表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/35

第十四章

 『極西会壊滅』、この知らせは首都圏ばかりでなく日本中の裏社会を駆けめぐった。さらにその詳細が伝わるにつれ、ほとんどパニックともいうべき『怖れ』がこの稼業に関わる人間たちを覆う。

 たった五日間で、極西会の構成員三十六名が完全に姿を消した。死体はひとつも出ていないが、生きているとは思えない。この社会に長い間関わっていれば抗争により人死にが出るのは珍しいことではない。だが、痕跡も残さず三十六人の人間が行方不明になるというのは尋常ではなかった。

 死体も出ていないので表向き警察の動きもない。極西会の組員が使っていた数台の車はキーをつけたまま、ばらばらの場所で放置されているのが見つかった。組の事務所にも構成員の住居にも、彼らの姿はない。

 あまりの不気味さにしばらくの間どの組織も極西会の縄張りに手を出しかねていた。やがて一週間ほどたち、関西Y組系の某組織が空家となった極西会の事務所に乗り込み占拠した。縄張りの空白を埋めるのは早い者勝ちというのがこの世界のルールである。結局、極西会の縄張りはこの某組織が引き継ぐことになる。

 この経過から一時はY組系の内部抗争かとの憶測も流れた。しかしやり口があまりにも水際立っており、この見方にも納得できないことが多すぎる。しばらくして、どこから流れたのかわからないが、極西会は核融合発電の利権に手を出そうとして潰されたという噂が、裏社会ではささやかれるようになった。


「いやぁ、先生、見事なお手際で……それで、この可愛いらしいお嬢さんが今回の切り込み隊長というわけですか」

 大和誠心会の鬼嶋は自分の禿げ上がった額を叩きながら英輔にそう言った。ここは誠心会の本部がある丘の上の芝生である。関東では三月の声を聞くと桃の花が開花し、春らしい日が続くようになる。今日も太陽が天頂に掛かる頃になると上着を脱いでみたいほどの暖かさであった。

「うちの娘だ」

 英輔はぶっきらぼうに紹介する。極西会のことでは情報提供などで世話になっているが、鞘華は鬼嶋とは初対面であった。鞘華はTシャツの上に黒い革ジャンとジーンズ、それにバイク用のブーツといういつもの姿である。

 鬼嶋は窓口となった鞘華が極西会を始末したグループのリーダーだと推測しているが、直接手を下し皆殺しにしたのが彼女だということは知らない。だから『可愛らしい』などと言っていられるのだ。もし真実を知ったら、猛獣と一緒に檻に入れられたような気分になり、とても落ち着いてはいられないだろう。

「極西会の縄張りはあれでよかったのか?」

「何事も欲張りすぎはいけません。あそこにうちが手を出したら西との抗争になります」

「ふん、欲のないことだ}

「単なる損得勘定です、先生。これで奴らも核融合の利権に手を出すのは躊躇するでしょう。今回はそれで十分です」

 裏社会でのその利権は大和誠心会が差配する、それが英輔との暗黙の了解となっていた。表には出なくとも、土地の買収や工事の請け負いなど、その利権は膨大な金額になっている。当然それは裏の世界では垂涎の的で、なんとかして利権に食い込もうという動きがないはずがなかった。極西会が寒月に手を出したのもその一環だったのであろうが、とんだところで虎の尾を踏む結果となってしまった訳だ。

「寒月は貰っていくぞ」

「そりゃもう構いませんが、あんな男のどこにそんな値打ちがあるんです?」

 ネフュスを失ってからの寒月はすっかり生気を失い、それまで恐れられていたことが嘘だったように、仲間内での評価は暴落していた。

「余計なことは知らない方がいい」

「おっと、そうですな。先生のお嬢さんは怖いですからな。鶴亀鶴亀」

 鬼嶋は冗談まじりにそう言ったが、もし彼に利用価値がなければ極西会の連中と同様に始末されていただろうということに気づいてはいなかった。寒月の握るネフュスの秘密は、鞘華たちにとってそれほど重要なことだったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ