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32.お小遣いは薬草が一番稼げる気がします


こんにちは、今日はせっせと薬草摘みのアスランです。

久しぶりにムーちゃんの故郷、クシュ国の更に北にあります氷原地帯に来ております。

こちら永久凍土のためだったり人が住んでいなかったり野生種の氷竜リントヴルムの生息地ナワバリだったりするため、国という枠組みにありません。強いて言うなら、ズメウ管理の土地になるのでしょうね。


リントヴルムは縄張り意識が強く、入ってくる者には集団で、しかも魔法も使える上に連携して対応することもあるなど、敵意を向けたものには容赦しないことで有名です。

まぁ話して分からない相手ではないので、彼らの納得いく答えを返せれば入れますよ。たぶん。


さてさて、薬草です。

この氷原地帯には、何故か炎嚢管支炎にとても良く効く薬草が自生しています。……数種の苔位しか生えない氷原を生息地にする、ある意味とても強い草です。

だいぶ昔に師匠が各地の薬草研究者に株分けしてあげて様子を見ていたらしいんですが、今のところ培養は上手くいっていないらしいです。自然の不思議ですね。

なので、私はたまにお小遣い稼ぎにここに来るのです。


根を残しながら採取可能な葉を無心に摘み取っていると、鼻面をひっつけて邪魔するチビッコがきます。

さっきまで護衛について来てくれたポチに絡んでじゃれ合ってたのに、もう飽きてしまったんですね。


「こらー。薬草踏んじゃダメだよ。終わったら遊んであげるから大人しく待っててよ」

「ピピュルルル~」

「ピルルル~」


二匹で並んで可愛く首を傾げられても駄目です。すごく可愛いけど。

ムーちゃんファミリー繋がりで、私もポチもリントヴルムに信用があります。なので、ここに来るとドラゴネットの子守りを頼まれたりするのです。

可愛いんですけどね、邪魔さえしなければ。


「ピルル」


ころりんと無邪気に転がり腹を出す超大型犬サイズのドラゴネットのおねだりに、こちらが根負けです。

薬草を避難して、その子と兄弟の、二匹のお腹をめい一杯撫で擦ってあげました。


「ピュイー……」

「ピー」


彼らはそれで満足したらしくまた別の遊びを始めたので、薬草摘みを再開しました。

無心で摘むことしばし。両手で掴める分の4回半位採りましたので、暫くは大丈夫でしょう。帰ることにしました。


「ピーちゃーん、ピッピちゃーん、帰るよ~!」


二人を連れて、ムーちゃん一家の縄張りまで戻ります。

彼らに魔法の練習をさせるため、私の荷物を空に浮かせながら帰ります。

重力魔法か浮遊魔法で浮かし、風魔法で移動させる。簡単なようですが二種類を発動させたままコントロールする事になるので案外難しいのです。個体によってはどう訓練しても使えない術があるので、それを把握するためにも実践することはとても大事です。


「ピュルィー…」


どうやら着く前にピッピちゃんは力尽きたっぽいです。

仕方ありません、荷物のアシストとピッピ運びを受け持ちます。それを見たピーちゃんも力尽きたフリをして私に運ばせました。

まだまだ甘えたい盛りのチビッコなので仕方がないですが、か弱い人間に甘えるのはホント止めなさいね……。



無事に親御さんの下に二匹を返せましたので、私たちも帰ることにしました。

ムーちゃんは名残惜しげに両親の首筋に自分の首を擦り付けます。

幼いチビ兄弟達にはほっぺにスリスリです。


クオォーーン!


ムーちゃんは私にもすり寄った後、一声吼えてからポチと協力してお家までの転移ゲートを作成してくれました。

また近い内に遊びに来ましょうね!



家に帰り付いて、ムーちゃんにしばらく待機してもらっている間に、私は今日採ってきた薬草のうち小さい葉ををいくつか束にして乾燥室にくくりつけました。残りを10枚1束にして鞄に詰めます。

ついでに、乾燥の済んでいるその他の薬草やら蜥蜴の黒焼きやら売れそうなものを色々詰めました。

あ、お酒も忘れてはいけませんね。危ない危ない。


「ムーちゃんお待たせしました。お疲れかもですが、メリュジーヌ(ねえ)さんのトコまでお願いしますね」


ムーちゃんにお駄賃の金平糖をあげてから、乗せてもらいました。

翼に風の、私達の身体には保温と気圧保持の魔法をかけます。彼女はいつもよりふんわりと飛び立ちました。


姐さんの家はぎりぎりオフラス国内ではありますが、とてつもない田舎な為普通には行けません。

この国で最も高いヤクート山脈に囲まれた村の、その中でも更に高地にある為です。


村に着くまでには一度雲海が見えるほどの山登りをするか飛んで行くかになります。

私は飛んでしかここを越えたことがないんですが、とりあえず色々厳しい所です。


村の外れにある山小屋みたいな赤い屋根のお家がメリュジーヌ姐さんの住処兼薬局です。


入り口の扉を開けるとカラカランとドアベルが鳴りました。

部屋は来客用のスツールが2つあるだけで、後はカウンター。ぱっと見薬草のやの字もないので、一見さんなどは薬局であると全く気づかないと思います。居住地といい、商売する気はほとんど無いのが分かりますよね。


「メリュジーヌさんお久し振りです〜。氷原の炎嚢管支炎に使える薬草持ってきましたんで買い取りお願いします〜」


暫く待っていると、奥の扉を開けて妖艶な美女がやって参りました。腰まである長い紫がかった黒髪は綺麗に巻かれ、紫のシャドーで色ずいた瞼と長い睫毛の奥には綺麗な金の瞳。そしてその眼の左下には黒子があって色気がたっぷりなのに、ふっくらした柔らかそうな唇までお持ちの素敵お姐様。彼女がメリュジーヌさんです。

彼女は私の顔を見るなり細い眉を吊り上げて不機嫌になりました。


「まだあんたオル様に引っ付いてンの?いい加減離れなさいよ」

「……メルさん、そう言われても、私は弟子だと何回も説明してると思いますけど?」

「ヘッポコだろうが何だろうが卒業しなさいって言ってンのよ。あの方に見合うのは私だけよ」

「そうですね。でもそれは貴女が直接言ってやってください」


あ。そういえば彼女には師匠失踪した事言ってなかったっけ。

前回ここに来たのは、確か居なくなる一月前位だった気がします。とりあえず事実から伝えることにしました。


「そういえば、師匠、半年前から諸事情で失踪中なんですよ。つい言い忘れてました」

「なんですって!!」


バンっ!とカウンターに両手を叩きつけてこちらに身を乗り出してきました。

驚きと動揺のあまり術が解けたのか、手の爪が伸びてカウンターに刺さってますよ……。


「……術解けそうですよ?」

「ッ!!」


メルさんは慌てて深呼吸して自分を抑えてました。

ハイ。勘の宜しい貴方、それ正解ですたぶん。

彼女は人族ではありません。竜種の、しかも伝説の野生種、黒竜(ヴィエント)なんです。


何が楽しくてこんな辺鄙な地で薬師さんなんぞやってるのかまでは不明ですが、人の姿をとるのは師匠に服従という名の愛を誓ったかららしいです。さすが呪われた種という二つ名付きですね、意味が全く解りません。

それから顔を合わせる毎に、私に対して「私が弟子になりたいのに」だの「早く離れろ」だの煩いのです。

……まぁ直接師匠と話させたら「嫌です」の一言で無下に払われた方なので、あまり苛めないようにしてあげてます。


「なんでアンタ探さないのよっ!何でもっと早く私に言わないのよ~!!」


姐さんはいつの間にカウンターを越えてきたのやら、私の肩を掴んでガックンガックン揺すってきました。


「や、やめ、て、くだっ、は、は、吐くーっ!」


渾身の叫びを発したら、さすがに手を止めてくれました。


「その時の依頼主のベルナーク様も全力で探してくださってますが、どうにも判らないのですよ」

「……バカ娘、私の占いの力を忘れてもらっちゃ困るわ」

「呪わないで下さいね?」

「竜化したら呪ってやるから待ってなさい」


言うなり何処からともなく私の頭よりも大きな水晶玉を取り出しました。

布をひいてからカウンターに置いて、手のひらをかざす。


「…………」

「…………」

「……何かあの人に関わるもの出しなさいよ」

「はい」


弟子の手ですと差し出したら、その手を思いっきりひっぱたかれました。無茶苦茶痛いっ!!


「物が必要ならこっち来る前に、もっと早く言ってくださいよ」

「何で連絡する気よ。家にはあるの?」

「あるけど師匠の空間魔法が解けないので取れません」


彼女も「あーそりゃ無理だわー」と遠い目をしてしまった。

魔力過多なヴィエントをもってしても、あの人の術を解くのは無理らしい。


「とりあえず薬草買ってください」

「アンタ切り替え早すぎだわ」


思いっきり嫌な顔をしながらも、薬草を見る目は確かにプロです。綺麗に選別してきたつもりでも何枚か弾かれました。


「これから時期だから良かったわ、今回は質が良いから金貨10枚ね。あと残りのやつは3枚で」


ありがとうございます~と弾かれた葉や買って貰えなかった蜥蜴さんを袋に戻して、お土産に持ってきたお酒と金平糖を渡しました。


「いっつも思うんだけど、このボコボコってどうやってつけるの?」

「気合いとやる気ですよ。あと食い気」


根性論の問題じゃないと言われましたが、アレは根性だと思います。うろ覚えの昔テレビで見た感じから試行錯誤でかなりやりこみましたけど、師匠のアドバイスと補助魔法と魔具と食い気が無かったら無理でしたね。凄いね食い気って。


「んじゃ、帰りますね~。また宜しくお願いします~」

「次こそオル様の使ってた何かを持ってきなさいよ。来なかったら…………そっち行くから」


最後にボソッと呟かれた単語にゾッとしました。

竜化されて来られたら見た目には伝説の厄災再びなので、これは何か早めに持ってくか送るかしないとシィアンに居られなくなるかもです。


「ガ、ガンバリマス、ではまた~」


笑って手を振りドアを閉めました。そっと建物を離れてため息ひとつ。


「やっぱ姐さん怖い…」


でもまぁ薬師としては見る目も腕も確かですし、何より金払いも良いですからほんのたまに交流する分には細かいことは気にしないようにしましょう。


茜色の空に白い竜が飛び立ちました。

何もかもがオレンジ色に見える空の中で、今日一日の反省です。



師匠ー(姐さん恐いから)早く出てきてー!

お腹減ったーーっ!!



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