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34.横の繋がりって素敵ですよね


こんにちは、今日も元気なアスランです!

隣国なんですが念願の訪問先、アララール地方にお仕事に来ています。今回も普通の竜医のお仕事ですよ?ご指名頂き誠にありがとうございます。


え?越境許可書ですか?もちろん持ってますよ、当たり前じゃないですか。

いつかは行きたい訪問先の許可証は、先手を打って日付だけで提出ができるように作成してあるのですよ。担当者にしてもコネもガッツリ使って直ぐに返してもらえるようにしてるので、お金かかってますよ~。そして返信は郵便じゃなくて魔法送信で時短できるように魔力も込めるだけ込めまくってますよ~。



「グルルル………」


私の目の前には今回の訪問理由である可愛らしいユランが居ます。まだ若い彼女はどうやら魔力詰りを起こしてしまったようで、この数日ちょっと、いやだいぶ調子も機嫌も悪いらしいです。この子はトプセル様と違って念話は出来ないらしいので、私としてはちょっと安心です。


”お前の念話のイメージって何なんだよ”

「妖怪サトラレですね」

”なんだそれ?”


君みたいな子ですよと思いつつ、呼んでもないのに無駄に現れたキーヴァ君に、桶一杯水を持ってきてもらえるよう依頼しました。彼はぶちぶち文句を言いながらも桶を持って水を汲みに行きました。仕事を任せると意外と素直なんですよ、彼。


「辛いでしょうけど少しだけ、確認させてくださいね」


そっと彼女の頬に手を添えてお願いする。

魔力詰りの時は、他人の魔力に当てられると不快を感じます。しかし話しかけても彼女は目を閉じてじっとしてくれたので、承諾してくれたようだ。添えた手を鱗の流れに沿って体全体を順に撫でていく。

魔力の溜まる所は種により若干違うが体全体に数か所あるのが普通だ。どこに一番溜まりやすいのかは個々それぞれに違う。彼女は胸の辺りらしい。呼吸器官等が近いからここも結構辛い所だったりしますね。


「大きく息は吸えますか?」


出来ないらしくふるふるとユランは頭を振る。

ちょうどキーヴァ君が水を持ってきてくれたので、私は両手を濡らし、左手を彼女の胸の魔力が溜まっている地点に当てました。


「今から少しだけ強制で魔力を抜きます。少し暑くなると思いますが、苦しくなくなったら合図をください」


コクリとユランが頷くのを確認して、長い詞の詠唱に入りました。

半眼で力の(こご)りだけに集中することしばし、少しずつ彼女の魔力が溶けて流れ出てきました。

流れた魔力は腕を伝って反対側の手から放出されます。

古代神聖語であるこの呪文は、元々は一人では発動出来ない強い術を使う者に魔力を付け足すために生まれたものだったらしい。昔の人は、様々な手で竜などと同じ高みに上がれたということだ。凄いね。


患部に当てた手の反対、つまり右手を浸している水がみるみる白く色づいていく。色から思うに彼女は治癒特化型に違いない。だから余計に詰まりを起こしたんですね。

人でも同じなんだそうですが、魔力持ちは常にある程度魔力を発散させないと体に悪影響が出てきます。攻撃なり補助なりで魔力が使えれば溜まりきって膿むような事態には普通ならないのですが、彼女は治癒以外に発散方法が無かったようなのです。

膿んでしまうと自力で出来る通常の発散方法が使えなくなるので、私のような専門家の出番になります。あ、専門家でも対処方法はそれぞれ違うみたいですよ?私のは師匠方式です。



クゥ、とユランが鳴く。

切りよい所で詞を止めて、手を離しました。


「では少しだけ腕に傷をつけさせて貰いますが、胸の魔力溜まりを意識して、なるべくゆっくりしっかり魔力を練って洗練させてから傷を治してみてください」


彼女の右腕に小型ナイフで切り傷を作る。

つるりと血が垂れる中、彼女は傷口を凝視して癒術を施しました。発動するまでに十分に練り上げた癒術はほんの瞬き程度の時間で傷を癒せます。

胸に触れるとまだまだ魔力の流れが弱くてまた詰まりそうな感じを受けたので、彼女を連れて竜舎中の竜を使って魔力を使わせました。今までは彼女の治癒範囲では無かったらしい筋肉の疲労や内臓の疲れを取らせたり、力の使い方を溜めてからの発散に変えるよう指導したら、魔力の流し方も勢いも変わったらしい。

こういう魔力の使い方が出来るようになったなら、今後ここまで詰まることは無いでしょうね。


「もう大丈夫そうですね。癒術以外が使えるならこうもならなかったと思いますが、今後は力の使い方にも気を付けてみてくださいね」


すり、と私の足に頭を擦りつけて、彼女は同意と感謝を伝えてくれました。



竜舎を出たところで、依頼主の竜舎長に会いました。

気の良いおじさんの彼ははじめて扱うユランを大事にしすぎたらしいのです。

治癒特化の話しもしたので、今後はこうなる前に対応できる事でしょう。


「この後は何か予定ありますかい?」

「いえ、特には。ただこちらの地方には是非来てみたかったので、色々見学できたらなぁと思ってます」

「では一つおススメの牧場を紹介致しましょうか。私のいとこが居ますんで案内させますね」


牧場繋がり、最高ですね。


しばらく待つことになったので、今一度竜舎に戻って一通り見直しました。

ユランの彼女に食欲不振時の対処の仕方を教えて練習も終えた頃、依頼主に似た恰幅のよい、いや明らかに鍛えられたおじさんがやってきて「君がシィアンの竜医の姉ちゃんだな?俺はオルリック。飛竜は乗れるんだろう?案内するから付いてきてくれ」ってな感じで、あれよあれよという間に運動場へ連行されました。

そこには、コム国の辺境伯の所にいたユークレース君に似た藍色のワイバーンが2匹、準備万端で待機していました。


「宜しくお願いします」

「こっちこそ、ガッツリ追うからしっかりついてきてくれよ!」


跨がるが早いか、彼はパンと手綱を鳴らして飛びだしました。

私も慌てて騎乗し、装具の調節も出来ないままに追いました。

ガッツリと言っていた通り、ともすれば見失うくらいワイバーンとしては最高速度に近い飛行速度で飛んでいます。ちょっと物理的に苦しいので、自分に風魔法を纏わせました。これくらいのちょんぼは良いですよね?

ちらりと後ろを向いて私がちゃんとついてきた事を確認したオルリックさんは、ニヤリと笑って半ロールし、谷へ一気に下降していきました。


……普通に案内する気、無いんですね。


同じく下降し、谷に沿って飛びます。右に左に蛇行する渓谷を楽しむ間もなく、滝を潜り 切り立った岩場をすり抜け 湖の水面ギリギリを波しぶきを立てながら急上昇とそこからの反転など、いつの間にかそこいらの魔力補助の出来ないライダーでは真似できないであろう事もさせられました。勉強にはなりましたが全く意味が分かりません。

だんだん制御する身体がきつくなってきて、もうコレ何の試験ですかと思うほど色んな飛翔を試した後にようやく牧場へ到着いたしました。

クールダウンが必要なワイバーンを牧童さんに渡して、力尽きしゃがみこんだ私をそのまま竜舎に案内しようとするオルリックさんはまだまだ全然元気そうです。そして何故かとても上機嫌です。


「姉ちゃんやるなあ。特級ライダー試験受けりゃ良いのに」

「……いや、あの、一応竜医なんですけど」

「ここに往診来る竜医のあんちゃんも上級の資格取ってるから良いんじゃね?ってかあんちゃんより嬢ちゃんの方が数段上だわ。つかどっかの国に落ち着きたかったら推薦状書くぜ?」

「あ、ありがとうございます……?」

「でもま、体力無いのと、下降前に左にヨレる癖は直した方がいいな。動きがバレる」

「!!」


この人後ろに目があるんですかね?凄すぎです。そんなオルリックさんの勢いに押されつつ、竜舎に入ると、ズラッと年若い牧童さん達が並んでてビックリして後退りしてしまいました。


『宜しくお願いしますっ!』


何を宜しくなのか全く分かりませんが「こちらこそ宜しくお願いします」と返しておきました。挨拶は大事ですよね。どうやらさっきの飛行を観られていたらしく、何やら皆さん興奮で目がキラキラしておりました。


「この方はシィアンの竜医、アスランさんだ。さっき見ただろうが、ライダーとしても一流だからこの機会に勉強させてもらえ」


オルリックさんはそう言って私を紹介して、牧童さん達を散開させました。

……いやね、師匠じゃないからライダーじゃないって……言いっぱぐしましたよ。

彼に竜舎内を案内してもらいながら、さっきの集合の意味を教えて貰いました。


「あいつらはさ、ドラゴンライダーに憧れてここに修行に来てんだ」


聞けば、オルリックさんは昔とある国のドラゴンライダーで筆頭騎士だったらしいのだ。肩に大怪我を負って引退したらしいのだが、彼の現役時代を知っている少年たちの親が修行先にここを選んだらしい。

空いた時間に剣の稽古もつけてやっているらしく、将来は各国で活躍してくれそうだと楽しそうに教えてくれました。


「肩の怪我はもう治られたんですか?」

「意外と奥が深いみたいでね、剣で当たりが重い奴を相手にすると今でもすげー痛むよ」


へぇ~などと軽く話しながら、ちょっと傷を診せてもらったら神経系は全然アフターケアがされてませんでした。治癒師腕悪すぎ。ってかこういう後遺症の治療方法ってあんまり知られてないんですかね?

まぁ私は竜医だから気分だけですけどね~、なんて言いながらこっそり筋繊維と神経の傷を治しておきましたよ。内緒ですけどね。

竜舎の半ば過ぎでさっき乗せて貰ったワイバーンの竜房があったので、そういえばと気になっていた事を聞いてみることにしました。


「こちらのワイバーンで、コム国アールスタッド伯へ行った子はいますか?」

「おー、ユークレースの事か?あいつ身体が小さかったから心配だったんだ。元気でやってるのか?」


オルリックさんは嬉しそうに話しだしました。

ビンゴです。やっぱりこちらの出身だったんですね。世の中は意外と狭いもんです。

今のところ体軸が歪んでいるので乗り手共々矯正中だとお話したら、そのうち見に行ってやろうと約束してくださいました。

ついでにダイエット中のドラゴネットのルフの話もして、本人がやる気があればこちらで修行を受け付けてもらえるようにお願いしました。ここで鍛えればロウファル王子も一流のドラゴンライダーの伝手ができそうですしね。帰ったら早速手紙を送ってあげましょう。


運動場の見学をさせてもらった時に、何人かの少年から竜の健康管理についてとか体格差の補い方等の質問を受けました。育ちざかりの少年たちなので体格についてはそのうち解消されるでしょうけど、悩むことは大事ですので大いに試行錯誤してもらいましょう。

この他にも歩様や餌についてなどの面白い意見も出て大いに盛り上がり、自分にとっても良い刺激になった今回の牧場見学でした。


「今日は見学とか言ってたのに、あいつらに色々刺激を与えてくれてありがとな。また来てくれよ」

「こちらこそ、とても有意義な時間をありがとうございました。今後ともよろしくお付き合いおねがいしますね」



いつもの感じで帰ろうとムーちゃんを呼んだら、外に出ていた竜が一斉に警戒の声をあげ、オルリックさん始め牧童の皆さんが大慌てで武装してきたので必死で止めました。そして皆に平謝りして超特急で帰りましたとさ。


あー……最後にやらかしてもたー…………。


―その後の牧場にて―


「オルリックさん最近調子良いですね」

「ああ、何か長年の肩の痛みが取れたっぽいんだ。今日はこっちで稽古付けてみようか」

「利き手でしたもんねぇ。ってか危なっ!そんだけ剣振り回せるなら十分じゃないっすか!」

「あれー?痛みが全然無いなぁ。何でだ?まいっか」

「えー、俺もついていきますから現役戻る気なら早めに教えてくださいねー?」


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