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24.青の古代竜の加護


妖精さんチームのお陰でお昼を少し回ったくらいで祠に着くことが出来ました。

祠の入り口は日本の稲荷門のような緋色の組み木と左右の門番――この地は古代竜(エンシェントドラゴン)青のキュアノエイデスの加護を受けている地なのでその卷族の青龍――の像からなっています。


騎獣から降りて一歩中に踏み込むと、独特なピリリと引き締まった空気に包まれました。正しく聖域です。


「………凄いな」


流石のベルナーク様もこの空気に軽口を叩く余裕は無いようです。


「青のキュアノエイデス様の気ですからね。我らとて余程の事がない限りは踏み込みませぬ」


五大古国の聖地は、私が思っているよりもだいぶ強く神聖なものだったようです。


「古代竜って創世神話つくりばなしの尾ひれだと思ってましたよ」

「この地に住まう我ら妖精も彼の気を栄養にして生きている。それは神話というにはもっと世俗にまみれた生々しいものとは思えぬか?」


スナイフェル氏はそう言うと何処からともなく出した水の入った小瓶を私にくれた。


「我の友がクシュ国のトアレグで得た聖水だ。代表としてキュアノエイデス様に捧げてくれ」


一体このケット・シーは何をどこまで知っているのだろうか。

師匠が戻ったら、この件を一緒に追求して貰おうかなと思いました。


先を歩くベルナーク様が社にたどり着いたらしく、私たちを呼ぶ声がしました。

ちょっと大きな一軒家位の大きさの社は、エメラルド色に輝く門柱を基準色に様々な緑色で統一されていました。絡まる蔦すらも含めて神々しく見えるのは、この地を治める古代竜の加護のせいでしょうか。


「……何かいる」


追い付いてから初めて発したベルナーク様の警戒した囁きに無言で頷き、気を引き締めた。

しかし、しばらく構えたものの何もなさそうなので行動を起こすことにしました。


「ごめんくださーい」


声掛けに悩んでいっそ(とぼ)けて声を出してみたら、社の影からのそのそと作務衣のような服を着た小柄な白髭のお爺さんが歩いてきました。

眉毛まで白くて長くて、まるで世捨て人か仙人のようです。

近づいてくるまで観察していたら、隣のベルナーク様以外の色んな気配が消えてちょっと空気の色が青く変わった気がしました。


「…………結界か?」

「突然すいません。ケルマン国で竜医の端くれに名を入れてもらってますアスランと申します。クルージュ国へ行きたいので防御結界、破魔、不動の呪符に加護をいただきたく参りました。これ、この森のケット・シーさんからで、クシュ国トアレグのお水だそうです。お納めください」


お爺さんが面白そうに片眉を上げて輝くような金茶の瞳を覗かせました。


「ほぅ、おぬしは竜医とな。久しく見ておらぬが呪符なぞ使う事はないと思うのだが?」

「竜医としてかの国に行く訳じゃないんです。私の師が何事かに巻き込まれているかもしれないので、真相を確かめにクルージュ国へ行くのです」

「ふん。守りのみの加護で良いのか?攻撃を成さずしていざという時はどうする。イーリアスウェイルの子孫なぞは我を斬る気でいるようだぞ?」


ベルナーク様はお爺さんが現れた時から身構え、剣の柄に手をやっていました。二人の間はピリピリしてます。

このお爺さん、なんかかなり好戦的というか、まぁベルナーク様もですけどね。

私みたいなタイプは不満なのでしょうが、今回の目的である加護を貰うためにも話し合いを続けてもらえうよう喋る事にしました。


「勿論私は逃げますよ。残念なことに私は攻撃系に関する魔法も呪術も壊滅的だったんです。まぁ治癒と防御はある程度できると自負してるんですけどね。戦うのは他の方にお任せでどうにかなっていますので大丈夫です」


はっ、とお爺さんは馬鹿にしたように短く笑った。どうやらお年寄りの姿は擬態なのでしょう意外と若い印象を受けました。


「……アルブルスやアーテルならいざ知らず、我に防御を願うとはな」

「願う事は可能ですよね?是非ともお願いしたいです」


お爺さんはとても面白い物を見つけたような顔をしました。


「まぁ与えることも出来るがな。してお主は儂に何を捧ぐ?」

「血でも髪でも魔力でも。再生可能なものなら何でもお渡ししますよ?」


くくく…とお爺さんは笑いだし、しまいには爆笑しました。ベルナーク様も毒気を抜かれたらしくため息をつきました。


「ご老人、加護を願うのに信仰心以外で神聖なる古代竜の糧になるものはあるのか?」

「無いな。一応体裁で供物を貰っていただけじゃ。人族の解釈はうつろうからの」

「ええええ?物品で良いんですか?信仰心は一番難しいじゃないですか。雑念一切無しでしょう?」

「じゃから構わぬ。今回のは手が空いたら今回の土産話を持ってこい。それが良い」

「ええーー「了解した」………えー……」

「して、主の師が関わっていると思われる厄介ごととは何じゃ?」


私の嫌がる顔を楽しまれた後、さりげなく真面目に聞かれました。

即対応できたのはベルナーク様でした。


「竜医を始めとする人族の失踪ですが……我々はフレアブラスが絡んでいると考えております。」

「そうか」


くつくつとお爺さんは面白そうに笑う。


「何も伝承は伝わっていないようだな。主の師やズメウの長が我らについて何も示してないのなら我は触れぬが……フレアブラスもまた古代竜だ」

「………え」

「もうそんな時期だったとはな。渡り人よ、加護は授けた。お前たちはついでに世の理でも解いてくるがよい」


お爺さんは言うだけいうと、ふいっとかき消えてしまいました。

それと同時にじんわりあった薄ら寒さと視界の青さが消えました。

……世の理って、そんなにトンデモナイ事に首を突っ込むつもりは全く無いんですけど……どうしましょうね。

ボーっとしていたら、後ろから猫手に肩をポンとされました。


「二人ともよく戻った。渡り人殿も無事に加護を得たようだな」


スナイフェル氏に話しかけられてその時初めて気が付きました。彼らはあのお爺さんを見ていなかったのだと。

なんだか夢を見ていたような感じでしたが、手持ちの空札を確認すると薄蒼く染まって何か得体のしれない力が封じられている感覚がありました。

じっと札を見ていたら、「札が尽きたら願えばいい、再び加護を授けよう」という声まで聞こえました。

きょろきょろしてみたけれどやっぱり誰もいません。そして今のは誰にも聞こえていないようでした。あのお爺さんはとんでもない人(竜)だったんですね。


「ここに居て機嫌を損ねられたらコトだ。上手くいったのならさっさと帰るぞ、今日はセーシェル泊りだ」


さっきの邂逅に相当疲れたらしいベルナーク様が肩をグルグル回してため息をつきながら帰りを指示しました。

どうやら今日中に王都まで行かなければいけないようです。



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