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39.緩やかに起きた変化


白の少年が消えキーヴァ君もそのまま空間を渡って行ってしまったので、緊張から解放された私はすぐさまベルナーク様を起こしに行きました。

少年は、ちょっとだけ嘘つきでした。ベルナーク様は、内臓に刺さるようなことはありませんでしたがろっ骨を何本か折られたようで呻いておりました。起こす前に治してあげるべきでしたね、すいません。


「とりあえず加護は得られたようだな」

「良いか悪いか分かりませんけどね。……魔が現れるだろうと言っておりました」

「キーヴァのように無力な状態で現れてくれれば良いがな……」


そうですね、と相槌を打ちながら少しずつ骨を繋いでいく。

先のティフォン戦で彼も私も魔力体力ともに底をついていた為、どうにも治りが悪い。


「骨はもういい、後で頼む。それより安全圏に戻ろう」


そういえば、目撃されていたティフォンは4、5匹とは言っていましたけど、この地域の生息数はそんなもんじゃなかったはずですしね。危ない危ない。白の少年が消えたら結界の気配も消えたので、すぐに移動となりました。

幸いフェル君とムーちゃんはだいぶ回復していたので、2回に分けて空間を渡り無事にシィアンの自宅まで戻ることが出来ました。


久々に自宅の厩舎にムーちゃんとフェル君を入れてねぎらい、ベルナーク様にお茶を出してから事の顛末を改めて説明致しました。

キーヴァ君に関しては、説明できそうにないので除いてしまいました。隠し事という訳では無いのですが、ありのまま言うと彼が絞められる未来しか見えず可哀想だったので。

それと、おそらく『あの子ら』というのは前に王都で見た白昼夢の彼女たちだと思ったので、そのこともお伝えしました。彼女が何者か、どう古代竜と絡んでいるのか、この国には資料が無かったが皇帝陛下は知っているのではないかと思ったのです。

ただ、少なくともベルナーク様は知らないことだらけだと独白くださいました。


「何にしても。古代竜を訪ねると、これから何かか起きるって事だよな」

「あの人達が魔と呼んでいたものが、話が通じるかどうかですよね……」

「各国に警戒するよう伝えておく。黒のアーテルに会いに行くのは暫くお預けだ。何か分かり次第連絡する」


立ち上がり、帰る準備を始めたベルナーク様に、同じく立ち上がりながら一応釘を刺しておこうと声をかける。


「……いきなり来るのは止めてくださいね?フェル君で伝言でも嫌ですよ?」

「善処する」


剣を背負い、顔を顰めて厩舎へ行ってしまいました。

お茶を慌てて片づけて外へ出ると、もう既にフェル君は上空におりました。


「お気をつけて」

「ああ、また来る」


言葉少なに彼らは行ってしまいました。

見送りながらも何であんなにしかめっ面だったんだろうなと悩みました。まぁこれからズメウを纏める立場の人ですからね、ヘラヘラしているよりは良いでしょう。

ムーちゃんに飼料を与え、自分の食事を用意しながら理由に思い至りました。


………あ。ろっ骨、完全に治してなかったわ。



成り行きから、5体いる古代竜のうちの2体から加護を貰ったわけですが、私にはそう簡単に世の中が変わるようなことが起こるとは思っていませんでした。


あれから1週間が過ぎ、今回何の気なしに久々ハーウッドの勤務する騎士団の砦に顔を出した私は、国境の小競り合いか大規模討伐並みに負傷者が多くいることに愕然としました。

何があったのかとハーヴの直接の上司である隊長さんを捕まえて聞いたところ、見たことのない生物が出たと教えられました。

動物でも、竜でもない大きくて獰猛な、頭が3つある赤目の犬のような黒い生物。更に、竜のように魔法があまり効かなかったと。


「退治したその生物の死骸はこちらにありますか?」

「いや、倒したと思ったら黒い水みたいになって最終的には消えた」

「ではその生物に傷つけられた竜はいますか?」


本当は人を診るべきなんでしょうけど、私は竜医なので不自然にならない様竜舎へ向かいました。

途中でハーウッドを見かけたので、多忙な隊長さんはハーヴに私を任せて団長室へ戻っていきました。


「いつあったんです?」

「ん?ああ、3日前だな」

「……1週間以内……」


ユナニス国に拉……行ったのは1週間前だ。

思考の海に沈みそうになったところで、竜舎に辿り着きました。

こいつらだ、と見せられた飛竜たちとスティンガーなどの地竜は、裂傷、火傷、凍傷、謎の黒色爛れなど様々でした。

裂傷は、パッと見にはその切れたところから黒色に爛れが広がっており、傷の判別が難しい。


「人もこのようにただれるのですか?」

「そうだな。前にお前んちに来てたベルナーク様の黒龍ニドヘグの毒ほど酷くは無いが、普通には回復できない傷だった」


手近な裂傷の子の傷にそっと手を添える。

魔力を流してみれば、なるほど、回復の前に爛れた部分を切り取らないといけない感じだった。


「私には……これは解毒より切除して再生が合うような気がするんですけど」

「ああ、時間を置いちまうとそうなるんだな。……数も多いが、頼めるか?」

「勿論です」


それから私はポチから診療具を受け取り、一日かけて竜達の傷を治療した。

途中で貴重な魔力回復剤を貰ったりするぐらい、力を使う傷ばかりでした。

竜達が済んだあと、医務室にもお邪魔して札で部屋を封鎖、中にいる負傷者たちの意識も奪ったうえで加護札も利用して治癒術を施し軽傷程度になるまでは治しておきました。

そうして団長さんのところへ報告に戻り、後でハーヴ経由で報告書を見せてもらえるようお願いして今日は帰る事にしました。


日も暮れた為、こっそりムーちゃんを呼んで飛んでもらうことにします。

空から見る黒々としたこの辺りの森は、いつも通りだと思うのにうすら寒い物が混じってしまった気がしてたまりません。色々なものに押しつぶされそうになりながら、帰路につきました。




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