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40.異界の扉が開くとき


――それは結構唐突に起きた。


この日は前々からバルトルさんに観光をお願いされていたリントヴルムの氷原地帯へ来ていました。

彼はこの地に来たことが無い上に、各種サイズのリントヴルム、ムーちゃん一家に大興奮しておりました。

ピーちゃんとピッピちゃんに対しては赤ちゃん言葉で撫でちゃうくらいデロデロで嬉しそうです。


「リントヴルムいいなー。俺も欲しいー」

「いやいや、街中では絶対呼べないし、偏見もあって結構大変ですよ?」

「でもサほらー、めっちゃ可愛いしー」


その気持ちも分かりますけどね。小っちゃい子効果も過分にあると思いますが、むじむじ言うバルさんを相手にするだけ面倒なのでほっとくことにしました。

ちなみに、バルトルさんの相方はクエレベレの青藍せいらん君です。

今彼はムーちゃんのご両親にご挨拶中です。リントヴルムは警戒心の強い種といわれていますが、ムーちゃん一家は師匠や私やポチと仲が良いせいか結構友好的なんですよ。

さてさて青藍君ですが、彼は鮮やかな藍色をしていたので………すいません、いいよーって言うから私が名付け親です。

バルさんは面倒くさがって『セイ』と呼んでますね。ちゃんとフルネームで呼んであげて欲しいもんです。

………あ、でも私も人の事言えないか。反省。


ムーちゃん一家はご両親と同い年の兄姉、ドラゴネット年齢の双子ちゃんでこのあたりを縄張りにしています。

ムーちゃんは私が召喚しない時はこちらに居る事が多いのですが、最近は少しばかりフェル君にも時間を使ってあげているようです。面白いですね。

竜という大枠にはいますが、異種間での恋愛が成り立つのかどうかは分かりません。ベルナーク様も私も、この件に関してはノータッチの予定です。がんばれフェル君。


「バルさん、薬草のトコも案内しますよ。行けますか?」

「えー。もちっとこいつらと遊ばせてー」


バルさんはチビ双子から離れられません。ムーちゃんのご両親に説明して、子守兼務で薬草自生地に行くことにしました。


そうして遊びながら氷原を歩くことしばし、それは突然現れました。

ヴヴゥァ…ン、と地面で羽虫が一斉に飛んだような音がしたと思ったら、我々の目の前の地面にムーちゃんサイズの底知れぬ穴が一瞬で出来ました。そこからムーちゃんよりは一回り小さい熊のような、角と長いしっぽのある謎の黒い生物が上空に飛び出してきたのです。


「ポチ!ムーちゃん!」

「セイ!」


咄嗟の事でしたが、バルさんも私も討伐などである程度急な事態に慣れているため、召喚珠で直ぐに自分の相方を呼びよせました。爪を振りかざして襲ってきた角熊をセイ君が生み出した水の塊で押し流し、ムーちゃんが氷魔法で足を貫き動きを止めます。

そうして間髪入れずに角熊を囲む戦闘態勢を整えました。


ポチに双子の避難を指示し、ウエストバッグから呪符を取り出して角熊に不動の呪をかけてみます。思ってたより効きが良くありません。

角熊は赤い眼を怒りに染めて吠え、緩慢ながらもセイ君に向かって腕を振り下ろします。セイ君はなんなく避け、尾で反撃して角熊を地面に叩きつけました。

私はサイドバッグから、今度は青い加護付き札を取り出して不動の呪を重ねがけしました。

グアァァ!と地面に這いつくばりながらも口から泡を飛ばして怒りを露わにする角熊ですが、古代竜の加護は伊達ではありません。どうにかしようと頑張っているみたいですが、もう一歩たりとも動けないようでした。


暫く剣を構えていたバルさんですが、動けないと分かると好奇心が出てきたようです。熊の後ろに回って毛を削いでみたり、尻尾に軽く魔法を当ててみたりとちまちま採取したり実験しております。


「アスランの魔法は流石だなー。ところでコイツは何なんだ?」

「出てきた穴は塞がってしまいましたしね。何なんでしょう?」


熊の身体が出きったとたんに穴は無くなっていました。1つの穴で出てくるのは1体、という事なんでしょうか。


「勘でしかないですけど、扉みたいな特殊な形状をしていない限りは、穴1つで1体の魔物という事でしょうね」

「……魔物?」

「魔を命の軸にして生きている生物、でしょうか。動物でも竜でも、人族でも無いですしね。……あ、今更ですけど魔法を使われてもいいように少しは警戒してくださいね」


恐らくこの個体は魔法を使えないようなので大丈夫だとは思います。でも、この前のハーヴの職場では魔法によると思われる怪我人を診ているので、油断はできません。

ずっと気を抜かない私に、バルさんはお前すげー冷静だなーと呟きつつ、また角熊へ確認作業を続けておりました。


バルさんは現状知っている動物とも竜とも人族などとも違うという事を確信したらしい。慎重に角を折ってそれを皇家へ分析用に送ろうと考えているようでした。

その時私は穴の出現していた所を調査していたため、角を折った瞬間は見ていませんでした。


「アスランっこいつやべぇっ!」


焦った声に顔をあげて私が見たものは、バルさんが角を片手に転がり逃れる姿と、ぶしゃっ!っという音と水しぶきを伴って、角熊が形を失い液状化しているところでした。

それが起きたのが角を折ったのとほぼ同時だったため、バルさんの身体に黒い体液がかかってしまったらしい。彼は、転がった先で液のかかった場所を押さえて呻いていました。地面に落とした角は、それから暫くで液状化してしまいました。

私は慌ててバルさんに駆け寄り治癒を施します。

解毒の術が有効だったのでフェル君の毒の治療よりは簡単でしたが、焼けが早いのと範囲が広くて苦労しました。


今回は、相手が弱かったのが救いでしたが、黒い魔物は血液ですら凶器になるという事をベルナーク様に早めに伝えないといけないでしょうね。

隣でぶくぶくと気持ちの悪い泡を立てながら小さくなっていく黒い水たまりに、ぞっとしました。



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