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26.今度こそ目的地へ向かいましょう


名残惜しかったのですが森の出口でスナイフェル氏とベルガ君と別れて、疲れた身体を引き摺るように歩いて王都を目指します。

でもすぐに私は挫折しました。


「……すいません、力尽きたんでポチに乗ります」


ベルナーク様に「お前だけ狡いぞ」と言われましたが無視して私はいそいそとポチの背に乗りうつぶせになりました。

魔力の残りが少なかったからか緊張の連続だったからか、ポチの歩みに揺られて少しで私は眠ってしまったようです。気が付いたら王都の門をくぐってました。


私が起きたので、ポチは遁甲してしまいました。彼は人が多いところを本当に苦手としているので仕方ありません、宿まで頑張って歩くことになりました。


バーラット国の王都セーシェルは、五大古都のうちの一つであります。

青のキュアノエイデスにより古の厄災から護られた都市と言われており、古代竜信仰も盛んだ。

木工工芸品に魔力を乗せる魔道具が得意で、隣接する聖者の森へ入る際は巨竜種スキュラ避けに必ず一つは持つべしと言われています。


「……アレを持ってなかったせいなのか?」


宿を探しながら通りすがりの露天を眺めていたベルナーク様がポツリと呟きました。

スキュラのあの退却劇がどうにも心に引っ掛かっていたみたいですね。


「いえ、今回のはかの方の気紛れです。あのに罪は無いと思いますよ」


冷静に考えると、巨竜種スキュラにしては直情的ではなかった。あの種は体格に見合った感じでもっと力業でくるのが特徴だったはずだ。

外界から隔離し、植物を使ってなぶるように追い込むなんて。後から考えれば、あれは他の誰かが我々の力量を測る為に意図的に行ったと見ることも出来た。


「だとしたら、竜医がいたのに再生してやらなかったのは痛いな……」

「いえ、構わないと言われたので大丈夫かと」


実は炭化による消失した部位の再生は無理なんです、とはちょっと言えませんでした。そのうちちゃんと言っとかないと危険ですね。

は?とベルナーク様は王都に着いて以来初めて私の顔をまじまじと眺めてきました。


「森の主であるあのお爺さま直々のお達しがありましたので平気だと思いますよ?」


はぁぁぁ〜……とそれはそれは長いため息をついて、ベルナーク様がしゃがみこみました。


「お前を巻き込んだのは奴らを炙り出すには最適かもしれんが、世界を敵に回す可能性が物凄く高まった気がする……」


何だか解りませんが、ろくな事にならない感じだけは分かりましたよ。


「……今からでも帰って良いですか?」

「お前んちにフェルニゲシュを放置するぞ」

「酷っ!営業妨害です!」


なら諦めろ、とそれだけ言うとまた無言で歩き出しました。

それにしても宿はまだ遠いのでしょうか。


「ベルナーク様ー、宿はまだですかー?」

「着いたよ、ここだ」


彼が立ち止まって見上げた先に、青龍亭という宿がありました。


「……なんか名前が嫌なんですけど」

「自費じゃないんだから文句言うな」

「えー……」


ブーブー言いながらもベルナーク様の後ろに付いて宿に入りました。

中は一階が食堂タイプではなく自室で食べる高級宿でした。ビックリ。

ベルナーク様は手慣れた感じで手続きを済ませ、鍵を預かって上階へ向かいます。

とりあえずひたすら金魚の糞をして、最上階にたどり着きました。

最上階にはドアは一個しかありませんでした。

無言で目線を送ると、「中で部屋が別れているから気にするな」と言われ、先に入られてしまいました。

さすがに今から彷徨(うろつ)く気も失せて中に入ったら、広々としたリビングでした。


「そっちがお前の部屋だ。内鍵がかかる。俺は先に湯を浴びたいから解散」


言うだけ言うと、ベルナーク様は反対側の部屋に引っ込んでしまいました。

仕方なく私も指示された部屋へ入ると、リビングと寝室に浴室と洗面室が付いてました。あんびりーばぼー。

……たぶんこの部屋だけで私の普段利用する宿屋の何十倍もかかるぞ、ここ。


「ポチ〜……」


一人でいるのに耐えかねて呼んだら出てきてくれました。

二人で部屋を探索する。


自分も血まみれ埃まみれだったので、ポチ共々まずはお風呂に入ってサッパリしました。

水に触れた痛みで初めて右上腕が切れていたことを思い出して、ようやく術で治しました。

髪を乾かして一段落したら、空腹より睡眠欲が勝ってしまい、ソファでポチをモフりながら寝てしまいました。


そして起きたら朝でした……アレ?


真ん中のフロアに出ると、ベルナーク様がちょっと驚きつつも「おはよう」と言ってきたので「おはようございます」と返してソファに座りました。


「スティンガーを一頭用意した。飯食ったらさっさと行くぞ」


そう不機嫌に言われて、とりあえず昨晩の非礼を詫びました。

そうしてよくよくベルナーク様を見たら、薄暗い外にいた時には全く気付きませんでしたが、染めていたハズの髪色が元の動脈血もといレディシュに戻ってました。後、目は金から元の鳶色に戻ってましたね。


「ああ、あの時力を使ったからじゃないか?」


私が凝視していたのに気付いたのでしょう、答えをくれました。

成る程、ズメウにも普通の染色方法は通じないわけですね。また一つ学習しました。


宿を出る前に時間を貰って、今度は魔力水も使って黒に染色してみました。そしたら、日光に当てなくても静脈血でした。……あれー?


表に出ると、宿の従業員さんが一匹の立派なスティンガーを引いてきました。二人乗りできるよう鞍が特殊な形状ですね。

どうせ私は前だから乗ってるだけでしょうけどね。ちっ。

職業病だと思いますが、前を持ってもらって全身を軽くなでて健康を確認していたら竜好きと思われたのでしょう「立派な子でしょう?」と言われました。


「そうですね、しいて言えばもう少し食事を肉寄りにした方が良いかもしれませんよ」

「ああ、気にしないでください。こいつマニアなんで」


その言い方をされると、間違ってはいないけどちょっと頭にきますね。

反論しようとしたんですが、後ろからアイアンクローされたので無言で乗り込みました。


……あとで覚えとけーって言いたいけど寝込みを襲ったとしても勝てそうにないから、後で呪の人形作って針刺してやるー。



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