闇からのぞくもの
半年ほど前に赤無市に住む中学教師の男性(28)が山歩きの途中で不審な死を遂げた話は、少しテレビで取り上げられもしたので、ご存知の方もいるかもしれない。
この事件は不可解な点がいくつかあり、殺人事件として今もなお捜査が続けられているが、進展はないようだ。
その謎めいた状況から怪談や都市伝説めいた雰囲気もあるので、ここでまとめておこう。
2014年10月28日の早朝に男性教師のNさん(仮名)の遺体が、赤無市北部の山道から少し外れた茂みの中で発見された。
発見者は近所に住む男性(65)。毎日朝の散歩を日課にしており、その道すがら手紙のような紙を見つけ拾いあげた。それには赤い文字でこう書かれていたという。
◼︎◼︎◼︎◼︎ハワル◼︎◼︎ノ ニゲテ ◼︎◼︎
いたずらかと思い、捨てようとしたが、文字のインクがどうやら血のようだったので、これは尋常ではないと判断し、あたりを散策したところ遺体を発見したという。
Nさんの遺体の損傷は酷く、あちこち食い散らかされたようか有様だったという。当初、捜査当局は野犬か熊の仕業ではないかと疑ったようだがこの山に野犬や熊が出たという記録は過去にない。遺体の傷は死後のもので、直接的な死因は不明。ただ、彼の顔は恐ろしいほどまでに歪んでいた。叫んでいる途中に死んだような顔にも見えたという。死亡推定時刻は午前1時頃。この時間の山道はさすがに人気などない。目撃情報はない。
Nさんは赤無市にある公立中学で理科を教えていた。同市内にある薬科大学を卒業後、教職に就いている。あまり人付き合いをする方ではなく、普段は理科の準備室に籠って黙々と仕事をこなして、仕事が終われば真っ直ぐ家に帰っていたという。
現場の山道はNさんの勤めていた中学のすぐ奥の裏山にあたる。
捜査を進めていく中で、いくつか不可解な点が浮かびあがる。
①Nさんの遺体の傷は死後間もなくつけられている。何らかの動物によるものではないかと思われるが、体長2.7メートル程と推定。該当するのはヒグマだが、この地域に熊の出没記録はない。山狩も徹底して行われたが、発見できなかった。
②現場に落ちていた手紙の◼︎部分はNさんの血で塗り潰されていて判読不能。ただし、残りの血文字はNさんと別の人物の血液であることが判明。
③Nさんは前日は17時に退勤。17時半頃に自宅前で同じアパートの住人が電話をしながら郵便ポストを覗いているのを目撃している。このときNさんが電話していた相手は不明。通話記録に残っていなかった。
④警察がNさん宅を捜索したところ、郵便受けに別の手紙が入っていた。これは事件前にNさんが郵便受けを見たときにはなかったと推測される。手紙にNさんの指紋も、他の人物の指紋も発見されなかった。切手がなかったので何者かが直接投函したと思われる。
⑤新たな手紙の内容は以下の通り
のぞいている 闇からずっと 気をつけろ
こちらは市販のボールペンで書かれたもの。筆跡を誤魔化すためか利き腕ではない手で書かれたようだ。血文字との筆跡鑑定を行ったが、別人という結果。
⑥Nさんの交友関係を当たってみたが、学校内で同じ教職員などと特に親しくしていた気配はない。生徒も同様。その他の友人も大学卒業以降、全く会っていなかったという。ただ学生時代から「何かに覗かれている」としきりに気にしていたという証言があった。そのために通院の経歴もあったが卒業までに改善したので無事教職に就くことが出来た。しかし最近再発したのか、「落ち着かない」「追けられているかもしれない」と口にしていた。
Nさんの遺体を傷つけたものは何なのか。血文字の手紙と郵便受けに入っていた手紙の主は誰なのか。手紙のメッセージの意味は何なのか。記録に残されていない電話の相手は誰なのか。Nさんは何に怯えていたのか。
事件の真相は未だ闇のむこうにある。
闇からのぞくものとは一体。