第八章
身体の奥深くに溜まった澱のようなものを感じながら、蒲生はツイードの上着を脱いで千明に渡し、傍のソファに身を落とした。上着を受け取りながら千明が何か呟いたが、蒲生はそれを聞き逃してしまう。今やネフュスは蒲生にとって、伝説にあるマイダス王の呪いのようなものだった。それは日増しに重荷になり、彼の生命力を削り取っていた。
彼の『能力』だけが問題だったらどれだけ気楽だったろう。その場合蒲生は少しばかり繁盛する占い師か、あるいは他人にはできない鋭い分析をするコンサルタントとして、時にはいかがわしい人物という見方をされながらも、今よりはるかに気楽な生活を送ることができただろう。だが寒月を通してネフュスと関わりを持ったばかりに、毎日が綱渡りをする思いで過ごしている。
最初、蒲生はネフュスのことを金のなる樹としてしか考えていなかった。それは現代の黄金であるエネルギーを、無限に生み出す力を持っていた。エネルギーがすべてを動かしている現代の世界の中で、それを独り占めすることで得られる利益は際限が無いように見えた。しかし実際にネフュスを独占してみると、そして独占せざるを得なくなってみると、それは同時に呪いでもあることに気付かざるを得なかった。
ネフュスを失った後の寒月の脱け殻のような姿を見れば、それは他の者に分け与えることなどできないものであることがわかる。ネフュスはそれを所有しているかいないかのいずれでしかありえないのだし、決して他の者と共有することなどできないものなのだ。では千明や鞘華の場合はどうなのかといえば、彼女らは蒲生の眷属であり、蒲生の配下にあることによりネフュスの力を貸し与えられているに過ぎない。
だが『人間至上主義』が蔓延っている今の世界ではそんな『不公平』は認められず、『人は皆平等』であるが故に、蒲生と千明や鞘華との間の様な『臣従』関係は否定され非難されざるを得ない。
蒲生より先にこのことを見抜いていたのは千明であった。だからこそ千明は鞘華にネフュスを与えるに当たって、断つことのできない絆であり忠誠の証である殺人という行為を条件としたのである。
ネフュスの力による核融合エネルギーを支配するこの力で、蒲生には日本という国を支配することも可能であった。無論その路は始まったばかりであり、その前に立ちふさがっている問題も多い。だがもしその可能性に背を向けようとしたならたちまち、蒲生たちはこの利権を我が物にしようとする狼の群れの餌食になってしまうだろう。
ネフュスがどのようなものであるかだけでなく、核融合炉にネフュスの力が利用されていること自体が秘密だった。蒲生の『能力』で縛られている人間だけが秘密を知り、核融合炉の運用に携わっていた。しかしその秘密主義は世界の不興を買わずにはいない。日本だけが核融合エネルギーを独占しているなど許されないというわけである。だからこそ日本にはレールガンの配備が必要だった。軍事的な圧力で秘密の開示を要求される可能性があったからである。
だが、いろいろな『理想主義』を掲げてこれに反対する勢力は国内にも少なくなかった。蒲生は常に後手後手に廻っていると感じながら、その手の人物の『説得』のため日本中いたるところに赴かねばならなかったのである。
千明が尋ねたのは夕食のリクエストだった。食欲のあまりない蒲生は和食を希望した。
しばらくして出てきたのは、矢生姜を添えた鰤の焼き物、ほうれん草の胡麻和え、絹ごし豆腐の味噌汁と白米の飯だった。
「この鰤は美味いな」
蒲生の顔がやっとほころんだ。この男は一般的な富の象徴である宝飾品や車などには興味を示さないが、食に関しては子どものように反応するところがある。
「お酒はどうします?」
「今さら亭主を酔わせてどうするつもりだ?」
千明の問いに蒲生はそう答える。蒲生は用心深く、酔うのを避けようという傾向があった。アルコールを摂取するのはよほど疲れた時か、他に何か理由のある場合だけだ。鞘華は一度、蒲生を殺そうとしたらどうなると考えてみたことがある。蒲生には『能力』があるが、彼が酔った時なら容易に殺せるような気がした。だが蒲生を殺してネフュスが鞘華のところに留まっているかどうか確信が持てない。蒲生が死ねばネフュスは鞘華たちから去っていくかもしれなかった。それに何と言っても千明がいる。彼女が手をこまねいてそれを看過するとはとうてい思えない。さっき蒲生が『亭主』という言葉を使ったが、実際に結婚こそしていないにしろ、二人の間には夫婦以上の絆があるように見えた。
「疲れているように見えるから」
「疲れているさ。この国の国政に関わっている連中の肝の据わっていないことといったら、嫌になる。反対なら反対と言えばいいんだ。だがその代わり、反対する者に美味い汁を吸わせてやる義理もない。利益は欲しいが賛成にも廻りたくない、悪くは言われたくないが犠牲も払いたくない、そんな奴ばかりだ。たまさか意地のありそうな奴の頭の中を覗いてみれば、机上の空論を組み立てその上で胡座をかいているばかりとくる」
「政権を握っている自由党が気に食わないというわけなの?」
「その話はやめよう。飯が不味くなる。今のところあいつらは欲の皮を突っ張らせているだけに裏切りようが無い。政治の全体像なんて誰にも読み通せるはずがないんだ。それは俺にも同じさ」
蒲生が『俺』という一人称を使うのはまったくプライベートな状況にある時だけだ。だからこれは正直な彼の感想に違いない。彼にも世界と日本の政治情勢がどうなっていくかわかってはいないのだ。彼が関わっている『働きかけ』は自分たちに都合の悪い動きを一つ一つ潰して歩いているだけなのだろう。鞘華が万が一蒲生の命を今奪ったとしたら、それらすべてが彼女の周りで大崩壊を起こし、彼女もそれに巻き込まれて身を滅ぼすしかない。鞘華はそんなことを望んでいなかった。
食後に緑茶を入れるのは鞘華の仕事だった。食後は玉露ではなくて、もう少し熱い茶を飲むのが蒲生の好みである。キッチンのコンロで一度沸かした湯を、それでも少し落ち着かせてから急須の茶葉に注ぐ。鞘華は茶葉が開ききる少し前に急須を静かに傾け、茶を注いだ。蒲生は必ず二煎目三煎目を要求する。
「防衛省の方はもう?」
「ああ、新しいプランは間もなく完成する」
防衛省で作られているのはレールガン・システムを組み込んだ日本の新しい防衛計画であった。
日本の海上自衛隊は五万弱の人員を擁し、主たる戦力として通常動力型潜水艦二十隻、護衛艦五十隻、機雷艦艇三十隻、哨戒艦艇八隻、輸送艦艇十五隻、補助艦艇三十隻、航空機は、哨戒ヘリコプター、哨戒機、電子戦機を約二百五十機保有する。
これまではこれらの戦力で日本の領海及びシーレーンと呼ばれる海上交通路の防衛を担ってきたのであるが、津軽海峡を挟んだ二ヶ所にレールガン・システムが配備されることになると、その様相が大きく変わることになる。特に東日本近海ではこれらの艦艇との間で、レールガンによる弾道攻撃とイージス対空防衛システムとの連携が不可欠であった。
ところがイージス・システムはA国軍によって開発された経緯もあり、ブラック・ボックス化されているパーツも少なくない。レールガンのシステムを単純にそれに組み込むことは、あまりにも多くの問題点を内包していると言わざるを得なかった。
そこで蒲生はイージスとレールガン両者の上位システムを構想し、それにアテナという名称を与えた。防衛省で検討されているのは、このアテナ・システムに基づいた日本本土の防衛構想であった。
無論蒲生にそんな問題に取り組むだけの軍事的知識があるはずがない。実際にアテナ・システムを組み立てるのは、佐官クラスをトップとする防衛省制服組技官と関連の企業に勤める技術者たちであった。
「なーんだ、結局丸投げなんですね」
鞘華はそう言ってしまってから内心後悔した。もうすぐ二十歳になるというのに、考える前に口に出してしまうこの癖はなかなか直らない。この三人の中で一番年下だという意識が抜けず、責任のない言葉を思わず漏らしてしまうのだ。
「鞘華ちゃん」
千明が鞘華を『ちゃん』付けで呼ぶときは非難の意味が込められれている。鞘華は首をすくめた。だが蒲生は気を悪くした様子も無くぼやき続ける。
「丸投げで十分、丸投げできれば御の字さ。問題は情報セキュリティだ。連携は最悪だし、日本はいろんな意味でその点『緩い』からな」
自衛官に関しては自衛隊の情報保全隊、一般人の技術者については警察組織の一部である警視庁公安部がそれぞれ情報漏洩の防止に当たっている。だが、この仲は常に良好とは言い難い。蒲生は仲立ちとして両者の幹部の間を取り持ち、ついでに非公式な上部組織を立ち上げた。これは公的機関を私することになりかねないので、厳密に言えば非合法活動ということになる。公になれば大変なスキャンダルなのだろうが、関連する人材の主たるところには蒲生の『書き込み』がなされていた。
HHIの技術者の中では鞘華は『姫』と呼ばれていた。ちなみに千明は『マム(マダム)』である。もちろん正面きって言う者はない。だがマイナス・ミューオン触媒核融合炉の核心的部分であるネフュス・システムのたった二人のオペレーターであり、ただでさえ女っ気の少ない(ゼロではない)技術者集団の中にいれば、そう呼ばれても無理はなかった。ただし、千明と鞘華の立ち位置は微妙に違うと言わねばならない。
二十代半ばにも関わらず、千明にはある種の威厳のようなものがあった。独自の価値観を持っていて自分にも厳しい。不遇の時代にも進取の気概を持ち続け、自分の限界を広げようとした。そのことは自ずと伝わるのだろう、男たちは常に仰ぎ見るような目で千明を見た。
これに対して鞘華はどうしても子どもっぽく見られがちである。そもそも鞘華がネフュスに関わりオペレーターとしての地位を得たというのも、あのショッピング・センターでの銃撃事件に巻き込まれたからに過ぎない。またK国の諜報員の女と吉田を殺したのだって、千明の意図が働いていてのことだった。それは単に年齢だけの違いではないということが、鞘華には身にしみてわかっていた。元々は本人が望んでのことでないにしろ、千明と鞘華では自分の意思で乗り越えてきた過去が異なるのだ。
「千明さん、ネフュスのオペレーターの資格って、やっぱり人を殺した人じゃなきゃダメ?」
「そうね。秘密を守るためにはそのぐらいの条件が必要だと思う。鞘華はあの女と吉田を殺したことを後悔しているの?」
「そう言われると困るんだけど、実はあまり気にしていないの。あの二人は、いずれにしろ殺さなければならなかったんだから、私が殺しても別に気にすることないと思うのよ」
「あたしもそう思う。ただそれって獣の心よ。自分の必要に応じて人間を殺すことを当たり前と感じるなんて、人間らしい心じゃないわ。自分がまだ人間の仲間だと思っているうちは裏切る可能性がある。あたしたちの仲間になるためには人間をやめてもらわなければね」
さらに千明に言わせれば、誰でも手当たり次第に殺せばいいというものではないという。獣は必要のない殺戮はしない。自分が生きていくために、日々の糧を得るために、あるいは身を守るために、用心深く効率的にそれをやり遂げなくてはならない。気紛れや成り行きでの殺生は無駄なばかりでなく危険でさえある。そんなことをする獣は長生きできないだろうし、仲間にとっても迷惑な存在であろう。
「そんな難しい条件がついちゃ、仲間を見つけるのは大変だなぁ」
鞘華は半ばあきらめたようにそう言った。
やっかいなことにネフュスのオペレーターは女である方がいいというのである。蒲生によれば寒月の失敗はそのことに原因の一つがあるそうだ。
確かに人はネフュスによって超人的な力を獲得することができる。だがそれ故に逆に、ネフュスに取り憑かれた人間はそれに依存し自制心を失いやすい。『飯縄使い』あるいは『クダ屋』が力を失い堕落し、ついにはそれに喰い殺されるというのも、主人としてのそれに対する支配力を失うからである。これを回避するためには、ネフュスを宿しその力を揮う者とネフュスの主人としてそれを制御する者が別人である必要があった。
それに昔から巫女または依代として女性が多く活躍してきたのにも理由がない訳ではない。女は受け入れる性だからである。寒月は最初ネフュスの力を使い仲間の霊能力者たちに恐れられるだけの力を揮った。しかし、やがてその力が成長するに従ってそれを制御することに違和感と困難を覚え、力の暴走を恐れ出したのである。力の制御を失うことは即、自らの破滅に繋がるとわかっていたからだ。
寒月が男でなければその違和感に気づかなかったかもしれない。だがいずれにしても、やがてネフュスに対する依存を深め、それに取り殺されてしまったであろうことは想像に難くない。
「まあ、条件が条件だから、オペレーター募集ってリクルートの広告を出すわけにもいかないよね」
鞘華はそう言って肩をすくめ、下唇を突き出した。千明は笑って、それから蒲生に目をやる。この話はここ何年かの間繰り返されている話題であったが、いつも忙しさに紛れて最後はうやむやになってしまうのであった。
「だが、そろそろ候補者をあげて絞っていかないとならんだろうな。将来的には他の地方にも核融合炉の増設を求められるに決まっている」
「もうすぐA県側の核融合炉が完成する。あれが稼働し始めたら、あたしと鞘華では手一杯よ」
千明が頷いてそう言う。このままでは埒が明きそうもない。鞘華は前から考えていたことを提案することにした。
「やっぱり募集広告を出すしかないんじゃない。『求む。ネフュスに取り憑かれ、必要なら人殺しのできる女性』ってね」
「それができれば悩んだりしない」
「ネフュスのことは秘密だとして、もう一つの条件は?」
「鞘華、あたしたちは嗜虐的な殺人者などに用は無い」
「でもね、私たちって重要人物でしょう。世間的に見れば、そろそろボディガードが必要だと思うの」
確かにこの三人は、今や日本にとって最重要人物といってよい。総理大臣の替えはあるが、千明や鞘華に代わる人材はいない。だから通常であればSPが付けられても不思議はない。ただネフュスに憑かれた千明と鞘華の戦闘能力は高く、普通人のSPなどは足手まといになりかねなかった。もっとも、そのことさえ実は秘密なのである。だから千明たちにガードを付けるという発想は、隠蔽工作としても一考の余地があった。
「そのガードには当然、女性も含まれると思うのよね」
「その中からリクルートしようというの? 悪くないアイデアかもね……」
蒲生英輔は自分のやってきたことを後悔するような男ではない。とは言うものの彼は、自分が千明と出会ったことをきっかけにして始まったこの事業が、世界情勢を動かすような事態に発展することまでは当初予想してはいなかった。いや正確に言えば、その事実から目を背けていたと言うべきだろう。
ネフュスにより得られる核融合の莫大なエネルギーは、富の源泉であると共にパワーそのものである。このパワーを手に入れた日本という国家を、世界がそっとしておいてくれるはずはなかった。当面日本がそのパワーを他の国家に分け与える気が無さそうだということになれば尚更である。
長い目で見れば、無限とも見える核融合のパワーが開放されれば、世界の多くの貧困層を救済することも可能であろう。日本だけが豊かになるなどということが、許されるはずもない。いわゆる人間としての正義は、日本の側にはなかった。
だが蒲生は、その無限のエネルギーを手に入れることにより、人類が無制限に繁栄し、この世界に蔓延っていくことを望まなかった。たとえその結果が、日本を残りの全世界と対立させることになろうと。あるいは自分と千明たちが、全人類の敵となる破目になろうと。
そもそも蒲生は多くの宗教、特に一神教のそれに不信感を抱いていた。それらは人にいかに生きるかを示す指針であろうとしていた。だがそれ故にであろう、そのどの教えも、唯一神が人類の利益のみを考慮しているかのように世界について語っている。人間に媚びる神、そんなものを蒲生は信用できなかった。そしてそれら一神教から派生した人類愛の教義にも不信を抱いていた。
蒲生たちが無制限にネフュス・オペレーターを増やすことを認めなかったのは、主に蒲生のそんな考えによるところが大きい。おまけにオペレーターはネフュスにより超人的な能力を獲得する。これも厄介の種だった。
寒月と同じように、多くの者がオペレーターになることを望むだろう。だが野放しになれば、ネフュスに取り憑かれた者は破滅する。自分自身だけでなく周囲の者も巻き込んで。その結果非難されるのは、ネフュスを与えた蒲生たちということにもなりかねない。
やがて蒲生は、自分たちが人間の『天敵』になるべきだと考えるようになった。地球上の食物連鎖の頂点に立った人類は際限なく増殖し、その結果この緑の惑星を食い潰しかねないと彼は感じていた。そして逆説的ではあるが、ネフュスはこの種族の欲望を制御する役割を果たすことになるだろう、そう考えたのである。
「だからあたしたちは人類の『味方』ではいけない、そういう訳ね」
千明が選考書類をめくりながらそう言った。警視庁と自衛隊から上がってきた人物のリストである。ちなみに警視庁や各道府県警察の警備部警護課に属し要人警護にあたるいわゆるSPは、その警備対象が法律上厳密に定められており、そもそも自分たちの存在自体を公にしたくない千明たちの護衛任務につける訳にはいかない。また自衛隊には、対テロリスト戦闘の訓練を行なっている特殊部隊こそ存在するが、要人警護を任務とする部隊は存在しなかった。ただ日本には、まがりなりにも武器を扱った戦闘訓練を受けている人材が他に存在しないことから、自衛官と警察官の中からリストアップするしかなかったのである。
「ただの人間の癖に『人類の敵』になろうって言うの?」
口調は穏やかだが鞘華の視線は厳しかった。
「オペレーターは『ただの人間』ではない」
「そりゃオペレーターはね。でも蒲生さんはどうなの?」
鞘華が蒲生に絡むのはいつものことだ。ただネフュスに憑かれている鞘華たちと違い、蒲生が『やわな』存在であるのはたしかである。鞘華は暗に蒲生が自分たちの弱点となりかねないことを指摘しているわけだ。蒲生はテーブルに書類のファイルを投げ出し、溜め息をついた。
「俺が寒月のようになったら、お前たちのネフュスが暴走しかねない。それに前に言った通り、ネフュスのオペレーターに男は不向きなんだ」
「じゃ、ガードは全部女性を選ぶわけ?」
鞘華は非難するように指を突きつけ、口を尖らせてそう言った。大方ハーレムを作りたいんでしょと言わんばかりだ。
「残念だがそれは無理だ。だいたい自衛官も警察官も女性の占める割合は数パーセントといったところだ。ガードの適任者がそういるとは思えない」
「それは残念」
「鞘華ちゃん。蒲生が言っているのは、ガードに選ばれた女性の中にオペレーターになれる人物がいるとは限らないってことよ」
千明が宥め役に廻るのもいつものことだった。コーヒーカップを手に、二人の間に入った彼女はファイルをまとめ、蒲生の前に積み重ねた。