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7.凶暴なリッジテール~新種発見!?


お久しぶりですアスランです。

前回の大失態に、わたくし、しばらく雲隠れしていました。

……他国とはいえ権力って怖いですよね。念のためです。


今日は、以前タブリーズ領の商人さんに依頼されていたけどトラブルで診られなかった竜がようやく戻ったとの連絡を受けたので見に来ました。

決して他の仕事が今のところないとか言いませんよ。言わないんだからね。


タブリーズは、私の家があるシィアンからポチに乗っていくと大体半日かかります。

ムーちゃんだとほんのひと時なんですけど、自国内は基本飛ばないようにとの師匠の教えがあるので、ポチにお願いしています。

彼が仲間になる前は私だけ歩き、というか小走りでした。トレイルラン状態で、何回も遭難したんですよ……。


さてはて。今回は気合を入れての日帰り旅です。

日が昇る前から、山道を昔映画で見た獣の女の子のようにポチで駆け抜けました。ちょっとかっこいいぞ私。

頑張ったので、昼前には街に入ることが出来ました。まっすぐ商家へ向かいます。


「こんにちは~。シィアンの竜医アスランです」


門番さんにご挨拶している間にポチが遁甲しようとしたので、慌てて止める。危うく荷物も地中に持ってかれるところでした。

しばらく待っていると、前回立ち会って下さった従者さんがやってきました。何やら傷だらけですが何があったのでしょう?


「アスラン様お待たせいたしました。早速ですが厩舎にご案内いたしますね」

「宜しくお願いします。あの、良かったらこちらの薬草をすり潰して軟膏に混ぜ、傷に乗せるように使ってください。気休め程度で申し訳ないんですけど……」


「いえ、ありがとうございます。助かります」


従者さんはほっとしたように微笑みました。

私としては本当は癒術で傷を治してあげたいけど、竜医が人に魔法をかけるのは色々問題になるため、緊急でもない限り手を出せない。バレるバレないの問題なんだろうけど、何のかんので活動に制約があるのだ。


「あれからクラブ君の調子はどうですか?」

「ああ、あの子はもう問題なく元気ですよ。手前の房に居ますから見てやってください」


厩舎の入り口近くがクラブ君の竜房だ。私の姿をみてギクッとしましたが、彼の飼い桶は問題なく空っぽだった。私に対するトラウマはともかく、本当に調子は良くなったらしい。


「クルルルゥ~」

「「クルルルゥ~ン」」


リッジテールは一頭が鳴くと釣られる様にそれぞれ鳴き交わす。それから暫くリッジの合唱が楽しめました。野山でこれを聞くと、森林浴効果も相まって野鳥の声を聴いてる感じに癒されたりするんですよ。


「アスラン様、こちらです。ちょっと攻撃的なので離れて見てください」


金網張りの厩舎を覗くと、ガンッと音がしてゲートに蹴りを入れる砂色のリッジテールが居ました。

ん?リッジテール??


「……あの、えーと……」


従者さんをそっと指さしたら、笑って「カールと申します」と教えてくれました。


「カールさん、多分ですが、この子、リッジテールじゃないかもですよ?」

「は??」

「ちょっと色々仕掛けてから中に入りますね。少し離れててください」


私はカバンの中から犬笛もどきを取り出して吹いてみました。


「プルル……」


しかし、暫くしてまた吹いてみても奴の眼は攻撃する気が満々だ。

次に線香のようにしたお香を焚く。風の流れを魔法で制御し、(仮)リッジテール君に纏わりつくように流しました。

奴が目をシパシパしだしたのでもう一息だ。

仕上げはやっぱコレ。お札を一枚取り出して、さぁ一気に参りましょう!

ガララッと勢いよくゲートを開け、奴の頭にバシッと札を叩きつけました。


「グギュルルー…」


必死で体を動かそうと頑張っていますが、ワイバーン級でも指ひとつ動かせないと定評がある縛りに、仮リッジ君が敵うわけがありません。


「カールさんも中入って大丈夫ですよー。札に触れなければ体に触っても大丈夫です」


どうぞどうぞと招いて、奴…仮リッジ君をずりずり引きずって部屋の真ん中に移動しました。

カールさんはじっくり観察して、おもむろに前足を持ち上げたりしている。

私の知る限り、リッジテールの砂色は報告されてない。あと、ちょっと頭の形が三角っぽいしね。歯の尖りが雑食か肉食を思わせる、瞳孔が縦、等々。ちなみに、リッジは瞳孔が横なのだ。

よくよく見るとだいぶ違う。興味深い。


「微妙ですがホントに違いますね。主人のご子息が新種ではないかとおっしゃってましたがそのまさかですかね?」

「そこはちょっとまだ解らないんで竜人ズメウの担当の方に報告書を上げておきますが……でもこの子の凶暴性は取り除けないと思いますよ?」


ほら、だって今でも親の仇のようにこっち睨んでますし。

カールさんはますます困ってしまったらしい。


「こちらにずっと閉じ込めておくわけにもいかないですよね……。主人に確認してきても良いでしょうか?」

「ええ。なるべく早めに回答お願いしますね」


カールさんを送り出して、報告書作りです。

ノートに簡単に絵を描いて特徴を書き込む。

魔力を流して耐性等を確認する。リッジテールと違って、火に対する耐性があるらしい。

後は動きだが、これは解放してみないと分からない。戻り次第聞いてみよう。




カールさんが戻って参りました。ご主人とご子息も一緒です。ご子息様は片腕を吊っていて、全身に裂傷が見受けられます。かなり大変な帰り道だったみたいですね。


「こんにちは。シィアンの竜医、アスランです」

「アスラン様、先日はお世話になりました。どうでしょう、この竜は。私どもでも扱えますでしょうか」


私は唸ってしまった。カールさんとご子息の様子をみるに、そのうち重傷人が出そうな感じがする。


「どうでしょう。しばらくウチで預かって調整してみましょうか?1か月時間をください。それで調整出来た場合のみ、調教料をいただければと思います。あと新種かもとの事ですが、こちらも担当のズメウへ報告書を上げておきますので回答あり次第お知らせいたします」

「アスラン様宜しくお願いします。この竜は帰り道にずっと我々を付け狙っていたんですが、追い払おうにも素早くて。仕方がないので罠を仕掛けて捕まえたんですが、置いてくる訳にもいかず連れ帰ってくることになってしまったのです。かなり攻撃的なので困ってました」


息子さんがとてもホッとした顔で説明してくれました。ご主人とカールさんも明らかに安堵していました。預かり調教、ちょっと気合が入りました。がんばりましょう。

方針が決まったので、固めたままの偽リッジ君を外へと運び出してもらいました。広い所でネックレスにしている水晶に意識を送る。

しばらくして、上空から青白く輝く大きな竜が降りてきました。


「うわぁ、素敵な竜ですね!」


息子さんは興奮気味に感動しておりますが、それは氷竜リントヴルムの容姿がこの国ではあまり有名でないからだと推測できます。知ってたら、隣国の辺境の騎士さん達のように野生種の急襲と思うでしょうから。

私はちょっと見栄を張って颯爽と見えるようにムーちゃんへ跨りました。ムーちゃんが前肢で固まリッジ君をガシッと鷲掴み、ふわりと飛び立ちます。


「「「お気をつけて~」」」


広場で3人が嬉しそうに手を振って見送ってくださいました。



帰ってから色々調べて報告を上げたところ、残念ですが珍種ですが新種ではありませんでした。

偽リッジくんは野生種で、凶暴リッジテールというそのまんまの名称でした。肉食で凶暴ですが、負けを認めた相手に対しては懐くという楽しい性質をもっているらしい。ちょっとたちの悪い犬の様ですね。

なので、判明してから早速ムーちゃんとポチにシメてもらったので、我が家では大人しくなりましたよ。

私が闘わないのかって?無理ですよ、返り討ちにあう前にムーちゃんとポチの主人である事をしっかり教えましたよ。上司の主人に逆らうのは、駄目です絶対。


タブリーズのご主人に連絡してみたのですが、闘うのは厳しいとの事だったので、彼はそのうち遠くの人里離れた山で野生に返すか知り合いの竜医にでも譲ろうと思います。



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