14.久々に竜医らしい仕事をしました
こんにちは!嬉しくてさっきから涙の止まらないアスランです。
炎嚢管支炎です!通称ドラゴン風邪ですよっ風邪っ!
久々に竜医らしい仕事が単発で来たんです!これを感動せずにいられましょうか!!
けふけふいって火を吐く赤い鱗のドラゴンのドラゴネット3才を目の前にむせび泣いてしまったら、飼い主さんもそのお嬢様もすんごい引いてました。
「あの、無理でしたら他の――「ぜんっぜん大丈夫です!安心して任せてくださいっ!」………ハイ」
折角の依頼を同業者に振られてはたまったもんじゃありません。
早く食事代を……ベルナーク様指定の罰ゲーム、高級料理店の支払を完済せねば……。
この前無理やり連れてかれた討伐依頼で食事を奢る罰則を貰ってしまった私ですが、皆埃まみれの血塗れだったため日を改めて奢りと言われたのです。
それがドレスコード有りの本当の高級店でして、時間の指定がやたら早いから何だと思ったら……一式丸々着替えさせられて連れてかれましたとも。
厩舎長は事前に辞退されていたらしく、ベルナーク様にランド様とウーヴェ様とキア様だけでしたが……あまりの異次元っぷりに私なんにも記憶が残ってません。
とりあえずキア様のタキシードがめちゃくちゃ可愛かったのだけは覚えてます。
意識を飛ばしてる場合じゃなかった、風邪ですよ風邪。
炎嚢管支炎は、炎を吐く竜がかかる独特の病気でして、文字通り炎を吹く症状が出ます。
火を吐く竜種には、人間でいう肺と気管のように炎を吐く為の油分を溜めておける器官が左右2か所とそれを繋ぐ管があるんです。その種の竜がこれにかかると、どういう訳か咳と共に炎を吐いてしまうのです。
体力があれば1週間ほどで自然治癒いたします。早く治そうと思っても、病気のたぐいには癒術や治癒術は使えません。魔法は菌も活性化させてしまうのです。
なお、悪化すると口の中まで爛れたりします。最悪炎嚢が破れて死に至る場合もあるそうですよ。私はまだ見たことなですけどね。
ちなみに、毒や石化粉などを吐く竜も同じような溜める器官があり、それぞれ名称こそ違いますが彼らにも炎嚢管支炎のような病気があり、同じような症状になります。氷や雷を吐く竜種は、これらとはちょっと理屈が違うので、またの機会に触れる事にしましょう。
とりあえず、これが通称ドラゴン風邪と呼ばれるものなのです。
私の浮かれ具合にビクビクしている飼い主さんとそのお嬢様とドラゴネットを尻目に、これみよがしに薬草をゴリゴリ擂り潰していきます。
もう嬉しいから大盤振る舞いしてあげたいけど、用法用量は正しくしないとね。
この薬草、寒冷地に生えるこの種の病における特効薬のような物なんですが、野生種リントヴルムの棲息域に群生する為、竜医であっても普通なかなか入手できません。
あ、我が家はムーちゃんが居る位ですから得意分野なんですよ、えっへん。ちょっと手持ちが怪しい時のお小遣い稼ぎにも使えるのも嬉しい。
磨った薬草を私の魔力を溶かした水で割り、ちょっと大きいスポイトに取り込みます。
さ、ここからが技ですよ、一瞬でいきますからねー。
上を向かせたドラゴネットの口をかぱっと開けて、口の端からなるべく喉の奥に中身を入れてすぐを口を閉じます。
上を向かせたまま喉下に手を当てて、魔力水を炎嚢へ誘導します。魔力水は当人の意識で多少は操れますからね。
子供なので通常よりも少量ずつ流し落としてあげるのもポイントです。
これで完了です。
しばらくして、ケプッとドラゴネットが炎を吐きました。炎嚢管に薬草が上手く滲みたのでしょう、明らかにサイズダウンしていたので炎を吐かなくなるのも直ぐでしょうね。
飼い主さんもお嬢様も見た目でわかったのか、ホッとした顔をなさってました。
「はい、治療完了です。今夜一晩はまだ炎が出ることがありますので、防炎は忘れずしてください。
あと、明日朝にこの薬草を与えてください。普通に食べさせるだけで大丈夫です。もしもまた悪化するようでしたら連絡くださいね」
「ありがとうございました。良かったね、クンツァイト」
「では失礼します〜」と、お代も貰ってお屋敷から出ましたが、最後に聞いたあのドラゴネットの名前にすんごいツッコミたくて不完全燃焼になりました。
ああっ、どっか深い穴があったら叫びたい。叫びたいぞーー!
「その子真っ赤だからー!ピンクじゃないだろーっ!!」
高級料理店にて
「すいません、先日のツケを支払いに参りましたシィアンのアスランと言いますが…」
「ああ。イレヴゥイシュト様のお連れ様でいらっしゃいますよね?いらっしゃるかもとの連絡を頂いておりましたが、お支払いはきちんと済んでおりますよ?」
「……え?」
「ええと?ご予約いただいた際にイレヴゥイシュト様より白金貨でお支払頂いておりましたが」
「……え?」
「あの、何かございましたか?」
「……騙されたっ!!!」




