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23.聖者の森にやってきました


目が覚めたらもうベルナーク様が朝食を用意してくれていました。ポチは起きていたけど私が寄りかかっていたから動かないでいてくれたようです。私が身体を起こしたら、起き上がってうーんと伸びをしていました。


「おはようございます。野宿なんて久しぶりなんで体が痛いです」

「おはよう。予定の無い街には極力近寄らないつもりなんだ。すまんな」


なんだかお尋ね者のような物言いですが、恐らく相手が組織立っている可能性も配慮してなのでしょう。だいぶ物騒な予感がしますね。


「さて、食べたら動くぞ。バーラッドの森は巨竜種(スキュラ)が出る可能性がある。油断するな」


そういえばそうだ、あの森は巨竜種スキュラの生息地でした。まぁフェル君は彼らにとっては天敵だから寄ってこないと思いますがね。


「言っとくが、あの森にフェルニゲシュは入れないからな。国家的問題になるんだ」


私の考えを読んだのか、ベルナーク様が補足してきました。……意外とズメウの世界も規律が厳しいんですね。ナンテコッタ。


「えー。ってことは、祠まで空間移動で飛ばしてくれるとかも無しですか?」

「勿論無しだ」

「……デスヨネー」


ポチ達妖精のフォローに期待するしかないようです。


―――――


バーラッド国までは問題なく入ることが出来ました。聖者の森を前に、ちょっと揉めましたけどね。


「キュ~~ゥ……」


顔に似合わず可愛い声で待機を嫌がるフェル君をよそにつれないウチのお嬢様はバキバキ枝を折りながらさっさとけもの道にふみこんで行ってしまいました。……街道行ってほしいんですけど。

フェル君はムーちゃんの姿が見えなくなるまではその場で待機しておりましたがグルグルした後空間を渡ってどこかに消えました。後は呼んだら来てもらう事になってます。

私たちもムーちゃんを追って歩きだすことにしました。


「……フェル君、いい加減に諦めないんですかねー」

「俺に言うな」


この件に関してはベルナーク様は冷たいです。


「それより歩いてどれくらいだ?」

「祠は巡礼路に沿って約1日の所と聞いております。まぁ野生種(スキュラ)の棲み家でもありますから、祭事でもない限り狩人か冒険者あたりしか居ないと思いますよ」

「……ムエザを借りるぞ」

「ムーちゃんは私の知る限りまだ安定した低空飛行ができた事無いですけど……」


ベルナーク様、うろんげな目で私を見てもどうにもなりませんよ?


「歩くしかないのか」

「ポチが居ますよ?」


ポチはブシッとくしゃみをしました。


「……嫌だと言っているんで、誰かお友達を呼んでもらいましょう」

「アレで会話になるのか?」

「以心伝心です」


ドヤ顔で言ったらとっても残念なものを見る目で見られました。すごく心外です。


ポチは遠吠えをして耳を澄ましました。小さく嘶くような声が返ってきて、暫くして2本角のすごくたてがみの長い白馬っぽい生き物に中型犬位の大きさの黒猫が乗ってやってきました。黒猫さんは首もとに白い毛のアクセントがあってとても可愛いです。

何はともあれ挨拶しないとですね。


「こんにちは、初めまして。クー・シーのポチに契約して貰ってます竜医のアスランといいます。こちらがベルナーク・イレヴゥイシュト様。祠までの同行を願い出て下さってありがとうございます」


ペコリとお辞儀をすると、馬の方がお辞儀をしてきました。ちょっと可愛い。


「こちらこそ、渡り人と次期殿に逢えて嬉しく思う。我はケット・シーのスナイフェル、こっちはバイコーンのベルガだ」


ちょっとビックリな組み合わせです。

ケット・シーは猫の妖精さんなのですが、博識な方が多く流暢に人語を話されます。昔話の長靴猫さんが近い感じだと思いますよ。小さいうちは人家で猫に擬態して生活してたりもするそうです。意外と身近にいるそうですよ。

バイコーンはユニコーンの亜種とも言われてますが、師匠の本ではこちらの方が原種に近いとありました。馬のような体つきをしていますが、奇蹄目ではなく偶蹄目ですというかまぁそんな感じの別物ですけどね、幻獣なんで。全くもって他の妖精さん達と同じように人嫌いなのかホントに見かける事の少ない種です。あ、反芻ができるそうです。消化器官は反芻亜目かラクダ亜目みたいなんですね。ラッキー、これは学会に売れそうな情報だわ。


「……ところでベルナーク様、次期とは?」

「聞くな、予定は未定だ。お前の渡り人こそ何なんだ?」

「私も聞きたいです。スナイフェル君に聞いて良いですか?」

「ヤメロ」


眉間に皺寄せて凄く嫌そうに話題を終わらせました。かなり触れてほしくない話のようです。

スナイフェル君がふむ、と呟きベルガ君から降りました。


「次期殿はベルガにお乗りください。我は久々の我が友に話があります故」

「ああ、ありがとう。でもその呼び方は困る。ベルナークと呼んでほしい」

「承知致した」


ベルナーク様は颯爽とベルガ君に跨がりました。裸馬ですがベルガ君の背中はしっかり筋肉があったので平気そうです。ベルナーク様は言わずものがですね。


「ポウ殿宜しく頼む。アスラン殿、鞍の前に座っても?」

「ええどうぞ、こちらこそ宜しくお願いします。……ポウとはポチの事です、よね?」


大変です。私は今まで勝手に彼に名前を付けていたようです。

スナイフェル君はポチと顔を見合わせ可愛く小首を傾げました。


「ええ。彼は特にその名も気に入っているので拘りはないと申しておりまする。今まで通りポチで構わないそうですぞ」

「わ、分かりました。翻訳ありがとうございます」


頭の"ポ"と2文字だという事以外は別物でしょうが、彼が拘らない性格で良かった……。

名前の間違いってすごく失礼だよね、うん。

……それにしても、頭の端っこに黒い龍が思い浮かんだのは何故でしょうね。


「さっさと参拝に行くぞ。日暮れ前にはここを離れたい」

「ごもっともですな。この西の森を統べる巨竜種スキュラは神経質だ。急ぎましょう」


ベルガ君とポチは、歩いている時とは違って普通の馬が全力疾走している位のペースで走り始めました。遁甲してなくても妖精さんの移動スピードは意外と速いんですよ。耳元で風をびゅうびゅう切る音がするくらいにはね。

そしてすぐに道なき道を作っているムーちゃんに追い付きました。どうせここ以降はムーちゃんと別行動になるので、フェル君の居ぬ間に予め登録してあるムーちゃんの故郷の寒冷地にゲート転送で送ることにしました。こちらから水晶か召喚珠で呼ばない限りムーちゃんには地元で羽を延ばして貰うことになります。


私は今回の件が終わったら薬草採集も兼ねてあちらに伺う予定でいます。ムーちゃんの親御さんとは結構良い関係を築けてますので遊びにいくことに心配はないですしね。


ムーちゃん転送後は、人が作った街道を走りました。



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