですか、人に使ったって」

「え?オルは普通に俺とかにもかけてたぞ?」

「……あんないろんな国に英雄やら1級犯罪者やら鬼畜やら言われる超人と一緒にしないで下さいよ」

「酒に呑まれてうんうん唸ってる姿しか思い浮かばんのだが、あいつやっぱ凄い奴だったんだな」


むしろ私はその姿を知りませんが、何か?

仕事を再開しつつ、色々確認したくなりました。


「厩舎長の知っている師匠と私の知っている師匠は実は別人ですか?」

「オイオイ。シィアンのオルフェーシュ、竜医でケルマンではドラゴンライダーとしてたまに仕事してて、好物はチェルの実と竜殺しっていう酒。」

「身長は厩舎長よりちょっと低くて髪は肩下くらいを1本に縛っていて、黒みがかった銀髪で青灰色の目」

「料理へたくそ。溜め込み癖アリ」

「汚れが目立たないから黒っぽい服が好き」

「治癒術得意なくせに二日酔いは治せない」

「結構方向音痴で地図の上下が読めない時がある」


お互い段々悪口になってきました。


「キュールの酢漬けが苦手」

「まぁどうにかなるでしょう、が口癖」

「ここ数年で初めてできた弟子が大好きで色んなトコ見せて回って喜ばせたって自慢してた」

「……最後の以外は同意します。それ、仕事に連れ回しただけですよ?」

「絶景見せたって得意げに言ってたぜ?」

「一歩間違えば天国か地獄に逝けるトコの事ですか?

そんでもってそれ、こっちの限界を超えても追い込む鬼の事ですよね?」

「ノロケにしか聞こえなかったがなぁ」

「耳の専門医に行ってください。……前半の話から考えるに、悔しいけどやっぱり同一人物ですね」

「……だろ?」


しばらくお互い無言で仕事を続ける。


「あいつの事だから色々首を突っ込んではふらふらしてるだけだろうさ。調査とかやらせっといつも止めなきゃ帰ってこねぇんだろ?」

「……そうなんですけどねー」


厩舎長には色々言えない内情もあったりますが、言える範囲の本音をため息交じりに漏らしてしまいました。

私、相当へこたれた顔をしていたんだと思います。厩舎長が慌ててフォローに入ってくれました。


「湿気た面すんな。飯も奢ってやるよ、がんばれ」

「頑張ります!ご飯は分厚い肉とジョッキでエールをお願いします。あと終わりましたんで早く次出してください。なんなら2頭一気にお願いしますっ」

「……やっぱ回復して何か魔法まで使っただろ。明らかにペース上がってんぞ」

「早く終われば、無料の肉とエールと温泉が待ってますからねッ!」


折角スッキリ良い笑顔で答えたのに、厩舎長は物凄く渋い顔になりました。


「お前、俺が同情するの待ってたな……」

「同情待ちじゃありません、確実な交渉です」

「やっぱお前あいつの弟子だよ。めっちゃ腹黒いわ」

「もちろん弟子ですよ。うっふっふっ」


くだらない談笑をしながら、日が少し傾いた頃にはきっちり皆の削蹄を終えることが出来ました。

ついでに、竜の運動場にあるウォーキングルームの床を軽いヤスリ状に仕立てて少しは爪を削れるようにしました。

お試しなんで、こっちは無給でやりましたけどね。


早速温泉に行こうと言われたので、お札でこの場にゲートの為の印を作った後、地図で温泉地を確認して厩舎長をムーちゃんに鷲掴ませて運んでしっかり温泉を堪能いたしました。

帰りは、湯ざめしたくなかったのでムーちゃんとポチの魔力協力を得て、秘儀「なんちゃって転送ゲート」を披露して一瞬で戻り、そのまま人気の肉料理店へ問答無用で引っ張りこみました。

それはもう、堪能させてもらいましたよ。ステーキ最高っ。

最後はとびっきりの笑顔でお見送りしてから、ルンルンで国へ帰りました。




しばらく経ったある日「弟子はあいつより性質たちが悪い」という噂を流しといたと手紙をもらいました。

………いやいやいや、まだまだ全然可愛いでしょう?




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