45.王宮へ報告に行きました
旋風のトンネルをくぐり抜けた先には、湖に囲まれた王都タタールが見えました。
何ならあの中まで行ってやろうか?とグラニさんに言われので、お願いしたら一瞬で王宮の中庭にいました。
こういう場所って普通何重にも結界が張ってある筈なんですけど………グラニさん、凄すぎです。周りに居た兵士さん達が突然現れた我々に剣を構えた気持ちも大変よく分かります。
「ズメウの皇子ベルナーク・イレヴゥイシュトだ。至急王へお伝えしたい事がある。謁見を頼みたい」
ズメウの名に、兵士たちは色めき立ちました。
ざわつく彼らの間を割って、宰相と思しき人物がやってくる。
我々を見定め、謁見室へと言われましたがグラニさんに同行願いたい私たちはこの場で会談できるようお願いしました。グラニさんを単なる馬と思われていたようなので、ちょっと軽く雷の魔法を使ってもらったら、地面に焦げた深ーい穴が開きました。……電気で穴を開けるってなんて非常識な。皆さんシーンとした後、急ぎ場を作るべく動かれたのは面白かったです、ハイ。
ポチはさっさと遁甲してしまい、ハーヴはベルナーク様に依頼されてウーヴェ様を探しに飛んで行きました。
「まずは急ぎの来訪を頂けましたこと、国民を代表して礼を申し上げます」
場が整った後、まずクシュ国王から謝辞がありました。
クシュ国としても、魔道に造詣の深いトアレグ程の人材は用意できず偵察すらままならかったらしいのだ。
竜種に甚大な被害を及ぼすあの毒は、今のところトアレグの尖塔が見える範囲――周辺5キロ以内――と言われました。………ってか、あの時はそんな範囲に一気に転移したんですね、グラニさん。
「我とてまさか腐蝕の毒が実際にあると思っておらぬわ。魔のまとめ役を叩けばすぐ終わると思ったんだがな」
「まとめ役って、あの黒い皮膜の魔族ではないのですか?」
「黒は魔法すら使っていなかっただろう?あれはギ族ですら無い。連中はもう少し骨がある奴のはずだ」
”そうだな。あれは単なる斥候だ”
「キーヴァ君!」
気が付いたら彼は私の後ろに腕を組んで立っていました。
瘴気が広がり王の周りでどよめきが起こるが、味方ですと説明すると場に奇妙な沈黙が降りました。
グラニさんはフーと長く息を吐き、ブルルと頭を振って長い鬣を揺らす。
ホント、仕草だけ見ると本当に馬のようですよね。
「キーヴァルレイン、久しいな」
”グラニか。主人はどうした?”
「今日は我のみだ。主は人族に使われることを良しとしない」
どうやら本来のキーヴァ君とグラニさんとそのご主人様は旧知の仲のようです。いつのどんな知り合いかは……全く聞きたくないですね。
”薄いが、裏切り者どもに似た気配を感じた。奴らに違いない”
「で、そいつらを討つために、あの毒を除ける方法は?」
「…………古代竜だな」
黒の古代竜、アーテル。水を治め北の地を護る彼女は、しかしながら気配はあれど近年人前に現したことが無い。そして縁のあると言われているのは陥落した都市であるトアレグだ。この状態をどうできるというのか。
「ひとつ我が国の王族に伝わる話をお伝えしましょう」
国王は静かに語りだしました。
トアレグは確かにアーテルに関わる地と言われているが、元々竜の里は氷原地帯に近い険しい山の麓にあったらしい。トアレグが縁を結ぶきっかけとなったのが、あの尖塔を有する教会に拾われた双子の片割れだったという。
「それはアッシュブロンドで空色の瞳の女性でしょうか?連れ出したのは緑の竜……?」
「いえ、申し訳ありませんがそこまでは伝えられておりません。伝え聞いているのは―――」
聖女となったその娘が、その身を賭して世界を浄化し竜にも住める地に戻したのだ、と。
…………何が本当なのだろうか。
どうしてこの世界には統一されたことが伝わっていないのだろう。なぜ伝えさせなかったのだろう。
考え込む私に、グラニさんが真っ直ぐ見てきて静かに話しかけてきました。
「我らにはいらぬ歴史であったが、知らしめたいならお主が編纂すればよかろう?なに、必要にかられれば見えてくる」
「私は師匠さえ帰ってきてくれればそれで良いと思ってたんですけどね……」
「では伝承にある山でも探すか。そこはまだ毒が無いんだろう?フェルを喚ぶ」
”やめておけ。黒龍は清浄を糧とするアーテルにとっては忌むべき存在だ”
キーヴァ君の言葉にベルナーク様はチッと行儀悪く不貞腐れるが、我々の行先は決まりました。
グラニさんには、王宮から牛を一頭丸々もらう事で今回の報酬とさせてもらった。彼は貰いすぎたと思ったのか、鬣を数本寄こして気前よく再度の召喚を承諾してくれました。
「アスラン、もし毒が散らず戦力が欲しい時には我を喚ぶがいい。時期殿の戦い方には興味があるでな」
”グラニ、お前がでしゃばるとお前目当てで大物があちらから茶々入れにくるぞ。ほどほどにしろよ”
「いざという時は、宜しくお願いします」
ではな、とグラニさんはキーヴァ君と牛と共にふいと消えました。旋風のトンネルすら作りません。あれは我々を驚かすためのオーバーアクションだったんでしょうね……。
その後、王様から今日の宿泊先として王宮の客室を提供くださいました。
晩餐等の歓迎と話し合いはベルナーク様とウーヴェ様に任せて、私とハーヴは明日に備えて物品の選定を行っておりました。
「お前ホント裏方好きだよなぁ」
「ハーヴに言われたくないですよ。私は師匠さえ戻ってきてくれるならどうでも良いんです」
「はっ、流石ブレねぇなぁ。……元気そうだったか?」
「まずまずだと思いますけど、何か思い詰めてましたよー?」
あの人がねぇ……なんてつらつら話ながら、二人で必要な魔具を選り分けました。
「そういや借りてる風の魔具、ありゃ何なんだ?武器補助だと思ったら飛ぶのも防御も魔法補助も兼ねてて凄ぇんだけど」
「ああ、試作品なんですが加護札で青と白の力を込めてみて魔力を封じてみたんです。何個かやってみたんですけど、最後まで爆発しなかったのはあれだけでした。」
「……………は?爆発?」
「ええ。石が魔力に耐えられなかったようで。純度の問題だったみたいなんですけどね」
そこまで言ったら、ハーヴは何かを思い出したらしく「それってさ、前にムエザが吹っ飛んで重症負った時に試してたヤツじゃね?」と聞いてきたので、そうだと肯定したら彼は頭を抱えて蹲ってしまいました。
「どうしました?」
「……俺、無事で良かったなって思っただけ。これ返す、怖いから」
「はぁ」
別に石に傷を付けなければ大丈夫なんですけどね。あんなに相性良さそうだったのにハーヴには合わなかったようです、残念。
そうこうするうちに、ベルナーク様とウーヴェ様が戻ってまいりました。
ベルナーク様はしっかり正装して堅苦しい話をしていた為にだいぶ肩が凝ったようで、肩を回していたと思ったら直ぐに上着を脱いでどっかりソファに座って寛いでました。
とりあえず辛いんなら凝りくらい取ってやろうと、ソファの後ろからすかさず肩に手を当てて魔力で位置を確認してから治癒術を施します。
「助かる、が、お前ホント職業病だナ。お前らこそ休め」
「ありがとうございます。で、どうでした?自由に動けそうですか?」
ベルナーク様はニヤリと笑って「ズメウナメんなよ」と親指を立てました。バッチリ自由行動を確保できたみたいです。
「しかし、あまり良くない情報もあります。向こうが偵察に使う黒い鳥はとても素早いらしいのです」
ウーヴェ様に説明頂いて、鳥の扱いに悩んでしまいました。
見つけて刈っても暫くで小隊が探しに来るだろうし、ほっといたらそれ以上が追ってくる。殺れなかったら居場所を大きく離れる必要があるようでした。
「……今日の魔具付ハーヴでも無理そうでしょうか?」
私がはたと気づいて口にしたら、現場での動きを見知っているベルナーク様に「あれならイケるな。頼む」と言いきられました。ハーヴは悲壮な顔でそれを了承してましたね。
……そんなに私の魔具が信用出来ないんかい。
その夜は、ハーヴに「お前の作った魔具なしにはいられない。これからも作ってくれ」と跪かれて乞われた夢をみたので気が済みました。
うん、余裕が出来たらこれからも色々作って試してみましょう!




