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小話~氷竜ムーちゃんの日常

数ある小説の中から見つけ出して読んでくださってる皆さまに、感謝感謝です!


最近ほのぼのからかけ離れつつあるので、(作者の)息抜きに……。


ムーちゃんことムエザは、氷竜(リントヴルム)の成竜になってしばらくになる雌だ。

生まれと住処は北限の地、氷原地帯である。

契約主であるオルフェーシュやアスランの呼び出しが無い時は、彼女は大概実家であるこちらで過ごしている。

が、最近ちょっとだけ習慣で変わったことがある。



「フルルル〜〜……」


求婚中のリントヴルムが発する声を真似て、黒龍(ニドヘグ)のフェルニゲシュが彼女の近くを飛んでいる。


ムエザはそれに応えてはいないが彼がこの地に居ることを許している。彼女が許しているので、家族も攻撃するようなことはしない。むしろ末っ子の双子ピーとピッピにとっては、良い先生になっていたりする。

そんな訳でこの地に通うこと一月余り、フェルニゲシュは事実上彼女の友人格に昇格できたようである。


「ピッピルー!」

「ピュイー!」


今日も今日とて彼の姿を目敏く見つけた双子が絡んできました。

本日は魔法学習をご所望のようで、二人は最近覚えた重力魔法をフェルニゲシュにかけてきました。

二人がかりの術でズンと重くなった身体をものともせず、彼は解呪の魔方陣を出して待機させ、二人にしっかり見せてあげてから解呪を実践します。

尊敬の眼差しで目をキラキラさせる双子に、今度は逆に重力魔法をかけて浮かして解呪の練習をさせました。


上位野生種である黒龍(ニドヘグ)は、氷竜(リントヴルム)よりも魔力の多い種なので多様な魔法が使えるのです。

ちびっこ達にとっても、この特別講師はとても刺激になっているようでした。


まだまだ経験の浅いムエザにとってもそこは同じようです。

「クォン」と鳴いて、彼に空中戦の練習をお願いしました。

時限式の氷魔法陣を各所にばらまいて彼を誘導しつつ発動させるも、全てを避けられてしまいます。


氷魔法は使えない彼は、対応策を教えるために水魔法で同じように時限式の陣を撒き散らして発動。

彼女も同じように避けたつもりで最後二つのフェイントに引っ掛かり、びしょ濡れになっていました。

彼女を乾かしながらも彼は対処法に使える魔法を指導します。

指導に当たるこの時ばかりはデレ甘では無いようです。ああ、でも乾かして丁寧に毛繕いしている様はデレデレですけどね。


どうやら今回の空中戦は、重力魔法の応用が必要らしいです。勉強になりますね。今日も彼に完敗のムエザさんでした。



夕方になった頃、彼女を呼ぶアスランの声が聞こえてきました。こんな時間に声をかけられるのは珍しいのですが、呼ばれたなら行かないといけません。

近くにいた年の近い兄に目配せしてアスランの元に出掛ける旨を伝えます。

そうして、フェルニゲシュと共に転移魔法を展開して、召喚に応じました。



「うわぁ!?今日はフェル君付きですか!」


アスランの焦った声に、ムエザはちょっとだけ失敗したなと思いました。

何故ならアスランの後ろにベルナークが居たからです。


「……フェルニゲシュ、お前なぁ……」


どうやら今日の氷原来訪は、主人に内緒だったらしいのです。彼の眼が泳いでいました。

少しだけ、そんな彼が可哀想になった彼女は、彼にすり寄り「クルル…」と鳴きました。


庇うような彼女の仕草に、彼の厳しいご主人様も呆れて赦してくれたようです。


「ムエザのお陰で寿命が延びたな」


そんなコトを言っておりますが、ベルナークの彼と彼女を見る目はとても優しいのです。


「……ベルナーク様、責任とって師匠の説得はお任せしますよ?」

「それは無理だ。お前の件も含めて無理だ」

「うわー。ヘタレ過ぎるー」

「ならお前はオルに言えるのか?言えまい?」

「それでも言うのがオトコってモンじゃないですか!?」


ぎゃいぎゃい言い合う主人らを横目に、彼は彼女に彼女の不在な方の主人にちゃんと許しを乞うから、と誓うのでした。




……どうやら彼と彼女の恋は意外と順調のようですが、彼の主人の想いの方はだいぶ前途多難なようですね。




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