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35.古代竜を探しに行ってみましょう


ある日、一仕事終えて家に帰るとフェルゲ二シュが居ました。


――デジャビュ!?


「ムーちゃん!」


私の叫びに彼女は鋭く反応し、訓練通りに風魔法を纏いくるりと身をひるがえして逃げ――「逃げんな」……られませんでした。

ベルナーク様はどうやったのか、ムーちゃんが身を翻した瞬間に私の後ろに立ってました。何この超常現象。


「まぁ俺が何言うか解ってて逃げたんだナ?」


ニヤリと悪党顔で笑うベルナーク様にそうですねとしか言えませんでした、トホホ。

仕方がないのでムーちゃんを実家へ転移させてからベルナーク様を家の中へ招くことにしました。


「キュ〜〜ゥ…」

「あーフェル君、ムーちゃんに嫌われたくないなら追わない方が良いですよ?」


フェル君は物凄く悲しそうですが、追いかけて嫌われたくはないようで大人しく待機してました。少しだけ見直しましたよ、フェル君。


家の中に入り箒をリビングに立て掛けて、お茶を出してから本題に切り込みます。


「……だからそれは何だ?」

「さぁ。師匠と関係がないなら協力は拒否させて頂きます」

「開口一番それかよ。残念だが拒否は受け付けん。それと今回のは直接オルには関係ねぇ。……古代竜の件だ」


彼はそう言うと、私が出したお茶を行儀悪くぐびりと飲み干して続きを話し出しました。


「ズメウ皇帝からの直接の依頼だ。俺と五大古国を巡って古代竜と接触せよ、とな」


出たな無理難題!と八割逃げ腰の私に、今回に限っては封蝋付きの手紙まで出てきました。紅い蝋で竜をモチーフにした印はイレヴゥイシュト家の、ズメウ皇家の物に違いありません。

中を開けると現皇帝陛下直々に書かれたと思われる手紙が入っており、ベルナーク様と共に古代竜を巡って道を繋いでもらいたいとありました。


「……道って何ですか?」

「あの後報告がてらフレアブラスについて聞いた。各地を繋ぐ力を持った新しい古代竜なんだとさ」


新しいのに古代竜とはこれ如何に。皇帝陛下が言うには、古代竜は本来創世の時代からいると言われる5体の呼び名なのだそうな。それからだいぶ後、ズメウの先祖である火竜の時代にフレアブラスは生まれ、ギ族の呪いに侵されながらも古代竜の地を浄化する力を繋ぐ能力を得た。そうしてこの地上を浄化し、地下世界との繋がりを弱め、竜も住める状態に戻したのだという。


「代々皇帝にのみ口伝で伝えてたんだとよ。これ聞くだけでとりあえず後継者として名乗りを上げろと言われた」


ベルナーク様は苦虫を噛み潰したような顔をしておりました。真実を知るための代償は彼にとって相当大きかったようです。


「あと、フレアブラスの力が弱まると地が乱れて魔が湧くんだと」

「………話が大きくなりすぎです」

「だな。藪蛇つついちまったと思ったよ」


二人揃って渋面になってしまった。


「キーヴァの話もした。対抗できるシ族ってのがいなけりゃそのうち完全に結界が解けて竜が住めないように――」

"ほぅ、良いことを聞いた"


私の後ろから喜悦を含んだ声が聞こえた瞬間、ベルナーク様が魔法のように剣を出して私の肩辺りに突きを入れた。風圧で私の髪が切れたのはどちらにも無視されました。


「盗み聞きとはいい度胸だなァ」

”俺はここに居たさ。はじめからな”


最近私の魔力の利用方法が分かってきたらしくあえて提供しなくても飢えなくなってきていたキーヴァ君だが、利用方法が分かってきたのは私も同じだ。右手でぱちんと指を鳴らすと、彼はがっくり膝をつきました。


”くっ!何をしたっ!?”

「魔力を回収しました。お話の邪魔はやめてくださいね?」

”くそっ!人間のくせに……”


ここにいるとまずいと思ったのだろう、言い捨てて彼は空間を渡って姿を隠しました。


「あ、すいません。ギ族の話を聞きそびれましたね」

「お前さすがに生物の管理が上手いな」

「さっきのが出来るのはこの家の中だけですよ。あの子自身、最近身体的にも成長しているようですし、魔法らしきものも使えるようになってきています。いつまで抑えておけるかは分かりません」


正直言って、私と知り合ったせいで彼はこの世界でも成長し、一人でも生きられる力が付いてしまった感じがするのです。

一応責任は感じるので、ある程度は制御いたしますよ?ある程度ですが。


「では話を戻しますが、今回は謎のシ族とやらを探すのではなく古代竜巡りで宜しいんですよね?」

「ああ。頼む」

「契約変更なしですよ?………で、また今すぐ行くんでしょうか?」

「今日中」


もうため息しか出てきません。何故こうも身が軽いのでしょうか。


「私、前回から札の補充が全然出来てないので、行けても一ヶ所位ですよ?」

「纏めて回れるほど軽い連中じゃないさ」


この前の巨竜種(スキュラ)の件を言っているのでしょう、とても渋い表情をしておりました。


「では今回はどちらから参るんですか?」

「白のアルブルス、ユナニス国だ」


……野生種、多頭竜(ティフォン)の棲息する国ですね。以前バシリスクの討伐に行ったクヴァールのお隣の国です。


「まさか二人だけですか?……精霊さん期待してません?」


ん?とこちらを見るベルナーク様はいっそ無邪気な感じに当たり前だろ?と言ってきました。

ここで私も我慢出来なくなって、バンとテーブルを叩いて主張しました。


「精霊さんはそんなに気安く呼んじゃいけないと思います!それに、そんな危険な所になんで次期皇帝候補が従者の一人も付けていかないんですか!?なんで私なんですかっ」

「駄目ならこの人数でやるだけさ。従者は足手まといになるから巻いてきた。お前は親父に目をつけられたからだ」


…………サラッと聞き捨てならない台詞が聞こえましたよ?

ギギギと身体ごとベルナーク様にしっかり向き直ってみると、彼はとても残念なものを見た顔をしてました。


「……目をつけ?」

「嫁候補としてな」

「誰が?」

「お前が」

「誰の?」

「ズメウ次期皇帝の」


なんてことだ。竜医としての評判を聞いて評価して注目してくれたのかと一瞬思っただけに、ショックだ。


「竜医としてじゃないならほっといてください」

「ほっとくようには言った。オルの件もあるしな」


お互いに色々不本意なのは分かったので、実のある会話に無理矢理戻すことにしました。


「ティフォンに会ったら逃げて良いですよね?」

「逃げても目的が達せられるならな」


多頭竜(ティフォン)の名を聞いてあえて向かっていくような馬鹿は、私は二人しか知りません。どなたかは言いませんけどね!

そんな無謀な方を目の前にして私の言えることは一つです。


「いくら皇帝陛下の命でも断らせていただきますっ……うっ、頭が腹痛なので今回は動けま……イギャーー!!」


お腹を押さえてふらふらと2階に逃げ込もうとしたら、頭を鷲掴みされて持ち上げられました。

痛いってば!頭がもげる〜!!


「竜医の仕事を干されたくなければ従え」

「暴君ーパワハラ反対ーっ」


結局パワハラに屈した私は、荷造りも程々で連れ出されたのでした。


今回はフェル君達の同行が可能なのが救いです。ムーちゃんは明日以降に召喚予定です。

前回飛んだことのある地点まではフェル君に空間移動してもらったので、そこからはユナニス国まで空行です。

夕暮れの空に虚しさしか覚えない私はダメ人間でしょうか……。


「思えば、なんで仕事終わって家に帰ってすぐ出なきゃいけないんでしょう。フェル君がいるなら出発が明日でも良かった気がするんですけど」

「許可証が今日付けだからだ」


今日中にユナニス国に入る必要があるらしい。なんて無茶苦茶な予定なんだ。


「王都ゴレスターンの手前まで行くぞ。頑張れ」


私は連行されているだけで、頑張ってるのはフェル君なので何も言えません。

暮れなずむ空に、ため息が溶けて消えました。



王都手前の街、スーサが見えたところでフェル君を解放しました。日も暮れましたがここからは歩きです。

何処からともなくポチが現れてくれたので、私は荷物だけは彼にお願いしました。


「ホント忠犬だな。妖精ってもっと自由な奴等だと思ってた」

「私もポチと知り合うまではそう思ってましたよ」


まぁポチ経由で知り合った精霊さんや妖精さんは皆さん善良で協力的ですけどね。


「まぁ街中とか人混みにはついてこないだけコレより優秀だな」


そう言うとベルナーク様は私の背中に手をやり、影からキーヴァ君を引きずり出した。


"てめぇ何すんだよっ離しやがれ!"

「アスラン、こいつの力を削っとけ。お前はこっちだ。……フェル!」


私にギリギリまで魔力を抜かせてベルナーク様は上空に合図を送る、と、空間を裂いてフェル君が現れキーヴァ君を右手にキャッチしてまた空間を渡って行ってしまいました。まるでカモメが人の手から食べ物を強奪していったかのような早業でした。


「こんなことばっかやってると、後でしっぺ返しを食らいますよ?」

「いつでも歓迎してやる」


師匠といいベルナーク様といい、なんでこう自信満々なんでしょうねェ。

どうでもよくなったので、私は歩くことに集中することにしました。



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