13.1人1ダースのノルマだそうです
ヒュウヒュウと、耳元で風の音がするのに体は温かい。
頭の後ろがズキズキ痛いと思いつつ目を開けると、真っ暗だった。なんだココは?
状況が把握できずにボーッとしてたら、突然視界が開けた。
雲が眼下に見えたから、飛んでいるのは分かったけど…抱っこされているとはこれ如何に!?
抱いてくれている腕を辿って恐る恐る視界を上げると、綺麗な碧と目が合った。
「おはようございます、目は覚めましたか。調子はどうですか?」
ランド様は普通に挨拶してきましたが一応うぶな乙女の私にはこのシチュエーションに心臓バクバクです。決して跨がってるのがフェル君だったからでは無いですよ!
……いや、どっちもか。
つい遠い目で明後日を見てしまった私は悪くないと思います。
それにしても、フェル君に乗っているのにカブレもしないとはこれ如何に?
疑問を解消すべく見える範囲を色々観察するが、よく分からない。
「ランド様もフェル君に触れているのにどうして大丈夫なんですか?」
ランド様はニッコリ笑って「コレですよ」と手袋を見せてくれた。
「衣服の生地に状態異常軽減の魔法を組み込んであります。フェルニゲシュ殿の鞍や手綱には乗り手に発動する黒龍の毒の無効化が付与してありますよ」
私と違っては皆は十分装備を整えていたらしい。
「ところで私はどれ位寝てました?」
「一刻ほどですが、黒龍の空間移動を使ったのでもうすぐ問題の地点へ着きます」
また少しだけマントをどけてくれたので、周りを見渡す。
ベルナーク様がルフに乗り、ウーヴェ様と厩舎長がそれぞれウィルムとドラゴンに乗っていた。
後方には、トプセル様にキア様が乗っているが、離れているところを見るに救護班という扱いなんだろう。
・・・あれ?私もそっちじゃないの?
自慢じゃないが、補助魔法と治癒術以外はからきしだったりする。
周りが砂礫の平地になったところで先頭のベルナーク様が手を振り、下降を合図してきた。
「んじゃ、こっから戦闘準備なー。あの向こうの木っぽいのがある辺りからが奴らの縄張りだ。ノルマは1人1ダース以上。最低限達成するまで休憩無し。なお最下位は罰則がありまーす」
清々しい笑顔で恐ろしいことを命令するベルナーク様が怖い。
「治癒班はあの縄張りギリギリに結界張って待機。あー、キア様は刈りたかったら刈っていいけどその近くに居てください。はい、竜医は弱点説明」
「はい。バシリスクは砂蛇種でして、乾燥と火に強く外皮は―――「簡単に言え」…………剣が通って一撃でいけるのは眉間か首裏からの延髄です。でも即行動停止しないので、油断しないでください。血の臭いに寄ってきますので切り傷は即治しに来てください。石化ブレスは煙状で触れた個所から徐々に石化しますから早めに救護場所へ来てください。あと、ブレスには風が、本体には氷の術が有効です」
「纏まってねぇ。40点」
ぐはっ、点が厳しい。
「集団が相手の場合は確実に頭を切り落とせ。囲まれるな。氷柱で顎下から貫いて口を開けさせるな。爪と尾の針にも石化の毒がある。飛膜を狙ってくるから飛竜にも注意をむけろ。以上だ」
口調を変えたベルナーク様に皆の目が鋭くなった。腐っても皇子だな、なんて私はぼんやりと思った。
私に話を振ったのはわざとだと思うとちょっと悲しい。
「オフラス卿は引き続きフェルで、アスランはルフな。さてお前が術をかけたらさっさと行くぞ」
縄張り地点まで全員で移動した。私は何故かベルナーク様と同乗だ。怖すぎる。
どこまでも砂礫で構成された荒野の光景に、ぽつぽつとバシリスクの姿が見える。こちらを見て、警戒の声をあげてきた。彼らが集まりきる前に、我々も散開してそれぞれに撃破するのが作戦だ。
まずはウーヴェ様がハルバードのような槍を手に単騎で近くのバシリスクに向かっていく。ウィルムは風と火の魔法が主なのでバシリスク相手だと遠距離ではちょっと力不足だ。
「アスラン、さっさとあっちに飛ばせ」
後ろからアイアンクローされたので戦いの様子を見学する暇もなく、ベルナーク様は容赦なく10匹前後が群れなす方向へ私たちを誘導した。ちょっと高度を上げてその上空に着いた時、ベルナーク様はおもむろに立ち上がって飛び降りていった。
「後で回収来いよー」
おいおいおいっ!?という私の混乱を無視して、ベルナーク様は落下、というか飛び降りた。なんて人だ!慌てて風魔法の保護をベルナーク様に展開して、落下の衝撃とブレス避けにした。
彼は腰からすらりと剣を抜いて、見た目立派な馬車位のでっかいバシリスクの隣に降り立った。と思ったら、そのバシリスクの頭がごとんと落下した。すぐさま近くのバシリスクの頭に下から氷の槍が貫通しそのまま凍結、噛みつきに来た次の奴を避けてブレスを吐きにかかった奴の頭を落としていた。
……強すぎですよベルナーク様。
私も見ているだけではいられない。ルフの第1から3指骨を氷と風魔法で切れ味のよい刃になるよう補助する。
そのままバシリスクの真上から急降下し、回転して身をよじる様に翼を振るわせた。
スパンっと頭が落ちたので、そのまま地を蹴り一旦上昇。次に狙いを定める。
私が自力で槍とか剣とか魔法とかで刈れれば早いんだが、出来ないものは仕方がない。ルフにトリッキーな飛び方して頑張ってもらうしかないのだ。私の騎乗技術でどれだけ補助できるやら。
それにお互い体力がどれだけもつか怪しい。
3匹まとまったバシリスクを見つけてまた急降下する。1匹頭を落として上昇する前に左から2匹目がブレスの構えを取った。やばい!と思ったらその頭がイキナリどろりと溶け落ちた。
急いで逃げて周りを確認したら、フェルを駆ったランド様が上空を通り過ぎていった。
……上位野生種の黒龍の毒はホントとんでもない。
3匹目を倒した位で、見える範囲で生きているバシリスクが居なくなった。累々たる死体の大半は返り血すら浴びていないベルナーク様の仕業だ。竜たちに現世に身体を残さない意思を示す時間すら与えないとは、流石ズメウ一の剣士だ。
「移動するぞー。早く拾え」
……師匠は鬼だと思ってたけど、やっぱベルナーク様も十分非道だわ。
移動しながら見つけ次第バシリスクを刈り、そろそろ夕方になるという頃にせん滅作戦が終了となった。
埃だらけだがいつも通りなベルナーク様はどれだけ体力があるのやら。私とルフはもうさっきからへばって動けない。治癒術で怪我は完治出来ても体力は補いきれないのだ。厩舎長とウーヴェ様はキア様とトプセル様に石化解除の治癒を受けていて、傍にはランド様が疲れた様子で座り込んでいた。
フェル君は餌を取りにどっか行っている。いつでも自由な奴だ。
「ま、それなりに楽しめたかな。後はこの国の連中が自分らでどうにかできるだろ」
殲滅王は軽く20匹を超えて斬り捨てたらしい。
「とりあえず、アスランはノルマ以下どころかゼロだ。飯奢ること」
なんですとっ!?ベルナーク様の言葉にぎょっとする。
「え!?私きっかり12匹退治しましたよ!ちゃんと数えてましたからっ」
「12匹退治。―――ルフがな」
…………え。そこもバラですか?




